メンター制度とは?メリット・デメリットや導入するまでの流れを解説
d's JOURNAL
編集部
メンター制度とは、上司以外の先輩社員が、後輩社員の業務やメンタル面の悩みを聞き、相談にのる(サポートする)制度のことです。
近年問題視されている若手社員の早期離職を防ぐ効果が期待できるため、多くの企業が注目しています。この記事では、メンター制度の概要や運用するためのコツ、メリット・デメリットなどをご紹介します。
メンター制度とは
メンター制度をうまく活用するには、基本的な仕組みや目的などを理解しておく必要があります。メンター制度が注目されている理由も含めて解説します。
メンター制度の概要
メンター制度とは、新入社員や若手社員などが抱える悩みに対して、年齢や勤続年数が近い先輩社員がさまざまなアドバイスを行う制度を指します。英語における「mentor」に由来をしており、「助言者」「指導者」といった意味合いがあります。
サポートする側のことを「メンター」、サポートされる側のことを「メンティ」という点も押さえておきましょう。メンター制度は社歴の浅い従業員が業務に慣れ、円滑な人間関係を構築するために導入されるものです。
また、キャリア支援の取り組みの一環として、メンター制度を導入するケースもあります。
メンター制度が注目される理由
メンター制度が多くの企業に注目されているのは、働き方の多様化や雇用の流動化など、労働市場を取り巻く環境の変化が挙げられます。フルタイムによる勤務形態だけでなく、リモートワークや時短勤務など、さまざまな働き方があります。
また、一つの企業で長く働き続けるよりも、キャリアアップのために転職を検討するといった考えを持つ人も増えているといえるでしょう。そうした流れのなかにあって、いかに新入社員や若手社員を定着させるかといった課題は、多くの企業で抱えているものでもあります。
また、新しく入ってきた従業員の離職防止といった部分だけでなく、既存の従業員もメンター制度が導入されることで自身の成長につなげていけるでしょう。広い意味での人材育成につなげていきたいという効果が期待されているといえます。
メンター制度を導入する目的
メンター制度を導入するかどうかを検討する際は、自社が抱える経営課題とメンター制度導入によって得られる効果を照らし合わせることが重要です。導入の目的としては、次のものが挙げられます。
メンター制度を導入する4つの目的
・メンティの企業への定着
・メンターの今後のキャリア形成
・人材育成を重視した企業風土の構築
・女性従業員のキャリア形成
それぞれのポイントについて解説します。
メンティの企業への定着
せっかく新たに人材を採用しても、早期に離職する従業員が出てしまうことに頭を悩ませる企業も少なくないといえます。新入社員や若手社員が業務に取り組むうえで悩みやすい部分をサポートするメンター制度の導入によって、早期離職の防止につなげていくことが可能です。
メンター制度では、メンティと年齢や社歴の近いメンターが業務や人間関係の相談にのることで悩みの解決が促され、企業に馴染みやすくなります。また、メンティにとって、成功体験の豊富なメンターは憧れの存在でもあるため、自分自身の今後の成長をイメージしやすくなり企業への定着につながります。
メンターの今後のキャリア形成
メンター制度においては、メンターとメンティの年齢や社歴に大きな差がないため、メンター自身の成長につながる部分があります。自分よりも経験の浅いメンティと関わることで、入社したころの自分を思い出し、そこから成長したことを実感できるでしょう。
メンターとしても、新たな気持ちで仕事と向き合うきっかけになるため、今後のキャリア形成にとってプラスになる部分が大きいといえます。メンティだけでなく、メンターの成長にもつながる点がメンター制度の大きな特徴です。
人材育成を重視した企業風土の構築
企業が持続的な成長を果たしていくためには、人材育成への取り組みは欠かせないものです。メンター制度においては、先輩社員が後輩社員を支えることによってお互いの成長を促します。
従業員同士が助け合い、人を育てていくという企業風土が生まれることで、中長期的な視点で見てもプラスの効果が期待できるでしょう。人材育成を重視している姿勢を示すことは、社外に対しても大事なアピールポイントになるはずです。
女性従業員のキャリア形成
メンター制度では、女性管理職など社内で活躍している従業員をメンターとして抜擢することができます。キャリアや生き方の目標となる女性従業員が身近なところにいることで、後輩の従業員は自らのキャリア形成について前向きに考えられるようになるでしょう。
「結婚や出産といったライフイベントの際に、家庭との両立をどうするのか」「今後のキャリアアップをどのように図っていくのか」といったさまざまな悩みにおいてメンター制度は役立ちます。近くに相談できるロールモデルが存在することで、解決の糸口を見つけやすくなり、キャリア形成に対して前向きに考えやすくなるでしょう。
メンター制度と類似語との違い
メンター制度と類似した言葉として、OJTやエルダー制度、コーチング・ティーチングなどが挙げられます。それぞれの言葉の意味を解説します。
OJTとの違い
OJT(On-the-Job Training)とは、先輩社員や上司が若手社員などに対して行うものであり、実務を通じて実践的なトレーニングをする点に特徴があります。メンター制度とOJTは、先輩社員が若手社員に指導・助言をするという点では類似していますが、助言する側の所属している部署とサポートする範囲が異なることに違いがあります。
メンター制度では基本的に若手社員とは別の部署の先輩社員が助言を行いますが、OJTでは同じ部署の先輩社員が担当します。そのため、メンター制度ではメンタル面でのサポートがメインであるのに対して、OJTでは実務指導に特化しているという点に違いを見つけられるでしょう。
また、メンター制度では年齢や社歴の近い先輩社員がメンターとなるのに対して、OJTでは先輩社員の年齢はそれほど考慮されず、上司が指導役に就くケースがあるという点にも違いがあります。
OJTについて、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
(参考:『OJTとは?目的とメリット・取り組みの具体例を解説 』)
エルダー制度(ブラザー・シスター制度)との違い
エルダー制度はブラザー・シスター制度とも呼ばれており、先輩社員がブラザー(兄)やシスター(姉)となり、後輩社員を指導する制度をいいます。メンター制度では、新入社員だけでなく、若手社員も指導の対象としていますが、エルダー制度では原則として新入社員のみを対象としています。
また、メンター制度とエルダー制度は、先輩社員が後輩社員のキャリア形成やメンタル面のサポートを行うという点では類似していますが、助言する側の所属している部署とサポートする範囲が異なります。そして、メンター制度では基本的に若手社員とは別の部署の先輩社員が助言を行いますが、エルダー制度では同じ部署の先輩社員が担当するのが特徴です。
そのため、メンター制度ではメンタル面でのサポートが中心となるのに対して、エルダー制度では実務指導が中心となります。エルダー制度について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
(参考:『エルダー制度とは?メンター制度との違いやメリット・デメリットを解説 』)
コーチング・ティーチングとの違い
コーチングとは、相手と対話をすることで、目標達成に向けたプロセスを支援する取り組みをいいます。メンター制度では対話を通じてメンタル面の悩みを解消して自発的な成長を促すことを目的としていますが、コーチングにおいてはあらかじめ決まっている目標に対して対話を行うのが違いです。
また、ティーチングとは知識や問題の解決方法などを相手に教えることであり、目標達成を促す取り組みを指します。メンター制度との違いは、指導方法が異なる点が挙げられるでしょう。
対話によって相手が自ら問題解決の糸口を見出していくように指導するのがメンター制度であるのに対し、ティーチングでは明確な答えを教えることによって問題解決を図ります。
メンター制度を導入するメリット
メンター制度を導入することで、企業は多くのメリットを得られます。具体的なものとして、次のような点が挙げられるでしょう。
メンター制度を導入する4つのメリット
・新入社員の定着率を高められる
・先輩社員の成長につながる
・社内コミュニケーションが活性化する
・企業文化や経営理念が浸透しやすくなる
各メリットについて解説します。
新入社員の定着率を高められる
メンター制度を導入することで得られるメリットとして、新入社員の定着率を高められる点が挙げられます。新入社員や若手社員は仕事にまだ慣れていないため、日々の業務において悩みを抱えることも多いでしょう。
周りが気づかないまま、ストレスや不安を抱え込んだ状態が続いてしまえば、早期離職につながる恐れもあるので注意が必要です。メンター制度を導入することによって、いつでも相談ができるメンターが身近にいる状況をつくることができ、安心感につながるはずです。
日ごろ抱え込んでしまいやすい悩みをすぐに相談できる相手がそばにいれば、仕事に関する不安が解消され、結果的に新入社員の定着率が高まっていくでしょう。
先輩社員の成長につながる
メンター制度は新入社員や若手社員をサポートすることを目的としていますが、一方で先輩社員の成長を促すきっかけにもなる仕組みです。多くの人のサポートや指導を行う経験は、管理職になったときに必要とされるスキルを身につける最適な機会となるでしょう。
従業員同士が向き合っていくことによって、それぞれの成長につなげていけるのは組織にとってもプラスとなるはずです。
社内コミュニケーションが活性化する
先輩社員が新入社員を日々サポートすることで、自ずと活発なコミュニケーションが生まれやすくなります。社内での会話のやりとりが円滑になることで、職場の雰囲気をよい状態に保てるでしょう。
働きやすい職場環境を整えることによって、新入社員も伸び伸びとした気持ちで業務に取り組んでいくことができます。ストレスを感じにくい環境を提供することで、新入社員の成長につなげてみましょう。
企業文化や経営理念が浸透しやすくなる
先輩社員と後輩社員が一緒になって行動すれば、チーム全体の結束が強くなることが期待できます。チームメンバーの適性や能力をそれぞれが把握しておくことで、お互いに支え合える職場をつくっていけるでしょう。
また、先輩社員と後輩社員が接する機会が増えることによって、企業文化や経営理念などが浸透しやすくなるというメリットもあります。組織に対する帰属意識が高まることで、チーム全体のパフォーマンスを高められるはずです。
メンター制度を導入するステップ
メンター制度をスムーズに導入するには、基本的な手順を押さえておく必要があります。主な手順として、以下の流れが挙げられます。
メンター制度を導入する5つのステップ
1.メンター制度の目的を明確化する
2.ルールや運用体制を構築する
3.メンターを選出し、育成する
4.メンター制度を実施する
5.面談の実施と改善を繰り返す
それぞれのステップについて解説します。
メンター制度の目的を明確化する
メンター制度を導入して成功に導くには、まず導入の目的を明確にする必要があります。メンター制度は従業員の協力が欠かせない仕組みであるため、制度の主旨を理解してもらうために、丁寧な説明を重ねることが重要です。
導入の目的を明らかにするには、自社の現状を分析して課題点を洗い出し、それらの課題を解決するためにメンター制度の導入が必要であることを伝えるのが効果的だといえます。従業員にヒアリングやアンケートを行って、さまざまな意見や考えを集めてみることも大事でしょう。
新入社員の離職防止や女性社員の活躍、社内コミュニケーションの活性化など自社が抱える人材面での課題解決に焦点を当てることが大切です。
ルールや運用体制を構築する
従業員にメンター制度を導入する目的を理解してもらえたら、次に社内の体制づくりを進めます。継続した取り組みとして制度を運用するために、ルールの策定やどのような体制で新入社員をサポートしていくのかを決めましょう。
メンターによって指導やサポートなどにバラつきが出てしまえば、なかなか思うような成果を挙げられないので、あらかじめ決めておくことが大事です。また、メンターは通常の業務と並行してメンティをサポートしていかなければならないため、過度な業務負担が生じていないかもチェックする必要があります。
必要に応じて担当する業務量を調整したり、研修会を開いたりするなどしてメンター自身もサポートしていく体制を整えてみましょう。
メンターを選出し、育成する
メンター制度を運用する体制が決まったら、次にメンターとなる人材を選んでいきます。社内の人材から選ぶことになりますが、メンターとしての役割をしっかりと理解できている人を選ぶことが大切です。
ただ、企業側が一方的に選ぶのではなく、自薦や他薦も広く受け入れて企業全体の取り組みであることを知らせていくことも大事だといえます。従業員の能力や適性などを考慮し、将来的に管理職として育てていきたい人物を選んでみましょう。
また、メンティとの相性もあるので、マッチングを行うときにはそうした点も考慮することが大事です。
メンター制度を実施する
メンター制度を実施する準備が整ったら、実際に運用をスタートさせます。メンターとメンティの様子を定期的にチェックして、問題が生じていないかを確認しましょう。メンターへの負荷やメンティとの相性などをモニタリングして、必要に応じてサポートしていくことが大切です。
また、メンター同士で情報交換ができるように、チャットツールを活用してみるのもよいでしょう。メンターのケアを適切に行えるかが、メンター制度が成功するかどうかの大きなカギとなります。
面談の実施と改善を繰り返す
メンター制度を運用して一定の期間が経過したら、ヒアリングやアンケートなどを実施して、課題点を洗い出して改善していく必要があります。メンターだけでなく、メンティの意見も参考にしていくことが大切です。
また、離職の防止につながっているか、従業員のモチベーションは向上しているかなど、具体的な成果を得られているかを検証してみましょう。実施と改善を繰り返して、メンター制度をより充実したものにしていくことが大切です。
メンター制度を運用する際のルール例
メンター制度をしっかり運用していくためには、あらかじめ決めておいたほうがよいことを整理して、従業員が伸び伸びと取り組んでいける環境を整えることが大切です。ここでは、厚生労働省「女性社員の活躍を推進するためのメンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」の内容を参考に、制度運用のルールの例を紹介します。
(参考:厚生労働省『女性社員の活躍を推進するためのメンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル 』)
最低限決めておいたほうがよいルール
メンター制度を始めるにあたって、事前に最低限決めておいたほうがよい3つのルールがあります。具体的には、「守秘義務」「相談窓口」「面談時間」です。
守秘義務については、面談で話したことを口外しないというものです。メンターとメンティの双方が守秘義務を守るように、ルールをあらかじめ決めておきましょう。
相談窓口とは、メンターとメンティの間に何らかのトラブルが発生したときに相談できる窓口のことを指します。第三者が介入することで、問題を解決できる体制を整えてみましょう。
そして、面談時間についてはメンター制度が原則として、就業時間内に行われるというルールです。ただし、就業時間外の飲食による交流は認めるなどして、柔軟に運用していくことも大切だといえます。
任意で決めておくルール
メンター制度を円滑に運用するために、任意で決めておくとよいルールについても紹介します。主なものとして、次の点が挙げられるでしょう。
任意で決める主なルール
・メンタリング期間
・面談の頻度や1回あたりの時間
・コンタクトをとる方法
・面談で話す内容
・面談後のフォロー
・期間終了後の対応
・費用負担 など
メンター制度を実施する期間や面談の頻度、1回あたりの時間などは初めてメンター制度を導入する場合は最初に決めておいたほうが無難です。ルールとして定めておくことで、メンターも安心してメンティと向き合えるでしょう。
また、コンタクトをとる方法や面談で話す内容については、メンターやメンティに任せることも可能ですが、一つの基準をつくっておいたほうが制度として運用しやすいといえます。特に面談に必要な交通費や飲食費などは、誰が負担するのかといったルールを決めておくほうがトラブルの防止につながります。
さらに、面談が終わった後のフォローやメンタリング期間が終了した後の対応なども、きちんと決めておくと安心です。従業員の意見や考えなども参考にしながら、自社に合ったルールを定めてみましょう。
チェックシートを活用しよう
メンター制度が適切に運用されているかを確認するには、チェックシートを活用すると便利です。メンター用とメンティ用にそれぞれ作成して、項目ごとに確認していけば客観的な評価をしやすくなります。
チェックした内容をもとに面談を行っていけば、メンター制度の目的に沿った形で運用できるでしょう。定期的にチェックしていく体制についても、しっかりと整えておくことが大事です。
メンター制度を導入するときの注意点
メンター制度を導入する際は、いくつかの点をあらかじめ注意しておく必要があります。どのような点に気をつければよいかを解説します。
メンターとメンティの相性に気をつける
メンター制度をうまく機能させるには、メンターとメンティの相性をきちんと考慮することが大切です。相性がよくない関係であれば、思うようにコミュニケーションが取れずに、途中で行き詰まってしまう恐れがあります。
社内で適切な人材をマッチングできるように、データベースなどを構築してさまざまな組み合わせのパターンを検討してみましょう。
就業規則に記載する
メンター制度を初めて導入するときは、制度に対する理解を周知するだけでも、それなりに時間がかかる部分があるでしょう。一つの方法として、メンター制度を設けることを就業規則に盛り込むことが挙げられます。
就業規則に明記することで、企業として真剣にメンター制度を実施していく姿勢が伝わり、従業員の理解や協力を得られやすくなるはずです。
人事評価制度の見直し
メンターは通常の業務と並行して、メンティをサポートしていく立場にあります。そうした点を考慮して人事評価を行わなければ、メンターの協力を得るのは難しくなるでしょう。
そのため、メンターとしての役割を人事評価にきちんと反映させていく取り組みが必要です。メンター制度の導入にあたっては人事評価制度の見直しを行い、納得できる仕組みに整えてみましょう。
まとめ
新入社員や若手社員の早期離職を防ぎ、業務や職場に慣れてもらう方法の一つとしてメンター制度があります。先輩社員から直接アドバイスを受けることで、日々の業務に関する悩みや不安の解消につながり、帰属意識も高まってくるでしょう。
メンター制度を新たに導入する場合、制度設計やメンターの選出など、事前に整えておくべきことが多くあります。制度を導入する目的を従業員にきちんと理解してもらえるよう、丁寧に準備を整えてみましょう。
(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)
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