イノベーションを育む組織。その実現のカギは、ボトムアップ型のフォロワーシップにある

九州大学大学院 人間環境学研究院

准教授 池田 浩

プロフィール

組織運営の要はリーダーシップにあり、とはよく言われること。そのためリーダーシップに関する研究は、これまで数多く行われてきました。では、優れたリーダーさえいれば、その組織は成果を確実に出せるのでしょうか。

組織を構成しているのは、リーダーとフォロワーです。リーダーが指示を出し、フォロワーが行動する。その結果として、何らかの成果が達成される。であるならば、フォロワーの考え方や動き方、つまりフォロワーシップこそがパフォーマンスを左右するのではないか-。

これが九州大学大学院人間環境学研究院において「社会心理学」や「組織心理学」研究に携わる池田浩准教授の問題意識です。リーダーシップ研究を突き詰める中で至ったフォロワーシップの重要性。AI化が進む今後の組織においてパフォーマンスを高め、イノベーターを育むにはどうすればよいのか。そのカギとなるフォロワーシップについて、池田先生にお話を伺いました。

リーダーの指示を実行するのは誰か

リーダーの指示を実行するのは誰か

リーダーシップに関する議論や研究成果はよく目にしますが、フォロワーシップとは一般的には聞き慣れない用語です。そもそもフォロワーシップとは何でしょうか。

池田氏:チームは、リーダーとフォロワーによって構成されます。リーダーの指示をフォロワーが実行する。従って組織のパフォーマンスは、フォロワーの動きによって大きく左右される。フォロワーシップの提唱者、ロバート・ケリー(Robert Kelley)は「組織のパフォーマンスの8割程度は、フォロワーシップによって決まる」と述べています。

リーダーシップとは、フォロワーに対する影響力を意味します。つまりフォロワーがいなければ、リーダーも成立しないのです。ところが、これまでのリーダーシップの議論においては、フォロワーの存在が置き去りにされていたように思います。

確かにリーダーシップが何らかの成果を出すためには、フォロワーの活動が必要ですね。

池田氏:フォロワーが注目されるようになった理由は、環境の変化も一因でしょう。高度経済成長の時代なら、リーダーが指示を出し、フォロワーは言われたとおり忠実に行動すれば成果を見込めました。ところが、もはやそんな時代ではありません。指示はリーダーが出すとはいえ、実際には現場での状況判断に応じた、フォロワーによる行動修正が欠かせません。フォロワーの自律的な行動が、成果を左右する状況に変わってきているのです。

もう一点、見過ごされてきた事実があります。組織においては多くの人が、多くの時間をフォロワーとして過ごしているのです。リーダー、ひいては管理職となる人がいる一方で、大多数はフォロワーとして行動する時間の方が長い。にもかかわらずフォロワーとしての行動規範については、これまでほとんど語られてきませんでした。

フォロワーの動きが組織活性化の決めて

見過ごされてきたフォロワーの重要性に加えて、環境の変化によりフォロワーの自律性が求められているわけですか。

フォロワーの動きが組織活性化の決めて

池田氏:フォロワーシップが重要な理由は、大きく3つあると思います。まず第1には、フォロワーの自律性が組織のパフォーマンスを大きく左右する環境となっていることです。第2は、リーダーを積極的に支援し、集団を盛り立てていくためにもフォロワーシップ必要です。リーダーシップが力を発揮できるかどうかは、受け手であるフォロワーの反応にかかってくるのです。第3は、リーダーのダークサイド問題です。

リーダーのダークサイド問題とは?

池田氏:近年目立つのが、リーダーが引き起こすさまざまなトラブルです。リーダーによる不正や違法行為、ハラスメントなどが問題となっています。これらをリーダーシップのダークサイドと呼びます。このような問題は特定の人物に固有の現象ではなく、環境次第ではどんなリーダーもダークサイドに陥る危険性があるのです。

たとえばフォロワーが、リーダーに安易に同調したり、機嫌を取ろうとごまをすったりするようだとリーダーはダークサイドに陥りやすくなります。これを防ぐためには、フォロワーが自発的にリーダーと関わり、自らの意見を積極的にリーダーに直言する。ときにはリーダーのおかしな行為をためらうことなく諌める。そんなフォロワーの存在が、リーダーを健全に保つために重要な意味を持ってくるのです。

ということは、そのようにフォロワーの自発性を引き出す視点も、リーダーには求められるのですね。

池田氏:健全なフォロワーシップは、健全なリーダーシップの下で育まれます。専制的でトップダウン型のリーダーの下では、どうしても同調的なフォロワーが多くなりがちです。

これに対して、いわゆるサーバント型リーダーの下では、フォロワーは自分の意見を出しやすくなるでしょう。リーダーが環境を整えれば、フォロワーは主体的に行動するようになります。そのような動きをするなかで、リーダーは自然にサーバント型になるわけです。学術的な知見の蓄積はまだありませんが、サーバント・リーダーシップの下ではおそらく、こうしたメカニズムが機能しているはずです。

リーダーとフォロワーの関係性が見直されるようになった。その理由は、環境の変化に対応するべく組織にも変化が求められているからではないでしょうか。

池田氏:確かに環境の変化は大きな要因です。リーダー一人の指示に従っているだけでは、もはや環境の変化に打ち勝っていくことは難しい。流動的な環境の中で、着実に成果を出し続けるためには、働く人の自律的な行動が欠かせません。

組織として取り組む課題自体が、不確実性の高いものとなっています。競争環境がグローバル化し、かつ激変するなかで、これまで経験したことのないような課題への取り組みが求められるのが現状です。未経験の課題に対しては、リーダー自身も確固とした対応策を持っているわけではありません。何事に対しても、自分事として積極的に課題に取り組む姿勢がフォロワーにないと、組織として解決策を見出だせない状況となっているのです。

イノベーターはフォロワーから生まれる

イノベーターはフォロワーから生まれる

旧態依然とした上意下達型の組織では、これからの時代、生き残りが厳しくなるのですね。

池田氏:新しい組織像としてGoogleが、よく取り上げられます。同社の理念の中には「世界を変える発明をすること」があります。こうしたビジョンを、エンジニア一人ひとりが自分なりに咀嚼して行動している。自分にはどんな貢献ができるかを考え、まわりのメンバーたちと意見をぶつけ合いながら、実現しようとする。おそらくはメンバーとマネージャーの間に地位の階層性がそれほどなく、意見を出しやすい環境が醸成されているのでしょう。

いま何より求められているのは、このようなプロアクティブな行動様式だと思います。一人ひとりが自分なりに理想の将来像を思い描き、それを達成するための行動を実践していく。言われたことだけをきちんとこなしていればよかった、従来のスタンスとは真逆です。

日本の弱点とされる、イノベーションを生み出す組織風土とも関係があるように思います。

池田氏:メンバーが上だけを見て、ただ指示を待つだけ。そんな組織からイノベーションが生まれることは、まず考えられません。イノベーターは基本的にフォロワーの中から生まれる、と私は考えています。

キリンから湖池屋の社長に転職された佐藤章さんの例を紹介しましょう。佐藤さんはキリン時代に缶コーヒーの「FIRE」や「生茶」などのヒット商品を数多く手掛けられました。その佐藤さんが商品企画部長時代に何より大切にしていたのが、部下の発想です。自由な着想が生まれるよう、メンバーを盛り立てるマネジメントに注力されたそうです。

所詮、人間一人の発想などたかが知れたものです。リーダーがイノベーターにならなければなどと意気込む必要などなく、むしろ枠を超える発想を持つフォロワーをいかに支えていくのかが大切なのです。そこで成功体験を得たフォロワーのなかから、イノベーターに飛躍するメンバーが出てくる。そのサポートをするのがリーダーの役割です。ときにはリーダーがフォロワーとなり、メンバーを支えるぐらいの気構えが求められる。これが新しい時代に求められるリーダーシップであり、フォロワーシップではないでしょうか。

とはいえ、そのような組織のダイナミズムを生み出そうとする際には、年功序列的な組織構造が障壁になりそうですが。

池田氏:最近、大手企業が年功序列を廃止する動きを見せていますが、ここは非常に難しい問題をはらんでいる。40代後半から50代以降の方々に対して、いかに成果を発揮してもらうマネジメントを行うか。いわゆるシニア層の心に火を点ける必要があります。

考えるべきは、シニアの方々からいかに積極的なフォロワーシップを引き出すかでしょう。仮に若手がリーダーとして抜擢され、そのチームのフォロワーとしてシニアがいるような場合を想定してみましょう。

そのチームのパフォーマンスは、まさにフォロワーのシニアの動き方によって決まります。そうなると若いリーダーに何より求められるのは、シニアフォロワーの力を引き出し、活用するサーバント・リーダーシップです。

能動的なフォロワーを育む、新時代のボトムアップ型組織

新しいフォロワーシップやリーダーシップを育成するためには、どのような組織運営が必要になるのでしょうか。

能動的なフォロワーを育む、新時代のボトムアップ型組織

池田氏:一つキーワードとしてあげたいのが「Psychological Safety:心理的安全性」です。ハーバード大学の組織行動学研究者エイミー・エドモンソン(Amy C. Edmonson)教授が提唱した概念ですが、思いついたアイデアや意見を述べた際に、否定されたりバカにされたりしないチームの雰囲気を意味します。フォロワーが、積極的かつ前向きに、どんどん意見を出し、それが採用されていく。Googleで成果をあげるチームに共通してみられる特徴としても知られています。

そのためにリーダーは「俺がおれが」ではなく、フォロワーを支えていくような謙虚さを兼ね備えていなければなりません。

リーダー、フォロワー共に従来とは考え方を変えた教育が求められるわけですね。

池田氏:まずリーダーには、サーバント・リーダーシップの考え方を理解してもらう必要があり、メンバーには、フォロワーシップという新しい考え方を体得してもらう必要があります。

その際に注意したいのが、チームワークとフォロワーシップの違いです。チームワークは、メンバー同士がフラットな関係性の中で、いかに協力するかを考えるものです。これに対してフォロワーシップは、リーダーとフォロワーの縦の関係性の中での動き方を考えなければなりません。しかもリーダーから言われたことを忠実に行動するだけでなく、リーダーに対する働き掛けや提案などの視点が求められます。

組織の風土を変える必要がありそうです。

池田氏:そのとおりです。いかに風通しの良い場をつくるかは、トップが考えるべきテーマでしょう。より質の高いボトムアップを実現するには、どうすればよいのか。イノベーションの創出にも関わるテーマであり、これからの企業の生き残りを大きく左右するテーマでもあります。

AIにより仕事が奪われるという話が広まっていますが、自発性と創造性をAIは持つことができません。逆に言えば、ユニークな着想、発想こそは人に任されるべき役割なのです。イノベーティブなアイデアは、フォロワーの中からこそ生まれます。

優れたフォロワーシップこそが、イノベーションのカギであり、今後の組織パフォーマンスを決める。能動的なフォロワーをどれだけ輩出できるかが、少し大げさかもしれませんが、これからの企業の生き残りを大きく左右する。今後の環境変化を踏まえるなら、そう言っても決して過言ではないと私は考えます。

優れたフォロワーシップこそが、イノベーションのカギであり、今後の組織パフォーマンスを決める

【取材後記】

「フォロワーシップ」という用語自体は、約30年前に出版されたロバート・ケリーの著書『The Power of Followership』の中で提唱されています。ただ、従来の組織論においては、リーダーに注目が集まりがちでした。優れたリーダー、カリスマ的なリーダーさえいれば、組織はパフォーマンスを出せる。どこかにそんな信仰にも似た思いがあったはずです。ところが状況は変わり、フォロワー一人ひとりが自発的に動かなければ、激変する環境に即応できない時代となっています。まさに「笛吹けども踊らず」では、これからの組織は立ち行かなくなる。そんな印象を強く受けました。

(取材・文/竹林 篤実、撮影/山本 薫、編集/竹林 篤実・齋藤 裕美子)