組織開発とは?効果的に実行するためのフローと活用したい7つのフレームワーク

d’s JOURNAL編集部

組織開発とは、同じ組織で働くメンバー間の関係性を深め、組織を活性化させる取り組みやサポートの実施を指す言葉です。

組織として抱える課題を明らかにしたうえで、従業員一人ひとりが当事者意識を持ちながら、解決に向けたプロセスへの取り組みです。

組織によって課題はそれぞれ異なるため、組織開発の手法は複数存在しています。この記事では、組織開発に取り組む意義や手順、フレームワークなどを詳しく解説します。

組織開発とは

組織開発(Organization Development)とは、組織で働く人同士の関係性を深め、組織をよりよい方向に活性化させる取り組みやサポートのことを指します。

組織開発は1950年代のアメリカで生まれた概念であり、行動科学などの理論を用いて当事者たちで組織を健全化していくことを狙いとしています。

具体的な取り組みとしては、組織の課題を洗い出し、従業員一人ひとりが当事者として解決策を考えて、実行していくことになるのが特徴です。組織開発の手法はいくつかあり、組織の実態に応じて対応していくことが重要です。

組織開発と人材開発の違い

組織開発と似たような言葉として、人材開発が挙げられます。正しく用いるためにも、それぞれの基本的なポイントを把握するとともに、3つの観点から違いについて見ていきましょう。

人材開発とは

人材開発とは従業員の能力を高め、パフォーマンスの向上を狙いとしています。具体的な方法として、次のようなものが挙げられます。

人材開発の手法

・社内研修
・OJT(On the Job Training)
・外部講師を招いたセミナー、ワークショップ
・自己学習(自己啓発)

人材開発は社内で行うものがある一方で、外部の協力を得て実施するものがあります。また、社内で行う人材開発であっても、上司・先輩が現場で実際に指導していくものや従業員自身に学ばせるものまでさまざまです。

どのような人材開発が必要であるかは、従業員の状況によって異なるため、きめ細かなアプローチが必要になるでしょう。従業員と直接コミュニケーションをとりながら、進めていくことが大切です。

組織開発と人材開発の2つの違い

人材開発では、対象を従業員一人ひとりに置いています。一方で、組織開発では対象は人そのものではなく、人同士の関わりによって生じる関係性や相互作用といった部分に注目します。

人材そのものに知識を習得させたり、能力を向上させたりしただけでは、組織全体のパフォーマンスの向上にはつながりません。メンバー間の関わり、チーム内の様子、そして各部署の連携などより広い視点で従業員の能力が発揮できているかをチェックしていく必要があります。

また、人材開発においては何か課題があるときの原因を従業員個人に対して求めます。面談などを通じて見つけた課題に対して、必要な教育訓練を行っていくのが特徴です。

一方で、組織開発では課題の原因をメンバーやチームといった人間関係のなかにあると捉えます。個々の従業員の能力は高くても、他のメンバーとうまく協力関係を築けなければ、思うように能力を発揮することができません。

組織開発においては、メンバー間のコミュニケーションが重視されており、ミーティングやワークショップといった機会を積極的に設けることが重要です。それぞれの従業員が当事者意識を持つことによって、組織の活性化に結びつけられるでしょう。

違いの具体例

組織開発と人材開発の違いは、具体例を見ていくとわかりやすいです。たとえば新入社員の離職が組織の課題としてあった場合、人材開発においては「離職する新入社員に原因があった」と捉え、他の従業員の離職を防ぐために、個々の従業員に教育訓練を行っていきます。

また、上司のマネジメントスキルに問題があったとすれば、管理職研修などを行うことになります。それに対して、組織開発では従業員そのものに原因があると考えるのではなく、人やチームの間に生まれる関係性に課題があると捉えるのが特徴です。

つまり、離職の原因を従業員自身の性質として考えるのではなく、組織の仕組みに何らかの欠点があると考えます。この場合は、メンバーやチーム内で共通認識を持ってもらうために、ミーティングを行ったり外部講師を招いたセミナーを開催したりします。

課題に対する原因の捉え方、そして対処するためのアプローチ方法が異なることに注目しておきましょう。

組織開発が注目される理由

組織開発に注目が集まる理由として、次の3つの点が挙げられます。

組織開発に注目が集まる3つの理由

・企業組織の多様化
・多角化する人事課題
・ソフト面における充実度の重要性

それぞれの理由について、さらに掘り下げて見ていきましょう。

企業組織の多様化

組織開発が注目されている理由として、従業員の働き方が多様化により、組織そのものの変化が求められていることが挙げられます。従来の終身雇用制度を前提とした時代においては、企業の価値観をトップダウンで浸透させることに重点が置かれていました。

しかし、昨今の変化の激しい情勢においては、自社の視点だけで組織づくりを行っていてはうまく対応できないケースも多々あります。組織がより機動的な運営となるように、改善が求められているといえるでしょう。

また、テレワークや時短勤務の採用など、従業員の働き方そのものも変わってきています。加えて、多様なバックグラウンドを持つ人材を採用するためには、柔軟な組織運営が必要になってくるといえます。

多角化する人事課題

ダイバーシティなどの推進によって、組織には多様な人材が関わっていることもめずらしくありません。個々の従業員を管理するだけでは、人事の課題解決が難しくなっている部分があるため、アプローチ方法を変えていく必要性が生じています。

従来の個人に向けた人事施策に加えて、メンバーやチーム、部署間の連携によって生まれる関係性にも注目した施策の実行が求められています。組織力を高めるための風土づくりが重要であり、コーチングやオフサイトミーティング(普段の現場とは異なる場所で行うミーティング)など、組織開発の手法を取り入れながらアプローチを行っていくことが大切です。

ソフト面における充実度の重要性

人事管理において従業員とのコミュニケーションは大切な要素ですが、テクノロジーの進展によってコミュニケーションそのもののあり方も変化してきています。Web会議やチャットツールなどを活用している企業も増えており、従来とは違った形で組織を捉えていく視点を持つことも必要となります。

人と人との関わりを重視したソフト面の強化が大切になっており、価値観の異なるメンバー同士の関係性をうまく捉えていく必要があるでしょう。グループウェアなどの導入によって、日々のコミュニケーションを可視化していく仕組みづくりも重要になってきています。

組織開発の視点から、柔軟な組織づくりを行っていくことが求められているのです。

組織開発の一般的なフロー

組織開発を順調に進めていくためには、基本的な手順をしっかりと押さえておくことが肝心です。ここでは、6つのステップに沿って、組織開発をどのように進めていけばよいかを解説します。

目的の明確化

組織開発を進めるには、組織が目指すべきゴールを明確化することが何よりも重要です。どのような組織づくりを行うかは、企業によって異なるものなので、どれが正解といった性質のものではありません。

コミュニケーションが不足していたり、部署間の連携がうまくいっていなかったりすると、従業員が本来備えている能力を発揮できないことも多いでしょう。組織に所属する従業員の現状を踏まえたうえで、どのような組織にしていきたいかを明らかにしておくことが大事です。

また、最終的には全社的な取り組みを行うとしても、最初の段階では特定のチームや部門に限定した取り組みを行ってみるのもよいでしょう。組織開発を必要とする範囲について、初めの段階で決めておくことが大切です。

現状把握

組織開発を進めるには、自社の現状をきちんと把握しておくことが欠かせません。従業員の関係性というのは、目に見えづらい部分でもあるので、丁寧に把握していく必要があります。

重要なポイントとしては漠然とした印象で決めるのではなく、具体的な事実に基づいた現状把握を行うことが大切です。従業員へのヒアリングやアンケート調査などを活用して、情報収集をしっかりと行ったうえで課題を洗い出していきましょう。

根拠に基づいた課題を見極めることによって、より精度の高い取り組みを行えるはずです。

課題の設定

組織として課題が明らかになったら、次は解決すべき課題を設定します。組織開発において重要なのは、たとえ個々の従業員に課題があったとしても、組織の仕組みそのものの課題として捉える点が挙げられます。

従業員の資質や能力などではなく、他のメンバーや上司などとの関係性に注目してみましょう。ヒアリングやアンケート調査の結果から、原因となる課題の仮説を設定します。課題の設定にあたっては横断的な取り組みが必要になるため、あらかじめ経営層の了承も得ておくとスムーズでしょう。

スモールスタートによるアプローチ

設定した課題の仮説に沿って、試験的な取り組みを行うプランを策定します。組織開発は中長期的な取り組みではありますが、まずは短期的なプランを立ててスモールスタートで着手しましょう。

たとえば、定期的にミーティングを行ったり、ワークショップを通じてメンバー同士で認識を共有したりする取り組みなどが挙げられます。また、後から効果測定を行うために、定量的・定性的なデータを収集できるようプランを組み立てておくとスムーズです。

効果検証・フィードバック

短期プランの実施によって得られた結果を検証したうえで、ポイントを整理し、各部署にフィードバックを行ってみましょう。短期的な取り組みであれば、すぐに結果を得られるため、スピーディーな検証を行えるはずです。

具体的な組織開発の取り組みを従業員や経営層に理解してもらうのに効果があるため、積極的に情報発信を行っていきましょう。組織としての課題を多くの人が把握することによって、次第に会社全体の取り組みへと発展していくきっかけをつかめるでしょう。

成功事例の共有・展開

いくつかの取り組みを同時進行している場合、うまくいったケースについては社内で共有していくことが大事です。単に成功モデルを紹介するだけでなく、課題を解決するためのプロセスや得られた成果などを細かく分析したうえで、ポイントを伝えることが大事です。

施策の実行に根拠を持たせれば、チームや部署として何を取り組めばよいかが明らかになります。全社的な取り組みとなった後も、継続的に効果測定を行い、施策のブラッシュアップを図ってみましょう。

PDCAサイクルを回しながら、中長期的な取り組みとして推し進めていくことで、組織の風土を変え、従業員エンゲージメントを高めていけるはずです。

組織開発に活用できる代表的なフレームワーク

組織開発を円滑に進めていくには、フレームワークを活用することが大切です。主なフレームワークを取り上げると、以下の7つが挙げられます。

組織開発に役立つ主なフレームワーク

・ミッション・ビジョン・バリュー
・OKR
・7S
・コーチング
・フューチャーサーチ
・ワールドカフェ
・AI(Appreciative Inquiry)

各フレームワークの特徴を解説します。

ミッション・ビジョン・バリュー

「ミッション・ビジョン・バリュー」とは、組織を成長させる土台となる企業理念を構成する3つの要素を指します。組織の存在意義を示すミッション、組織が目指していくべき姿を表すビジョン、そして組織の価値観や行動指針を示すバリューを定義するためのフレームワークです。

組織の存在意義が明確になることで、メンバーの帰属意識を高めたり、意思決定のプロセスをスムーズに実行できたりする点にメリットがあります。ミッション・ビジョン・バリューの浸透そのものが、組織開発を推進していく原動力になるでしょう。

OKR

「OKR(Objectives and Key Results)」とは、目標管理方法の一つの手法を指します。企業・チーム・個人の目標がそれぞれリンクすることで、同じ目標に向かって計画を進めていくことを狙いとしているのが特徴です。

OKRを作成する際は、チャレンジしたい目標や着実に達成できる目標よりも、一段階上のストレッチゴールを設定することが大切です。OKRを導入することによって、企業と従業員が進むべき方向を一致させ、取り組むべき課題を明確化できます。

Googleなどの大手IT企業が導入していることでも知られており、組織開発のフレームワークの一つとして活用できるでしょう。

7S

「7S」とは、組織運営に欠かせない7つの経営資源について、相互関係を表したものです。大手コンサルティングファームであるマッキンゼーが提唱したフレームワークとして知られています。

7Sは「戦略(Strategy)」「組織構造(Structure)」「システム・制度(System)」の3つのハードと、「共通の価値観・理念(Shared value)」「経営スタイル・社風(Style)」「人材(Staff)」「スキル・能力(Skill)」の4つのソフトによって構成されているのが特徴です。

この7つの経営資源を有効活用すれば、自社に合った事業戦略を考えていけます。7Sのフレームワークは、組織開発などの経営戦略を練る際に役立つものだといえるでしょう。

コーチング

「コーチング」とは、従業員本人の気づきに重点を置いて、目標達成をサポートする手法を指します。ティーチングのように最初から答えを与えるのではなく、コーチングを受ける人に対して、新しい気づきをもたらしたり、選択肢を増やしたりするための対話を生み出すことを狙いとしているのが特徴です。

コーチングの手法は、課題に対して解決策があるという前提で話をすることが大事です。従業員の自主性やチャレンジ精神を引き出す手法として、多くの企業で取り入れられています。

フューチャーサーチ

「フューチャーサーチ」とは、企業の過去・現在・未来のあり方について時系列を意識しながらミーティングを行い、参加者が合意できる共通の価値観を見出すための手法です。参加者には従業員だけでなく、取引先や顧客、地域住民など幅広い視点を取り入れていくことが大切だといえます。

テーマについてグループで話し合ったり、全体で議論をしたりしながら進行していきます。数日にわたってスケジュールを組み、さまざまな立場の意見を聞くことで組織を活性化させる方法を見つけていきましょう。

ワールドカフェ

「ワールドカフェ」とは、カフェのようにゆったりとした雰囲気をつくり、気軽に話ができるようにするフレームワークです。上下関係のないフラットな状態で意見を交わすために行うものであり、参加者が多くてもミーティングを行えるのが特徴としてあります。

「従業員の自由な意見が聞きたい」「さまざまなアイデアを得たい」といったときに有効な方法で、比較的取り組みやすいものだといえるでしょう。議論を行うときには、テーブルのメンバーを途中で入れ替えたり、少人数で話ができるよう自由な移動が行えたりするように配慮しましょう。

相手の意見を自由に聞いたり、遠慮せずに自分の意見を口にしたりするのに向いている方法です。

AI(Appreciative Inquiry)

「AI(Appreciative Inquiry)」とは、組織が掲げる課題よりも、なりたい自分の姿に目を向けることで、現状を肯定的に受け止める手法です。組織全体で未来に対するアクションプランを描くのに有効であり、発見(Discover)・夢(Dream)・設計(Design)・実行(Destiny)のそれぞれのフェーズにおいて、個々の従業員の考えや想いを共有して組織開発へとつなげていきます。

自社の将来の方向性を全員で話し合うことによって、組織変革を図ることができるでしょう。

組織開発の成功事例

組織開発の取り組みを円滑に進めるには、すでに実践している企業の事例を参考にしてみるとよいでしょう。ここでは、23社の事例を紹介します。

株式会社グッドパッチ

株式会社グッドパッチはユーザーインターフェースのデザインや設計・開発などを手がける会社であり、日本だけでなく海外にも事業展開を行っています。2016年頃に事業が急拡大し、それに伴って従業員数が大幅に増えたことが組織開発に取り組むきっかけとなりました。

人材育成や新しく入社した従業員との価値共有が思うように進まず、社内にさまざまなひずみが生じてしまったことが原因として挙げられます。経営戦略や改善策に対して、社内の反発が強まり、ガバナンスが弱体化していた状況がありました。

2017年から行った取り組みとして、ビジネスで必要な知識や技術を全体で共有するナレッジシェアリングの強化に着手し、企業バリューの見直しやOKRの導入などを行いました。バリューの再構築に関しては、30名でプロジェクトチームを発足させ、全従業員から意見を聞き、組織としての明確な方向性を打ち出しました。

こうした取り組みの結果、従業員エンゲージメントが高まり、組織全体が活性化することになったといえます。現状を的確に把握し、丁寧なヒアリングを実施することで効果的な組織開発につなげています。

(参考:株式会社グッドパッチ『入社特典!?グッドパッチのナレッジシェアカルチャーとは』)

株式会社メルカリ

フリマアプリであるmercari(メルカリ)を運営する同社では、バリューを実現するためにOKRを導入しているのが特徴です。「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」という3つのバリューを掲げており、そのうちの一つである「All for One」を実現するためにOKRを活用しています。

会社が目指すべき目標と個々の従業員が掲げる目標や価値観をきちんと擦り合わせており、組織全体のパフォーマンスを高めることにつなげているといえるでしょう。個人やチームを成長させていく仕組みとして導入されたOKRは、メルカリの企業風土として定着しています。

新たな人材を採用しても、しっかりとした企業風土があることで、新入社員であっても目的意識を持った行動がとれるようになっているのです。個々の従業員の成長と、組織として生産性を高めていく仕組みがうまくかみ合っている事例といえるでしょう。

(参考:株式会社メルカリ『ミッション|採用情報』)

まとめ

組織開発は人材開発とは異なり、従業員個人ではなくメンバーやチームなどとの関係性をもとに組織力を高めていくことを指します。さまざまな働き方や多様な人材の管理などを円滑に行うには、従来の仕組みにとらわれない柔軟な対応が求められているといえるでしょう。

組織開発を円滑に進めていくには、基本的な手順を押さえたうえで、フレームワークを上手に活用することが大事です。また、すでに組織開発の取り組みを行っている企業の事例なども参考にしてみましょう。

どのような組織開発が必要であるかは、それぞれの企業が抱える事情によって異なります。自社が抱える人に関する部分の課題を洗い出したうえで、適切な対応や仕組みづくりを進めてみましょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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