キャリア開発とは?メリットや具体的な手法・企業の実施例を紹介

d's JOURNAL
編集部

企業組織の発展について長期的な戦略を決める際には、「キャリア開発」の視点を持つことが大切です。キャリア開発とは、企業と個人の従業員が、お互いによりよい方向へ成長していくために人材育成を行うことです。

この記事では、キャリア開発の基本的な意味や重要性、具体的な取り組み方について解説します。また、導入にあたって活用できる助成金や、企業における実践事例もあわせて見ていきましょう。

キャリア開発とは


キャリア開発とは、そもそもどのような概念を指す言葉なのでしょうか。ここでは基本的な意味と、類似した用語との違いを解説します。

キャリア開発の概要

キャリア開発のキャリアとは、「経歴」や「職業」、あるいは「出世」などを意味する言葉です。キャリア開発という言葉は、従業員が理想的なキャリアを形成できるように、必要な職務やスキルを中長期的に計画し、適切な成長を促していく取り組みを指します。

たとえば、わかりやすい施策としては、研修制度の充実を図ったり、資格取得の援助を行ったりすることなどがあげられます。このように、企業側が主導して従業員のキャリアを形成していくことで、自社の組織力を長期的に強化するのが主要な目的です。

キャリア開発と類似語との違い

キャリア開発と類似したビジネス用語は多数あります。たとえば、キャリアアップは、従業員が知識やスキルを習得することで、自身の経歴や市場価値を高めるための取り組みです。

キャリア開発と意味は似ていますが、従業員個人が自ら取り組む側面が強いのが特徴です。また、キャリアパスは従業員が目指すキャリアを実現するための方法や道筋を指します。

こちらは、具体的な方法やツールを示す言葉なので、キャリア開発よりも狭い概念を示す用語といえるでしょう。また、キャリア開発と同じようなシーンで、キャリア形成という言葉が用いられることもあります。

こちらは、職務だけでなくさまざまな人生経験を積みながら自己実現を目指すプロセスのことを指しており、キャリアアップと同じように主体は従業員個人にあります。また、仕事以外の分野も対象とするため、やや広範囲の意味を持つ言葉です。

キャリア開発を行うメリット


企業がキャリア開発に力を入れるメリットは、大きく分けて3つあります。

自律した社員が生まれることで、組織が活性化する

キャリア開発の1つ目のメリットは、従業員の自律性を促せる点にあります。現在のビジネスシーンを取り巻く環境は目まぐるしく変化しており、企業には常に変革を起こして走り続けることが求められています。このような状況下において、企業が従業員に求めるのは「仕事に対して自ら行動を起こし、責任を持てる、自律した人材」であることだといえるでしょう。

キャリア開発が行われれば、従業員は自身のキャリアや役割について主体的に向き合うようになります。会社からの指示を待つだけでなく、自らの強みが何かを把握したうえで動ける従業員が増えるため、組織やチームの活性化が期待できるのです。

優秀人材の採用・定着が期待できる

キャリア開発への取り組みは、人材採用の場面においても効果を発揮します。新しいキャリアを築きたいと考えている転職希望者にとって、「従業員一人ひとりのキャリア支援を積極的に行っている」企業は魅力的に映るでしょう。

企業としても、「キャリア開発」というアピールポイントがあることで、成長意欲のある優秀な人材が自社に興味を持ってくれることを期待できます。また、キャリア開発支援を行っている会社であれば、既存の従業員も「会社のために長く働き続けたい」と思うようになり、優秀な人材の定着につながります。

結果、生産性向上・企業成長へつながる

キャリア開発によって、「従業員の自律による組織の活性化」「優秀人材の採用・定着」を実現できれば、結果的に生産性向上につながっていきます。組織力が強化されれば、新規事業に挑戦できたり、変化を見据えた事業戦略を考えることができたりと、さらに企業の成長を加速する原動力となります。

キャリア開発の手法


キャリア開発を行ううえでは、さまざまなアプローチが考えられます。ここでは、キャリア開発の代表的な手法として、6つのパターンをご紹介します。

①面談・面接

一口にキャリア開発といっても、適したアプローチは従業員それぞれで異なります。まずは「面談や面接」を行い、キャリアに関する従業員の悩み・不安を把握することが大切です。

従業員が抱える悩みや不安、不満を明確に把握することで、キャリア開発支援の課題を的確に捉え、適切な解決策を検討することができます。また、従業員の疑問を解消することで、日々の業務にも前向きに取り組んでもらいやすくなるでしょう。

面談や面接の具体的な施策例としては、上司や先輩とキャリアについて話し合う「キャリア面談」、キャリアコンサルタントにキャリアに関する助言をしてもらう「キャリア相談」、定期的にキャリア相談を受けられる「キャリアドック」などがあげられます。これらは、通常業務の範囲で上司と実施する1on1ミーティングとは目的が異なるものとして、別に設定するのが効果的です。

②研修

キャリア開発を成功させるためには、従業員が自身と向き合い、「自分にはどのような強みがあるのか、またその強みをどう伸ばしていくのか」「1年後や3年後に、どのような経験を積んでいきたいのか」などを認識してもらう必要があります。

そのためには、最初のきっかけづくりとして研修は非常に有効です。たとえば、自らのキャリア目標や達成するための実施計画(キャリアプラン)を決める「キャリアデザイン研修」、管理職を対象にした「部下のキャリア開発支援研修」、目標とするキャリアの実現に役立つさまざまな知識・能力を学べる「テーマ別の研修」などが具体的な施策としてあげられます。

③キャリアパスの提示

面談や研修によって、従業員が自分のキャリアについて考える機会を与えるとともに、企業が自社で積めるキャリアを示すことも重要です。日常業務の範囲では、従業員も自分の組織内にあるモデルしか目に入らない場合が多く、さまざまな可能性に気付くことができないケースも考えられます。

そこで、「自社がどのようなキャリアプランを用意しているのか」「自分が目指すキャリア開発のためには、どういった経験やスキルが必要か」といったキャリアパスを具体的に提示するのも効果的です。企業が用意しているキャリアパスを見せることで、従業員はキャリアについてより前向きに考えられるようになり、会社への帰属意識も高まります。

④人事異動

キャリアパスの提示とともに、戦略的な人事異動も従業員の視野を広げるのに効果的な施策です。決まった部署で長く働いているだけでは、習得しにくいスキルや経験もあります。

そのため、従業員の中長期的な活躍を考えて、人事異動を実施することもキャリア開発の一環といえるでしょう。たとえば、従業員自らが業務への自己評価や今後のキャリア実現に向けた異動などの希望を申告する「自己申告制度」、異動を希望する部署に対して、自分が培ってきた経験やスキル、強みをアピールする「社内FA制度」、増員が必要とされる役職や職種を社員に公開して希望者が応募する「社内公募制度」、戦略的かつ定期的に部署異動や担当業務の変更を行う「ジョブローテーション」などが具体的な施策としてあげられます。

⑤自己啓発支援

キャリア開発では、外部からの情報を取り入れられる仕組みを整えることも大切です。社内のリソースだけで完結させるのではなく、従業員の主体的な学び(自己啓発)を促せば、キャリアの枠を広げられる可能性があります。

具体的な取り組みとしては、「専門的な資格取得に向けた時間の確保や費用の支援」、「社内の学習スペースの拡充」、「自己啓発に有用な資料の提供」などがあげられます。また、「資格手当の充実」なども、自己啓発の推奨を行う企業側のメッセージとなり得るでしょう。

⑥副業や兼業の許可

従業員の視野を広げてもらうという点では、副業や兼業を許可するのも有効な手段となり得ます。社内では経験できない仕事を請け負ったり、自身の責任において契約から業務までを完結させたりするなかで、本業では得られない知識や経験を身につけてもらうことができます。

キャリア開発で活用できるツールやプログラム


企業がキャリア開発を行ううえでは、既存のツールやプログラムを活用するのが効果的です。ここでは、代表的な方法を3つご紹介します。

ジョブ・カード

ジョブ・カードとは、「生涯を通じたキャリア・プランニング」や「職業能力証明」の機能を担うツールとして、厚生労働省が推奨しているものです。形式としては履歴書や職務経歴書に似ており、就職活動のほかにも、企業内で行う社員のキャリア・プランニングのツールとしても活用されています。

後ほど詳しく解説しますが、企業がジョブ・カードを活用して社員のキャリア開発を支援し、国が定める一定の要件を満たしている場合は助成金を受けることができます。

キャリアアンカー

キャリアアンカーとは、自らのキャリアを選択する際に、もっとも大切で犠牲にしたくない価値観や欲求のことです。アメリカの組織心理学者エドガー・シャインによって提唱された概念であり、「アンカー(船のいかり)」のように軸となる仕事の価値観を把握することで、納得のいく選択がしやすくなると考えられています。

従業員のキャリアアンカーを知るうえでは、「安全性」「管理能力」「技術的・機能的能力」「創造性」「自律・独立」「奉仕・社会貢献」「純粋な挑戦」「ワーク・ライフバランス」の8つに分類され、設問に回答してキャリアアンカーの尺度を測る診断テストを用いるのも有効です。「自分にとってのキャリアアンカーは何か?」を考えて発表してもらうことで、各自のキャリア観を知ることができます。
なお、キャリアアンカーについては以下の記事でも詳しく解説されているので参考にしてみてください。

(参考元:『キャリアアンカーとは?診断結果の活用法を1分で解説-すぐに使えるチェックシート付-』

外部講師による人材開発プログラム

キャリア開発における研修は、自社で企画・実施することも可能です。しかし、より広い視野でキャリアを考えてもらうためには、外部講師を招いた研修の実施も有効です。

ワークショップや社外受講生との交流を通じて、新たな価値観に出会えることも期待できます。また、キャリア開発支援をどのように定め、どのように行っていくのかをコンサルティングする企業もあります。

対象とする従業員や実施可能なスケジュール、予算に合わせて活用を検討してみるのもよいでしょう。

キャリア開発を行ううえの注意点


キャリア開発を実施するうえでは、企業側が注意しておくべきポイントがいくつかあります。ここでは、キャリア開発を有効に機能させるための基本的な注意点を4つご紹介します。

信頼関係を構築する

キャリア開発では、従業員一人ひとりの考えや本音に触れ、それに合わせて適切な施策を行っていくこととなります。また、中長期的な取り組みであるため、「この企業で長く働く」という前提がなければ成立しない側面もあります。

そのため、成功させるには従業員との信頼関係が必要不可欠です。従業員が上司や経営陣に不信感を抱いていたり、社内の将来性について不満を感じていたりすれば、キャリア開発の一歩目を踏み出すことができません。

まずは、自社に対する確かな信頼を得るために、日ごろのコミュニケーションにしっかりと力を入れることが大切です。

従業員主体で考える

キャリア開発は企業が主導して行う取り組みである一方、具体的な方向性については、対象となる従業員を主体に考える必要があります。目的はあくまでも従業員のキャリアの自律を助けることにあるため、従業員の価値観を無視して企業の事情を押し付けたり、キャリアの方向性を操作したりすることは望ましくありません。

従業員が自発的に取り組みたいと感じられる制度を構築し、個人の考えや理想に寄り添ってサポートを行うことが大切です。

第三者に相談できる体制を整える

中長期的な取り組みであるキャリア開発では、さまざまな立場や角度からのサポート体制を構築することも大切です。従業員がキャリアに行き詰まったときの窓口として、第三者に相談できる仕組みを整えておくのも一つの方法です。

たとえば、年齢や社歴の近い先輩従業員がメンタル面をサポートする「メンター制度」、直属の上司や先輩がキャリア形成からメンタルケアまでを支援する「ブラザーシスター制度」などの方法があります。また、キャリアコンサルタントなどの外部の専門家につながるシステムを導入し、社内では相談しづらいテーマを取り扱える機関を設けるのも効果的です。

キャリアについて考える機会を提供する

キャリア開発では、従業員自身がじっくりと自己に向き合い、将来について考える時間が必要となります。日常業務に追われている状態では、なかなか自身の将来や変化について向き合うことができません。

そこで、従業員の年齢や立場に合わせて、企業側からキャリアについて考える機会を提供することも大切です。研修によって自己理解を深めてもらったり、部署を横断したプロジェクトへの参加を受け付けたりすることで、自然な形で自律的な姿勢を引き出せるようになります。

キャリア開発で活用できる助成金


キャリア開発では、一定の要件を満たしていれば、国からの助成金を活用することも可能です。

人材開発支援助成金

「人材開発支援助成金」とは、企業が従業員のキャリア形成を促進するための研修を実施し、国が定める要件を満たす場合に受け取れる助成金です。具体的には、従業員に対して、仕事に関連した専門知識やスキルを習得させるために、計画的な職業訓練などを行った際の経費や期間中の賃金が国から助成されるという仕組みです。

人材開発支援助成金には、「人材育成支援コース」や「人への投資促進コース」「事業展開等リスキリング支援コース」など、合計7つのコースが設定されています。

助成を受けるための要件は「雇用保険の適用事業所であること」「支給審査への協力」「期間内の申請」の3つであり、各コースで申請方法や細かな追加条件は異なります。

キャリアアップ助成金

「キャリアアップ助成金」とは、有期のパートタイマーや契約社員といった非正規雇用者に対してキャリアアップの取り組みを行い、正規雇用に転換された場合に助成金が支給される制度です。こちらも「正社員化コース」や「賃金規定等改定コース」「賞与・退職金制度導入コース」など、7つのコースが設定されています。

キャリア開発に取り組んでいる企業の事例を紹介


最後に、キャリア開発に積極的に取り組んでいる企業の事例をご紹介します。実際の取り組みの様子から、自社の活動に活かせるヒントを探りましょう。

事例①参天製薬株式会社

国内の医療用医薬品においてシェア1位を誇る参天製薬株式会社では、キャリア開発の一環として「タレントレビュー」の導入が行われています。これは、従業員との面談などによって、複数のリーダーおよび各部門を交えて適正を見極め、ともにキャリアプランを固めていく取り組みです。

事前にキャリア面談を実施し、従業員のキャリア志向を確認したうえで、各人の適正や方向性を多面的に議論します。タレントレビューのアドバイスは従業員にもフィードバックされ、そのうえで自身が思い描くキャリアを実現するための計画を本人に作成してもらうという流れです。

(参考元:『参天製薬が取り組む、人も組織も成長できる強い組織とは【セミナーレポート】』
(参考元:『カゴメ&参天製薬。ハード・ソフト両面必要、”生き方改革”の先にタレントの自律がある』

事例②パナソニックインダストリー株式会社

パナソニックインダストリー株式会社では、「一人ひとりの想いを実らせる。」ことを人財戦略のテーマに掲げ、キャリア開発の取り組みを進めています。そして、そのための具体的な施策として導入されたのが、「キャリアオーナーシップ支援プログラム」です。

プログラムは、個人としての「キャリア自律」、それを支える「ミドルマネジメント支援」、実現するための「基盤となる人事制度」の3つのパートで形成されています。キャリア自律では、セミナーや対話型ワークショップの導入、パーソナルコーチングの活用を行います。

また、ミドルマネジメント支援の内容は、管理職を対象とした研修やコーチング、マネジメントのプレイバックなどです。そこに、基盤となる人事制度として、人財の要件定義の策定・公表やフリーオフィス制度の導入、個人のタイミングでスキルを学べる「マナビバevery」の開設などが行われています。

マナビバeveryでは、共通のビジネススキルや専門スキルだけでなく外部研修も受講可能であり、費用はすべて本社が負担するのが特徴です。その結果、1年間で想定を上回る延べ1万人以上の従業員が活用したという結果が出ています。

(参考元:『人生100年時代の“あたらしいはたらく”は「キャリアオーナーシップ」で創る【by Leading HR online 2023/Day1】』

事例③ニデック株式会社

2023年4月1日に日本電産から社名を変更したニデック株式会社では、2021年度からジョブ型人事制度を導入し、社内全体として「自分のキャリアは自分で切り開く」ということの重要性が浸透し始めています。具体的な取り組みとしては、半年に1度「キャリアプランシート」を記入し、自身の経験を振り返りながらキャリアについて考える機会の提供です。

また、別の部署や組織でチャレンジしたい人材を対象に、「社内公募制度」を導入し、チャレンジを後押しする仕組みを設けています。同社の社内公募制度では、上司に知られずに応募ができるよう、プライバシーに配慮した仕組みづくりを実現しているのが大きな特徴です。

(参考元:『稀有な創業者率いるニデックが構想する「次世代の経営層育成」。海外人材、キャリア入社者など、多様化した組織における人材開発の挑戦』

事例④株式会社FUJI

北海道物産の商品企画や流通を担う株式会社FUJIでは、中小企業特有の「硬直化したトップダウンによる組織体制」からの脱却を大きな課題としていました。そこで、まずはキャリア開発の肝要となる「自律性」を引き出すために、「360度評価による公平・公正な人事」「チームワークアプリの導入による相互理解の促進」に取り組みます。

さらに、特徴的な取り組みとしてあげられるのが、管理職者を対象とした「褒め研修」です。管理職が従業員の強みを見つけ、シンプルに褒められるようになるための研修であり、研修後は社内ツールのレター機能を使って、定期的に部下へ称賛や感謝の気持ちを届ける仕組みとなっています。

その結果、誰もが自由に意見を言い合える組織づくりが実現し、若手主体の部門横断的なプロジェクトが生まれるなど、主体的にキャリアを広げる従業員が増えていきました。また、離職率の低下や採用活動での優位性確立などにも着実に効果が表れています。

(参考元:『「褒める力」でワンマン中小企業を大改革! 称賛・感謝の風土で離職ストップをかなえた秘訣【連載 第10回 隣の気になる人事さん】』

まとめ

キャリア開発に力を入れることで、従業員の自律性が高まり、組織全体としての中長期的なパフォーマンスも向上していきます。さらに、従業員の定着率向上や採用における競争優位性の確立などのメリットも期待できるでしょう。

ただし、キャリア開発はあくまでも従業員のキャリアの自律を助けるのが目的であるため、企業の事情を押し付けるのは避ける必要があります。まずは従業員一人ひとりと丁寧に面談を行い、理想的なキャリアを目指すためにできることを一緒に考えていきましょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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