「日本一社員が幸せな会社」を目指す。会社を動かす人事のあり方とは

株式会社GA technologies

CHRO 清家良太(せいけ・りょうた)

2007年旭硝子株式会社(現AGC株式会社)に人事として新卒入社。国内・海外人事を経験した後、アクセンチュア株式会社で人事・組織コンサルタント、株式会社ディー・エヌ・エーではHRビジネスパートナー、株式会社ビズリーチでは人事企画部長と事業推進室長を経験。2019年3月、株式会社GA technologiesにCHROとして入社。GA technologiesグループ全体の人事戦略を担う。また、個人でも複数社のスタートアップの人事顧問を兼任。

経営合宿で人事ポリシー、マネジメント要件を設定
経営情報のオープン化で、社員に”経営の自分事化”を促進
人事制度の有効期限を半年と設定、対象者は6割程度に
人事のキャリアを深めるためには、人事から離れることも効果的

116人だった社員数が、2年弱で約4倍の495人へ。株式会社GA technologiesは、まさに急成長の真っただ中にある企業だといえるでしょう。

同社はこの状況下でも、候補者一人ひとりとのマッチングを重視し、カルチャーにフィットした人材の採用・育成を続けています。社内では経営会議の議事録を全公開するなど情報のオープン化を進め、社外へはオウンドメディア『GA MAG.』を通じて自社の取り組みや考え方を積極的に発信。「働きがいのある会社ランキング2020」(中規模部門)ではベストカンパニーを受賞しました。

急激な規模拡大にも柔軟に対応する人事施策の基本スタンスを維持できているのはなぜなのか。CHROの清家良太氏に伺います。

経営合宿で人事ポリシー、マネジメント要件を設定

 

――「2年弱で社員数が約4倍」という急拡大に驚かされました。

清家氏:組織の急速な拡大と同時に、経営陣にも新しい顔ぶれがどんどん加わっています。この状況で私は、組織として経営陣同士が目線合わせをする必要性を感じていました。GAが今後、さらに成長していくために人が重要であることは経営陣の共通認識です。では具体的には何を重視して人事戦略を進めていくべきなのか。それを経営陣で徹底的に話し合う必要があると思っていました。

さらなる組織拡大・分化を見据えて表現した「シンプルな言葉」

そこで、2020年2月に経営合宿を行い、2日間の議論を経て「人事ポリシー」「GAGS(GA GROUP SPIRITS)」「マネジメント要件」の3つを定めました。

(GA technologies提供)

――これらは経営陣によって、ゼロベースから議論されたものなのでしょうか?

清家氏:いいえ、創業時から大切にしてきた考え方をベースに、ビジョンにひもづいて社内で体現されていることを改めて言語化した形です。

たとえばGAGSはもともと「WILL」「PROFESSIONAL」「WIN-X」の3つでしたが、経営合宿で「HEART」と「GRIT」を加えました。以前より、GAグループの社員の間で「人としてちゃんとしよう」「やり抜こう」という会話がよく交わされていたからです。

今後、GAグループでは新規事業や新会社の立ち上げなどの横展開が増えていく見込みです。グローバル展開も予定しています。組織がさらに拡大・分化しても「自分たちが大切にしていること」がブレないように、そして新しいメンバーにも浸透しやすいように、シンプルな言葉で表しました。

経営情報のオープン化で、社員に”経営の自分事化”を促進

 

――貴社は社内で経営会議の議事録を公開するなど、情報のオープン化を進められています。こうした取り組みは、カルチャーにフィットした人材の採用・育成を進めるうえでどのような意義を持っているのでしょうか。

清家氏:経営会議の議事録では、「誰が何を話しているか」まで公開しています。事業の状況など、「会社にとってまずいこと」があるときも、すべて共有するんです。最近では、若手社員に声をかけて、経営合宿に議事録係として参加してもらっています。

こうした取り組みを進めている理由の一つには、社員に会社を一緒につくっていく感覚を持ってほしいからという意図もあります。つまり情報のオープン化は育成プログラムの一環でもあるんです。

社員が情報を取る機会は平等であるべき。その環境を整えるのは会社の役割

よく「会社を自分ごととしてとらえ、経営視点を持って考えてほしい」などと言われますが、経営陣と同じだけの情報を得ていないのに、経営視点で考えたり意思決定したりできるはずがありません。情報を取りにいくかどうかは個人次第ですが、取りにいくための環境を整えるのは会社の役割だと考えています。

――社内で情報を取る機会は平等にあるべきとのお話、すごく共感します。「GA MAG.」 を通じた社外への発信も積極的に行われていますね。

清家氏:社外への発信を強化するようになって、ここ1年で、採用市場で戦いやすくなったと感じています。

GAグループではリファラルを中途採用の主軸にしていますが、候補者からは「めちゃくちゃ伸びている会社だ」と認知されるようになりました。「情報感度の高い人たちから選ばれるようになってきた」という感覚があります。加えて、GAグループでの日常を紹介していくことで、GAのカルチャーが伝わりやすくなったという面もあります。

事業サイドの採用ニーズにより応えられるよう、今後も社外への情報発信は重視していきたいですね。

人事制度の有効期限を半年と設定、対象者は6割程度に

 

――人事制度の設計・運用についてもお聞かせください。貴社のコーポレートサイトでは多岐にわたる人事制度が紹介されていますが、一方で清家さんは以前に登壇したイベント で「一つ人事制度の有効期限を半年と設定し、定期的に見直している」とコメントされています。

清家氏:ルールや制度は、たくさんある必要はない。できればないほうがいいとさえ思っています。GAでは働く人にとって必要不可欠な制度、そのときの状況(社会環境や会社のステージ)に応じた制度を運用していますが、特別なことをやっているわけではありません。

そう考えるようになったきっかけは、以前に人事・組織コンサルタントとして数々の企業に関わり、「これは本当に意味があるのだろうか」と考えさせられる人事制度にたくさん出会ったことからです。

人事制度は「なまもの」。じっくり考えるカルチャーを持ち込んでしまったら終わり

じっくり時間をかけて人事制度をつくる企業が多いですが、細部にこだわりすぎて複雑になり、現場ではほとんど活用されていないというケースも見られます。1年半かけて制度をつくっている間に、会社の状況が大きく変わってしまうということもあります。

安定したビジネスモデルの会社であれば、一つの人事制度が2〜3年は機能するかもしれません。でもGAグループのように200%成長を続けている会社では、制度は「なまもの」です。じっくり考えるカルチャーを持ち込んでしまったら終わりだと思っています。

――そうした意味では、一つの人事制度に100%を求めるのはそもそも難しいのかもしれませんね。

清家氏:そうですね。私は、制度をつくるときには「対象者は6割程度」だと考えて進めています。社員全員、100%を対象とした制度をつくるのは無理だし、その制度で100%の結果を出すのも難しい。特定のミドル層などを対象にしたものでもいいし、特定の部門にフォーカスしたものでもいいでしょう。その時々で求められる制度をつくり、柔軟に見直していくという意味では、人事にも選択と集中が必要なのではないでしょうか。

人事のキャリアを深めるためには、人事から離れることも効果的

 

――清家さんは『GA MAG.』の記事で、「5年以内に“日本一社員が幸せな会社”にするための人事を創りたい」と語られています。日本一幸せな会社とは、どんな状態を指すのでしょうか。

清家氏:答えは一つではないと思いますが、今思うのは、「自分はGAグループで働いているんだ」と社員が誇らしく思えている状態です。それは優越感ではなく、あくまでもGAグループで働く自分たちが満足している状況だということです。

何よりもまず、私自身がそうでありたいと思っています。まずは自分が幸せでいたい。そうすれば、私から隣の人へ、さらにその隣の人へと広がっていくと思うので。

大きな目標としては、日本一社員が幸せなGAグループから、日本中へ幸せを広げていくことです。この先の数十年単位で見れば、日本は衰退していくのかもしれません。それでも私の子どもたちの代には、物心両面(物質的にも、精神的にも)で豊かであってほしい。元気な日本をつくることに人事として尽力したいんですよね。

――そうした想いを抱くことになったきっかけや原体験とは?

清家氏:これも『GA MAG.』で発信している のですが、大学時代に経験したフィギュアスケートがきっかけでした。

先輩部員たちの組織に対する想いに触れて「この人たちと一緒に成長したい」と思うようになり、自分自身が主将となってからは、「この組織にいることが楽しい」と思ってもらえるようにメンバーのマインドセットをつくり、成果を残すことができました。

それ以降私は人事を志し、十人十色の個性が活きる動物園のようなカルチャーの中でも、共通の想いを持って同じ方向へ進む組織をつくりたいと思って動いてきました。一般的にそれは、会社が成長していくにつれて薄れていってしまうものだと言われています。経営者の多くは「仕方がないこと」だと思ってあきらめているかもしれません。それでも人事パーソンである私は、あきらめずに自分が思い描く組織づくりを追求していきたいと思っています。

時には勇気を出して人事を離れてみることも大切

――人事として、人や組織に特別な想いを持っている人は多いと思います。一方で、経営陣や事業側になかなかその想いを理解してもらえず、モヤモヤとしてしまうケースも多いのでは。清家さんは、どのようにして想いを伝え、実際に会社を動かしているのでしょうか?

清家氏:私も前職以前ではたくさん失敗をしています。事業会社で人事を務めているときには、「事業を理解していない」「現場をわかっていない」と指摘されたこともあります。よく言われる「経営視点と人事視点のずれ」があることも痛感していました。

これは人事にありがちな課題なのかもしれません。人事という仕事や、その機能に誇りを持つことは大切ですが、事業の仕組みや現場の考えを学ぶことも必要だと思います。

私の場合は、あえて人事から離れ、事業サイドで1人の営業パーソンとして現場を経験したこともあります。事業そのものを見て事業部長たちとのネットワークを築いたことで、人事に戻ってからも大いに助けられました。

 

そうして得られるのは「事業の数字に責任を持って動かしたリアルな経験」です。これがあれば経営側と視点をそろえることができ、意思決定がブレにくくなるはず。人事として実現したいことがあるなら、時には勇気を出して人事を離れてみることも大切なのではないでしょうか。

取材後記

インタビューの終盤、清家さんはご自身の経験を踏まえて、人事が事業側に飛び込むことの重要性を語ってくれました。ウィズコロナ時代を乗り越えるため、人事に求められていることとは?そんな質問への清家さんの答えは「コロナにかかわらず、事業としての最優先課題は何かを考えること」。日本一社員が幸せな会社をつくるという想いを経営戦略に反映させ、カルチャーを進化させ続けられているのは、事業に深く関わっていく人事としての清家さんの存在があるからこそだと感じました。

取材・文/多田慎介、撮影/安井信介、編集/野村英之(プレスラボ)・d’s JOURNAL編集部