母集団形成とは?重要性と実践の手順、効果を上げるためのポイントを解説

d’s JOURNAL編集部

採用活動を行ううえでは、選考の精度や仕組みを整えることが重要です。しかし、その前に採用者の分母にあたる「母集団」に目を向けることが大切な一歩となります。

この記事では採用活動における「母集団形成」の重要性を解説したうえで、実際に行う際の手順をご紹介します。

また、効果的な施策を行うためのポイントや、陥りやすい課題と解決策もあわせて見ていきましょう。

母集団形成とは

「母集団」とは、もともと統計学で用いられることが多い用語であり、「調べたいデータ全体」を指す言葉です。たとえば、日本で働く女性の平均年収を調べたい場合、まずは「日本で仕事をする女性全員」を母集団として取り扱い、そこから標本をピックアップするなどして具体的な調査を進めていきます。

採用活動においては、こうした意味から転じて、「自社の求人に関心を持つ応募者全体の集団」を母集団と呼んでいます。実際に人材採用を行う際は、母集団に対して書類選考や筆記試験、面接などを通じて選考を行い、最終的に残った人材を採用していく流れです。

そのため、母集団形成をどのように行うかが、採用の成否を決定する重要な第一歩となります。

母集団形成が重要とされる理由

採用活動における母集団形成の重要性は、近年ますます高まりを見せています。その理由としてあげられるのが、少子高齢化にともなう労働人口の減少による「売り手市場の加速」です。

総務省や厚生労働省のデータによれば、生産年齢人口は今後も減少を続け、2050年には2021年時点から29.2%も減ってしまうことが見込まれています。買い手市場にあった従来の労働市場であれば、特に母集団形成を意識しなくても応募者が集まっていたため、企業もある程度「待ち」の姿勢で採用活動に向き合えていました。

(参照:厚生省『日本の人口の推移』

母集団形成を行う4つのメリット

母集団形成に力を入れることは、採用活動にさまざまなメリットをもたらします。ここでは、4つのポイントに分けて見ていきましょう。

採用時のミスマッチを予防する

母集団形成は、単に応募者の絶対数を増やすだけではなく、ターゲットを明確化した状態で行います。そのため、自社に合う人材を計画的に絞り込み、採用時のミスマッチを予防できる点がメリットです。

母集団形成を意識せずに採用をスタートすると、具体的なターゲットとなる人材像が社内でも共有できず、社風や価値観に合わない人材を採用してしまう可能性が高くなります。そうなれば、早期離職や採用・育成コストのムダにつながってしまうため、企業としては大きな損失となるでしょう。

母集団形成の段階からターゲット設定も丁寧に行えば、自社に合った人材に絞って効率的に採用活動を行えるようになります。

(参考:『ミスマッチとは?新卒・中途採用の早期離職防止に有効な原因別の対処方法を紹介【資料付】』

計画的に採用活動が行える

母集団形成の大きなメリットは、採用活動の進捗を具体的に把握できる点にあります。母集団形成においては、過去の採用実績などを参考にしながら各ステップにおける人数の割合を把握し、逆算しながらスタート時に必要な母集団の人数を想定することが一般的です。

たとえば、「入社15名→内定20名→2次面接25名→1次面接50名→書類選考・筆記試験70名→応募100名」のように、採用プロセスを遡りながら、具体的な数字に基づいて計画を立てていきます。そのため、採用段階ごとに目標値を設定しやすくなり、数値として共有できる点がメリットです。

また、母集団形成の段階で目標値をクリアできなかった場合は、戦略の見直しもすぐに行えます。その後の選考プロセスを調整するか、採用戦略を一から練り直すか、方針転換を考えるタイミングが早くなるため、つまずきによる影響を最小限に抑えられます。

(参考:『採用計画とは|計画の立て方と事前準備・役立つテンプレートを紹介』)

採用にかかるコストを抑えられる

母集団形成のもう一つのメリットは、採用活動の効率化にあります。売り手市場にある現在の採用環境では、母集団形成が十分に行えていない状況で進めてしまうと、どうしても目標の人数を達成できないなどの不具合が生じるリスクは高くなります。

そうなれば、二次募集や三次募集を行ったり新たな雇用形態にも目を向けたりと、採用活動は長期化してしまいます。活動が長期化すれば、当然ながら採用コストも増えていくため、企業としては大きな損失につながるのです。

また、ターゲットが不明確な状態で採用活動をスタートすると、「費用の割に広告宣伝の効果が薄い」「追加で求人広告を出さなければならない」といった事態に陥る可能性も高くなります。こうした損失は、戦略的な母集団形成を行うことで十分に回避できるものといえるでしょう。

生産性向上につながる

母集団形成により人材採用の仕組みが強化されれば、自社の組織力が向上し、企業としての生産性も高まっていきます。スキルや価値観、経験などにおいて、自社にフィットする人材を採用できる可能性が高まるため、長期的に見ても企業の成長につながっていくのです。

また、意識的に母集団形成に取り組めば、思ったように成果が上がらなかった戦略や取り組みさえも、自社の貴重な財産となります。成功した施策と失敗した施策を丁寧に分析することで、人材採用のノウハウが蓄積されていき、採用活動そのもののレベルも向上するのです。

母集団形成の8つのプロセス

母集団形成を成功させるためには、手順を意識しながら実行計画を立てることが大切です。ここでは、8つのプロセスに分けて、それぞれの流れや注意点を解説します。

採用目的の明確化

効果的な採用活動を行うためには、自社における人材採用の目的を明確にする必要があります。現状を丁寧に把握・分析し、今後の展望や方向性なども十分に加味したうえで、何のために採用活動を行うのかを明らかにしましょう。

たとえば、欠員に対応するための補充なのか、企業の競争力向上や長期的な発展のための募集なのかによって、採用ターゲットや適したアプローチは大きく異なります。ここでは、考え方の具体例として、新卒採用に力を入れるべきケースと、中途採用に力を入れるべきケースの2つのパターンについて見てきましょう。

具体的には、次のような状況にある場合、新卒採用に力を入れるほうが適切といえます。

新卒採用に力を入れるべきケース
・年齢構成の若返りを図りたい
・企業風土や文化を引き継ぐ人材がほしい
・長期的な視点で将来の幹部候補を育成したい
・ジェネラリストを育成したい

一方で、以下のような状況にある場合は、中途採用に力を入れるべきといえます。

中途採用に力を入れるべきケース
・専門性の高い人材がほしい
・ITに関するノウハウを導入したい
・欠員補充のため、即戦力となる人材が必要

このように、企業が迎えている状況や今後の展望に合わせて、明確な目的を設定することが大切です。また、新卒採用と中途採用の例は、あくまで一つの選択肢であり、実際にはさらに細かな方向性を探る必要があります。

人材に関する課題を洗い出すためには、人材マッピングを活用してみるのもおすすめです。これは、企業に必要な人的リソースを検討し、現状で該当する人材がどれだけいるかをまとめ、足りない人材の特徴を導き出すという手法です。

客観的なデータから必要な人材像を見極められるため、採用目的を明確にしたいときに有効といえます。

ターゲットの明確化

採用目的が定まったら、それに基づいて具体的なターゲット像を固めていきます。採用ターゲットの設定については、大きく分けて2種類のアプローチがあります。

一つめは、企業の将来像や今後の展望から逆算して必要な人材像を定義する「演繹的アプローチ」です。もう一つはすでに活躍している人材から人材像を定義する「帰納的アプローチ」です。

状況に応じて適した方法を活用し、自社に必要な人材像を明確に描きましょう。また、トップダウンによる全社的な視点と、ボトムアップによる現場レベルからの視点をどちらも踏まえ、バランスの取れた人材要件を検討することが大切です。

採用予定数の決定

ターゲットが決まったら、次の5つのポイントから採用予定数を検討しましょう。

採用予定数の判断基準

・事業計画
・現在の人員構成
・採用実績
・現場のニーズ
・経営目線のニーズ

前述の通り、母集団の数は採用予定数から逆算していくため、この段階で丁寧に必要な人員数を検討することが重要です。

母集団の目標値設定

採用予定数が決まったら、そこから逆算して母集団の目標値を決めます。一般的には採用工程ごとに数値目標を設定し、一つずつ遡りながらスタート地点の母数を決めていくのが基本です。

そのうえで、母集団の大小による影響の違いを把握しておくことも大切です。母集団が大きすぎる場合、選考に時間やコストがかかってしまうとともに、人材と自社のミスマッチが起こるリスクが高くなります。

一方で、母集団が小さすぎると、内定辞退による採用人数不足に陥るリスクがあります。そのため、最適な目標値を設定することが、採用活動をスムーズに進める重要なカギとなるのです。

採用スケジュールの策定

採用スケジュールも母集団の目標値と同様、内定のタイミングから逆算して検討する必要があります。まずは、採用目標を確認しながら、いつまでに採用しなければならないのかを明確にしましょう。

特に新卒採用の場合は、一斉に各社の採用活動がスタートするため、後れを取ればそれだけ不利になってしまいます。

アプローチ手法の選定

続いて、母集団形成を行うための方法を検討します。応募者へのアプローチ方法にはさまざまなものがありますが、ターゲットに合わせたものを選ぶことが大切です。

具体的には、「年齢」「新卒採用と中途採用のどちらか」「職種や雇用形態」などから、適したアプローチ方法を探るのがポイントです。主なアプローチ手法については、後ほど詳しくご紹介するため、そちらを参考にしてみてください。

採用活動の実施

ここまでのステップを踏まえて、実際に採用活動をスタートする段階です。まずは採用広報の観点に基づいて求人広告を作成しましょう。

採用広報とは、採用後の定着や活躍まで見据えた人材を採用するための広報活動です。採用媒体の文言や説明会などで伝える内容は、入社後のリアルな雰囲気やキャリアパスなど、活躍をイメージしやすいものを心がけることが大切です。

見直し・改善

人材採用は企業にとって、長い目で向き合っていくべきテーマでもあります。そのため、一連の採用活動が完了したら、改めて流れを振り返り、課題の洗い出しを行うことも大切です。

今後の母集団形成に活かすためにも、数値化できるデータを抽出・分析し、社内にノウハウを蓄積するとよいでしょう。たとえば、次のような項目は、数値としてデータを保管できます。

抽出・分析・蓄積できるデータ

・アプローチの種類ごとに得られた応募数
・各選考過程の通過人数
・各選考過程の日程
・内定者数
・辞退者数
・発生したコスト

各ステップにおける取り組みの良し悪しを判断するためにも、時間をかけてデータの分析を行いましょう。

母集団形成の手法

母集団形成の手法には、以下のようにさまざまな選択肢があります。

母集団形成の手法

・求人媒体
・人材紹介サービス
・採用ホームページの作成
・イベント
・ダイレクトリクルーティング
・リファラル採用
・SNSの運用
・退職者の再雇用(アルムナイ制度)

効果的なアプローチを行うためには、各媒体・ツールの特性を理解して活用することが重要です。ここでは、それぞれの特徴やメリット・デメリットをご紹介します。

(参照:『採用手法一覧と各手法を解説|選び方のコツや最新のトレンドも紹介』

求人媒体

求人媒体の主な特徴は次の通りです。

・ターゲット層が広い
・費用は10~100万円程度(媒体やプラン、期間に応じて変動する)
・さまざまなツールが選べる

求人サイトや情報誌などに自社の情報を載せる方法であり、広いターゲット層にアプローチできるのが特徴です。費用は成果課金制と前払い制の2つのパターンがあり、プランや媒体、掲載期間によって相場が異なります。

一度の掲載で多くの応募が得られる可能性もあるのがメリットですが、前払い制の場合は、応募が集まらなくても費用が発生してしまうのがデメリットとなります。

求人媒体には、古くから用いられてきた新聞やフリーペーパー、求人サイトなどがあります。また、エリアや業種に特化したものや、年齢層別にターゲットを細かく選定しているものなど、同じ媒体でも異なる特徴を持つツールがあるため、上手に使い分けるのがポイントです。

人材紹介サービス

人材紹介サービスの主な特徴は次の通りです。

・ターゲットの要件を細かく設定できる
・費用は採用者の年収の3割程度
・非公開での求人も可能

人材紹介サービスを取り扱う企業を通じて、ピンポイントで候補者を見つける方法です。大きな特徴は、ターゲットの要件を細かく設定できる点と、人材紹介会社が人材の質を担保してくれる点にあります。

人材紹介会社のノウハウや信頼度によって、通常の求人ではアプローチできないような人材データを活用できるケースもあるため、専門職やハイクラス人材などの採用時には特に便利です。さらに、非公開で求人を出すことができるのも大きなメリットといえるでしょう。

一方で、仲介手数料として人材紹介会社に採用者の年収の3割程度を支払う必要があり、採用費用単価としてはその他の方法よりも高いのがデメリットです。そのため、幅広く母集団を形成するというよりも、ピンポイントで必要な人材を獲得したいときに相性のよい方法といえます。

(参考:『人材紹介サービスを活用するメリット・デメリットとは?』『「人材紹介サービスを利用しているが、採用がうまくいかない」<9つの理由と解決方法>』

採用ホームページの作成

採用ホームページの主な特徴は次の通りです。

・人材定着につながりやすい
・丁寧に構築すれば長期的に使っていけるツールになる
・成果が出るまでに時間がかかる

自社の既存ホームページとは別に、採用に特化したホームページをつくり、応募を集める方法です。自社が主体となって制作できるため、写真や映像などもふんだんに使って、思う存分に魅力をアピールできるのがメリットです。

採用後の働き方のイメージやキャリア形成なども紹介できるため、自社に関心を持ってもらえれば、人材が定着しやすいのも特徴といえます。また、その他の方法とは異なり、一度質の高いホームページを構築できれば、その後も継続的に活用できるのが強みです。

情報の更新も自由に行えるため、柔軟に活用していけるでしょう。一方で、デメリットとしては、成果が出るまでに時間がかかってしまう点があげられます。

すでに十分な知名度を持った企業でない限り、ホームページを制作しただけですぐに応募数が増えるということは少ないため、求人検索エンジンと紐づけるなど、運用には工夫が求められます。

イベント

求人関連イベントの主な特徴は次の通りです。

・幅広いターゲット層にアプローチできる
・新卒採用時に用いられることが多い
・採用につながらなくてもコストが発生する

採用説明会などでは、幅広い人材に自社の魅力を発信できるのが特徴です。自社で行うことももちろん可能ですが、行政や高校・大学などで行われるイベントに参加すれば、同じ年齢層のターゲットにまとめてアプローチできるため、どちらかといえば新卒採用で用いられることが多い傾向です。

また、人材紹介会社を通じて説明会を行うことも可能であり、こちらは第二新卒の採用時にも活用できます。

(参照:『会社説明会アンケートの質問例23個と注意点を解説。無料テンプレート・フォーマット付き』

ダイレクトソーシング(ダイレクトリクルーティング)

ダイレクトソーシングの主な特徴は次の通りです。

・ターゲットの要件を細かく設定できる
・人材に直接アプローチできる
・1人の採用者に対する工数が比較的に多い

ダイレクトソーシングとは、企業が求職者に対して直接アプローチをかける採用方法です。通常の採用活動のように人材紹介会社や求人媒体を通さず、求職者が登録しているデータベースを通じて、直接スカウトを送るという仕組みです。

通常の求人方法と異なり、企業が主体的にアクションを起こせるため、マッチする人材にピンポイントで自社の魅力を届けられる点がメリットです。一方で、採用までにはデータベースの検索、スカウト文言の作成、応募対応といった多くの工数がかかります。

1人の候補者に対する工数が多いため、大量人数の採用時には不向きな方法といえるでしょう。

(参照:『自社に最適な人材採用を。ダイレクト・ソーシングの活用方法』

リファラル採用

リファラル採用の主な特徴は次の通りです。

・コストが抑えられる
・自社にマッチする人材を採用しやすい
・人材の大量採用には向かない

リファラル採用は縁故採用とも呼ばれており、自社の従業員の紹介を通して採用へつなげる手法です。リファラル採用の大きな特徴は、採用コストがかからないところにあります。

紹介した従業員に対して、一定の報酬を支払う制度を設けている企業もありますが、外部を通じて採用活動をするのに比べれば大幅に費用は抑えられます。また、自社の事情を深く理解した従業員がスカウトを行うため、マッチ度の高い人材を採用しやすい点もメリットです。

一方で、人材をまとめて採用したいケースには不向きであるため、その他の方法と組み合わせて用いるなどの工夫が必要です。また、従業員を通して紹介してもらう方式のため、既存のメンバーが自社を十分に信頼し、好感を抱いているという状況が前提条件となります。

(参照:『リファラル採用とは?導入のメリット・デメリット、運用のポイントを紹介』

SNSの運用

SNSの運用による採用の主な特徴は次の通りです。

・幅広いターゲット層にアプローチできる
・広告出稿する場合には費用がかかる
・運用には一定の時間とスキル、リテラシーが必要

SNS運用のメリットは、採用にかかるコストを削減できる点にあります。有料のSNS広告を出す場合には一定の費用がかかるものの、ユーザーの年齢や特性、地域などを細かく指定して出稿できるため、高い費用対効果が期待できます。

また、自社のアカウントを通じて任意のタイミングで発信できるため、広告の柔軟性が高く、求職者との距離を縮めやすいのもメリットです。自社の社風や職場環境、企業文化などを自然な形で届けられるので、ユーザーにも受け入れてもらいやすいといえます。

SNSの各種プラットフォームを活用するのはもちろん、動画投稿サイトに公式チャンネルを設ける企業も増えており、工夫次第でさまざまな運用方法が考えられるでしょう。ただ、応募者を集めるためには多くの人に情報が届く環境をつくる必要があり、そのためには十分なフォロワー数や登録者数を確保しなければなりません。

明確な成果につなげるためには、一定以上の運用期間やノウハウが必要となる点は理解しておきましょう。また、SNSはときとして企業イメージを大きく左右する可能性があり、不適切な内容が投稿されれば、信用を損なってしまうリスクもあります。

担当者には十分な知識とリテラシーが必要となるため、教育システムも充実させることが大切です。

(参照:『中途採用でのSNS・動画活用。今、求職者の心をつかむ「透明度の高い」採用』

退職者の再雇用(アルムナイ制度)

退職者の再雇用の主な特徴は次の通りです。

・人材を新たに探すコストがかからない
・選考に時間がかからない
・退職前に良好な関係を築けていたかどうかがカギとなる

退職者の再雇用はアルムナイ制度とも呼ばれており、主に育児や介護などで退職したメンバーを対象に、再度受け入れを図る方法です。退職者なら誰でも歓迎するというわけではなく、勤続年数や実績などを踏まえて、一定の条件を設けるのが一般的です。

すでに自社で働いたことがある人材を採用するため、企業側も求職者側も勝手がわかっており、選考に時間がかからない点がメリットです。また、自社の事情を理解したうえで応募してもらえるため、ミスマッチなどの心配もありません。

ただし、円満に再雇用を実現させるためには、周囲の従業員を含めて、アルムナイ制度の意味や目的をきちんと浸透させる必要があります。労働条件や給与などの調整を怠ると、周囲の従業員のモチベーションを下げてしまうリスクもあるため、企業側にはきめ細やかなフォローが求められます。

(参照:『アルムナイとは|採用で注目される理由や制度の事例・導入方法を解説』

陥りやすい課題:量の問題

母集団形成で陥りやすい課題について、ここでは解決策とともに詳しく解説します。

課題:母集団の数が足らない

母集団形成でぶつかりやすい悩みの一つとして、「母集団の数が足らない」という「量の問題」があげられます。母集団の不足に陥る主な原因としては、「自社の認知度不足」あるいは「会社の魅力が伝わっていない」というものが考えられます。

前者は求人情報が十分に認知されておらず、そもそも情報収集してもらう段階で十分な分母が得られていない状態です。一方で、後者は求職者に情報そのものは届いているものの、思うように魅力が伝わっていないという状態です。

どちらに該当するかによって、取るべき解決策は異なるため、まずは現状を正しく把握する必要があります。

解決策:複数の採用チャネルを組み合わせる

認知度が不十分である場合には、露出の方法を見直す必要があります。特にオンラインによる一方的なアプローチに限定されていた場合は、双方向的なコミュニケーションツールやオフラインによる採用活動にも目を向けてみることが大切です。

合同説明会などのイベント開催やSNSを用いた双方向的なコミュニケーションは、企業の担当者と直接やりとりができるため、応募者からすれば大きな安心感につながります。前述のように、人材採用にはさまざまなアプローチ方法があるため、自在に組み合わせながら活用しましょう。

魅力が十分に伝わっていない場合は、求人広告の内容や表現を見直すことが大切です。「ターゲットの設定は明確かつ適切か」「ターゲットに合わせた発信内容になっているか」「応募資格や条件にあいまいな点はないか」「入社後のキャリアアップをイメージしてもらえそうか」など、ターゲットの目線に立って検討し直しましょう。

陥りやすい課題と解決策:質の問題

母集団形成で陥りやすいもう一つの課題として、「質の問題」があげられます。ここでは、具体的な問題点とそれに対する解決策について見ていきましょう。

課題:ターゲット層からの応募が少ない

母集団として十分な数があっても、「ターゲット層からの応募数が少ない」「マッチ度の低い人材ばかりが集まってしまう」という「質の問題」に直面することがあります。

多くの応募があっても、マッチ度が低ければ採用活動の効率が下がってしまい、なかなか組織力の向上に結び付けることはできません。

解決策:良質な母集団形成のための5つのポイントをおさえる

ここでは、質の高い母集団形成のためのポイントを5つに分けてご紹介します。

ターゲットに対する認識の共有

質の高い母集団を形成するためには、採用担当者と各部門でターゲットに対する認識を丁寧に共有することが大切です。認識にズレがあれば、ターゲット外へのアプローチも増えてしまうため、不必要な工数やコストを発生させる原因となります。

人材要件を具体化して、正しく円滑に共有できるような仕組みを整えましょう。

採用チャネルの組み合わせを見直す

母集団形成にはさまざまな方法があり、それぞれに長所と短所があります。一つの手法で思うような成果につながらない場合、複数のチャネルを組み合わせることで、効果が表れるケースも少なくありません。

特に、質の高い少人数の採用者をターゲットにしたい場合は、ダイレクトリクルーティングや人材紹介サービスなどの活用も検討してみるとよいでしょう。

採用メッセージとユーザビリティを見直す

採用ターゲットに対するメッセージ内容は、母集団の量を増やすだけでなく、質を向上させるうえでも重要なカギを握ります。ターゲットに自社がどのようなベネフィットを与えられるかを探り、採用される側の視点で文言や表現を考えてみることが大切です。

また、採用サイトを利用する場合は、見やすく使いやすいサイト構築を心がけることも重要なポイントです。気になる情報にアクセスしやすく、問い合わせや応募も簡単に行えるような設計に変えるだけで、応募者へ与える印象は大きく変化します。

継続的な情報収集に取り組む

適切な採用戦略を固めるためには、市場の動きや応募者のニーズなどを定期的に情報収集しておくことも大切です。採用市場は社会情勢に紐づいて流動的に変化していくため、自社が持っている知識やノウハウだけに頼らず、意識的に更新を続けていく必要があります。

情報収集の手段として、人材サービス系の企業との情報交換を活用してみるのも一つの方法です。

データの分析に力を入れる

母集団の質を高めるためには、採用活動自体の質も高めなければなりません。各工程やチャネルのデータを時系列で把握しておき、分析しながら採用活動をブラッシュアップしていくことも大切です。

特に新卒採用を毎年行っている企業では、「前年と同じ戦略にもかかわらず成果が出ない」「前年の同時期と比べて応募者数が足りていない」など、蓄積されたデータが問題を早期発見するきっかけにもなります。

参考にしたい他社の「母集団形成」成功事例

母集団形成に有効な採用手法を見てきましたが、実際の企業ではどのように母集団形成を図っているのでしょうか。母集団形成に成功している3社の企業事例を紹介します。

株式会社ハートビーツ

MSP事業と開発事業を展開する株式会社ハートビーツは、「増やすのではなく絞り込む」母集団形成に取り組んでいます。採用候補者を絞り込むため、求人広告からダイレクトリクルーティングへと採用手法を変更しました。

採用候補者には自社の課題を率直に伝え、「だからあなたのこんな経験が活かせる」と具体的に伝えています。母集団の数ではなく、中身を重視することで採用成功につながっています。

(参考:『3年間で社員を3倍に!元“ぼっち人事”が伝授する中小企業の「母集団形成」と「採用文化づくり」』

株式会社ベイジ

BtoBに特化したWeb制作会社の株式会社ベイジでは、自分たちなりの情報伝達経路を持ち、情報を発信していくことで母集団形成を図っています。

「会社を知ってもらうこと」を目的に、社員が書いている日報を社外に発信。「仮に1年で1人にしか読んでもらえなくても、その1人が当社にとって最高な人材かもしれない」との思いが根底にあると言います。

飾ることなく素直に情報発信を続け、外部メディアやエージェントには一切頼らずに採用活動を進めています。

(参考:『コロナ禍でも社員が倍に!採用・エンゲージメントに効く「ベイジの日報」とは【隣の気になる人事さん】』)

クラスメソッド株式会社

AWS総合支援や内製化支援サービスなどを提供しているクラスメソッド株式会社では、自社のエンジニアが学んだことを定期的にアウトプットできる場として、オウンドメディアの「DevelopersIO」を立ち上げました。

「DevelopersIO」の特徴は、エンジニアが純粋な思いでエンジニアのために書くメディアであること。当メディアをきっかけに同社に興味を持ち、求人に応募してきた転職潜在層が8割近くに上ります。発信を続けることで母集団形成に良い影響を与え続けています。

(参考:『「働きたい!」エンジニア転職“潜在層”から逆オファーが来るほど!採用~定着に効いている最強⁉オウンドメディアとは【隣の気になる人事さん】』

まとめ

母集団形成とは、人材採用の第一歩となる「応募者の集団」を意識的に構築していく取り組みです。労働人口の減少が続く現代では、企業がただ受け身で応募を待つだけでは、採用競争に勝てなくなってしまう場面も増えています。

積極的にターゲットへアプローチし、計画的に応募者を集めていく母集団形成の重要性がますます高まりを見せているのです。母集団形成の具体的な方法にはさまざまな種類があるため、自社に合った手法を見極めることが大切です。

目的やプロセスもおさえながら、戦略的な母集団形成を行って採用力を高めましょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

【採用ツール比較表付】母集団形成の基本

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