成功する採用マーケティングのススメ。自社の魅力を2,000%引き出すブランディングとは

アナグラム株式会社

代表取締役 阿部 圭司(あべ けいじ)

運用型広告の領域が得意なマーケティング支援会社、アナグラムの創業者兼、フィードフォース取締役。人生のテーマは「折り合いをつける」。大好物:経営、組織論、戦略論、登山、ゴールデンレトリバー。著書複数。【著書】『プロが教える Google Analytics 実践テクニック』(2010/6:ソーテック社)、『新版 リスティング広告 成功の法則』(2013/3:ソーテック社)、『いちばんやさしいリスティング広告の教本 人気講師が教える利益を生むネット広告の作り方』(2014/7:インプレス)など

転職したいと思った時、ターゲットの「第一想起」になっているか
社員全員が情報発信者。評価制度にも組み込む発信効果のマジック

リスティング広告やFacebook広告などを筆頭とする運用型広告に強みを持つマーケティング支援会社、アナグラム株式会社。毎週平均で60人の転職応募者を抱えているという同社では中途入社するメンバーのほぼ99%が自社ブログの読者であるという。現在も自社のマーケティングの舵をきる同社代表取締役・阿部圭司氏(以下、阿部氏)に企業規模の大小にかかわらず実践できる採用マーケティングと自社PRについて語っていただいた。

アナグラム株式会社

転職したいと思った時、ターゲットの「第一想起」になっているか

2010年の設立以来、リスティング広告やFacebook広告などを筆頭とする運用型広告専門の広告代理店としてマーケットを開拓し続けてきたアナグラム株式会社(東京都渋谷区)。昨今では運用型広告に限らず、スタートアップのマーケティング支援、採用マーケティングなども手掛けている。またセミナー開催や書籍出版、SNS・ブログなどによる情報発信においても業界内での認知度と存在感を示している。さらにいえば営業が一人もおらず、下請け案件も無く、すべて直接取引というから驚きを隠せない。まさに、この世界で独自の地位を築いてきた。

同社代表取締役でもある阿部氏が単身で立ち上げた会社も今年で11期目。「運用型広告を専業で行う会社が当時はほとんどなかった。運用型広告に特化することで、もっと効率的に、もっとクライアントに利益を還元できるはず――。そう考えたのがアナグラムの出発点です」と阿部氏は創業時を振り返る。

同社は広告運用の観点を活かした戦略の提案、クライアント数を絞った深耕コンサルティングを実践、一人の担当が責任をもって契約から打ち合わせ・運用までを行うなどの特色を打ち出し、コロナ禍情勢においても社員数65人、売上高11億4256万円(広告費含まず)、営業利益5億270万円(20年3月現在)を計上し、順当に成長を続けている

もともと運用型広告のコンサルティングを専業しているだけに、その情報発信とPR術も巧みである。ポイントは情報発信の内容だ。例えば現在、同社のブログやSNSは、広告運用を手掛ける社員ほぼ全員が記事作成を担当しており、週1回以上のペースで運用型広告に関する最新情報や運用ノウハウ、SNS活用事例や社内活動などを発信している。特徴的なのは、どんな小さなニュースでも広く発信している点にあるだろう。一例を紹介すると、同社公式Twitterでつぶやいた「コロナ禍対応によるリモートワークの実施」「ディスプレイの社内支給のニュース」などだ。

これらは一見すると社外に関係のない社内報だと見られがちだが、「どんな情報でも然るべきチャネルで発信するべき。その意思決定の裏側まで見せることが大事です。知りたい人が1人でもいる以上、それを包み隠さず発信することが信頼性と自社の認知度を向上させます」と阿部氏は語る。前述のTwitterのつぶやきには100リツイートがついている。一つひとつの記事の重要度は低くても、これらに「いいね」や「リツイート」してくれる人は、実は会社への共感度あるいはコミット度が高いという。

転職したいと思った時、ターゲットの「第一想起」になっているか01

面接待ちの転職希望者が常に60人以上

こうしたこまめな情報発信を、設立以来継続してきた同社。会社自体の認知度が向上した結果、採用活動でも大きな成果を上げている。DMやブログなどから応募する求職者が増えたのである。また、転職エージェントや求人媒体などを経由した場合でも、そのほとんどが同社のメディアになんらかの形で接触していることがほとんどであるという。その結果、現在はなんと面接のウェイトリストは毎週60人ほどがプールされている状態だという。つまり入社する時点で、ある程度アナグラムという会社の風土やビジョンが分かっている状態での合流となる。入社後のギャップによる離職も防げるだろう。

一般的に入社後1年以内に離職者が生まれ定着率が安定しない企業は、新卒・中途入社者との相互理解に乏しい点に起因することが少なくない。会社が目指すべきビジョンと個人の目指したいキャリアビジョンに乖離があるためだ。例えば、就労環境、配属先職場の求めるスキルと経験がそもそも求職者とマッチしていなかったなど、枚挙に暇がない。

これらを解消するためオンボーディングや入社前研修で忌避しようとするのだが、ポイントとしては入社前にいかに自社の風土や環境を理解してもらえるかが重要となる。アナグラムは、ある人が転職の意向を固めるとき、転職先候補として一番に想起してもらえる会社を目指しているという。その周知徹底にブログやSNSなどといったツールを活用し、アナグラムを知ってもらえるよう努めているのだ。このようなPR活動は一般的に採用マーケティング活動のひとつに数えられる。

しかし運用型広告のコンサルティングで市場シェアを獲得している会社とはいえ、会社規模としては決して大きな組織ではない。どのようにして転職希望者に同社の魅力を伝え、またそれをどう発信していったのか。次項に同社の代表取締役である阿部氏によるインタビューも掲載した。「採用ブランディングの手法が分からない」「応募者が集まらない」などの悩みを持つ人事担当、経営者の方は必読してほしい。

転職したいと思った時、ターゲットの「第一想起」になっているか02

社員全員が情報発信者。評価制度にも組み込む発信効果のマジック

採用マーケティングの手法でブログやSNSの活用をした背景についてお伺いします。

阿部氏:設立当初は個人事業主としてスタートしましたので当然社員はいません。創業時は会社も社長自身も売り出す必要がありましたから、プロモーション費用が掛からないツールとして手っ取り早いブログを活用したというのが背景です。まずは個人ブログとしてスタートし、それから3年くらい休まず毎日更新していましたね。掲載する内容は、主に当時はリスティング広告に関するノウハウやお役立ち情報といったものでした

設立から数年でありがたいことにクライアントからのご相談や依頼が増えていきました。しかしその頃から私一人では手が回らないという状況が続いたため、当時は個人ブログだった私のページから求人を募集しました。最初の呼びかけで20人くらいの応募があったことには驚きました。

現在は、個人ブログから会社の公式ブログに移行されていますね。

阿部氏:2014年あたりからです。個人ブログだと仕事の依頼が私個人の指名になってしまうんですよ。仕事も社員も充実してきた環境で、全部の案件・アポに私自身が関われなくなり、社員に担当させることが多くなっていったのですが、あるクライアントから「えっ、社長じゃないの?」と言われたそうです。主担当として関わっていると思っていたのに、そんなことを言われたら社員も気分は良くないですよね。

そこで個人ブログで会社と私自身をPRすることを辞めようと思いました。これからは会社の公式ブログに移行して、アナグラムという法人を発信しようと。私個人への依頼がなくなるまで、つまり、ブランド移行を完遂するまでおおよそ3年程度かかりましたね。最初はとても怖かった。仕事自体がなくなるかもしれませんから。いま目立っているインフルエンサーやフォロワーの多い人ほどこの作業のしんどさが伝わるでしょうか(笑)。

社員全員が情報発信者。評価制度にも組み込む発信効果のマジック

現在はどのような形態で発信を行っていますか。

阿部氏:はじめは私と1号社員とで手分けして記事を編集。その後、いまの編集長が入社してくれたタイミングで組織化しました。自社ブログは会社の活動とそのノウハウ、専門知識などを正しく世に広める意図がありますので、プロダクトの概要や歴史を知っている人が編集長に就いてもらっているため安心して任せています

発信のタイミングは週に1回以上。記事制作は広告運用を手掛ける社員ほぼ全員で行います。まずは全員でネタ出し。それを編集長を含むマーケティングチームで精査して質を担保。そして制作から発信にまで至ります。この記事作成は評価制度にも組み込まれていて、原則として一人あたり半期で3本以上の記事を作成するルールとしています。

いわゆるネタ切れに陥ることはありますか。

阿部氏:個々人ではあるようですが、アナグラムとしては基本的にはありません。メインはもちろん広告運用の話を発信するのですが、特に社員には「ネタは自分がいま困っていること、つまづいたことがそのままテーマになる」とアドバイスしています。また1人にしか読まれない記事を発信したとしても、たった1人には読まれた。それは価値になる記事だとも伝えています。当然営利目的のオウンドメディアでもありますから、PVは気になるでしょう。しかしそれは二の次でいいのです。バズったら儲けものです。気にするなとは言いません。もちろんバズって多くの方に届くということは必要ですが、そういった記事は数か月後には忘れられています。大事なのは、必要な情報を必要だと思ったときに取得できる環境です。ブログの記事を発信することで、自社の社員にはマーケターとしてマーケティング感覚を養ってもらう副次的な成長も期待しています。

よくオウンドメディアを運営する組織の経営者や代表者の中には、「それっていくら儲かるの?」と自覚なく聞かれて運営自体が終わりを迎えてしまう場合もあります。こうした情報発信はインプレッションを出すことを意識して、検索エンジンなどのインデックスに乗せることを重要視しなければなりません。種が芽吹くのを辛抱強く待つことも大事ですね。

そうした情報発信と精査が採用マーケティングの成功にもつながっていますか。

阿部氏:昨今のWebメディアはアクセス解析などによってすべてデータ化され何でも分かる時代です。当社を引き合いにしてくれるすべてのステークホルダー(クライアントや入社希望者など)の接点を見てみますと、意外にも「セッションが切れている」状態の方々がほとんどでした。

どういうことか説明しますと、例えば、昔からアナグラムのブログを見てくれている読者がいたとしましょう。その読者はいま現在、自分の所属する組織の広告運用の状態がよくないなと感じています。そうしたとき「そういえば運用型広告に強い会社がいたな」と当社を思い出して連絡を入れてもらえる。これは日頃から情報発信によって、何かアクションを起こすときに第一想起してくれる状態にしているから可能となったつながりです。つまり常に当社と取引がある状態ではなかった。リアルでは接点が切れていたので「セッションが切れている」と私は表現しています

採用で言いますと、ブログやSNSなどでアナグラムを知った上で、自社サイトやDM経由で応募していただくケースが多いですね。「ブログを見て応募しました」と言っていただける方がほとんどです。それは転職を考えた時に、第一想起に当社が入っていたために、自分の力を発揮できそう、想い描くキャリアが実現できそうと思ってもらえたということです。それが応募につながったわけです。

社員全員が情報発信者。評価制度にも組み込む発信効果のマジック01

第一想起に入るために、コンテンツとして意識していることはありますか。

阿部氏:運用型広告を経験している方が転職を考えるとき、まず大手の広告代理店を想起すると思います。だから私たちの会社を選んでくれる理由を探さなければならない。例えばアナグラムなら、営業がいない、一気通貫で案件に携わる、下請け案件なし、などでしょうか。「この会社だったらだったら好きなことができるんじゃないか」と思ってもらえるようなコンテンツが必要なんですね。だからその人にとっての、いつも情報をくれる会社であり、1番の会社であることが大事なのです。

また正直に経営して、正直に情報を届けることも非常に重視しています。メリットもデメリットも包み隠さないことがポイント。面接の際でも「なんでも聞いてくれ、なんでも答える」と必ず言っていますね。特にデメリットはメリットよりも多く伝えています。「ウチは正直厳しい環境だよ」なんて頻繁に言っていますから(笑)。現在は、就職情報口コミサイトなどに誰でも書ける時代ですので、むしろなんでもオープンにした方がいいと思っています。

自社HPでは福利厚生制度よりも、広告運用に関する情報が多いですね。

阿部氏:もちろん特徴的な福利厚生があれば紹介するべきですが、それだけに興味を持ってもらっても入社後にミスマッチとなる可能性もあります。当社は広告代理店であり、マーケティング支援会社としてホワイトに経営している会社であると、各メディアで取り上げてもらえることが多いのですが、決して良いところばかりじゃありません。人が辞めていることもちゃんと正直に発信していますし、何より事業のコアである広告運用のノウハウ・お役立ち情報から、さまざまなステークホルダーにつながっていくほうが有益だと考えています。

そしてお金を使って解決するのではなくまず知恵を絞ることを何より社員に意識させて発信しています。それらに関わる人件費は別ですが、採用も情報発信もほぼ0円で実行できる。まずは社内にあるリソースをどう使うかを考える。それをお金かけてブーストさせていくイメージです。予定調和のようなコンテンツや仕事は面白くないし、サプライズもない。サプライズのある記事に出会った人が「なにコレ、すげー面白い!」と思ってもらい、それが採用に関することなら応募につながるわけです。マーケティングも採用活動もすべてはそこに集約されます。まず知恵がないとダメですね。だから無料で使えるブログやSNSは、採用マーケティングを実践するのには最適というわけです。

社員全員が情報発信者。評価制度にも組み込む発信効果のマジック02

取材後記

ターゲットの第一想起に入る――。今回のインタビューの中でももっとも刺激的なコメントだった。採用で悩まれている人事担当者・経営者の中には、「予算がない」「ブランディングに苦労している」など、そもそもの環境を言い訳に諦めているケースは少なくない。しかし阿部氏が語ってくれた採用マーケティングの手法には0円から始められて、誰でも実践ができるノウハウが多く詰まっており、非常に希望の持てる内容だったのではないだろうか。ぜひ自社の採用活動の参考にしていただきたい。

取材・文・編集/鈴政 武尊(d’s JOURNAL編集部)