働きがいのある会社ランクイン。社員のモチベーション向上のきっかけは「厳しさ」だった

株式会社プログリット

代表取締役社長/CEO 岡田祥吾(おかだ・しょうご)

プロフィール

株式会社プログリットは、英語コーチングという新しいスタイルの英語学習サービスを提供する会社です。英語を教えるのではなく、英語の学び方を教えることで、効率的に英語力の向上を実現し、英語学習業界に衝撃を与えました。サッカー選手の本田圭佑氏も受講生だったことからアンバサダーとしての起用が実現するなど、話題性も十分。ゼロからスタートして現在校舎(面談を行う場所)が全国に12校舎、社員170人と規模を拡大してこられた同社代表取締役社長の岡田祥吾氏(以下、岡田氏)に、ゼロからの組織づくりについてお話を伺いました。

本気で情熱を傾けられる仕事は何かを見定めて起業

株式会社プログリット起業の経緯と、英語学習業界に参入された理由をお聞かせください。

岡田氏:大学時代に留学先のシアトルで当社取締役副社長の山碕と出会い、互いに起業の夢を抱くようになりました。大学卒業後、私はマッキンゼーに、山碕はリクルートに入社しましたが、2016年にはともに退職し、二人で家事代行サービスの立ち上げを計画します。今後女性の就労率が高まれば共働き家族が増え、家事代行のニーズが増大すると考えたのですが、思うように資金が集まらず失敗に終わりました。

振り返ると、家事代行の仕事に対して強い思いがあったわけではないことに気づきました。そこで、本気で情熱を傾けられる仕事、自分にウソのない、人に誇れる仕事は何かを考え、たどり着いたのが英語学習のジャンル。これまで、私自身が英語習得に苦労した経験がありましたし、英語が苦手という理由で活躍の場を狭めてしまっている日本人をたくさん目にしてきました。「世界で自由に活躍できる人を増やす」という当社のミッションは、私たちの創業時の想いそのものです。

株式会社プログリット起業の経緯と、英語学習業界に参入された理由

英語コーチングという着想はどこから得られたのですか。

岡田氏:これまでの英語学習といえば英会話スクールが王道でしたが、週に1〜2回教室に通っただけで英語を身につけるのは至難の業です。スクールに通ったけれど英語を身につけることはできなかった、という人は多いのではないでしょうか。英会話スクールで英語力を伸ばしている人は、レッスンを受けた後に自宅でしっかり復習できる人なのです。

それなら、英語のティーチングではなく、英語の勉強の仕方を教えるコーチングを提供してみてはどうか、と思ったのです。そんなことにお金を払う人はいないという意見もありましたが、成果さえ出れば必ず価値を認めてもらえると確信しました。このような非常識とも言える挑戦ができたのは、私たちが英語学習業界とは無縁で、何のしがらみもない立場だったからだと思います。

英語コーチングは、最初に英語のテストを行い、受講生の課題を見つけることからスタートします。その後、応用言語学や第二言語習得理論など科学的な英語習得法をもとに各受講生に最適な教材を選定。コンサルタントのサポートを受けながら毎日3時間の学習を3カ月間行うというのが基本です。

課題をファクトベースで理解・分析して優先順位をつけ、ソリューションを科学的・論理的に提案しつつ、手取り足取りサポートするという流れは、企業と個人、ビジネスと英語の違いはありますが、私がマッキンゼーで身につけた手法でした。

5つの価値観「FIVE GRIT」策定で会社の方向性を明示

事業を拡大していく中で、組織づくりなどで直面した課題についてお聞かせください。

岡田氏:現在の社員数は約170人(コンサルタントが120人)ですが、30人を超えたくらいから物理的に一人一人と向き合うことができなくなり、組織のマネジメントを意識するようになりました。そこで始めたのが、「モチベーションクラウド※」を導入したり、私の考えを知ってもらうために週1回ブログを書いたりといった取り組みです。

※組織の状態を数値化して改善に役立てる、リンクアンドモチベーション社提供のサービス

5つの価値観「FIVE GRIT」策定で会社の方向性を明示

これは失敗談なのですが、ある時期からモチベーションクラウドによる組織の状態評価がどんどん下がり始めたことがありました。要因は、私たち経営陣が社員に対して優しすぎることにあると判断しました。それまでは時間や服装、仕事のクオリティーについても厳しいルールや評価がなく、その優しさが逆にモチベーションを下げてしまっていたのです。「優しすぎる親は子どもをダメにする」と言いますが、私たちは「厳しい親」になろうと気持ちを切り替えました

当社には創業時から会社のバリューとして「楽しく仕事をする」という項目があったのですが、組織づくりを進める中で削除することにしました。本来、会社は楽しむ場所ではなく、努力や苦労をして仕事を成し遂げることで達成感や幸福感を味わう場所なのです。こうした変化に当初は不満も聞かれましたが、個々に話をするなどして納得してもらうよう努めました。厳しいマネジメントに切り替えた結果、予測通りモチベーションクラウドの評価もよくなっていったのです

社員が増え、多様な価値観を持った人が集まって仕事をしていくことは重要ですが、一方でコアとなる価値観をきっちり押さえておかないと、方向性がバラバラになってしまうリスクがあります。そこで、新たに5つの価値観「FIVE GRIT」を策定しました。経営メンバーを集めて合宿を行って草案をつくり、そこから毎週議論を積み重ねながら3カ月ほどかけてつくり上げました。

FIVE GRIT
Customer Oriented – 顧客起点で考えよう
Go Higher – 高い目標を掲げよう
Own Issues – 課題を自ら解決に導こう
Respect All – 互いにリスペクトし合おう
Appreciate Feedback – フィードバックに感謝しよう

働きがいのある会社3位、エンゲージメントスコアの偏差値70前後の高評価

採用のノウハウや採用で心がけていることはありますか。

岡田氏:1年間で80人以上の中途採用を行った年もあります。採用はコンサルタントがメインですが、前職不問のため、英語講師やキャビンアテンダント、商社や銀行勤務など多種多様な職歴をお持ちの方が入社しています。共通するのは、英語力はもちろん、英語教育に対する課題感を持っていることでしょう。スクールに通っても英語力が身につかない人が多いという現状を、何とか変えたいという人材が集まってきているのです。

求人は各種広告やエージェントを用いるほか、リファラル採用も行っています。面接は、最初に現場のメンバーが担当。これは、現場の意見を尊重したいという想いがあるからです。次に人事部で面接し、最終的にコンサルタントは山碕が、それ以外は私が面接します。

私が面接で重視するのは、人間的な素直さと、直感的に新天地に飛び込んでこられる勇気や意思決定の早さです。採用ホームページはデザインにもこだわり、単なる事業内容の紹介だけでなく、会社の想いや社員のコメントを多く載せています。見るだけで応募したくなるクオリティを目指しました。

働きがいのある会社3位、エンゲージメントスコアの偏差値70前後の高評価

管理職の募集をすることもありますが、たとえば「部長」という肩書やお金やステータスに惹かれてくるような人はNGだと考えています。ベンチャー企業のため泥くさい仕事もありますし、私たちと同じ志を持ち、当社の組織をより強固なものにするために全力を尽くしてくれる人が望ましいですね。

独自の人事制度や社員同士のコミュニケーションについてお聞かせください。

岡田氏:コンサルタントの評価は、成果(受講生の英語力の伸び、満足度、継続率など)とは別に、「FIVE GRIT」の体現度も加味します。賞与は今期からペイフォーパフォーマンス(成果主義)で、上下の幅を少し広げました。このほか、全社員の前で発表する場として定期的に開催しているのが、社内のアワードです。受講生の英語力向上や、提供した価値について、そして「FIVE GRIT」をどう体現したかなどの発表をしてもらっています。

社員同士のコミュニケーションについては、上長、マネージャー、メンバー間の1on1をかなり頻繁に行っており、仕事だけでなくプライベートの悩みも打ち明けるなど、より密接な関係づくりに役立てています。ほかにも、社員のインタビューをYouTubeにアップしたり、月1回発行する社内報で部署ごとの紹介をしたりするなど、違う部署の社員がどんな仕事をしているかを理解してもらえるような取り組みもあります。社員同士の飲み会の費用として、一人当たり月に3,000円の補助を出す制度も設けています(新型コロナ感染拡大防止のため自粛中)。

エンゲージメントスコアでも高評価を得ていますね。

岡田氏:はい。リンクアンドモチベーションの提供するモチベーションクラウドのサービス内で、エンゲージメントスコアが偏差値70前後と高スコアで、最上位の判定指数となる「AAA」をキープしています。また、Great Place to Work® Institute Japanの選出する、日本における「働きがいのある会社」ランキングでは、2019年版の小規模部門で第3位、2020年版では中規模部門で18位と、2年連続でランクインしており、社員は高いモチベーションを持って働くことができていると思います。先ほど厳しい組織マネジメントと言いましたが、いい組織をつくり、社員に成長の場を提供したいと考えています。

時流に左右されず、自分たちの会社はどうあるべきかを考え続けることが重要

これからの課題や展望についてお聞かせください。

岡田氏:日本における、大人を対象とした英語学習業界の市場規模は2,000億円といわれていますが、やるからには、業界1位を目指しています。それは、日本の英語学習を変えるためには1位じゃないと影響力が弱いからという理由もあります。この業界は飽和してレッドオーシャンのイメージがあるかもしれませんが、見方を変えれば旧態依然で変化していない業界なのです。受講生がお金を払って、しかも効果が出ていないわけですから、私たちが進化すれば勝機は十分にあると確信しています

時流に左右されず、自分たちの会社はどうあるべきかを考え続けることが重要

今の日本では英語を話せなくても仕事ができますが、オンラインがより普及すれば、おのずと英語が話せる外国人との競争は避けられないでしょう。今のうちに多くの人に英語を身につけておいてほしいと思います。現在は社会人のご受講が多いですが、今後はお子様を対象とした事業も展開していくつもりです。

新型コロナウイルスの影響で当社もリモートワークを導入しています。現在は週4日在宅で週1日出勤としているのですが、この働き方をどうよくしていくかが当面の課題です。たとえば、地方在住の方の採用なども可能となるかもしれません。

今後の組織と働く人のあるべき姿をどうお考えでしょう。

岡田氏:新型コロナ感染拡大以降、世の中はリモートワークやジョブ型を推進していく流れだと思いますが、それは単なるHOW論です。本質がなくてそれだけ追求してしまうと、会社はどんどん悪くなっていくように思います。明らかにメンバーシップ型なのに、やっていることはジョブ型というのでは人材も育たないでしょう。時流かどうかは置いておいて、自分たちの会社がどうあるべきかということを、常に考え続けていくことが大事だと思います。

取材後記

創業わずか4年で社員170人にまで急成長したベンチャー企業。ゼロからの組織づくりのご苦労がひしひしと伝わってきました。社員のモチベーション低下に対し、「優しすぎる親」から「厳しい親」にスイッチする英断には、組織づくりに携わる誰もが共感を覚えるのではないでしょうか。

また、英語コーチングという新しいサービスの可能性も大いに感じることができました。5年後、10年後も楽しみな企業です。

取材・文/鈴木和宏、撮影/大金 彰、編集/森 英信(アンジー)・d’s JOURNAL 編集部