月1000人の採用を行った出前館。「採用できる人材」と「育成指針」がカギだった

株式会社出前館

執行役員 デリバリーコンサルティング本部本部長
清村 遙子(きよむら ようこ)

2004年、通信ベンチャーに入社して、数多くの新規事業立ち上げに参加。2007年に日系総合コンサルティングファームに転職し、事業戦略や営業マーケティング関連のプロジェクトを手掛けた。2013年、リクルートに転職して住宅事業系部門で事業企画を担当。2018年から株式会社出前館で勤務。現在はデリバリーコンサルティング本部本部長として、配達品質向上への取り組みをけん引する。

配達品質UPのカギは「人」。朝礼などアナログな手法で企業理念を浸透させる
営業縮小している飲食店の店長・従業員を一時的に採用チームに迎え、採用力を強化
LINEとの提携で得たビッグデータ解析力でさらなる業務効率化を目指す

コロナ禍による外出自粛や在宅ワークの増加が追い風となり、「中食(なかしょく)」市場が活発になっています。なかでも急速に拡大を続けているのが、レストランなどがつくった食事を一般家庭などに配達するデリバリー業界。同業界の大手である株式会社出前館では、急増するニーズに対応するため、最盛期には月1000人規模でデリバリースタッフ(配達員)を採用しました。同社はどのようにして、大量の人員を確保、育成したのでしょう。また、今後はどのような採用方針や業務効率化戦略を立てているのでしょうか。出前館でデリバリーコンサルティング本部の責任者を務める清村遙子氏(以下、清村氏)にお話を伺いました。

清村遙子

配達品質UPのカギは「人」。朝礼などアナログな手法で企業理念を浸透させる

創業直後の出前館は、「宅配ポータルサイト」という位置づけでしたね。

清村氏:はい、そうです。当社は、自前の宅配システムを持っている企業と一般の消費者をオンラインでつなぐサービスを提供する会社として出発しました。しかし、このやり方だけだと、取り扱える商品が宅配ピザや宅配寿司などに限定されてしまいます。そこで2017年から始めたのが、出前館が自ら拠点を設け、配達網を用意して宅配を代行する「シェアリングデリバリー」というサービスでした。

出前館に依頼することで、宅配システムへの設備投資が難しい小規模チェーン・個人店でも宅配が利用可能になったわけですね。そのなかで、「デリバリーコンサルティング本部」はどのような役割を果たしていますか?

清村氏:一言でいえば、「配達の基盤をつくり、守る仕事」です。例えば、宅配エリアを広げる際、どの商圏なら利益が得られるか検討する。配達品質の向上や新拠点開設のため、デリバリースタッフを採用・育成する。業務効率化などを目指し、既存拠点の運用法を改善するなどの業務を担当しています。配達のクオリティは、お客さまの満足度を大きく左右します。そのため、私たちは「高品質な配達」を毎日追求しているのです

配達品質は、利用客の満足度にそれほど影響するのですか。

清村氏:影響します。2020年7月、当社では約2万5000人の利用者にアンケートを実施しました。そのとき、料理の宅配サービスに対して最も重要な要素として挙げられたのが「熱々の料理が届くこと」だったのです。もちろん、料理の味や値段の安さはお客さまにとって大切なことでしょう。しかし、それと同等以上に「できたての料理が崩れていない状態で届く」ことが重要なのです

なお、アンケートで2番目に挙げられたのは「デリバリースタッフの身だしなみとマナーが良いこと」。そして3番目が「約束の時間より早すぎたり、遅すぎたりしないこと」でした。当社では従来からこれらの3要素を大切にしていましたが、改めて重要性を認識しなおしました。

近年の宅配サービス業界では競争が激化しています。最大のライバルと目される「Uber Eats」などが出てきたことで、なにか変化はありましたか?

清村氏:変化の1つは、宣伝活動に力を入れ始めたことです。例えば、現在はダウンタウンの浜田雅功さんを起用したテレビCMを流しています。そしてもう1つは、当社の強みである「配達品質の高さ」に、さらに磨きをかけようとしていることです。

配達品質を高めるために、普段からどんな取り組みをしていますか。

清村氏:宅配サービスのなかには、業務委託を受けた個人事業主に配達を託すところがあります。個人事業主は出来高制で収入が決まるため、複数の案件を同時に請け負い、一気に配達して効率を高めようと考えがちです。そのため、配達までに時間がかかり、せっかくの料理が冷めてしまう危険性が高くなります。一方、当社のデリバリースタッフは直接雇用のアルバイトスタッフが中心です。ですから、配達品質を最優先してお客さまにお届けすることができます

また、スタッフ教育にも力を入れています。当社では各配達拠点に店長がいて、アルバイトリーダーと、一般のアルバイトスタッフを管理する仕組みになっています。各配達拠点では毎日朝礼が行われ、安全や仕事の心構えに関する標語を唱和しています。

出前館は創業20年あまりのベンチャーで、ITの力を最大限に生かしている企業ですよね。それなのに、従来型企業のように朝礼を行っているというのは意外です。

清村氏:いいえ、当社には「日本の古い会社」のような側面もあります(笑)。ただ、それは良いことだと思いますよ。デリバリースタッフはお客さまとの最大の接点ですが、店長はその様子を直接確認することができません。そこで、朝礼などを通じて「お客さまを大切に」という考え方を常に伝える必要があるのです。

配達品質を左右するのは、結局「人」当社の基本理念を全デリバリースタッフに浸透させるには、デジタルな伝達ルートだけではなくアナログな場が必要だと、私たちは考えています。

配達品質UPのカギは「人」。朝礼などアナログな手法で企業理念を浸透させる

営業縮小している飲食店の店長・従業員を一時的に採用チームに迎え、採用力を強化

新型コロナウイルスの感染拡大は、出前館にどのような影響を与えましたか。

清村氏:外出自粛や在宅ワークの増加などにより、当社の2020年4~6月におけるシェアリングデリバリー取扱高は対前年比で4倍にも達しました。ニーズ増に応えるため、急ピッチでデリバリースタッフの採用・育成を進めました。緊急事態宣言が発令されてから数カ月は、月1000人ペースで採用していました。

当時の直営拠点数は120店程度。この体制で月1000人も採用するのは大変だったのでは。

清村氏:飲食店などの休業でアルバイトスタッフが働けなくなっていたこともあり、募集者はたくさん集まってくれました。問題は面接などの採用フェーズでした。通常は各拠点の店長だけが面接をするのですが、それではとても追いつかない状況でした。そこで当社では、「飲食店向け緊急雇用シェア」という施策を急きょ打ち出しました。これは、休業や営業縮小を余儀なくされている飲食店の店長・従業員を一時的に各拠点へ受け入れる取り組み。飲食店の店長や店員の方々に当社の採用方針や経営理念などをお伝えし、その上でデリバリースタッフの採用チームに加わっていただいたんです。

採用チームに外部の人が参加して、きちんと機能したのですか。

清村氏:それが、思いの外うまくいったんです。飲食店で働いている皆さまはコミュニケーション能力が高く、また、アルバイトスタッフを採用した経験も豊富でした。そのため、当社の採用方針などを一度理解していただいたあとは、スムーズに採用活動を進めていただけました

飲食店の営業自粛が終わった9月上旬に、「飲食店向け緊急雇用シェア」は終了。参加していただいた方々は飲食店に戻られました。本音をいえばそのまま当社で活躍してほしかったのですが(笑)、皆さまが本来いるべき場所に戻れたのは良かったと思います。また、各飲食店は私たちの大切なパートナー。一緒に働けたことで、お互いに理解が深められたことも良かったです

デリバリースタッフだけでなく、正社員の採用についてはいかがでしょうか。

清村氏:こちらも増やしています。対応エリアを広げるため拠点を増やし、現在は月5~10人のペースで店長候補を採用中です。また、営業・経営企画・マーケティング・システムなどの部門でも、適宜採用を行っています。

なるほど、ニーズの拡大に対応しているわけですね。一方、2020年5月から「配達パートナー」(業務委託)の募集を始められました。直接雇用にこだわられていた背景からすると、大きな方針転換だと思いますが、これもニーズ拡大への対応策ですか。

清村氏:それは理由の1つではあります。これまでもデリバリースタッフを増やしてきましたが、それにはどうしても限界があります。そこで、業務委託を組み合わせることでニーズ増に対応したいと考えました。もう1つの理由は、収益効率をあげるためです。配達の一部を業務委託で補うことで、固定費である人件費の抑制を狙いました

業務委託を導入することで配達品質に影響はでていませんか。

清村氏:配達をメインで担うのはアルバイトスタッフで、業務委託はあくまで補助的な存在です。それに、業務委託を採用する際には必ず面接を行いますし、累積で3回のクレームが入った方にはアカウント停止の措置をとるなどして品質の維持を図っています。

業務委託先には個人事業主だけでなく、自社で配達機能を持つチェーン店も含まれています。それらの企業は、配達頻度が下がる時間帯に出前館の配達をこなすことで収益を増やせますし、当社も委託先の高品質な配達網を利用できるため、win-winの関係が築けています

営業縮小している飲食店の店長・従業員を一時的に採用チームに迎え、採用力を強化

LINEとの提携で得たビッグデータ解析力でさらなる業務効率化を目指す

配達品質を維持しさらに高めるには、アルバイトスタッフの教育も必要だと思います。

清村氏:その通りです。当社ではすべてのアルバイトスタッフに、仕事の進め方はもちろん、安全運転やコンプライアンスの重要性なども教える3時間半の研修を行っています。最終テストに不合格だった人は再受講が必要なので、人によってはさらに長時間研修を受けている人もいます。

アルバイトスタッフのやる気を維持し、さらに高める取り組みも工夫しています。当社では従業員満足度調査を定期的にやっているのですが、同じ立場で長く働き続けている人は、成長感がなく仕事へのモチベーションが下がる傾向にあることがわかりました。そこで、一定のスキルを身につけた人は一般アルバイトからサブリーダー、アルバイトリーダーへと昇格させ、待遇も良くするようにしています。また、正社員への登用制度も定めました。実際に、アルバイトから社員になり、拠点の店長、エリアマネージャーへと昇格している例もあり、モチベーション維持に役立っています。

研修や指導は、採用直後にしか行わないのですか。

清村氏:いいえ。アルバイトスタッフには、日ごろから顔を合わせている各拠点の店長によって頻繁に指導や意識づけを実施しています。業務委託先にも本部から定期的に情報発信をして、企業理念などを共有するよう心がけています。

アナログなコミュニケーションを大切にしていることはわかりました。ただ、業務効率化を進めるうえでは、システム化も欠かせないと思いますがいかがでしょう。

清村氏:おっしゃるとおりです。例えば、デリバリースタッフが使う配送アプリは、頻繁にアップデートして使い勝手を改善しています。また、配達ルートや時間などのビッグデータを解析し、さらに効率の良いやり方を常に模索中です

その意味で、2020年3月にLINEグループと資本業務提携を結んだのは大きかったですね。LINEは以前からデータマーケティングに取り組んでいましたが、そうしたノウハウを持つエンジニアやアナリストが当社の開発チームに加わったことで、ビッグデータの活用が加速しています。もちろん当社でも、優秀なエンジニアの確保を進めているところです。

今後もデリバリー需要は拡大するとみていますか。

清村氏:はい、そう考えています。日本の飲食市場におけるデリバリーの売上額シェアは3%程度で、デリバリーのバイクが街中を走り回っている韓国や中国、高校生が昼食をデリバリーで済ませたりする台湾などに比べるとまだまだ低い状況です。つまり、日本のデリバリー市場はまだブルーオーシャンなのです。新型コロナウイルスの影響はまだまだ不透明ですが、今後もデリバリースタッフ業界は成長するでしょう。また、従来は寿司やピザなど、特別な時に頼む「ハレの料理」を配達することが多かったのですが、今後はもっと日常的な料理を運ぶようになるのではないでしょうか

いずれは、料理以外を配達する可能性だってあると思っています。将来当社も、コンタクトレンズやクリーニング済みの衣料品、医薬品など幅広い品物を運んでいるかもしれません。

そのためには、配達品質だけでなく安定性も磨かなければなりませんね。

清村氏:そうですね。できるだけ安定的なサービスを提供できるよう、今後も配達網の整備、そして業務効率化とシステムの改善を続けます。一方、「配達品質を左右するのは人」という点もおろそかにせず、採用や教育についても力を入れていきたいですね。そして、デリバリーを「暮らしになくてはならないインフラ」に育てることが、私たちの望みなのです。

LINEとの提携で得たビッグデータ解析力でさらなる業務効率化を目指す

取材後記

清村氏の話から伝わってきたのは、「デリバリー企業にとって最も大切なのは配達品質。そして、それを左右するのは、結局『人』」という出前館の強い意思でした。同社はビッグデータ解析やシステム改善などデジタルなやり方で業務効率化を目指す一方、アナログなコミュニケーション手法も使ってデリバリースタッフを教育することにも注力しています。この、デジタルとアナログの併用で全社のパワーを高めていく方法は、他業界でも通用する考え方だと感じました。

取材・文/白谷輝英、編集/d’s JOURNAL編集部