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OJT(On-The-Job Training)とは実務を通じて業務を教える方法で、従業員の育成方法の一つです。
OJTは研修終了後には即戦力になることが期待できるといったさまざまな効果が望めるため、企業間での競争が激しい今日では、多くの企業が関心を示しています。
この記事では、OJTとOFFJTの違いやメリット・デメリット、OJTを効果的に進めるための手順やコツなどをご紹介します。
OJTとは、実際の職務現場で業務を通して行う教育訓練のことで、「On-The-Job Training」の略称です。通常の業務の中で、上司や先輩社員等が教える側となり、部下や新入社員に実践的に知識やノウハウを伝えます。
OJTのルーツは、第一次世界大戦中にアメリカで膨大な数の軍隊を育成するために生まれた「4段階職業指導法」です。「やってみせる(Show)」、「説明する(Tell)」、「やらせてみる(Do)」、「確認・追加指導(Check)」の4段階からなる指導法で、OJTを進める上での基本的な手順として知られています。日本には戦後の高度経済成長期(1950~1970年代)に輸入されました。
そして、年功序列や終身雇用の時代(1970~1980年代)に「Plan(計画)」、「Do(実行)」、「Check(評価)」、「Act(改善)」のPDCAサイクルに基づく社員教育が行われ、OJTは企業内での社員研修の基本の一つと認識されるようになりました。
その後、バブル経済期では企業の生き残りのために企業内研修のあり方が見直され、OJTもその目的や重視するポイント等が改良されました。
このようにOJTは、時代の流れと共に変容を繰り返しながら進化し、今日では多くの企業において実践的で効果的な研修手法の一つとして活用されています。
OJTとよく比較されるものとして、OFFJT(OFF-JT)があります。OFFJTとは、「Off-The-Job Training」の略称で、実務の場を離れて行う研修のことです。
OJT | OFF-JT |
---|---|
実務を通じての研修 | 実務を離れた研修(座学研修/集合研修) |
通常業務の一貫 | 研修のために特別な時間を設ける |
実務をする上で必要となる知識やノウハウを学ぶ | ビジネスの基本や専門知識、業務内容を深掘りして学ぶ |
実践形式 | 座学形式 |
OJTとOFFJTの一番の違いは、実務の場を離れるか否かです。OJTは実務を通じての研修であるのに対して、OFFJTは実務の場を一旦離れて研修を行います。またOJTは通常業務の一環として行われますが、OFFJTは研修のために特別な時間を割くという点も両者の違いです。
OJTとOFFJTでは、研修内容にも違いが見られます。OJTでは実務をする上で必要となる知識やノウハウを実践形式で教えますが、OFFJTでは新入社員向けにビジネスの基本や中堅社員向けに専門的な業務内容を深掘りしたものを研修や講習会など座学形式で教えるという違いがあります。
OFFJTの具体例として、ビジネスマナー研修やロジカルシンキング研修、マネジメントスキル研修やグローバル人材育成セミナーなどが挙げられます。
OJT、OFFJTにはそれぞれメリットや課題があるため、効果的に社員研修を進めるためには両者を併用することが重要です。
OJT制度を導入することで、教えられる側だけでなく、教える側や企業にとってもさまざまなメリットがあります。
OJTでは、上司や先輩社員が1対1で指導する機会が多くあります。このため、教わる側の理解度に応じて、研修の内容やスピードを柔軟に変えることが可能です。
最初は分からないことばかりの新入社員でも、ペースに合わせて研修を進めてもらうことができるので、不安や疑問を解消することができます。
OJTでは、分からない人にいかに分かりやすく教えるかということも重要な要素です。上司や先輩社員は、どのようにしたら相手が理解してくれるのかを考えながら、研修を実施することになります。
その過程を通して、教える側の業務への理解度や部下への指導力が向上し、スキルアップにつながります。
技術革新や価値観の多様化といった企業を取り巻く環境が急速に変化している現代では、自社の業務内容を理解した上で即座に対応できる人材の育成が企業には求められています。
OJTでは実務を通じて人材を育成するため、研修内容と実際の仕事とのズレが少ないという特徴があります。実務を通じて仕事のノウハウやコツを習得することで、OJT終了後は即戦力としての活躍が期待できます。
業務を円滑に進めるには、社員同士がコミュニケーションをとることも大切です。OJTでは、部下が上司や先輩社員に分からないことを質問したり、反対に、教える側が新入社員に対して分からないことがないかを確認したりといったやり取りが頻繁に行われます。
これを繰り返すことで、教わる側と教える側の間に協調性や信頼関係が生まれ、業務を遂行するために必要な職場の人間関係の構築につながります。
OJTには、人材育成に要するコストを抑えるというメリットもあります。OFFJTでは講師や研修を外注するコストが発生しますが、OJTは実務の中で研修が行われるため、特別なコストが発生しません。また、通常業務外の時間に研修を実施する必要もなくなるため、残業代や手当てなどの追加コストを抑える効果も期待できます。
こちらの記事を読んでさらにOJTに関する理解を深めましょう
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転職者の受け入れ準備は大丈夫?採用活動を台無しにする現場丸投げOJTの落とし穴
OJTにはメリットが多くある一方で、課題もあります。実際にOJTを進める際に気をつけたい点をご紹介します。
OJTを導入しても、指導体制が整っていない、教える側の負荷が大きく教わる側が放置されてしまう等、現場でうまく運用されない可能性があります。OJTを現場に任せすぎず、実状を把握しながら適切にフォローすることが企業側には求められます。
OJTは、教える側のスキルによって、その成否が決まってくるという側面もあります。OFFJTでは一定の専門的なスキルをもつ外部講師に研修は一任されますが、OJTは上司や先輩社員が教えることがほとんどです。
そのため、教える人のスキルによって内容に差が出てしまう点が懸念されます。こうした問題を未然に防ぐために、教える側を育成する研修も必要です。
集合型研修とは異なり、実務を一つひとつこなしながらの研修となるため、業務の全体像を把握しづらい傾向があります。その結果、目の前の短期的な業務はこなせても、中長期的な広い視野で業務を進めていくための知識や能力を習得できていない可能性があります。
業務を体系的に学ばせるため、OFFJTと組み合わせて業務の基礎知識や全体の流れを把握する機会を設けることも大切です。
OJTでは、教える側は通常の業務とは別に指導時間を設けたり、教える側のスピードに合わせて業務を進めたりしなければいけません。そのため、教える側の時間的・精神的負荷が大きくなりやすく、実務が滞ってしまうことが懸念されます。
OJTと実務を両立させるために、企業には教える側をサポートすることも求められます。
OJTにはメリットだけでなく問題点もあることから、全ての業務がOJTに向いているわけではありません。
すでにルールが確立されイレギュラーが発生しにくい業務は、教える人によるスキル差が出にくく、OJTに向いていると言えるでしょう。また業務対象者であれば誰でも教えられるようにマニュアルを整えておけば、準備の負担も少なく安定的にOJTを実施することができます。
逆に、プロジェクトベースで内容や進め方に変動があり、イレギュラーが発生しやすい業務は、教える側・教わる側共に負担が大きく、OJTだけではスキル習得をカバーしきれない可能性があります。
基本的な考え方や基礎スキルはOJT実施の前に教える、定期的に振り返りを行うことで体系的に落とし込む等、OFFJTとうまく組み合わせることで、効果的な育成を行えるでしょう。
OJTでは、「Show(やってみせる)」「Tell(説明する)」「Do(やらせてみる)」「Check(評価・追加指導)」という「4段階職業指導法」をもとに育成を行います。
<4段階職業指導法のポイント>
●「Show」:実際の業務を見せることで、教わる側に業務の具体的なイメージを持ってもらいます。
●「Tell」:意味や背景も交えながら業務の内容を伝え、教わる側からの質問を受け付けます。
●「Do」:教わる側に実際にその業務をやってもらいます。
●「Check」:「Do」の反省点や改善点などを伝えると共に、「Tell」で教えきれなかった細かなことも教えます。
また、OJTの最大の目標は実務を通じて実践的な力を習得することにあります。まずは簡単な業務からスタートし、最後は難易度の高い業務ができるようになるように、段階的にOJTを進めましょう。
OJTの効果をより高めるために、OJTの実施前・実施後の動き方も大切です。
OJTを行う前に、まずは「育成後に、どのような人材になっていることが望ましいか」を考えましょう。事前に育成後の人物像を確認することで、OJTで習得すべきスキルを明確にすることができます。
次に、教わる側の現状を把握しましょう。これまでの経験や知識、学習の傾向等を把握し、足りないものをOJTで補っていく必要があります。育成内容が決まったら、教える側の選出を行いましょう。
円滑なコミュニケーションのために教わる側と年齢が近い社員を選んだり、よりハイレベルな内容を教える場合にはベテラン社員を選んだりと、対象者や研修内容にマッチした社員を選ぶことが求められます。選出する社員は、指導に関する以下の基本を理解していることが望ましいでしょう。
●ティーチング
●コーチング
●オープン・クエスション
●伝え方
新入社員や経験の浅い社員を指導することになった場合には教えることがたくさんあるため、「ティーチング」の技術が必要になります。業務の理念や目的を伝えてから実際の流れをやってみせ、教わる側に実際に業務に取り組ませたら、フィードバックを行いましょう。
教わる側が業務に慣れてきたら、次に意識したいのが「コーチング」です。コーチングとは、教わる側が自分自身で考えるようにできるように助けることです。自分で考えることができるようになれば、臨機応変に柔軟に対応できる応用力が身につきます。全ての答えを教えるのではなく、答えを自分で考えてもらうようにしましょう。
OJTの効果を高めるためには、ティーチングとコーチングのバランスを意識することも大切です。教えすぎると自分で考えることができなくなる一方で、十分な経験がない中で考えさせようとするのも難しいことです。教わる側の理解度を確認しながら、ティーチングとコーチングのバランスを考えましょう。
教わる側の理解度を確認するときに有効なのが、「オープン・クエスチョン」です。YesかNoかでは答えられない質問をすることで、どの程度理解しているかを把握しましょう。回答に対してさらにオープン・クエスチョンを重ねることで、より理解度を高めることも期待できます。
教わる側の能力をさらに引き出すためには、伝え方も重要です。相手を否定したり他者と比較したり、失敗を責めたりするような叱り方では、教わる側はやる気を無くしてしまいます。失敗の原因や改善点を伝えるなど、今後の成長につながるような伝え方をしましょう。
また、注意するだけではなく、成果を出したときなどにきちんと褒めることも求められます。褒めることで相手の良さを引き出し、モチベーションアップにつなげましょう。
教える側が決まったら、OJT計画を立案します。具体的な研修内容やスケジュール計画を立て教える側とすり合わせを行い、実際の育成でズレが起きないようにしましょう。
また、教わる側にも事前に求める人物像や研修の全体像を伝えることで、より高い効果が期待できます。
OJTで育成計画を立て、定期的に振り返る際に役立つテンプレートを用意しました。記入例を参考に、活用してみてください。
※こちらはあくまでもPDF資料です。Excel版をご要望の方は問い合わせよりご連絡ください。
(同業の方、お名前・企業名をダミーにされている方のダウンロードはお断りする場合がございますので、ご了承ください)
<使い方のポイント>
●目指す姿:研修終了後にどのような状態になってほしいか、教える側・教わる側双方が共通認識を持って進める
●月目標:研修終了後に目指す姿から逆算して数値目標や定性目標など、より行動をイメージしやすい具体的な目標を立てる
●結果:月目標に対してどれぐらいできたのか、できなかったのかを振り返る
●研修内容:目標達成のためにどのようなスキル習得やフォローが必要かを考え、研修計画を立てる
●OJTからのコメント:月の取り組みに対して褒める点、改善点などをアドバイスする
OJTが成功している企業には、3つの共通点があります。OJT成功の鍵となる3つのポイントを見ていきましょう。
意図的とは、どのような目的でOJTを行うのかをしっかり認識することです。OJTを実施する前に、教える側と教わる側の双方に、目的や目標などを明示することが重要です。
目標をより明確にするため、「OJT終了後には、一人で◯◯の業務をできるようにする」など具体的なゴールを示しましょう。
計画的とは、きちんとした計画に基づいてOJTが行われることを意味します。短期間で効率的にスキルを習得させるためには、OJTの実施期間や具体的な業務スケジュールなどの計画をしっかりと練っておきましょう。
とは言え、進捗には個人差があるため計画どおりに進まないケースもあります。遅れが発生した場合には、教える側や人事担当者がその原因や対応策を考える機会を設けることも、OJT成功の鍵となります。
継続的とは、一度で終わるのでなく一定の期間継続的にOJTを進めていくことです。一度教えただけで習得できる業務もあれば、何度も継続的に教えないと習得できない業務もあります。
習得に時間がかかる業務ほど現場で必要とされることも多いため、OJT終了後もOJTの延長線上にあると認識しましょう。教わる側の改善が必要な業務に関しては、OJT終了後も継続的に経験させていくことが重要です。
人材育成のためにOJTを導入したけれど、うまくいかないというケースもあるでしょう。OJTがうまくいっていないと悩んだときには、何が原因かを考えた上でのアプローチが必要です。
実務で必要なスキルを習得させるためのOJTですが、教わる側が独学で身につけていたスキルや別の職場で習得していた業務手順があった場合など、指導をきちんと聞き入れてもらえないというケースがあります。その原因は、OJTの成功のポイントの一つである「意図的」の欠如です。なぜ、この方法を習得させたいのか、その意図を明確に示しましょう。その上で、企業のルールとして決まったものであるということを教わる側に理解してもらうことが、問題解決のために重要となります。
教える側任せになりがちで、研修の成否が教える側の能力や意欲に依存するということは、OJTではよくあるケースです。その原因は、OJT成功のポイントの一つである「計画的」の欠如です。この現状を打破するため、教える側のスキルアップや指導方法の統一が、企業には求められます。教える側への研修の実施や、指導手順のマニュアル化を進めていきましょう。
繁忙期などにOJTが実施されると、研修が一度きりで終わってしまい、十分なフィードバックが行われないというケースに陥りがちです。その原因は、OJT成功のポイントの一つである「継続的」の欠如です。一度きりの研修ではスキルの習得が難しく、フィードバックが不十分だと教わる側の意欲の低下を招きかねません。こうしたケースでの対応策として有効なのが、継続的段階的な指導計画を作成し、フィードバックの実施回数を増やすことです。指導マニュアルに指導計画のフォーマットを入れる、フィードバックの指標を明確化するといったことに取り組み、OJTの継続的な実施を図りましょう。
OJTについてさらに深く学びたいときにおすすめの本を4冊、ご紹介します。
●『超解』シリーズ OJTで面白いほど自分で考えて動く部下が育つ本 【著】松下 直子
部下への指導がなかなかうまくいかずに悩んでいる中堅・ベテランのマネジャー向けの本です。業務をうまく進めるために重要なのが、上司と部下との関係。それを踏まえて、OJTを使った実践的な人材育成方法について説明しています。
●[ポイント図解]OJTで部下が面白いほど育つ本 【著】内村 政光
「OJTとはどのようなもの?」といった基本から、OJTを支える「社内の仕組み」作りの方法までを分かりやすく解説した一冊です。「優等生タイプ」や「気難しいタイプ」など、部下のタイプ別に具体的対応の仕方を紹介しているのが特徴です。コーチングのスキルやOJTの実践法まで幅広く理解するのに役立ちます。
●OJT完全マニュアル 部下を成長させる指導術 【監修】松尾 睦 【編集】ダイヤモンド社人材開発編集部
「いいからやれ!」が通用しない現代で、部下の育成に悩む社員に向けた本です。「目標設定」や「計画立案」、「計画の実行」や「評価」など、段階ごとに育成上手のマネジャーの指導方法をふまえた実践的な対処法を解説しています。
●研修開発入門 【著】中原 淳
企業内部で研修を企画・立案し、自社に最もフィットした研修を実施・評価していく人を対象にした入門書です。「学んで終わり」ではなく、学んだ後に現場で成果を発揮できるような研修の設計や実施方法について、学術的にまとめられています。
即戦力が求められる現代では、業務の一環として現場で訓練を行うOJTは人材育成の有効な方法の一つです。OJTがうまく進めば、教わる側だけでなく教える側のスキルアップも期待できます。
一方で、OJTには課題や不向きの業務があるという側面もあるため、適宜OFFJTと組み合わせることが効果的な人材育成のためには重要です。OJTとOFFJTをうまく併用し、企業が求める人材の育成に努めましょう。
(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)
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