「普通の人」代表のポップが後輩になったら?『ダイの大冒険』に学ぶ育成術

マンガを介したコミュニケーションが生まれる状況をつくることを目的に活動しているユニット。小さな複合書店『マンガナイトBOOKS』の展開に加え、レビューや論評などの執筆活動、ワークショップの開催を行っている。本連載は「『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方(集英社)」を共著した、代表の山内康裕(監修)と、いわもとたかこ=bookish(執筆)が担当する。

先輩が示す「逃げた先の未来像」で知る、踏みとどまる勇気
自己評価の低いポップタイプには、能力を明確に「言葉」で評価
「先生」から「師匠」へ、成長にあわせて変わる師事の相手

2020年10月に新作アニメの放送を控えた『DRAGON QUEST―ダイの大冒険―』(監修:堀井雄二、原作:三条陸、作画:稲田浩司、集英社)(以下、『ダイの大冒険』)。勇者を目指すダイの冒険を描く物語には、個人の成長とチーム作りのヒントが詰まっています。第1回は、ダイの仲間である魔法使い・ポップの成長過程から、チームメンバーの逃げ癖をなくし、唯一無二の存在とする方法を探ります。
(※本記事は『ダイの大冒険』のネタバレを含みます。ご注意下さい)

【作品紹介】『DRAGON QUEST―ダイの大冒険―』
(監修:堀井雄二、原作:三条陸、作画:稲田浩司、集英社)

ロールプレイングゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズの世界観や設定をベースに、勇者になることを夢見る少年・ダイが大魔王バーンを倒すまでの冒険物語。小さな島で暮らしていたダイが魔王復活とともに、勇者の家庭教師を名乗るアバンの指導を受けて仲間を集め、大魔王を倒す旅に出る。

先輩が示す「逃げた先の未来像」で知る、踏みとどまる勇気

『ダイの大冒険』で、勇者のダイと並んで物語をけん引し、成長を見せるのが魔法使いのポップです。かつて魔王ハドラーを倒した勇者・アバンに憧れて弟子入りし、ダイと出会います。竜の騎士であるダイがヒーローなら、ポップはパーティーの中でほぼ唯一といっていいほど「普通の人間」。特別な力を持たず、最後まで人間の代表として大魔王らに挑む姿が読者の共感を呼びました。

アバンの敵討ちのために大魔王を倒すことを決意して冒険を始めたダイに対し、冒険の開始当初は魔王軍と戦うつもりはなかったポップ。物語の序盤では強い敵が現れるたびに戦場から逃げようとします。冒険に出たダイらが初めで出会った魔王軍の百獣魔団長・クロコダインとの戦いでは最初、「死にたくない」という気持ちから戦場に行くことをためらいます。そのポップの背中を押したのは、偶然出会ったニセ勇者のパーティーの魔法使い・まぞっほでした。

自分よりも強い敵から仲間を見捨てて逃げ続け、小悪党に成り下がってしまったというまぞっほ。彼は、自身の弱さからその状況になってしまったことを伝え、ポップには勇気を見せたほうがいいと促します。ポップはこの時、少ない勇気を振り絞って戦場に踏みとどまることで、その後の成長のきっかけをつかみます。

チームの中でポップのような逃げ癖を持っているメンバーがいたらどうするか。そもそも、そのようなメンバーを入れない、排除するといった選択肢が難しいのであれば、一つの解決策は、まぞっほがポップにしたように、逃げることで将来生じる可能性や損をする未来像を示すことです。ポップの場合は、まぞっほによって「もし逃げ続けていたらポップがなっていたかもしれない未来像」が、自虐的なエピソードとともに語られ、「逃げることの損な面」について説得力が生まれました。もし、チーム内に過去に逃げた経験を持つ人がいるのであれば、その時の心情や結果、逃げたことによる悪影響を説明するという手があります。もちろんほかの人を落としながらほかの人を鼓舞するのは難しいため、まぞっほのように説得力を持たせるには、あくまで逃げた本人が伝えることが肝要です。

そして、もう一つの解決策として挙げられるのが、そもそも逃げる隙を作らないこと。長くチームを率いたり多くの人を見たりすれば、人が逃げたくなるときのパターンは見えてくるもの。メンバーに目を配るチームのリーダーは、そもそもメンバーが「逃げたい」と思ってしまう前に、そう思わないように、先を考えて「逃げたくなる」障害の排除も仕事の一つです。

矛盾するようですが組織を抜きにして、個人ベースで考えれば「逃げる」という選択肢は、常にネガティブなものではありません。ダイやポップのように世界を侵略する敵と戦っているわけではない私たちは、個人の限界や尊厳を無視するような組織で生命の危機を感じるようであれば逃げる選択肢は「あり」です。ただし、逃げ時は見極めたい。死の可能性を意識するような極限まで追いつめられる前に何度も逃げることは、必ずしもいい結果につながらないとは覚えておきたいものです。

自己評価の低いポップタイプには、能力を明確に「言葉」で評価

強敵を前に怖がり、逃げそうになるポップのもう一つの特徴は、自己評価の低さです。前述のように、ポップはパーティーの中で、ほぼ唯一血筋や育ちの面で普通の人間です。冒険を続けて強い呪文を身に付けても、ほぼ物語の終盤まで「自分は強く、敵と戦える」という自信を見せません。むしろ、ほかのメンバーに比べて弱く卑怯な人間だからこそ、どうするかを考えるタイプとして描かれます。

ポップのように実績や能力とは別に、自己評価が低いままにとどまる人は現実でも少なくありません。過度な傲慢さを抑えられるのであればチームにとってもいい影響をもたらしますが、前に進めなくなる原因になるのであれば、チーム全体の動きを制限することになります。

こうした人の自己評価を上げるにはどうすればいいのか。一つは、彼らの能力をきちんと明確に“言葉”で評価することです。自己評価が低い人は、同じ場所にいる人と比べて能力の低さや、できないことの多さに過度に目を向けてしまいがち。こうした思い込みは本人が少しずつ解消することもできますが、周囲の人がその人自身の能力を認めていくことが何よりもいい影響を与えます。周りからの承認は、人とのつながりを生み、自己評価の上昇につながります

もう一つの解決策は、評価が低い人にこそ、強みを自覚するよう促し、できることを増やしていくことです。その人ができることを増やす機会を用意することは、徐々に自己評価を上げるきっかけになります。

例えば『ダイの大冒険』のダイのパーティーでは、物語の前半では勇者のダイは呪文が使えず、そこを補うかのように呪文での戦いはポップ頼みになります。呪文以外にも、魔法使いがパーティーで果たすべき役割など物語の進展とともにポップはできることを増やし、少なくともパーティーの中で攻撃呪文では誰にも負けない立場を作り上げます。チームの中で、「自分はできない」と思い込んでいる人には、その思い込みを解くよりも、その人が果たす役割に必要な能力や知識を得られる機会を用意し、できることを増やすことが自己評価向上への近道です

さらに、「すべてを一人でやらなければならない」という過度な思い込みの解消も手です。特に失敗や周りの人の感情の変化をすべて自分の責任だと引き受けてしまうタイプの人に対しては、その人が責任を引き受ける以外の解決策の模索が、責任を手放し、自己評価の低下を防ぎます。

「先生」から「師匠」へ、成長にあわせて変わる師事の相手

変化が激しい環境で、個人の能力を伸ばし続けるにはどうすればいいのか。常に学び続ける本人の意識はもちろんのこと、学ぼうという意識を実際の成長につなげる指導者の存在が不可欠です。『ダイの大冒険』でポップの成長を促す存在は主に2人。「勇者の家庭教師」を名乗るアバンと、「大魔導士」を名乗るマトリフです。それぞれをポップは「アバン先生」「マトリフ師匠」と呼びます。

辞書の定義では、先生も師匠も、学問や技術・芸能を教える人としてほぼ同じ意味とされています。しかし、『ダイの大冒険』の中での使い方も含めて、ニュアンスはやや違って受け止められています。

先生というと、一般的に最初に想定するのは学校の先生でしょう。「先を生きる」と表現されるように、自分より年下の存在に対し、先に生きる者がその人が正しいと信じる道を示す存在です。間違わず、つまずかないように教え導きます。

しかし、先生は時として年下への態度に厳しさが欠け、甘さが見えることもあります。これは『ダイの大冒険』でマトリフによるアバンへの評価でもあります。『ダイの大冒険』では、弟子入りしたポップに対し、アバンがどのような指導をしていたのかはほとんど描かれていませんが、2人の関係から考えると、厳しさはなかったようにみられます。ポップがアバンに憧れてほぼ家出同然でついていった背景を考えると、具体的な技術よりも将来訪れる壁への立ち向かい方など、生き方そのものを見せていたと考えられます。

これに対して師匠は、手取り足取り教えるというよりも、自分ができることを見せ、弟子ができるようになるまで悪戦苦闘を見守る存在です。『ダイの大冒険』で、マトリフは次の戦いが近いこともあり、とにかくポップができないことを「やってみろ」と挑戦させ、できるまで徹底的にやり続けさせます。パーティーのメンバーを死なせないために、マトリフ自身もポップを魔法使いとして一定レベル以上に引き上げる必要がありましたし、ポップもレベルを引き上げるという強い意志と目標を持っていました。

これを考えると、先生と師匠は、伝えるものや教え方の違いといえます。例えばその分野に入りたての人に対してであれば、ある程度「できる」と自信を持たせるためにも、アバン先生のように道を示す生き方の先生のような存在も必要です。

一方で、ある程度できる自信がついた人に対しては、マトリフ師匠のように次の段階に進むために、難しい課題や壁の提示が成長につながります。同じスキルを持ったよりレベルの高い存在が、「どこまでできるのか」を示す。それは具体的な技術の使い方に加え、考え方やふるまい方も含まれます。

後者の指導は、師匠側にも教えられる側にも、短期間で達成したい成長のための目的があるからこそ、ついていけるともいえます。仮にポップが冒険を始めた初期にマトリフ師匠のような指導を受けていれば、修行や冒険から脱落していたでしょう。逆に、アバン先生のように無理をさせないようにしようというブレーキが働く指導方法では、短期間に力の底上げは難しく、ポップの成長は決戦に間に合わなかったといえます。

現実社会でも、一段上の成長を促すにはチームメンバーの士気や成長段階、目的に応じて、タイミングよく先生と師匠との出会いが必要になります。

【まとめ】

作者らのインタビューでも指摘されているように、『ダイの大冒険』の中でポップは読者の代表とされ、冒険という新たな挑戦に物怖じしながらも、前を向こうとする存在として描かれます。ビジネスシーンでもチームを構成するメンバーの大多数は、時に自分に自信をなくし、時に逃げ出したくなる普通の人。彼らを育て、チーム全体の底上げをするために、ポップの葛藤と成長からは多くの学びがあります。

文/bookish、企画・監修/山内康裕