出産や育児でキャリアパスが断たれない制度構築。高い復職率が示す「女性の働きやすい職場」づくりとは?

ワタベウェディング株式会社

人財開発部 教育・研修担当 澤野 真里(さわの みさと)

プロフィール

女性が憧れる仕事の一つ、ウェディング業界。女性社員が多く、ウェディングプランナーという現場では約9割が女性のスタッフです。ワタベウェディンググループは、ブライダル業界のリーディングカンパニーとして、1953年の創業以来、60万組もの新郎新婦の結婚式をお手伝いしてきました。近年は、国内96拠点だけでなく、海外41拠点のネットワークを活かし、リゾートにおける挙式でもトップを走っています。そんなワタベウェディングは「人材は財産です」と言い切ります。財産である人材の採用・育成方法について、同社人財開発部 教育・研修担当の澤野真里氏(以下、澤野氏)に伺いました。

女性のライフステージに寄り添う独自のサポート制度

社員の7割、店舗では9割が女性社員とお聞きしました。御社ではどのように女性が働きやすい環境を構築されていますか。

澤野氏:女性社員にとって、大きな転機となるのはやはり出産と育児です。弊社では、出産後も子育てをしながら働けるように「特別育児短時間勤務制度」「フルタイム勤務促進制度」「特別育児休業」などを整備しました。「特別育児短時間勤務制度」は2005年から実施しております。これは店舗スタッフの場合、店舗営業開始の10時半から6時間を勤務時間としますが、一般的な時短勤務との違いは、子どもが小学校3年生を修了するまで利用できることと、この間は自由に勤務形態を選べることです。たとえば、子どもが小学生になったタイミングで制度の利用をやめたものの、なかなか子育てと仕事の両立が難しい場合には、再び制度を利用することができるので、自分のペースで子育てと仕事を両立させることができます。これにより社員が復職後、子育てとの両立が困難になったことで辞めてしまうことはなくなりました。

また、この制度を利用できる立場にいても、以前と同様にフルタイムで勤務する場合には、「フルタイム勤務促進制度」が適用され、子ども1人につき保育費用を補助します。経済的な面からも保育園や学童保育などに預けて働くという選択肢も増やせます。

「出産を挟んでも職場復帰できる環境づくり」に力を入れているのですね。経験を積んだ女性スタッフが出産を機に退職してしまうことは、やはり会社にとって痛手でしょうか。

澤野氏:リゾート挙式を取り扱うウェディングプランナーは、海外・国内リゾートの気候、治安、観光事情などに精通しています。このスキルはとても貴重なものですし、一度身につけたら簡単には失われません。出産して1年くらい休んだとしても、復帰すれば以前と同様に活躍できますから、復帰後も待遇が変わることはありません。このような財産とも言える人材が出産を機に辞めてしまうことは、会社にとっては大きな痛手ですし、せっかく身につけた貴重なスキルなのですから、それを活かしてほしいという思いもあります。そこでどうしたら復帰しやすいか、子育てしながら働けるかを考えたのです。

2015年から人事制度を変更されたそうですが、どのような狙いがあるのでしょうか。

澤野氏:待遇面では、契約社員と正社員に大きな違いはありませんでしたが、裁量や役職の面で制限がありました。正社員は転勤ができることが条件となり、店長などの役職に就けるのも正社員だけでした。その地域に正社員が在籍していなければ、他の店舗から転勤してもらいます。しかし、地元に愛着がある人の方がその地域文化に詳しいですし、地元のお客さまとの関係も良好に築ける傾向が強いです。また、結婚や出産などの事情により転勤ができないので正社員になれないという高いスキルを持つ契約社員もたくさんいます。

そこで、地域限定正社員の「リージョナル職」を設けることで、転勤のない正社員として働けるようになりました。これにより地方では、現地の最適な人材を契約社員ではなく正社員として採用できます。また、転勤が可能な正社員を「グローバル職」とし、予期せぬ家庭の事情などで転勤ができなくなってしまう場合には「リージョナル職」として地域を限定した働き方に変更することもできるようにしました。再び転勤ができるようになった場合は、元のグローバル職に変更することも可能です。

女性のライフステージに寄り添う独自のサポート制度

オンライン事業の構築が、社員にとって働きやすい環境づくりへとつながる

新型コロナウイルス感染症の影響はビジネスに出ていますか。

澤野氏:弊社にはリゾートウェディングの相談などをネットで受けつける「リゾ婚オンラインカウンター」というサービスがありまして、相談件数が前年同月比の10倍以上に増えました。店舗は自粛要請に従って休業していましたが、店舗の営業スタッフもリゾ婚オンラインカウンターのスタッフとして接客に入ることができました。そもそもリゾートウェディングの場合、式場などの下見はなくパンフレットや動画などでのご案内を行っているため、リモートでも十分に対応できたことは収穫でした。今後は本格的に運用する体制を構築することが課題です。オンラインの窓口をしっかり構築できれば、社員の在宅勤務が可能になり、育児中のスタッフが空き時間に働くこともできます。社員一人一人の環境や状況に合わせた職場環境の実現につながっているのです。

コロナ禍で取り組まれたことはありますか。

澤野氏:店舗の臨時休業日は、社員にとっての学びや成長のための時間と考えています。また、自己学習を推進するため、資格取得の特別助成施策を行いました。2021年の3月までに取得した資格については、その受験料に加えてお祝い金を支給します。対象資格は、「自身の業務に活かせるもの」であればよく、回数の制限もありません。

オンライン事業の構築が、社員にとって働きやすい環境づくりへとつながる

普段と異なる業務経験で得た気づきが、個人の付加価値となる

採用についてお聞きします。まず新卒採用はどのように進めていますか。

澤野氏:採用面接は、5段階程度のステップを踏んでいます。1次面接は入社2、3年目のリクルーターが担当し、2次面接から店長やグループマネージャーなどの管理職、3次以降は部長クラスなどと段階を追って選考していく過程は他社と変わらないと思いますが、各段階でできるだけ多くの社員に会ってもらうようにしています

これは「人事一存での採用から脱却」するためでもありますが、現場にも採用責任を持ってもらうことで、「自分たちが採用した人材だから、自分たちで育てる」という意識を全社員に持ってもらうことが狙いです。また、ブライダル業界に就職しようという人は、華やかな業界イメージに憧れて応募される人が多いですが、仕事内容だけではなく、誰と一緒に働くのかも重要です。採用面接なので、どうしても次選考へとステップアップしていくことになるのですが、応募者には全てを1次面接のつもりで、できるだけ多くの社員に会ってもらい、一緒に働く仲間を見てほしいということを伝えています。

他に特徴的なことはありますか。

澤野氏:新卒の1次面接を担当するリクルーターは、新卒で入社して2年、または3年目の社員が担当します。入社前の学生のときから関係ができていると、入社後もいろいろと相談できる関係を構築しやすいようで、離職の防止につながっています。新卒の採用に、あえて新卒者をあてることは、入社後の社員教育も同じです。入社後の1年間は、「エルダー」と呼ばれる教育係がつき、新卒で入社した2年目、または3年目の社員が担当します。中途採用の場合は、面接官は配属先の直属の上司となる従業員が担当し、人事担当者も中途入社の社員となります。

応募者に求める個人的な資質などはありますか。

澤野氏:「ブライダル以外のことにも興味がある」という人の方が弊社の社風に合うかもしれません。いろいろなことに興味がある人は、視野が広く多様な価値観を理解することができると考えているからです。主となる業務は営業なので、お客さまに共感できること(共感力)、そしてお客さまが望まれることを提案できること(提案力)が重要です。言われたことを実行するだけでは接客は務まりません。自分なりに考えて提案できるスキルも必要です。そのために、お客さまの気持ちをくみ取るコミュニケーション力などを持った人を採用しています

見極める方法として、過去の行動実績を確認することが多いです。行動するには自分で目標を立てて計画し、どう実行してきたのか。そのような経験がどれくらいあるのか。あるいは挫折した経験と、その挫折をどう乗り越えてきたのかなども確認することがあります。いずれにしても数値化できる基準があるわけではないので、どうしても経験によるところが大きくなってしまうのですが、「ワタベウェディングにはウェディングプランナーの数だけ提案がある」と認められたいですね。

入社後の人材教育はどのように進めていますか。

澤野氏:社員研修は新入社員研修、新任主任者研修などの「階層別」と、成約率向上研修や採寸勉強会などの「職種別」の2軸で行っています。「階層別」の研修は人事部の担当で、ここで行う研修は必ず身につけてほしい基礎的な研修内容です。「職種別」の研修は営業部が担当です。結婚式に求められるニーズや価値は、時代のトレンドによって多様化します。この変化に対応するため専門的な研修を行う必要があります。より詳しい研修内容になるので、人事部ではなく最前線にいる営業部が管轄です。新入社員は入社後に新入社員研修をしっかりと行い、半年後には一人前に働けるようなプログラムを組んでいます。

「ジョブチャレンジ制度」という独自のシステムについて教えてください。

澤野氏:2010年から導入したもので、異動を希望する本人のスキルアップだけでなく、人材を受け入れる部門の活性化を狙ったものです。異なった視点を持つ人と働くことで、新たな気づきを得てもらい、個人のスキルアップや部門の平準化のために行っています。この制度には「海外でのトレーニー」「国内グループ会社へのトレーニー」「本部への異動希望」の3つがあります。

1つ目の「海外でのトレーニー」は、ハワイやグアムといった海外の拠点でさまざまな業務に携わります。弊社の場合、国内でウェディングプランナーとして働いているスタッフは、新規の挙式提案から打ち合わせ、出発準備までを担当。そこで海外トレーニーとしてお客さまを現地でお出迎えし、結婚式当日に立ち会うことで、挙式の流れ全体を理解できます。この経験を店舗に持ち返り、他のスタッフと共有することによってお客さまへの接客に活かし、より安心感のある接客案内につなげることが可能です。また、もう一つの目的として、本人が求める高いホスピタリティーを海外の現地スタッフへ伝える役割もあります。

2つ目の「国内グループ会社へのトレーニー」ですが、弊社のグループにはホテル雅叙園東京ホテルメルパルクなどがありますので、ワタベウェディングでは経験できないような仕事にチャレンジできます。グループ会社から弊社へトレーニーに来るというパターンもありますので、グループ会社の社員からいろいろ学ぶこともあるようです。

3つ目の「本部への異動希望」も同様に広報、経営企画、商品開発企画など普段の業務では経験できない職種を経験できます。

これらは異なる業務経験で得た気づきを、次の部門で活かしてもらうこと。その経験を部門で共有することで、スキルをボトムアップすることが狙いです。

社員は誰でもチャレンジできるのでしょうか。

澤野氏:「海外でのトレーニー」の場合は、就労ビザの関係で入社から3年間の勤務が必要となりますから、入社4年目以降の社員が対象です。1年間のトレーニー期間を終えてからが大事なので、応募するときには帰任後にその経験をどこで、どのように活かすのかを明確にする必要があります。ただ「海外に行きたい」という思いだけでは選考は通りません。戻ってから会社の戦力となることを期待しています。入社3年後は転職を考える最初のタイミングだといわれますが、ジョブチャレンジ制度は企業内転職のような研修なので、転職を防ぐ役目にもなっているのではないでしょうか。

本制度は、本人が直属の上司に知らせず、直接、人事部に希望を伝える決まりになっています。これはチャレンジしやすい環境にすることと、上長に対して、自分の部署に最適な人材を囲うのではなく、いかに自分の部署から最適な人材を輩出するかが重要であることを文化として定着させる狙いもあるのです。

普段と異なる業務経験で得た気づきが、個人の付加価値となる

取材後記

ワタベウェディングは、女性スタッフに結婚、出産、育児という人生の大きな転機があったとしても、職場復帰できる環境と企業文化を徹底的につくりあげ、女性スタッフの高い復職率を実現しています。スタッフを、共に働き共に成長する「人財」として大切にしていくことが、結果お客さまに愛される人材の輩出につながっているのです。

取材・文/柴田雄大、編集/d’s JOURNAL編集部