【メガバンク3行スペシャルインタビュー】“銀行不人気論”は過去の話か。いま、主要3行にキャリア採用候補者が集まる本当の理由とは

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金融業界はFinTechの隆盛で銀行を中心に、マネジメント層やスペシャリストなどのキャリア採用が活況
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メガバンク3行が推進する人的資本経営。共通のキーワードは「自律」
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銀行不人気からの復活。「金融×IT」など新ビジネスに可能性を感じる転職希望者が増加
世界経済の潮流、FinTech(フィンテック)の隆盛などで日本の金融業界とメガバンクにも変化の時が訪れている。
かつて、採用と言えば新卒入行のみだったメガバンクだが、2024年はキャリア採用比率が5割に迫る勢いを見せている。メガバンクがそろってキャリア採用を活性化する背景にはどのような要因があるのか――。
また一時期、就職先として超人気だった銀行は、マイナス金利導入やフィンテック企業台頭の影響で、人気が下がる局面もあった。こうした時代の変化を経験したメガバンクは、どう変わったのか――。
前回と同様に、みずほフィナンシャルグループ、三井住友銀行、三菱UFJ銀行から人事部の方をお招きし、直近の取り組みや人事戦略、キャリア採用の要員計画、組織開発などについてお話を伺った。
本稿では、「メガバンクのいま」を、お伝えしたい。

メガバンク3行が推進する「人事制度改革」
――直近のお取り組み、実績などについて簡単にご紹介ください。
株式会社みずほフィナンシャルグループ 角田 憲市氏(以下、角田氏):〈みずほ〉では、採用、異動などの人事戦略における権限について実際にビジネスを担う部門に委ねるという、思い切った取り組みを2024年度から始めました。
人事が考える良い人材と、ビジネス部門が考える良い人材像が異なるというケースは往々にしてあります。今後は、ビジネス部門が主導し、ビジネス戦略と人事戦略の連携をより強化できるようにするために、人事権限のシェアを始めたところです。しっかりと時間をかけて準備も進めてきました。これまでもそういった取り組みはありましたが、明文化し制度に落とし込んだところが大きな違いです。
同様に社員に適用される人事制度も大きく変えました。銀行においても、「終身雇用」という考え方は徐々に過去のものとなりつつあり、社内外の人材流動は不可避という前提に立ち、制度改革を進めています。その一つが「年金・退職金制度」です。
旧来の年金制度は、一定期間以上在籍しなければそれまで積み立てた金額を年金ではなく一時金でしかもらえず、また、退職金制度も含めて自己都合退職時には減額される場合もありました。退職、あるいは転職する社員にとっては不利な制度です。
これを年金制度は全額「確定拠出年金(DC)」とし、退職金制度の自己都合退職時の減額も廃止することで、〈みずほ〉を離れるという決断をしても積み立てた年金・退職金は減額されず、これまでの雇用慣行を前提とした制度を改めました。
株式会社三井住友銀行 菅家 哲朗氏(以下、菅家氏):ビジネスが多角化していることもあり、人事部が主体であった採用活動に各部門の関与を深め、「部門主導」の採用を推進しています。新卒採用でもコース別採用枠を増やし、部門に配属するということも進めてきました。
また、直近ではキャリア自律という観点から、3つのコンセプトに沿って人事制度の改定を検討しています。
1つ目のコンセプトは、全従業員が自律的に選択した業務領域でプロフェッショナリティを追求すること。2つ目は、年次にかかわらずパフォーマンスが公平に評価される制度を作ること。3つ目は、価値観が多様化している現代において、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の観点からキャリアや働き方を選択可能とすることです。
株式会社三菱UFJ銀行 片岡 裕平氏(以下、片岡氏):MUFGでは今年の4月に、3年間の中期経営計画をスタートさせました。
「成長戦略の進化」・「社会課題の解決」・「企業変革の加速」を中計3本柱とし、「企業変革の加速」の一つに「人的資本の拡充」を掲げています。従業員の成長を支えることで、企業としての業績向上や持続的な成長につなげ、それをまた従業員に還元していく。この良い循環をしっかり回していくことが重要だと考えています。
また、従業員の成長を支えるという観点で、2025年4月に再度制度改定を予定しており、コースも統合します。
これまでは、「総合職」と「ビジネス・スペシャリスト職(BS職)」の2つに分けて採用・育成をしてきましたが、今後はコースの垣根を取り払って「プロフェッショナル職」とし、職務ベースで誰もが挑戦・成長できる環境を人事制度からも支えていきます。
リファラルなどのキャリア採用にも力を入れており、2023年度は350名のプロフェッショナルの方に入行いただきました。これは新卒採用とほぼ同数です。
もう一つ、キャリア研修にもますます力を入れています。現代は「組織の成長」と「個人の働きがい」、そして「個人の人生の幸せ」という3つの視点での最適解を探る時代になりました。
個人のキャリア観について、昭和は敷かれたレールに沿って進む「電車」だとすれば、平成は「車」、令和は「ドローン」に例えられるのではないでしょうか。ドローンは自由自在に飛び回ることが特徴です。終身雇用ではなく、自由にキャリアを選べるようになった今、自らキャリアをデザインするマインドや、具体的な専門スキルを身に付ける必要があります。
自律的キャリア形成の出発点は自己理解であり、若手のみならず、40歳向けにもキャリア研修を拡充しました。今後は若手から30歳、40歳、50歳と、横串を通すような研修体制を敷いていきたいと考えています。
みずほフィナンシャルグループ 角田氏:当行でもやはり、「自律(自立)」がキーワードです。受け身で待つのではなく、自分で考えて、自分でストーリーを作ってほしいと伝えています。
活き活きと働きつつ、設定したゴールに全員で向かう組織を目指しています。伝え方を間違うと、「好きなことを好きなようにできる」と勘違いされる恐れもあります。
しかし、個人の裁量や期待値を、会社のパーパスに照らしてバランスを取ることで、もっと仕事にやりがいをもって働くことができるのではないでしょうか。それが、個々のパフォーマンス向上にもつながり、結果として人的資本向上にもつながると考えています。
三井住友銀行 菅家氏:3行共通のキーワードとして「自律」という言葉が出てきましたが、「自ら律する」というところにポイントがあると思います。
「自律」と「自由」は異なるもので、何でも好きにできるということではなく、自らを律して求められるスキルを身につけ、自分が希望する夢に向かって努力をし、会社や社会に貢献していく、ということが重要です。
これまでは「就社」という価値観が主流で、会社に所属することが大きな目的の一つでしたが、今は「職を選ぶ」「会社で自己実現をする」という「就職」の考え方に大きく変化しつつあります。会社と個人は従属的な関係ではなく、選び選ばれる、相思相愛の関係にあるべきだという考えへのシフトです。
価値観の多様化は重要なことですが、一方で、これまで銀行として培ってきた価値観やカルチャーの中には失ってはいけないものもあります。
当行では自律を促しつつも、会社が社員に求める共通の価値観を明確にすべく、「プロフェッショナル」「挑戦」「チームワーク」という3つの人材ポリシーを定めました。これらを体現・実現してくれる方には、銀行としていろいろな機会を提示し、チャレンジを後押ししていきたいと考えています。

キャリア採用の活性化により、組織風土もカルチャーも変わっていった
――前回の対談から約1年がたちました。キャリア採用の進展や、中長期計画におけるキャリア採用の組織開発・要員計画などをお聞かせください。
みずほフィナンシャルグループ 角田氏:2023年度のキャリア採用は、フィナンシャルグループ、みずほ銀行、みずほ信託銀行の3社で計555名に上りました。これは新卒採用の数に匹敵するもので、キャリア採用数増加の流れは、今後も変わらずに続くと考えています。
これまで銀行の「人材確保」というと、新卒採用か社内の人事異動を意味しており、「キャリア採用」とはごく一部のハイスキル人材採用のみでした。
しかしここ1~2年で、キャリア採用の比率が急速に高まっています。ビジネス部門側でも、外部からキャリア採用で入社された方と接する機会を得て、その意義を肌で感じることでさらにキャリア採用に対する理解が深まるという好循環が起こっています。「社内で最適な人材がいないなら、キャリア採用で探しましょう」という会話ができるようになったのは、ごく自然な流れだと思っています。
三井住友銀行 菅家氏:2023年のキャリア採用数は、前年比で2倍の200名に達しました。
経済に目を向けると、数十年ぶりのインフレ、賃上げという経済の好循環が起きています。また、日本では長らくマイナス金利が続いていたため、金利が存在する世界を経験していません。
さらに預金、融資、為替取引のみならず、「金融×IT」や「金融×サステナビリティ」などのビジネスニーズが高まり、銀行の守備範囲が広がっている現状を見ると、商業銀行が果たすべき役割がますます高まってくると思われます。
そのような変化に伴い、社内のスキルセット・人材開発だけでは追いつかない面も出てきますから、異業種で多様な経験を積まれた方に入行いただくことは合理的な流れですし、今後その流れは加速していくでしょう。
三菱UFJ銀行 片岡氏:10年前を振り返ると、キャリア採用はほとんどしていませんでしたが、ここ数年で飛躍的に増加し、昨年度は350名の方にキャリア採用で入行していただきました。今年度はさらに増加する予定です。
ただ、「採用数」自体が目的ではなく、事業戦略あっての人材戦略・人事運営ですから、ビジネスの変化に合わせて、必要なポジションに最適な人材を採用するということをかなえていきたいと思います。
人事が事業部門のニーズや会社の事業戦略をより深く把握し、社内で育成した人材を登用したり、キャリア採用で外からお迎えしたりと、ベストミックスを図っていきます。「いい人材とは何か」と考えたときに、新卒もキャリアも関係ありません。
組織としては多様な価値観を認め合うことが重要で、社員個人は自分の価値観と銀行のパーパスとの接地点を言語化し、プロフェッショナリズムを追求・貢献することが求められます。そういう組織でありたいと理想を掲げ、各施策に取り組んでいます。
――「金融×IT」など、ビジネスにおける広がりが見られる中、どういう人材が適しているのかがわからないなどといったご苦労はあるのでしょうか?
みずほフィナンシャルグループ 角田氏:日々、試行錯誤しています。仲間になっていただきたいと思って採用した判断がどうだったのかは、常に検証が必要です。
例えばピープルアナリティクスの知見を活用したり、各部門、配属部署の意見もヒアリングしたりしながら入行後の面談などを通じて確認し、ひたすら改善を続けていきたいと思います。
三井住友銀行 菅家氏:デジタル領域における優れた人材は、あらゆる業界でニーズの高い人たちです。そういう方に金融業界に入っていただくことは、簡単なことではありません。
とは言え、キャリア採用の応募は年々増加傾向です。メガバンク全体がキャリア採用を強化している影響や、銀行がデジタル、サイバーセキュリティなどの分野でビジネスを強化していることが広く世の中に認知されてきたことが理由でしょう。
社会に貢献したいと考える人や、新しくビジネスを展開してみたいという人にとって、資金力や人脈、強固な顧客基盤などのアセットがある銀行は、チャレンジに適した環境だと感じていただけているようで、業務の面白さ・ダイナミズムが浸透していることを実感します。
三菱UFJ銀行 片岡氏:銀行に対するお客さまからの信頼、信用、保有する情報は、長い年月をかけて積み上げてきたものであり、フィンテック企業では一朝一夕に得られないものということで、そこにビジネスの広がりや潜在力を感じていただける方も多いようです。
私が思うキャリア採用の難しさは、エッジが効いた方や、「MUFGっぽくない」方をどう採用するかということです。私自身、採用面接過程で注意していることは、仮に「数年で辞めてしまうかもしれない」と思ったとしても、それだけをもって判断しないようにしています。重要なのは、会社のパーパスに共感してくれているかということです。
そこさえあれば、あとは個人の価値観ですし、自由に活躍してもらい、面白い組織を作っていただきたいと思います。異なる価値観の方が入行し、融合していくことが重要ですので――。
――近年、キャリア採用枠で入行された方についてお伺いします。新卒採用に比重を掛けていた数年前と比べて、キャリア採用者の特性、マインド、あるいはプロパーとの違いなど特徴や違いなどを感じることはありますか?
みずほフィナンシャルグループ 角田氏:キャリア採用の方は良い意味で「目線」が違い、会議での質問一つとっても、当社しか経験していない人にはない視点を感じることがしばしばあります。これは間違いなく組織としてプラスに働いていると感じます。
少し前までは「当社の色に染まっていない」などと、違和感を示す人もいましたが、少しずつ違いを受け入れる、違いを価値として受け入れるインクルーシブな体制ができてきました。
社員のエンゲージメントはとても重要だと考えていますが、キャリア採用の方に学んだり、組織でその視点を活かしたりするなどし、より良い組織づくりに向けての地道な取り組みが必要だと思います。
三井住友銀行 菅家氏:新卒とキャリアでは、業務に臨む姿勢やマインド、価値観の違いはあって当然ですし、それで良いと思っています。
キャリア採用を強化した目的は、専門人材の確保はもちろん、カルチャー改革も一つでした。同質的な組織にならないよう、外のカルチャーを取り込むことは大事なことです。銀行員の常識は世間からは非常識、ということが往々にしてありますから、外からの風は良い刺激となり、組織の活性化につながります。
キャリア採用数を増やしてから、さまざまなスキル・経験を持つキャリア入行者と共に働き刺激を受ける社員が増えたり、組織としても多様な価値観を受容し合える姿に変容したりしつつあるように感じます。良い意味での化学反応が起きてきていますね。
三菱UFJ銀行 片岡氏:新卒とキャリア採用とでは、良い意味で、違いを感じることがかなりあります。
例えば、キャリア採用の人とお話ししていると、対話の中で自分自身の価値観やコミュニケーションのクセがわかります。それはとても良いことで、この違いをどう組織発展につなげていくか――、そこが重要かと思います。
現在では、キャリア採用がマイノリティではなくなり、「隣に座っている人がキャリア採用の方」という環境が当たり前になってきました。組織カルチャーのフェーズが変わり、キャリア採用の方にもなじんでいただきやすい組織風土が醸成されてきたように感じます。

銀行不人気からの復活。その背景に見られる要因と取り組み
――新卒の間では金融業界、とりわけ「銀行」に対する不人気の風潮があったように感じています。考えられる理由と、そのイメージを払拭するためにどんな取り組みをされたのか、具体的なお話をお聞かせください。
みずほフィナンシャルグループ 角田氏:その理由の一つは、金融のビジネスモデルが脅かされたことが大きかったと思います。ゼロ金利からマイナス金利になったり、決済ビジネスに他業種の企業が参入してきたりと、「銀行のビジネスは大丈夫なのか?」という疑問が出てきたりするなど、金融業界全体の問題がありました。
また、銀行と言えば、「ある程度の給料はもらえるのだろうが、仕事はつまらなそうだ」「お堅い業界だ」というイメージがあり、裁量をもって自由にやってみたいという若者の価値観と合わなくなってきていたのだと思います。
このイメージを払拭するために、経営をトップダウンで進めるだけではなく、社員目線で物語を語るように心がけてきました。
〈みずほ〉では「ともに挑む。ともに実る。」というパーパスを打ち出していますが、お客さまの挑戦を支えるという社内で最も浸透している思いとともに、自らも変革に挑戦しながら、豊かに実る未来を共創していくという意味が込められています。
変化が加速する時代の中で、銀行で何ができるのか、「金融×何か」の掛け算でできることは何かということを、言語化してこれまで以上に強く発信していくことが重要だと思います。
三井住友銀行 菅家氏:私も当時就職先として銀行が不人気になってきている流れを肌で感じていました。根柢にはフィンテックの台頭や、銀行の伝統的な間接金融、対面ビジネスの不要論があったと思います。
ただ直近の復調は、コロナ禍も大きな影響の一つと言えると思います。未曽有の感染症によりグローバルに経済が停滞する中で、資金繰りに窮する顧客を懸命に支援しました。若手の営業社員は企業に頼られることが多くなり、銀行の間接金融の必要性が改めて認知されたと考えます。若手社員からは「法人営業が楽しい!」という声も聞かれました。
また、テクノロジーについてはむしろ積極的に活用し、「金融×IT」という分野で新ビジネスをゼロイチで生み出しています。
銀行の社会的役割・価値がフォーカスされたこと、銀行という舞台で新しいチャレンジができることが世間に認知されたことが、復調につながっていったのだと思います。
三菱UFJ銀行 片岡氏:フィンテック企業が台頭する中で、「銀行業は必要だけど、銀行は不要だ」などと面白おかしく取り上げられ、学生の方が世の中の雰囲気や風潮に流されてしまったということもあるでしょう。
しかし、日本がゼロ金利から抜け出してきたことや、銀行で新ビジネスを展開できるということが世の中に伝えられてきたことなどから、銀行に対する印象は少しずつ変わってきています。
多様性を尊重したり、本人の希望を後押ししたりするようなチャレンジ制度を作るなどの組織風土改革や、宇宙ビジネス、DXといった新しい取り組みなどを、学生の方に丁寧に伝えていくことが大事ですし、意識的に発信するようにしています。「銀行はいろいろなことができる面白い業界だ」ということに気付いてもらえたらうれしいですね。
――『半沢直樹』をはじめ、『花咲舞が黙ってない』『下町ロケット』など、銀行を舞台としたドラマや映画などが人々を楽しませてきました。こうしたエンタメが実際の採用活動、行員の働き方やモチベーションなどに影響を与えたり、そこから憧れて銀行に来られたりする人はいるのでしょうか。
三菱UFJ銀行 片岡氏:実際にはあまり聞いたことはありません。ドラマを見て、というよりは、まさに実家が事業をやっていて銀行にお世話になったなど、実体験に基づく志望動機はもちろんあります。エンタメの影響がどこかであるのかもしれませんが…。
三井住友銀行 菅家氏:銀行と言えばかっちりしたスーツで、靴も毎日ピカピカに磨いて…という印象があると思いますが、今は私服勤務の人もいますので、エンタメで描かれる銀行とはイメージが違うかもしれません。エンタメから銀行の正しい印象を伝えられれば良いですね。
株式会社みずほフィナンシャルグループ 角田氏:確かに、ドラマで描かれている内容は、銀行の姿について「芯を食っていない」という気がします。銀行を志望することにはなかなか直結しないのではないかな、と思いますね。
マネジメント層やスペシャリストの採用など採用の多角化をますます推進
――フィンテックの普及拡大などを背景に、今後の金融業界はますます「金融」以外の専門知識やスキルが必要になるでしょう。いち銀行として、新しいものを受けて入れていく文化・風土づくりへの取り組みや理想形をお聞かせください。
みずほフィナンシャルグループ 角田氏:大きな変化としては、意思決定を行うポジションにキャリア採用人材を登用するようになったという点です。
これまでの銀行は、新卒入社の、いわゆる「プロパー社員」が意思決定層に就くという人事が典型的でしたが、キャリア採用者が影響力あるポジションに就くことで、組織のカルチャーが変わってきました。
社外での経験をお持ちの方々ならではの新しい視点に触れることがありますし、社内では当たり前になってしまっていたルーティンの作業や時間の使い方、会議の進め方などにおいて気付かされることが多々あります。
役員やマネジメント層のキャリア人材の採用も伸びていますが、さらなる改善を進めるためにも、意識的にマネジメント層のキャリア採用を進めています。
また、入社時点ではマネジメント層ではないかたちで入社されたキャリア人材も、入社後のマネジメント層への登用という点では、プロパー社員と比較しても公平な環境で登用の機会はあり、入社の違いを理由に登用が遅れるようなことはありません。
三井住友銀行 菅家氏:キャリア採用を推進することで、他社のベストプラクティスが持ち込まれ、銀行の常識も良い意味で壊れていくのだろうと思います。
新卒採用で入行した人は、銀行組織内で成功体験を積み、成長を続けていくものの、同じ組織にいると固定観念ができてきますし、「常識を超える」ということが難しくなります。
そして、これまでの新卒入行者は一定、年次でポストに就いていくという考え方がありました。キャリア採用で入行するスペシャリストが、市場においてどう評価され、どのように社内ポストを勝ち取っていくかを目の当たりにすることで、自分のマーケットバリューを意識するようになります。そうすることで、軸足が「年次」から「専門性」に移り、刺激につながっていくでしょう。
三菱UFJ銀行 片岡氏:「銀行の当たり前」は、世間とずれているということがよくあります。特に、「意識決定の遅さ」という点は、多くの方が聞いたことはあるでしょう。
ここを改善すべく、会社の目指すべき価値観であるバリューに「スピード」というワードを盛り込み、中期経営計画の主要戦略にも「スピード改革」を掲げました。忖度(そんたく)のコミュニケーションをどんどんなくしていくよう、俊敏性をもって進めていきたいと考えています。
現在の銀行の文化は、長い時間をかけて作られてきたものですので、明日からいきなり変わるということは難しいでしょう。ただし、キャリア採用の拡大も一例ですが、銀行も着実に変化しています。10年前と比べればその違いは明らかで、10年後も、大きく変わっていることでしょう。
――ありがとうございました。
【取材後記】
時代が巡り、メガバンク人気がまた盛り返してきている。銀行と言えば新卒で入行し、年功序列で昇格していくというのがかつての常識であった。しかし今は違う。新卒入行者数とキャリア入行者数がほぼ同数になり、他業種と同様に、キャリア入行組がマネジメント層に就任することが当たり前になってきた。
IT、セキュリティ、宇宙業界など、他業種で経験を積んだスペシャリストが銀行にキャリア入行し、銀行が持つ資産、人脈などを活用して社会課題解決に向けて活躍しているという。インフレーションや金利上昇などの経済変化を見ても、銀行に期待するところはますます大きくなっていくだろう。
[企画・取材・編集/鈴政武尊・d’s JOURNAL編集部、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション]
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□ 採用取り組み事例:株式会社NTTデータ 「採用候補者とのコミュニケーションの質が明暗分ける」
□ 採用取り組み事例:株式会社いーふらん 年間200人採用成功! 「小さなリーダーをつくる」がコンセプト
□ カゴメ×積水ハウス「キャリア自律を促進する人事施策と人事部門の在り方」
【中途採用】dodaサービス総合パンフレット
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