採用ペルソナとは?重要性や設定ノウハウ・具体例をまとめて紹介【シート付】

d’s JOURNAL編集部

採用活動の主な目的は、「自社に成長や飛躍もたらす人材を確保すること」にあります。そのためには、単に優秀な人材を集めるのではなく、「自社が求める人材」を的確に把握したうえで採用を進める必要があります。

そこで重要となるのが「採用ペルソナ」という考え方です。この記事では、採用ペルソナの重要性や考え方、設定する際の具体的な方法などを見ていきましょう。

採用ペルソナとは


「採用ペルソナ」とは、そもそもどのような意味を持つ用語なのでしょうか。ここでは、類似した用語である「採用ターゲット」との違いも含めて、理解を深めていきましょう。

採用活動におけるペルソナの意味

「ペルソナ」とは、もともと心理学者であるユングが提唱した心理学用語 であり、古典劇などで用いられる「仮面」を語源とした言葉です。心理学では「人間の外的側面」や「自分の内面に潜む姿」を表す言葉として用いられていましたが、現代ではそこから転じてマーケティングやビジネスのシーンでも広く使用されるようになっています。

たとえば、採用活動においては、「自社が採用したい人材の具体的な人物像」を意味します。以下のような項目について具体的なイメージを描き、理想の人材像を明らかにすることが、採用ペルソナを設定する目的です。

採用ペルソナの設定項目例

・年齢
・性別
・学歴・職歴
・経験・スキル
・能力・資質
・保有資格
・希望年収
・趣味
・価値観・パーソナリティ
・仕事で重要視したいこと
・情報収集の手段
・コミュニケーションのスタイル

採用ターゲットとの違い

採用ペルソナとよく似ている言葉に採用ターゲットがあります。両者は同じ意味で用いられるケースも多いですが、ターゲットは採用したい人材の「層」を表す意味合いが強く、ペルソナよりも広い範囲を示すのが一般的です。

それに対して、ペルソナは特定の人材を思い浮かべられるほど、ピンポイントで条件を設定していくのが大きな特徴です。たとえば、ターゲットは「30代、マネージャー経験2年以上、コミュニケーション能力に優れた人材」のように、ある程度の余地を設けて考えます。

一方、ペルソナは「32歳、男性、同業種のメーカーでマネージャー経験2年以上、希望年収は600~700万円、周囲の意見を引き出すのが得意」など、ストーリーのキャラクターを描くように細かくイメージをつくりあげていくのが特徴です。

採用ペルソナが重要な理由

採用ペルソナ設計の主な目的は、「採用活動の効率化」と「ミスマッチの予防」にあります。従来の採用市場では企業が求職者を選ぶ買い手市場の傾向が強かったため、まずは幅広く母集団を集めて、そこから選考を進める手法が一般的でした。

つまり、「頭数を揃える」ことに主眼が置かれていたということです。しかし、現代では求職者が企業を選ぶ売り手市場の状態が長く続いており、こうした状況にも変化が生まれています。

また、求職者はインターネットを通じて、以前とは比較にならないほど豊富な情報を収集できるようになっています。そのため、企業としては明確な採用ペルソナを設定し、それに合わせた情報発信や採用活動を行う必要性が生まれたのです。

さらに、転職が一般化したことにより、企業と人材のミスマッチによる離職も大きな課題となっています。あいまいな条件設定で採用した結果、双方の価値観に食い違いが生まれ、定着につながらないというケースが増えているのです。

そのため、採用をスタートする段階で具体的なペルソナを描き、それをもとに選考を進めていく重要性が高まった面もあります。

採用ペルソナを設定する3つのメリット


採用ペルソナの設計には、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは3つのポイントに分けて解説します。

求める人材像にブレがなくなる

ペルソナの設定は、求める人材像の条件を言語化するプロセスと言い換えることもできます。明確な言葉で具体的な内容として落とし込むことで、採用活動に携わるメンバー間で共有しやすくなるのがメリットです。

現代の採用シーンでは、従来と比べてさまざまな採用ツール・サービスが開発されており、企業に対して多様な選択肢が用意されています。優位に進めるためには、求人広告を幅広く打つだけでなく、特定の人材にピンポイントでアプローチをかける「ダイレクト・ソーシング」や従業員に知人を紹介してもらう「リファラル採用」といった手法にも目を向けなければなりません。

ペルソナがしっかりと固まっていれば、対象者の特性や価値観を踏まえて、どのような採用手法が適しているのかを導き出すことができます。そのため、採用方針がしっかりと固まり、各プロセスの意思決定にブレが生じなくなるのです。

自社のアピールポイントが明確になる

採用ペルソナが明らかになっていれば、自社の魅力をどのように訴求すればよいかも考えやすくなります。一般的に、魅力の訴求は対象者が広くなればなるほど、汎用性が高まる反面で引き付けるパワーは弱くなってしまいます。

幅広い層の求職者を対象にすれば、どうしても表現やテキストが画一的になってしまい、うまく自社の魅力を届けることができません。なぜなら、採用するポジションや求める年代・性別などの条件によって、それぞれ魅力を感じてもらいやすいポイントが異なるためです。

採用ペルソナをしっかりと固めておけば、自社のどのような点がアピールポイントになるのかを分析できるため、より効果的な求人テキストを作成することが可能です。

採用活動の効率がよくなる

無駄な作業やプロセスが減り、採用業務の効率が上がるのも採用ペルソナを設定する重要なメリットです。求める人材像が不明瞭であれば、特に書類選考や面接といった選考段階の担当者に大きな負担がかかってしまいます。

たとえば、採用担当者や現場のメンバーは高く評価しているにもかかわらず、役員面接で落ちてしまうケースが多いという場合、母集団の形成をやり直さなければならないなどの大きな負荷が生じます。あらかじめペルソナが固まっていれば、経営層とも共有することで基本的な判断基準としてそのまま活用できるため、効率的に業務を進められるでしょう。

採用ペルソナを設計する手順


採用ペルソナを設計するときには、どのような流れで進めるとよいのでしょうか。ここでは、具体的な手順を7つのステップに分けて見ていきましょう。

必要な人材について情報を集める

まずは、自社が必要とする人材について、できるだけ細かく情報収集を行うことが大切です。当然ながら、人材の獲得や配置・育成は経営戦略と密接に結びついているため、経営層の意見は重要な価値を持ちます。

そのうえで、実際に業務を担ってもらう場面をイメージするために、現場の担当者にもヒアリングを行うことが大切です。自社やそれぞれの部署がどのような人材を求めているのか、まずは箇条書きなどで書き出してみるとよいでしょう。

この段階で、必要な人数と各人材のおおまかな要件を把握しておくことが大切です。

採用目的を定める

続いて、採用目的を明確化し、採用活動に携わる関係者に共有する必要があります。なぜその人材が必要なのかを掘り下げることで、人となりや価値観に関する条件も明らかになり、ペルソナの設計精度が高まっていきます。

たとえば、退職した人員の補充が目的なのであれば、その人材の要件を洗い出すことも重要です。あるいは、組織の長期的な補強の軸を獲得するのであれば、現状のスキルや経験ではなく、ポテンシャルを重視したペルソナに切り替えることが大切です。

このように、ペルソナの設計においては採用目的を明確にし、各メンバーが共通認識を持っておく必要があります。

イメージする人物像の条件を洗い出す

おおまかな人員数と人材の要件、採用目的が明らかになったら、実際にペルソナの設計に取り掛かります。必要なスキルや経験、年齢、価値観などを細かく定め、書き出した条件からストーリーを組み立てるように、キャラクターの肉付けをしていきます。

この時点で、具体的な見本となるような人材(退職した人材など)が定まっているようなら、その人物の特徴も参考にするとよいでしょう。また、イメージを膨らませやすくするために、実際の選考では触れないような内容について設定してみるのも一つの方法です。

「自家用車を持っているか」「どのような趣味を持っているか」など、人柄を連想できるようなテーマを設定すると、ペルソナの具体化が行いやすくなります。

仮設定と現場のイメージをすり合わせる

採用ペルソナは企業の理想を反映したものであり、ともすれば現実性を欠いてしまいやすい面もあります。そのため、最初の段階ではあくまでも「仮のペルソナ」としておき、現場に当てはめてみてふさわしいかどうかを検証することが大切です。

検証を行う際は、責任者だけでなく入社したばかりの従業員や若手のメンバーなど、幅広い立場の相手に意見を求めるとよいでしょう。経営層が考えるペルソナと、現場が求める人材との間にあまりにも大きな乖離がある場合は、最初のステップに戻って丁寧に認識のすり合わせを行わなければなりません。

また、双方の意見をそのまま取り入れるだけでは、ペルソナが非現実的な設定になってしまう可能性もあります。難航してしまう場合は、必須の条件、あると望ましい条件のように段階分けしながら設定を調整しましょう。

現状の採用市場に応じて要件を絞り込む

現場との意見調整を行ったあとは、現実的な採用市場に合わせて、さらに要件を調整していく必要があります。たとえば、自社が業界平均と変わらない待遇や給与水準しか用意できない場合は、現実的に求められる人材のペルソナも平均的なレベルになると想定されます。

この状態であまりにも高水準なペルソナを設定すれば、求人広告を出しても応募者が集まらず、採用活動を見直さなければならない事態に陥ることもあるでしょう。そのため、市場の状況に合わせて適切な水準に設定することが大切です。

たとえば、市場分析の結果、求めている業種の経験者採用が一般的に難しいとされている場合は、未経験者にも視野を広げるといった判断が必要です。

実際に募集・選考を行う

ペルソナの設定が完了したら、その内容に沿って募集・選考を行います。ペルソナに近い人材からの応募が増えるように、採用手法や求人メッセージなどを丁寧に検討し、最適なものを選択することが大切です。

また、選考をスムーズに進められるように、ペルソナに沿った選考基準や評価シートを作成しておくと便利です。面接官の負担を軽減できるとともに、選考のクオリティを一定以上に保てるようになります。

見直し・修正を行う

一連の採用活動が終わったら、ペルソナを見直し、必要に応じて修正する必要があります。精度の高いペルソナを設定したつもりでも、状況の変化によって思うような応募が集まらないこともあるため、効果測定は必ず行いましょう。

なお、見直しは人事担当や採用担当だけでなく、経営層や現場のメンバーも巻き込んで行うのが理想です。次回の採用に活かすためにも、正確な分析と検証を行いましょう。

ペルソナ設定の例


ここでは、基本的な採用ペルソナの考え方として、必須となる重要項目と具体的なフォーマット例をご紹介します。

3つの重要項目

採用ペルソナは、「社会的な特徴」「志向・心理的な特徴」「経験・実績」の3つを主な軸として設定すると考えやすくなります。社会的な特徴とは、次のような項目のことです。

社会的な特徴

・年齢
・性別
・年収
・学歴
・趣味
・ライフスタイル

社会的な特徴に関する項目は定量化しやすいものが多いので、採用ペルソナを設定するうえで足がかりとなる部分です。次に、志向・心理的な特徴とは、パーソナリティに関する項目であり、以下のものが該当します。

志向・心理的な特徴

・キャリアの考え方(安定志向/挑戦志向)
・仕事の優先順位
・リーダーシップ
・対人関係の価値観
・理想
・仕事で実現したいこと
・業務に関する悩み
・能力を発揮しやすい環境

志向・心理的な特徴に関する項目は、将来性や現場でどのような活躍が期待できるかといった点などがあげられます。そして、経験・実績には次のような項目が該当します。

経験・実績に関する特徴

・資格
・専門性
・職務経験
・役職経験
・責任の範囲

上記の軸をそれぞれ掘り下げていき、具体性のあるペルソナを作成することが大切です。

採用ペルソナの設定例

採用ペルソナは、誰が見ても共通の具体的な人物像が思い描ける程度まで詳細につくりこんでいくのが理想です。採用ペルソナの設定例をご紹介するので、参考にしてみてください。

設定項目 内容
性別 男性
年齢 30歳
最終学歴 〇〇大学 〇〇学部 〇〇学科
住居 東京都〇〇区(単身世帯)
年収 600万円
資格 基本情報技術者試験合格(応用情報技術者試験へ挑戦の意欲もある)
現職 従業員数100名規模の中小企業でエンジニアリングを担当
仕事内容 主に法人向けシステムの保守・点検業務を担当
リーダー経験 3名のチームメンバーの育成と担当する
性格 ・学生時代のスポーツ経験から、即断力と積極性を身につける
・好奇心が強く、新しい物事にもスムーズに順応できる
現職での悩み ・年功序列制によりキャリアアップに限界を感じている
・ルーティンワークの増加により成長を感じられないでいる
転職で重視すること ・従業員同士の情報交換や勉強会でスキルアップしたい
・エンドユーザーが見えるプロジェクトに関わりたい

このように、内面の特性や悩みについても具体化しておくと、採用チームで共通のイメージを持ちやすくなります。ただし、すべての条件にピッタリと当てはまる人材が見つかるケースはまれであるため、それぞれある程度の遊びを設けておくことも大切です。

採用ペルソナを活用するためのポイント


採用ペルソナを設計したら、実際の採用活動に落とし込んでいく必要があります。具体的な採用方針を明確化することで、採用に携わる担当者の認識を共有でき、効果的な採用活動に結びつけられます。

最後に、採用ペルソナを活用するためにおさえるべきポイントを確認しておきましょう。

ペルソナに合った採用方法・媒体を検討する

採用手法には、求人サイトや人材紹介サービス、ダイレクト・ソーシングといったさまざまな種類があります。より高い効果を期待するのであれば、ペルソナがもっとも多く存在している媒体を見極めることが重要です。

たとえば、高度な専門職の人材を求めるのであれば、幅広い層を対象とした求人サイトよりも、専門職に特化した人材紹介サービスやダイレクト・ソーシングサービスを利用するのが近道です。特にダイレクト・ソーシングサービスは、求職者一人ひとりの属性を細かく確認したうえで企業からアプローチが行えるため、ペルソナの精度が高ければ高いほど相性のよい手法となります。

やみくもに人材を募ろうとするのではなく、まずは自社が求めるペルソナを明確にして、それぞれに合った採用方法や媒体を検討してみましょう。

内定までのストーリー設計を行う

採用ペルソナの設計は、基本的に企業が求める人材がピンポイントで定まっているときに行われるものです。対象者が少数になるため、じっくりと時間をかけて内定承諾に至るまでのストーリーを具体化し、採用活動に落とし込むとよいでしょう。

たとえば、「現状のキャリア形成に不満を感じている若手の人材」「より柔軟なキャリア形成を求めている30代前半」といったペルソナに対しては、企業側もキャリア形成に関するアピールを積極的に行うのが効果的です。また、若手が多く登録されている採用媒体や人材紹介会社に絞り込むことも大切です。

そして、面接においては自社ならではのキャリアプランの提案や、人材育成の仕組みなどを知ってもらうような機会を設けるのも有効といえます。内定に至る道筋まで描いておき、優秀な人材を逃さないための仕組みづくりを実現しましょう。

採用に直接携わる部署だけでなく、経営層や現場の担当者の意見や考えも交えながら、広い視点で検討していくことが重要です。過去に採用した人材の事例なども踏まえて、採用率を高めてみましょう。

まとめ

採用ペルソナの設計は、現代の人事戦略において特に重要度を増しているプロセスといえます。企業と人材のミスマッチを防ぎ、優秀な人材に定着してもらうためには、精度の高い採用ペルソナの設定が重要となるためです。

ペルソナを検討する際には、人事担当や採用担当だけでなく、経営層や現場の担当者なども幅広く巻き込むことが大切です。また、設計したペルソナに沿って求人媒体や選考プロセスを考え、採用活動全体の流れに活かしていくこともポイントとなります。

自社が必要とする人材をピンポイントで獲得するためにも、いきなり採用活動を始めるのではなく、採用ペルソナの設計に力を入れてみてはいかがでしょうか。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)