中途採用でのSNS・動画活用。今、求職者の心をつかむ「透明度の高い」採用
これまでの採用活動は、面接で求職者と直接顔を合わせ、話の内容だけではなく表情やまとう空気も含めて、判断することが主流でした。しかし、コロナ禍での「新しい生活様式」の影響により、企業の採用活動の手法が大きく変わっています。
「採用活動のオンライン化が進む今、応募者数を目標にするのは終わりにしなければならない」と声を上げるのは、株式会社OS.UNITED 代表取締役の堀江京介氏です。
人材エージェント・採用コンサルとして、20代を中心とした転職支援と、企業の採用活動をサポートする堀江氏は、なぜそのような考えを持つようになったのでしょうか。インタビューを通して、これからの採用活動の一つの姿が見えてきました。
採用活動のオンライン化で、地域を超えた人材獲得が可能に
——ウィズコロナ時代、企業の採用活動をサポートされる中で、堀江さんは20代の求職者の転職活動についてどう感じていますか?
堀江氏:流れが大きく変わったと思います。求職者の状況で言えば、情報収集能力の差が顕著に出ていると感じます。例えば面接でも、「Zoom」などのWeb会議システムを用いることが一般的になりましたよね。日々情報収集をしている方であれば、スムーズに対応できますが、そうではない方だと、「Zoomって何?」など、ついていけない方も多くいます。20代の求職者の中で、流行をキャッチする能力の差が露骨に出ていると感じます。
しばらく続いていた「売り手市場」が「買い手市場」に逆転している印象です。特に5月以降、コロナ禍における勤め先の対応を見て、「転職しよう」と決心する人が増えました。「うちの会社はITリテラシーが低くて、リモートワークに移行できなかったから」と言って、柔軟な働き方を実現しているIT企業を志望する人が多く見られます。
——新型コロナウイルスの影響で、直接会うことのハードルも高くなりました。企業の採用活動の手法はどう変わっていますか?
堀江氏:最終の社長面接のみ対面にして、求職者がもつ雰囲気から人柄を判断する企業は多いですね。しかし、説明会から最終面接までオンラインで選考を完結させて、入社後もリモートワークを選択する企業も増えました。
選考がオンラインで完結するメリットは、地方在住の最適な人材が選考にエントリーしてくれる可能性が高まることです。例えば「在職中で、面接に行くことができない」といった方にもチャンスが増えました。最適な人材獲得の競争が激しい中で、オンライン選考により地域を超えて求職者の選考ができるようになったのは企業にとってメリットでしょう。
——なるほど。面接の場や働く場をオンラインに移行すれば、場所に縛られる必要がなくなり、人材採用の可能性が広がりますね。
堀江氏:ただ、面接を完全にオンラインで進めるのは、メリットばかりではありません。画面越しのコミュニケーションだと、相手がまとう空気や細かな表情の変化は読み取りにくいものです。オンラインで話すのとオフラインで話すのとでは、大きく印象が変わります。
そのように感じた経験が、僕自身にも何度かあります。ある求職者との初めての面談をオンラインで行ったときは、「あれ、疲れているのかな…?」と感じました。しかし、2回目にオフィスで面談をしたときは、明るくて愛嬌がある印象を受け、そのギャップに驚きました。
——確かに、画面越しのコミュニケーションだと、人柄まで判断するのは難しい気がします。
堀江氏:そうなんです。しかし、私たちはしばらくウイルスと共存することを余儀なくされているので、選考のオンライン化はこれからも続いていくはずです。そこで企業は、人柄がわかりにくい画面越しの選考を成功させるために、採用活動の在り方を変えていく必要があるでしょう。
今求められているのは、「自社にマッチする可能性が高い人だけを集める採用活動」です。応募者数を目標として設定し、とにかく母集団形成に力を入れる時代は終わります。これまでのようにはできない状況に加え、面接を重ねることは、求職者にとっても企業にとっても体力を削るだけです。
自社の弱みを後出しせず、さらけ出して、情報の透明度を上げていく
——マッチング度が高そうな人だけを集めるためには、採用担当者はどのような考え方を持つべきでしょうか?
堀江氏:採用活動の考え方をお話しする前に、僕個人の話をさせてください。
僕は、新卒入社したITベンチャー企業で採用担当を、次に入社したアパレル専門商社で人事・採用担当をしていました。経験がないところからのスタートだったので、手探り状態で採用活動を進める毎日。目の前のことに必死に取り組む中で、僕は二つの落とし穴にはまっていたんです。
一つ目は、「活躍してくれる人材を採用しなければ」と求職者のスキルを重視して採用していたこと。スキルをベースとした採用では、社風とマッチせずに、結局退職する人が続出してしまいました。何度も面接を重ねて入社した人たちが、会社から去っていく姿を見るのは辛かったですね。
二つ目は、最適な人材を採用したい企業同士の「年収合戦」に参戦していたこと。どこの企業も自社に入社してほしいために、年収を上げて人材を取り合います。しかし、年収の高さで勝負すると、資金力がある企業が勝ってしまう。横を見ると自社よりも年収が高い企業はいくらでもあるのに、年収を上げることに労力を費やすのは、現実的ではないことに気付きました。
——かつて自社の採用活動をされていた堀江さんも、うまくいかないことに悩んでいたのですね。スキルベースの採用や年収合戦…なぜその状況を打破できたのでしょうか?
堀江氏:行き詰まっていた状況を変えたきっかけが、自社にマッチする可能性が高い人だけを集める採用活動に切り替えたことでした。具体的には「ミッションとビジョンを起点とした採用」を重視することです。
他社と比較して勝負するのではなく、ミッションやビジョンという「オリジナリティがあって差別化できるもの」で勝負する。すると、自分たちが描く未来や社風に心から共感する人たちが応募してくれるんです。お金でつながるのではなく、心の深い部分でつながれるようになるので、求職者と会社のどちらにとっても良いですよね。
あとは、採用において、「自社の透明度を上げる」ことを心がけていました。
——透明度を上げる、ですか?
堀江氏:はい。自社の良いところだけでなく、課題までしっかりと伝えることによって、求職者にお伝えする情報の透明度を上げていました。
例えば、求人票に「弊社はアットホームな雰囲気で、風通しが良い会社です」と魅力的な言葉ばかりを並べるのは、求職者に対してフェアではありません。入社前に良い面だけしか見せていなければ、入社後に「イメージと違った」とマイナスギャップを感じてしまい、退職してしまう結果になりかねないでしょう。
むしろ、「〇〇な方と働きたい、〇〇な方とは合わない」「入社後すぐに〇〇の業務を行います」「入社後〇〇につまずく方が多い」など良い面だけではなく、課題となりそうな面も見せていく方が良いでしょう。
——確かに、具体的な言及があるとイメージしやすいですね。
堀江氏:社風にマッチせず、すぐに退職する結果になったら、お互い選考にかけてきた時間が無駄になってしまいますし、何より去っていく姿を見るのは心が痛みます。そして、入社した本人と採用担当者の一対一の影響だけではなく、周りのメンバーのモチベーション低下にもつながります。事前に払拭できるものは払拭しておきたいですね。
——課題をうやむやにして“透明度の低い”求人を出すのではなく、課題をさらけ出す“澄み切った”求人を出すべき、と。
堀江氏:はい。だって期待を込めて入社してくれた人に、「実はこんな課題があるんだけど…」と後出しジャンケンをするのはずるくないですか?(笑)
求職者が本当に知りたいのは「この会社はどの部分に課題があって、どこを強化していくべきなのか」「入社してからつまずくポイント」といった現実的なところです。甘い部分だけではなく、厳しい部分も事前に伝えておくことで、求職者は覚悟を決めてから入社することができる。そうすると、働き始めてからのギャップが少なくなり、入社後も長く良い関係を続けられる確率が上がるんです。
——課題を透明化して発信することには、腰が引ける企業も多いのではないでしょうか?
堀江氏:実際、自社の弱みも含めて、隠さずにさらけ出すことは、勇気のいることだと思います。でも考えてみてください、課題がなく経営できている会社なんてこの世にありませんから(笑)。自社にマッチする人材を採用するには、求職者に魅力的なポイントをアピールしつつ、課題となるポイントが受け入れられるかを確認する必要があるでしょう。
自社の透明度を上げるためのSNS活用。求職者に「入社後の日常をイメージさせる」発信をする
——これまでのお話を踏まえて、採用担当者が明日からできる行動があれば教えてください。
堀江氏: SNSや、動画プラットフォームで発信することです。具体的にはTwitterやTikTok、YouTubeなどです。これからは、応募してくれた求職者に自社の魅力を伝える「受け身」の姿勢ではなく、自ら積極的に発信していく「攻め」の姿勢が重要になってくるでしょう。なぜなら、発信を見た求職者からの応募は、共感という想いがベースになっていて、大きな熱量を持っているからです。
特に、より質の高い面接を実現するためにも、SNSや動画プラットフォームでの発信は有効だと思います。求人票やホームページの情報だけだと、会社や仕事の概要部分しかイメージできません。しかし求職者が採用担当者本人の発信を見ることができれば、よりその企業の情報を具体的にインプットすることができるんです。
深いところまで前提知識がある状態で面接をすれば、求職者と企業の核心に迫る話ができます。