エンジニアの中途採用ペースを6倍以上に進化させた「カヤック流採用ブレスト」とは

面白法人カヤック

人事部 採用責任者 佐藤謙太

プロフィール
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技術部 クライアントワーク事業 エンジニア 杉山慎誠

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技術部 ゲームコミュニティ事業(Lobi) iOSエンジニア 高橋航平

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この時代、エンジニア採用に苦戦しない企業はほんの一握り。実際、バズるWebプロモーションを数々手掛け、自社サービスなども絶好調の面白法人カヤックも、「いいエンジニアは何人でも採用したい!」と考えながら、年間の中途採用成功は10名に満たなかったといいます。

通常採用数を加速させるために、まず「採用基準の引き下げ」を検討する人事は多いはず。しかし、カヤックで採用責任者を務める佐藤謙太さんは、「現場と一緒にブレストを行えば、可能性は広げられるはず」と考えました。カヤックが行った“採用ブレスト”とはどんなものだったのか? そして、採用のあり方はどのような変化を遂げたのでしょうか? 今回は佐藤さんに加えて、エンジニア採用のキーマンとなっている現役エンジニアの杉山慎誠さんと高橋航平さんも交えて、生の声を聞いてみました。

エンジニア中途採用の拡大に、「要件引き下げ」以外のアイデアを

最近、カヤックのエンジニア採用が大きく変わったと伺っています。どのような変化があったのでしょうか?

佐藤氏:カヤックは従業員全体の9割がクリエイターという会社で、中でもエンジニアに関しては従業員の5割を常に超えている状況をつくろうという目標があるんです。エンジニアのポジションも、ソーシャルゲーム事業、ゲームコミュニティ事業(Lobi)、クライアントワーク事業の主要3部門に加え新規事業の部門が次々と立ち上がり、現場からは常に「人材が足りない」と言われている状態です。ただ、近年の採用実績を見ると、サーバサイドとフロントエンドを合わせても年間で10名にも満たない程度しか採用できていない。

エンジニアの採用ハードルがかなり高かった?

佐藤氏:そうです。エンジニアは、ダイレクトソーシングをメインに採用活動を行ってまして。現場サイドと相談を重ねて「これ以上条件を下げようがない」というレベルまで調整した検索軸があるのですが、その時点でもまだ採用基準が高く、狭き門になっていました。今後スケールさせることを考えると、対象者をどう広げるかが課題だなと。そこで、二次面接をお願いしていた杉山と高橋に相談したんです。

カヤック佐藤さん

杉山氏: その相談が、3カ月前の話ですね。たしか「採用の可能性を広げるためのアイデアを、一緒にブレストしましょう」と連絡をもらって。

採用をテーマにしたブレストですか?

佐藤氏:まず採用枠の拡大を考えた時に、対象者を「絞り込む」「条件を下げる」という発想自体が、カヤックの文化に合っていないなと。人材要件のハードルを下げるというのは、企業と候補者とがwin-winではなくlose-winの関係になっていて好ましくないと考えました。

では、カヤックもどうしたらwinになれるのか。それは「こういう人材じゃなければいけない」という状態から、「この人には、こういう活躍の仕方もあるんじゃないか」というアイデアがある状態なんじゃないかと。そのためには、現場と一緒にブレストを行うのが一番だと直感的に思いました。

高橋氏:乱暴な言い方ですが、「何か課題があれば、まずブレスト」という会社なんですよね。カヤックは。

杉山氏:僕自身、以前からどんどん新しいメンバーに入ってきてほしいと強く思っていました。ただ、当時は二次面接自体も月に1~2名程度と少ない状況だったんです。現場としても無理に条件を狭めている訳では決してなかったんですが、ブレストの話をもらって「すぐやりましょう」となりましたね。

ブレストを通じて、採用の問題が「自分事化」される

「採用をテーマにしたブレスト」とは、ちょっと珍しい印象です。

佐藤氏:ブレストって“尖ったアイデアを出し合う場所”というイメージがあるかもしれませんが、そこは一人ひとりのセンスも絡んでくるので、実は一つひとつのアイデアの質はあまり大事ではなくて。ブレストの一番いいところは、参加者一人ひとりがアイデアを出すことで、問題やテーマが自然と自分事化される点だと思っているんですね。

ブレストすることで「自分事化」される。

アイデアの質よりも、問題を自分事にできることが大事。

佐藤氏:そうです。カヤックには「ぜんいん人事部」という制度があり、社員全員が人事部の肩書を持っています。ただ、全社員が常に採用の最前線で課題感を持って取り組んでいるレベルにはまだ至っていません。

現場が協力的な会社だとしても、音頭をとるのは常に人事というケースは多いと思います。

佐藤氏:それが“採用ブレスト”を行うことで、「もっと自分が主体となってやっていきたい」「アイデアの面ではしっかりコミットしていこう」という人物が出てくるはずだと考えていました。そしてそれが、「ぜんいん人事部」をドライブさせる第一歩になると。ただ、杉山と高橋に関しては、ここまでノッてくるか! と驚いていますが(笑)。

杉山氏:そこはもう全力で乗っかっていきますよ!

全力となると、ブレストはかなりの回数行ったのでしょうか?

高橋氏:僕の所属するLobiは鎌倉拠点があり、一方で杉山が所属するクライアントワーク事業は横浜に拠点があるのですが、それぞれのチームで2カ月くらい集中してブレストを繰り返しました。どんな人と働きたい?どんな方法がある?と、ひたすら。

佐藤氏:最終的に1000個くらいアイデアが出ましたよね。でも大半はゆるくて笑っちゃうようなものばかりで、実用的で実践できるアイデアは3つくらい。そこがブレストの良さだったりするんですが。

実用的なアイデアとは、どのようなものでしょうか?

杉山氏:ひとつは、人事が担当していたスカウト対象者の抽出やスカウトメールの送信を、現場のエンジニアである僕が一任することに変更したこと。それに、二次面接ではなく、一次面接から僕と高橋さんが基本2人で入るようになったのも大きいですね。会いたいと思った人にオファーを出すわけですから、最初から面接で会っていた方がいいのではと。

佐藤氏:ブレストで個人的に一番記憶に残っているのが、高橋のチームとのやりとりなのですが、実はLobiの採用基準が社内で一番厳しかったんです。カヤックの中でもベテランのエースクラスを集めたチームなので、指折りのエンジニアが集まっているが故に、それも当然だなと思っていたんです。ただ、ブレストをする中で「自分たちの経歴を今一度振り返ってみよう」という話をしたところ、今の採用基準に合致するような経歴を持ったエンジニアが、事業部内にそもそもほとんどいなかった事に気付いたっていう。

高橋氏:実は僕、元バーテンダーでしたから(笑)。他の面々も、ちょっと変わった経歴を積んだ人が大半で。その振り返りをきっかけに、「他の事業部では採用が難しいような、ユニークすぎる人材は僕らのチームが受け入れます」というアイデアが出たんです。だったら、最初から僕と杉山の2人で最初の段階から面接に入って、候補者さんがどのチームに合うのか考えた方がいいよねとなりました。その方がその後の選考もスムーズに進んでいくと思ったんです。

カヤック高橋さん

毎回の面接が、プロ野球のドラフト会議のようになったわけですね。

佐藤氏:やってみると通過率が異常なほど上がったんです。一方は合格だけど一方は不合格みたいなケースが結構あるんですよね。実は、同じ会社・同じ文化でも、事業部ごとで求めるキャラクターは結構違っているんだなと。大きい会社では当たり前なのかもしれませんが、私たちにとってそれは発見でした。

エンジニア目線×人事の面接スキルで、選考通過率・内定承諾率も一変

ちなみに、先ほどスカウトの検索軸は「いじりようがないレベル」とおっしゃっていましたが、杉山さんが担当して変化はあったのでしょうか?

杉山氏:そうですね、いじりようはありました。というか、フィルターをかけずに、毎日すべての候補者情報をチェックしています。

カヤック 杉山さん

フィルターしない?それは工数もかなりかかりそうです。

杉山氏:正直、手間はかかります。でも、「この人と働きたいな」と思ってメールを送ると、早ければ数日後に面接に来ていただける。だから、こんなに楽しいことはないなと思っています。それにエンジニア目線でチェックすれば、候補者の現状の技術がカヤックで使っている技術とマッチしていなくても、コンバートできるかどうかはある程度分かるんですね。

求めている技術が書かれていなくても、「この人だったら、この技術とこの技術を組み合わせれば、こんな仕事ができそう」「このキャリアがあればこのレベルの仕事を任せられるんじゃないか」など、判断できるんです。変にフィルターをかけると出会えなかったたくさんの可能性が見えてきました。採用ハードルを落としたり、無理に範囲を広げたりする必要はないんです。そういう面でも、採用はめちゃくちゃ面白いです(笑)。

高橋氏:フィルターを外すことで新しい経験やスキルに出会えるわけですから、カヤックでのビジネスの広がりも同時に見えてきてワクワクするんですよね。候補者のレジュメを見ることでカヤック内での可能性も模索できるという。杉山の“目フィルター”がしっかりしているので、僕はもう彼に一任しています。複数がレジュメを確認するとなるとスピード感が落ちますしね。事実、人材のレベル感は全く落ちていないのに、月に40~50件くらい一次面接が組めている状況です。

エンジニア採用で月50件の面接設定! ちなみに正式採用に至るケースも増えたのでしょうか?

佐藤氏:今は毎月数名の内定が出ていて、内定承諾率もほぼ100%です。少し前まで半年レベルの採用実績が、毎月の実績になっているので、成長というかもう進化のレベルだなって感じています。

エンジニアのお二人が一次面接から入るようになったのも影響しているのでしょうか?

杉山氏:一次面接については、正直、最初はめちゃくちゃ失敗していました。はじめの2週間は選考辞退の連続でしたから。
人事のプロから面接を学ぶ

選考辞退になるとは、何がダメだったのでしょう?

杉山氏:カヤックの選考方法は、一次面接を人事が行い、「組織文化とマッチする人物像かどうか」をしっかり見極めた上で、会社の魅力をきめ細かく伝えることを大事にしていたんですね。以前から、その重要性は佐藤に聞いていたので頭に入ってはいましたが、実は理解しきれていなかった。候補者へカヤックのカルチャーを充分に伝えられていなかったと。そこで改善のために、人事が行う面接に同席させてもらって、何をどう話しているのかを学ばせてもらいました。

高橋氏:僕も二次面接だけを担当していた時は、門番みたいな「スキルが合うな、よし通ってもらってOK」という感覚があったかもしれない。それが今は、「将来、一緒に働いたら絶対面白くなりそうだ」という点を何より重視して話すようにしています。スキルマッチに関しても、「この言語が使えるなら、これも出来るよね」と僕ら側で想像を膨らませるようになって、これが面白いんですよね。

杉山氏:エンジニア同士ですから、会話の中で「これがやりたいんだな」は自ずと見えてきます。そうした候補者さんの要望とか考えを踏まえて、「こういうことがやりたいんだったら、この経験を積んだらどうだろう」「3年後には絶対この仕事で活躍できるはず」と、活躍の仕方とか今後のキャリアについてアイデアがどんどん出てくるようになりました。

佐藤氏:たしかに、毎回の面接がブレスト形式になりましたよね。候補者さんに対してもアイデアを提供できるになったのが、一番の進化かもしれないですね。
最後に

【取材後記】

現在、カヤックのエンジニア採用は採用人数や内定承諾率の向上はもちろん、不合格となってしまった候補者から「自分のキャリアを考える、いいきっかけになりました」といったお礼のメールをいただくケースも増えたと言います。採用責任者である佐藤さんは、「こうした声を見ても、良い採用活動・いい面接が出来ている手応えがあります」と語ってくれました。採用に関する本質的な課題を、現場と一緒に解決していきたい。そう思った時には、まず一度ブレストをセッティングしてみると、打開策のきっかけだけでなく、現場の採用意識の高まりにも繋がるかもしれません。

(取材・文/太田 将吾、撮影/石原 洋平、編集/齋藤 裕美子)