ティール組織とは?具体的な特徴や組織づくりに必要な要素、企業の事例を通して解説

d’s JOURNAL編集部

ティール組織は、企業の硬直化した階層構造やイノベーションの枯渇といった課題を根本から解決する新しい概念です。現代のビジネス環境においては理想的な組織モデルとされており、日本のみならず世界中で注目を集めています。

この記事では、ティール組織の特徴や目的とその他の組織モデルとの違いについて詳しく解説します。

また、ティール組織で活動する企業の事例を通して、具体的な取り組みについても理解を深めてみましょう。

ティール組織とは?

ティール組織とは、トップによる細かなマネジメントがなくても、目的に向かって自律的に進化し続けられる組織のことです。

まずは、ティール組織という概念が誕生した経緯を含めて、おおまかな特徴を見ていきましょう。

ティール組織という概念が生まれたきっかけ

ティール組織という言葉が使われるようになったのは、それほど前のことではありません。2014年にフレデリック・ラルーの著書『ティール組織(原題:Reinventing Organizations)』で紹介されたのが始まりです。

ラルーはマッキンゼーで10年以上にわたって組織変革プロジェクトに携わった組織学のスペシャリストであり、世界中の組織モデルを調査したうえで執筆された本書は、17ヵ国語以上に翻訳され、60万部を超えるベストセラーとなりました。

著書のなかでは旧来型の組織に対する分析と批判が展開されており、それに対抗する理想的な組織モデルとして提唱されたのがティール組織です。

ティール組織の特徴

ティールには「進化」という意味があります。ティール組織とはその名のとおり、上意下達型の指示系統や細かなマネジメントがなくても、目的に向かって自律的に進化し続けられる組織のことです。

権力者が存在せず、メンバー一人ひとりが自身の役割や環境のルールを理解し、状況に応じて独自に意思決定ができる柔軟性がティール組織の大きな特徴です。そもそも、ティール組織が提唱された背景には、現代のビジネスシーンにおいて、従来型の組織運営では不十分な場面が多くなっていたことが関係しています。

グローバル化やIT技術の進歩にともない、ビジネスを取り巻く環境は急速な変化を続けており、硬直した組織モデルでは対応できない課題も少なくありません。階層的なコミュニケーションやプロセス、定期ミーティング、トップダウン方式への依存などを見直し、効率的かつスピーディに動ける組織体制が求められているのです。

ティール組織は、こうした時代の要請を受けて提唱された概念ともいえるでしょう。

ティール組織に至るまでの5つの組織フェーズ

ラルーは著書のなかで、組織のフェーズを5段階の進化過程に分けて紹介しています。段階が進むほど組織としての総合力が高まり、有機的な働きが可能となるのが特徴です。

ここでは、それぞれの組織モデルの特徴について詳しく見ていきましょう。

Red(レッド)組織

第一段階にあたるレッド組織は、「オオカミの群れ」とも比喩される組織モデルであり、個人の力で支配的にマネジメントを行うのが特徴です。もっとも原始的な組織体制であり、1人の圧倒的な支配者がトップに立って運営・管理を行い、力や精神的な恐怖によって統制を図るシステムです。

ただし、圧倒的な力で支配されるとはいっても、組織の構成員が必ずしも不満を感じているとは限りません。強い力に従属することで、かえって安心感を得ている場合もあります。

この組織がもっとも大切にする価値観は、「目先の利益」です。長期的な目標に向けて行動するのは難しく、短絡的で衝動的な行動形態が中心となります。

また、組織ではなく個人の力に結果が大きく左右されるため、仮に優れた成果が生まれたとしても、結果の再現性が低いのがデメリットです。

Amber(アンバー/琥珀)組織

アンバー組織は、「軍隊」とも比喩される組織モデルであり、厳格な社会階級に基づく上意下達の指揮命令系統に特徴があります。レッド組織のように単独のリーダーシップがとられるわけではなく、役職や立場のヒエラルキーが厳格に決まっており、個人にはその役割を忠実にまっとうすることが求められます。

役割分担が明確なため、過度な属人化は防がれ、多人数であっても統率が容易です。そのため、レッド組織よりも長期的な目標を実現しやすいのがメリットです。

一方で、アンバー組織は臨機応変な行動がとれず、環境の変化に弱いのがデメリットとなります。変化よりもヒエラルキーの維持が優先されるため、組織全体として周囲の競争から置いていかれてしまう危険性をはらんでいるのです。

Orange(オレンジ)組織

オレンジ組織は「機械」とも比喩される組織モデルであり、アンバー組織と同じように階層構造によるヒエラルキーを前提としています。しかし、階級が不変というわけではなく、成果に応じて評価が変動し、状況によっては出世も可能であるのが大きな違いです。

組織内に一定の流動性があるため、アンバー組織に比べて競争意識が芽生えやすくなり、イノベーションが起こりやすいのがメリットです。また、数値化されたマネジメントが徹底されているため、成果を評価に結び付けやすく、構成員のモチベーションを向上させやすいのも特徴といえます。

一方で、徹底した数値管理によって強烈な生存競争が起こるため、人間らしさの喪失につながる危険性もあります。過重労働や精神的なプレッシャーにより、構成員が機械化してしまう恐れがある点が、オレンジ組織の重要な課題です。

また、役職が上昇するほど安定と秩序を求めるようになるため、変化の激しい現代では対応が難しい場面も多くなります。

Green(グリーン)組織

グリーン組織は「家族」とも比喩される組織モデルであり、組織だけでなく個人にもきちんと焦点を当てられるのがこれまでの3段階との大きな違いです。雇用主と従業員といった一定の力関係は残しながらも、オレンジ組織と比べて個人の多様性や主体性が尊重されやすいのが特徴です。

単に目標を達成するだけではなく、各メンバーの希望や適した働き方をくみ取り、ワークライフバランスをとりやすいのも大きなメリットといえます。ただし、リーダーにどの程度の権力を残しておくか、権限をどのように組織のなかへ分散させていくかは明確に決まっていません。

そのため、合意形成にはどうしても時間がかかってしまうのが難点です。緊急性の高い場面や、合意形成が行えないケースではリーダーが意思決定権を持つことになるため、後述するティール組織と比較して自律性は不十分といえます。

Teal(ティール/青緑)組織

ティール組織は「生命体」とも比喩される組織モデルであり、文字どおり組織全体が生き物のように有機的な活動を行える理想的な体制です。ティール組織にはマネージャーやリーダーといった役割は設けられず、上司・部下といった縦の関係性も存在しません。

雇用主や株主も含めて、すべての関係者がフラットかつ対等な間柄にあり、組織はメンバー全員のものととらえるのがティール組織における重要な前提です。そして、組織の存在目的や社会的な使命と、個人が達成したい目標を一致させることにじっくりと時間を使います。

そのため、当然ながらリーダーや管理職からの指示命令系統は設けられません。各メンバーがきちんと組織の目的を理解し、広い視点でルールや仕組みを把握したうえで、現場にあっては自律的に行動を起こすのが大きな特徴です。

構成員それぞれが自主的に意思決定を行えるため、環境の変化にさらされても動きが止まることはなく、柔軟に進化し続けられるのが強みです。この点において、ティール組織は現代のビジネスシーンにおいて高いパフォーマンスを発揮するモデルとされているのです。

ティール組織に必要な3つの要素

ティール組織とはあくまで概念であり、特定の体制や型を示す考え方ではありません。ティール組織を目指すうえでは、自社の実情やメンバーの個性に合わせた取り組みが求められます。

しかし、決まった形はないといっても、ティール組織には一定の共通要素があるのも確かです。以下の項目では、ティール組織を実現するための条件ともいえる要素を次の3つに分けて解説します。

ティール組織を実現する3つの要素

・セルフマネジメント(自主経営)
・ホールネス(全体性)
・エボリューショナリーパーパス(進化する目的)

セルフマネジメント(自主経営)

セルフマネジメントとは、上司の指示や管理によって行動するのではなく、構成員一人ひとりが自分の判断で行動することを指します。ティール組織には上下の階層構造がなく、トップダウンによるコントロールは行われません。

具体的には、これまでは組織として部門化していた人事や経理、企画、営業などの業務判断を個人やチームに任せることとなります。しかし、決してルールや意思決定の仕組みがないわけではありません。

その場の状況に応じて流動的にチームを結成したり、ルールがつくられていったりするのが特徴です。そのため、メンバー全員には、自然とリーダーシップやオーナーシップを持ってコントロールする力が求められます。

このように、ティール組織では各メンバーに権限を委譲し、セルフマネジメントを行ってもらうプロセスが必要不可欠です。しかし、それまでトップや部門が担っていた意思決定をすぐに個人のメンバーが適切に行えるというのは、あまり現実的ではありません。

そこで重要となるのが、「助言プロセス」と呼ばれる仕組みです。これは、専門家や関係者などからアドバイスをもらえる制度であり、場合によってはコーチによる伴走も含みます。

助言プロセスを仕組み化することで、メンバーの力量や認識の差をなくし、適切にセルフマネジメントできるようにトレーニングするのも重要な課題です。

ホールネス(全体性)

ホールネスが実現されている状態とは、「心理的安全性」が高い状態とも言い換えることができます。各メンバーが自分の本心を偽ったり背伸びをしたりすることなく、安心して働ける環境を指す言葉であり、恐れや不安を感じずにのびのびとアイデアを出せる状態です。

ホールネスが実現された組織では、全員が活発かつ対等に意見を言えるようになり、積極的な行動が見られるようになります。自分の判断で行動し、成功と失敗を経験しながら成長できるため、セルフマネジメントの能力も自然と身についていきます。

その結果、新たな才能を発見したり、新規事業へのチャレンジ精神が生まれたりと、組織全体が活性化していくのです。しかし、メンバー全員にホールネスであることを実感してもらうのは、決して簡単ではありません。

通常の組織モデルでは、メンバーは常に誰かから評価される立場にあるため、無意識であっても周囲から期待される役割を演じてしまうものです。そうなれば、本来の能力や個性、疑問や不安にはフタをしてしまい、ホールネスを実現することはできません。

まずは、社内全体に異なるカルチャーや意見を尊重し合える風土を築き上げていく必要があります。そのうえで、それぞれの価値観や目的をじっくりと共有し合える時間を設けることが大切です。

エボリューショナリーパーパス(進化する目的)

ティール組織は、常に「何のために組織が存在しているのか」を問い続け、進化を繰り返していくことが前提となっています。会社や事業のビジョン、具体的なサービスなどは、従業員の意思で自ら進化し続けていかなければなりません。

これは、未来を想定して戦略を立て、それに向かって組織全体が動いていくという従来のビジネススタイルとは大きく異なる考え方です。そもそも未来は複雑かつ不明確に変化するものであり、予測やコントロールが不可能であるというのがティール組織における前提です。

変化の激しい現代のビジネス環境においては、現実の状況に応じて常に目的を問い続け、軌道修正していく柔軟性を持ったティール組織の重要性がますます高まっていくとされています。

日本企業とティール組織の関係性

ラルーが提唱したティール組織という概念は、日本国内においても大きな注目を集めました。そこには、多くの日本企業が直面している組織課題も関係しています。

以下の項目では、日本企業における組織運営の実情とティール組織の関係性について見ていきましょう。

オレンジ組織中心の日本社会

従来の日本企業をラルーが提唱する5つの組織モデルに当てはめたとき、もっとも多く該当するのはオレンジ組織であるとされています。オレンジ組織とは、前述のとおり「機械」とも表現される組織モデルであり、数字で徹底管理された成果と流動的な階層構造によって、優れた目標達成力を発揮するのが特徴です。

しかし、過重労働による人間らしさの喪失やモチベーションの欠如などが長らく課題となってきたのも事実です。また、管理された目標設定や働き方は新しい発想の枯渇につながり、現代のビジネスシーンにおいては競争力を保てない場面も多くなってきています。

さらに、「働き方改革」として現状の労働環境を見直す必要性も生まれたことで、オレンジ組織の運営モデルには限界を感じている企業も増えています。さまざまな背景によって、国内にあってもティール組織への注目度が高まっているのが現状です。

オレンジ組織とティール組織の比較

多くの日本企業が当てはまるオレンジ組織と、理想形とされるティール組織では、具体的にどのようなポイントが異なるのでしょうか。主な違いをまとめて確認してみましょう。

オレンジ組織 ティール組織
組織の構造 ピラミッド型 自主経営による自由なチーム構成
役職 明確な役職設定と役職による職務内容の限定 役職がなく役割が流動的に変化する
スタッフ機能 部門分けされた多くのスタッフ機能がある 各チームで自発的に担う
戦略の意思決定 トップダウン方式 各メンバーから自然発生的に生み出される
プランニング 未来予測と統制に基づく 感覚と反応に基づく
スタッフ機能 ・階層に応じて限度額が決められる
・月次、年次の計画がある
・チームの話し合いと助言プロセスが尊重される
・予算設定や予算配分は簡素化される
予算 部門分けされた多くのスタッフ機能がある 各チームで自発的に担う
調整 階層ごとに定められたミーティングで行う 必要に応じたメンバーが集まりミーティングで行う
報酬 ・管理職によって決められる
・インセンティブや実力主義によって給与には大きな差がつく
・各メンバーとのバランスを考慮して自分で決める
・メンバー間における給与の差は小さい
採用方式 ・人事が採用面接を行う
・職務経歴書が重視される
・職務経歴書が重視される ・従業員たちとの面談で行う
・組織の価値観とマッチするかどうかが問われる
情報の取り扱い 秘密厳守であり必要な場合に必要な範囲にのみ開示される 透明性が高く、あらゆる情報を誰でも入手できる

オレンジ組織は効率的な管理と統制によって集団で成果を残していくのに対し、ティール組織は自由と平等を重んじ、そのために公正さや透明性を保つのが特徴となっています。

ティール組織に関してよくある誤解


ラルーの組織モデルは細かく段階分けされているため、ティール組織についても明確な型があると誤解されることが多いです。しかし、ティール組織は決まった型を示すものではありません。

ラルーは世界各国の企業組織を調査・研究するなかで、グリーン組織以前の組織体のどれにも当てはまらない企業が複数存在することを発見しました。そのうち、ユニークな経営方針を持った組織を対象に調査したところ、いくつかの共通点が見つかったことから、それらを第5段階の組織モデルとして扱い、ティール組織と名付けたのです。

そのため、ティール組織の概念を自社に取り入れていくためには、実際に活動している企業の具体例に触れて、共通点を見つけていくことが重要です。

ティール組織で活動する企業の事例

ラルーは著書のなかで、「真にティール組織を実現している先進的な企業はほとんどない」と言及しています。しかし、そのなかでも数少ない事例として、いくつかの企業の取り組みを紹介しています。

以下の項目では、著書で触れられている企業を中心に、ティール組織で活用する事例を見ていきましょう。

海外における企業の事例

まずは、海外における企業の事例として、著書内でも紹介されている2つの組織モデルをご紹介します。

ザ・モーニング・スター・カンパニー

ザ・モーニング・スター・カンパニーは、アメリカカリフォルニア州に本社を置く世界最大のトマト加工会社です。全米におけるケチャップやトマトソースのシェアを30%以上獲得することに成功した背景には、ティール組織による独自の運営体制が隠されています。

大きな特徴としてあげられるのは、次のようなポイントです。

・全従業員がマネージャーとしての権限を持つ
・地位にともなう肩書きや昇進はない
・全従業員に決裁権限がある
・給与や報酬に関する権利はすべて従業員が持つ
・合意書は社内全体で共有する
・各メンバーの報酬はほかの従業員が評価する

チームによる自主経営が基本となっており、従業員それぞれが会社の資金を自由に使うことができます。ただし、それぞれの意思決定には助言プロセスが条件となるなど、セルフマネジメントを行う仕組みが整えられているのも特徴です。

(参照:株式会社ガイアックス『ティール組織の事例紹介。日本と海外の3社と変化の過程を解説』)

パタゴニア社

アメリカのカリフォルニア州に本社を構えるパタゴニア社は、アウトドア・サーフィン用品の製造・販売を行う会社です。環境に配慮した製品・取り組みによって消費者から高い評価を受けている一方で、ティール組織による独特な組織運営の方法にも注目が集まっています。

パタゴニア社は支店のほとんどを海岸沿いに置いており、「従業員はいつでもサーフィンへ行ける」というユニークな経営哲学を掲げているのが特徴です。

・役職はリーダー層、マネージャー層、プレイヤーの3つのみ
・リーダーの役割は「取り組むべき問題」を提示するのみ
・基本的な意思決定はチームに任せられる
・「よい波が出ているときにはメンバーをサーフィンへ送り出す」「ランチタイムにはミーティングをせず、ヨガやランニングに出かけるメンバーに配慮する」「環境に関するインターンシップに参加する場合は一定期間の費用を会社が負担する」といった独自の体制を整える

(参照:Talknote株式会社『累計35万部を突破するベストセラー! 今、大注目の「ティール組織」を正しく理解する』)

国内における企業の事例

ティール組織を実現できるのは、体力のある大企業や先進的な外国企業だけではありません。以下の項目では、国内における事例として、中小企業を中心にティール型の企業を見ていきましょう。

オズビジョン社

オズビジョン社は、『ティール組織』の著書内で唯一紹介された国内の企業です。ポイントサイト「ハピタス」を始め、さまざまなWebサイトやサービスを運営するベンチャー企業であり、「人の幸せに貢献し、自己実現する集団で在る」とのコンセプトのもと、ティール型の組織運営に成功しています。

数々の施策のうち、代表的なのは著書でも取り上げられた「Thanks day」と「Good or New」という制度です。前者は希望者が誰かに感謝するために1日の休暇をとれる制度であり、感謝の対象と行動を社内ブログで共有することを条件に、現金2万円も支給される福利厚生制度です。

また、後者は毎朝の少人数ミーティングで、メンバーの長所か24時間以内に起こったニュースを順番に発表していくという取り組みに該当します。ただし、次第に内容が形骸化し、義務感が生じてしまうなどの弊害が生まれたため、数年後には廃止されています。

しかし、いずれも社内のコミュニケーションを活性化させる取り組みであったことは確かです。施策の実行を通して社内の理念が浸透した結果、ティール組織の3つの要素のなかでも、特に「ホールネス」の具体化に成功しているのが大きな特徴です。

(参照:株式会社オズビジョン『ティール組織に書かれていないこと。』)

株式会UPDATA

不動産関連IT事業や人材紹介事業を行う株式会社UPDATAは、ティール組織型の組織モデルが評価され、2017年にホワイト企業大賞に選出されています。主な特徴として、次のようなポイントが挙げられます。

・オープンな財務諸表、給与情報
・給与は従業員全員が参加する会議で決める
・役職や肩書きの廃止
・労働時間や働く場所、休みは従業員自身が決める
・社員の起業・副業を推進
・経営理念なし
・ノルマなし
・社長や役員は年1回の選挙で決める

フラットかつ透明性の高い組織運営モデルは、ティール組織の典型的な特徴といえます。ティール組織化は従業員の自由な発想につながり、社員シェアリングサービス「Tonashiba」の実現など、さまざまな形で実を結んでいます。

(参照:株式会社ビジョン『「ティール組織」が解決する組織の課題とは?国内事例も示す新しい組織モデルの可能性』)

アズワン株式会社

三重県鈴鹿市に拠点を置くアズワン株式会社は、地域最大手の弁当製造・販売を行う「おふくろさん弁当」を始め、人材のアウトソーシングや食品リサイクル、農業などに携わるグループ企業です。アズワンでは、「人が人らしく、自由にのびのびやれる会社とは?」という問いかけから設立された会社であり、ティール組織としての組織運営に成功しています。

主な取り組みは次のとおりです。

・命令や規則なく、話し合いで意思決定を行う
・社長という肩書きは存在するものの、「社長係」として対外的な対応をするのみ
・メンバー全員が経営者感覚で働く
・労働時間やシフトは自由意志で組み立てる
・失敗に寛容な企業風土の形成
・社内SNSを通じた風通しのよいコミュニケーションシステム

セルフマネジメントとホールネスが実現された社内では、従業員が自主的に働き方をコントロールし、自由な発想でアイデアを生み出せる環境が整えられています。その結果、保温容器での弁当配達サービスを実現するなど、ユーザーのニーズにきめ細やかな対応が行えるようになっています。

(参照:一般財団法人日本経済研究所 イノベーション創造センター 向笠 雄介『フラット型組織に関する調査~人間中心社会における組織構造とは~』)

株式会社ネットプロテクションズ

株式会社ネットプロテクションズは、商品が届いた後に請求書が郵送される「NP後払い」に代表される決済サービスを提供する会社です。同社には、自律・分散・協調の3つをテーマにしたティール組織により、社員の自己実現と社会発展の両立を目指すという組織風土が存在しています。

さまざまな取り組みのなかでも、とりわけ特徴的な取り組みとして挙げられるのが、「Natura」という独自の人事評価制度です。評価の目的を「報酬の適正配分」から「人材の育成・成長支援」にシフトし、心理的安全性を醸成したうえで、社内に「競争」ではなく「共創」の文化を広げていくのが狙いとされています。

Naturaの主な内容は次のとおりです。

・マネージャー役職の廃止
・流動的な「カタリスト」の役割
・5段階の職務グレード「バンド制」の導入
・半期で4回のRDS(Regular Development Support)及び2回のQDS(Quarterly Development Support)の実施
・360°評価による昇格・昇進の決定

カタリストとは、各部署における「情報」「人材」「予算」の采配を行う役割であり、各期で流動的に配置することが可能です。チーム人数の10%程度が理想的な割合とされています。

一定の役割は生じるものの、あくまでも権限はチームメンバーに委譲・共有することが前提とされており、フラットな組織づくりが徹底されています。風通しの良い組織づくりのために欠かせない役割を担っているといえるでしょう。

また、RDSとは同一機能部署かつ自身より上位バンドメンバーとの面談を意味するものです。業績の振り返りと活動方針の策定に役立てられています。QDSはカタリストなどとの面談のことであり、四半期ごとの業績報告と活動方針の策定、短期・中期のキャリアメンタリングに活かされている取り組みです。

(参照:株式会社ネットプロテクションズ『CULTURE(組織風土)』)

ティール組織から見えてくる組織変革の課題

ティール組織を目指すうえで、どの企業にも当てはまる王道な方法というものはまだ確立されていません。そもそも、組織変革には時間がかかり、課題や目指すべき方向性もバラバラのため、自社に合わせた取り組みが重要です。

以下の項目では、ティール組織の概念から見えてくる組織変革のポイントとして、多くのケースに当てはまりやすい観点を4つに分けて見ていきましょう。

変化を恐れずに新たな一歩を踏み出す

ティール組織を目指すうえでは、現状から脱却して新たな組織づくりに踏み出す力が必要です。場合によっては、既存のシステムや階層構造を大胆に壊し、新たに構築していかなければならないケースもあります。

そうなれば、思いがけない反発や衝突が生まれたり、表面化していなかった問題が巻き起こったりするリスクも十分に考えられます。しかし、変化を避けていては、ティール組織は実現できません。

なぜなら、ティール組織そのものも、常に目的を変化させていくという基本概念があるためです。まずは、組織全体の変化を考えるとともに、変革に踏み出す経営層も現状を脱却するという覚悟を持つ必要があります。

多角的な視点で組織を考える

ティール組織はメンバーすべてが主体者として動くのが前提です。特定のメンバーによるバイアスがあれば、上手に組織が回っていきません。

ティール組織への転換を目指すのであれば、経営層はできるだけ多角的に組織をとらえていくことが大切です。必要に応じて外部のコンサルタントやコーチを活用し、客観的な視点に触れていくのも一つの方法といえます。

組織変革は小さな取り組みからスタートする

組織変革は多くの人を巻き込む決断となるため、一度にすべての部署を動かそうとするのではなく、小さな部分からスタートすることが大切です。まずは現状の課題を洗い出し、組織のどこにボトルネックがあるのかを冷静に分析しましょう。

そのうえで、ピンポイントで変えるべき課題を見つけたら、小単位の取り組みで実行と検証を行うことが大切です。そして、成功体験を積み上げながら全体へと広げていくと、無用な衝突や誤解を避けて変革を進めやすくなります。

フラットな対話ができる環境を整える

ティール組織の3つの要素である「セルフマネジメント」「ホールネス」「エボリューショナリーパーパス」に共通するのは、いずれも「対話」によるコミュニケーションの重要性です。フラットで活発なコミュニケーションを図れる環境を整えることが、ティール組織を目指すうえでは重要な第一歩となるのです。

まとめ

ティール組織は組織全体が生き物のように有機的に働き、環境の変化に対して柔軟に向き合える理想的な組織モデルです。複雑に変化する現代のビジネス環境において、ティール組織のしなやかで強靭な組織モデルは大きな力を発揮していくとされています。

一方で、ティール組織は比較的新しく生まれた概念であり、特定の決まった型があるわけではありません。特に日本企業は、ティール組織の2段階前にあたるオレンジ組織で運営されていることが多いため、具体的に変化をイメージするのが難しいと感じるケースも少なくありません。

しかし、旧来型の組織モデルでは、対応できない場面が増えていくのも確かな事実といえます。まずは実際に変革に成功している企業の事例から共通点を見つけ出し、自社に合った取り組みや方向性を模索してみるとよいでしょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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