学習を促す効果的な仕組みづくり。オンライン化によって研修はどう変わる?【セミナーレポート】

株式会社パーソル総合研究所

株式会社パーソル総合研究所 執行役員
パーソルラーニング株式会社 執行役員
髙橋豊(たかはし ゆたか)

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、予定していた研修の日程変更、あるいは内容変更を余儀なくされた企業はかなり多いのではないでしょうか。新たな生活様式への変革がうたわれている今、人材育成の方法も大きく変わることは間違いありません。そこで、避けては通れないのがオンライン研修を通じた人材育成です。オンライン研修に立ちはだかる課題をいかに乗り越え、どのような仕組みをつくるのが正解なのか—。これまで1,000社以上の人材育成と組織開発に携わってきた、株式会社パーソル総合研究所 執行役員・髙橋豊氏(以下、髙橋氏)に、オンライン研修を実施する上で抑えておくべきポイントを解説してもらいました。

※文末に当日の動画や資料へのリンクがあります。

なぜ、研修を受けても行動が変わらないのか?変わったとしても長続きしないのか?

人材育成において「学習してもらう」というのが大きなテーマです。あらためて学習におけるポイントを確認してみると、以下の3つにまとめられます。

① 行動や能力が変化、もしくは獲得されること
② 一時的ではなく、長続きする変化であること
③ 自身による実践や練習、他者を観察するなどの行動(体験)によって学習されること

では、これらを踏まえると、昨今の人材育成にはどのような課題があるのでしょうか。まず、研修が一過性のイベントで終わってしまうことが挙げられます。先ほどの学習のポイントにのっとると、学習によって受講者の行動が変わり、さらに長続きしなければなりません。ただやるだけではまったく意味がないとも言えるでしょう。企業側でさまざまなコンテンツを用意してもほとんど使われない、という悩みもよく聞きます。新型コロナウイルス感染拡大を機に、eラーニングのコンテンツを充実させた企業も多いはずです。しかし、単に用意しただけだった場合、うまく活用されない可能性も大いにあります。

これらの課題の根底には、そもそも受講者が学びたい気持ちになっていない、という大きな問題が横たわっています。要するに「やらされ感」、あるいは「楽しいだけ」のイベントになっているのです。どうしても「来てやった」という感覚で、研修を見ただけ、聞いただけで終わらせてしまう方が多いのは事実です。今行っている研修が本当に受講者たちに必要な知識となるのか、そうだとしても単なる情報の羅列になっていないか、などは注意すべきポイントでしょう。

なぜ、研修を受けても行動が変わらないのか?変わったとしても長続きしないのか?01※当日の資料より抜粋

では、受講者が学びたい気持ちになるように、楽しく伝えればよいのかというと、必ずしもそうではないと思っています。確かに、研修の満足度を上げるためには、講師が楽しい話で受講者を愉快な気分にさせながら、その間に知識を挟んでいくという方法も有効です。ですが、研修の目的によっては、一時の楽しさばかりを追求すべきではありません。中には、真剣に考えながら臨まなければならない研修もあります。研修の満足度を上げることも大事ですが、必ずしも満足度の高い研修が本来の目的を達成できたという意味ではありません。あくまで楽しさは二の次で、研修は目的を達成するために行うものなのです

なぜ、研修を受けても行動が変わらないのか?変わったとしても長続きしないのか?02※当日の資料より抜粋

研修を根本的に変えるポイントとは

ただでさえ研修には成功させるための難しいポイントがあり、さらにこれからはオンライン時代にも対応しなければなりません。そこであらためて重要になるのが、継続的な学習を実現するための仕組みづくりです。一番に考えなければならないのは、知識や行動の型をいかに効率よく伝えるかということです。たとえば、アメリカにはフリップトラーニング(反転授業)という手法を取り入れている学校があります。これまでの授業形式は、先生に教室で基礎的な内容を教わり、問題を解くというのが一般的でした。フリップトラーニングでは、事前にeラーニングで基礎的な内容を学び、教室ではさらに応用を習った上で、クラスメートと議論をすることに重点を置いています。つまり、eラーニングによって基礎知識のインプットを効率化し、それがより深掘りされた知識となるように、教室などのリアルな場で学習を行う仕組みをつくったのです。これからeラーニングの環境を整えようとしているみなさんは、ぜひこのような観点からも研修を考えてほしいと思います。

また、人は行動しなければ深く学べません。試行錯誤を重ねながら自分のやり方を追求していくことも大切な学習です。そういった意味では、実践する機会もつくる必要があるでしょう。もしかしたら、オンラインでは難しいかもしれないため、日常業務の中に組み込むことも検討しながら、実践の場を提供する観点も重要になってくると思います。では、受講者に行動させるにはどうすればよいのか。それは、必要性を感じさせることです。いくら知識や行動の型を提供しても、「自分はこうなりたい」といった動機づけがなければ行動には移りません。そのため、どう変わればよいのかをわかりやすくイメージで伝えてあげる必要があります

研修を根本的に変えるポイントとは※当日の資料より抜粋

eラーニングをすでに導入している、あるいはその予定がある場合には、受講者の強い動機づけになるような動画を提供していただくとよいのではないのでしょうか。やはり視覚的に訴えることで、本人たちもその必要性を強く感じるはずです。実際に行動する際には、意図を持たせることもポイントです。自分のなりたいイメージと現状を比較して、その間を埋めるための課題を探究してもらう。これを、受講者自身に決めてもらうことが大切です。そして、行動の後には内省してもらい、自分で実行したことがどうだったのかを振り返ってもらいます。そうすることで、自分のなりたいイメージがさらに深まり、思考も刺激されて感情も前向きになっていきます。その際、他の人と自分の考えや価値観を共有するのも大切です。このような一連のサイクルを回していくことで、マインドセットや心の持ち方、つまり価値観がポジティブに変化していきます。その結果、新たな考えやスキルが自分のものとしてしっかりと身についていくのです。サイクルの効果を最大限に活かすためにも、受講者にはアクションプランをつくってもらうと、なおよいでしょう。

研修前の設計と研修後のフォローが成功の鍵

ここまで、研修においては行動が重要であることを伝えてきました。その理由を、アメリカの研究結果とともに簡単に説明します。「人が成長を実感する場所はどこなのか」をアメリカの研究者が調査したところ、70%の人たちは仕事の経験で成長を感じると答え、20%の人たちは他者との関わりの中で成長を感じると答えました。残りの10%は公式の学習で成長を感じると答えています。つまり、受講者の成長を実現するためには、仕事の経験と他者との関わりの2点、これらを研修においても重視していかなければなりません

研修前の設計と研修後のフォローが成功の鍵01※当日の資料より抜粋

研修で新たな知識を学んだら、行動をした上で内省する。加えて、職場ではそれをもとに上司や同僚と話し合ってみることも大切です。これらを通じて抽象的な思考が形成されると、今度はそれが教訓となり、新たな行動へと移っていきます。業務上の成果にもつながるはずです。職場という環境で、いかに学びを最大化するのかを考えながら、研修の仕組みをつくっていく必要があるのです。学習定着率の観点では、他者との関わり合いはさらに重要であることがわかります。ラーニングピラミッドにおいては、グループ討議や自ら体験することで学習定着率が高くなると言われていますが、一番効果があるのは他人に教えることです。

研修前の設計と研修後のフォローが成功の鍵02※当日の資料より抜粋

これらを踏まえ、学習したことを他の人に話す機会もつくっておくとよいでしょう。オンラインだから育成できないのではなく、オンラインだからこそ実現できるという考え方も必要です。他の人に学習内容を話す機会は、オンラインならではの方法も考えられそうです。

なぜここまで研修の仕組みについて言及するかというと、研修においては、「4:2:4の法則」があるからです。実は、研修失敗の原因の4割が準備段階にあり、さらに4割は研修の後にあるとされています。研修当日は失敗の原因の2割でしかないのです

研修前の設計と研修後のフォローが成功の鍵03※当日の資料より抜粋

この数字を念頭に置き、研修前にどのような設計をし、研修後にどのようなフォローをすべきかを重点的に考える必要があります。当日にどんな内容を伝えるかも大切ですが、そればかりだと研修はうまくいきません。研修前後をどれだけ緻密に設計できるか、ぜひとも考えを巡らせてほしいところです。

withコロナ時代のオンライン研修は「マイクロ化」もポイントの一つ

今後のキーワードとしてはさまざまありますが、withコロナの時代を考えると、ブレンディッドラーニングの考え方は必要になってくるでしょう。オンライン研修だけでなく、状況に応じて集合研修も上手に組み合わせていかなければなりません。

withコロナ時代のオンライン研修は「マイクロ化」もポイントの一つ01※当日の資料より抜粋

もちろん、新型コロナウイルス感染症の状況を注視しながらではありますが、新しい生活様式を意識しつつ、より学習効果が最大化する方法を組み合わせていってほしいと思います。オンラインコンテンツを充実させるならば、マイクロ化にも対応していった方がよいでしょう。eラーニングのコンテンツ時間はどんどんと短くなっています。3〜5分は当たり前で、1分のコンテンツも登場しているほどです。インプットの効率化を考えるならば、このようなコンテンツの導入も検討していかなければなりません。これからはラーニングエクスペリエンスを考えていく時代です。場所と時間にも縛られず、個別に最適化した形で、それぞれの業務に活かせるコンテンツを提供し、さらに学習を習慣化させる。このような形で、仕事と学びが一体化していく状態が理想となるでしょう。みなさんにはぜひとも、オンライン時代だからこその研修を考えていってほしいと思います。

withコロナ時代のオンライン研修は「マイクロ化」もポイントの一つ02※当日の資料より抜粋

withコロナ時代のオンライン研修は「マイクロ化」もポイントの一つ03※当日の資料より抜粋

取材後記

髙橋氏のお話を聞き、研修のオンライン化は大きなチャンスではないかと感じました。もちろん、これまでの集合研修とは体系が異なるため、人事の方々の負担は一時的に増えるかもしれません。しかし、学びの効率化を考えた際、時間や場所に縛られないオンライン研修は、効果的な仕組みづくりさえ実現できれば、企業にとって強力な武器になり得るのではないでしょうか。オンラインを制約と捉えるか、可能性と捉えるかで、各企業における人材の成長スピードが変わっていきそうです。

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取材・文/橋本歩 EJS、編集/d’s JOURNAL編集部