『補い合うから強くなれる』ーはたらクリエイトが考える組織づくり【連載:第2回】

株式会社はたらクリエイト

取締役 キャリアコンサルタント 高木 奈津子【寄稿】

プロフィール

株式会社はたらクリエイトは、長野県上田市で地方の子育て中の女性を活かす職場づくりを行っています。第1回『はたらクリエイトがつくる、地方の子育て中の女性を活かす職場』では、地方における女性の就業課題や、人材が集まり定着するための取り組みについて紹介しました。
これまで多くの子育て中の女性とともに働く中で定まってきたのは、「子育て中の女性は働く上で越えなければいけないハードルはあるものの ”社会的弱者” ではないし、私たちは支援団体ではない」というスタンス。個々の大事にしたいものに向き合い、仕事を通して「ハードルは越えられるし、自分で変えていける」という経験を一緒に重ねていくことで、共に仕事を楽しんでいくパートナーでありたいと考えています。
今回は、「子育て中の女性」が活きる仕組みと、事業の継続・発展をどのように両立させてきたのか。子育て中の女性スタッフとともに作り上げてきた、採用や業務向上の取り組みを紹介します。

※本記事は、株式会社はたらクリエイト 取締役 キャリアコンサルタント 高木 奈津子氏に寄稿いただいたものです。

採用基準は”共に進化を楽しめる人”。成長する素養を見極める採用

第1回でもお伝えしたように、時代の変化の中で私たちが一緒に働きたいのは「共に進化を楽しめる人」。経験者だけでなく、未経験者でも成長する素養を見極め、採用を行っています。ここでは、私たちが採用の際に意識しているポイントを説明します。

①採用は”子どもの成長フェーズ”にあわせて実施

はたらクリエイトの採用は、子どもが入園・入学を迎える4~5月や、子どもの入園申し込みが始まる10~11月など、主に子どもの成長フェーズにあわせて実施しています。「子育てフェーズの変わり目=親の就業意欲が高まりやすいタイミング」と捉えているためです。求人は、自社が運営するサイトで記事を作成し、主にSNS(LINE@、facebookなど)とハローワークで周知。紙のチラシも配布しており、スタッフの知人や保育園のママ友といったクチコミによる流入もあります。

②会社説明会で”お互いのスタンス”を理解する

企業と個人がお互いスタンスを理解し、入社後のミスマッチを防ぐため、会社説明会を実施。「企業理解」に加え、これから働いていく上で核となる「自己理解」や「お金の理解」を深めるための内容にしています。

説明会で伝える内容

企業理解 ビジョン、事業、仕事内容、職場環境、働き方、目標設定の考え方
自己理解 キャリア・アンカー診断テスト
お金の理解 仕事復帰する上での収入、保険・税金(扶養)の考え方

企業理解では、「働きやすさ(職場環境、働き方等)」の側面だけでなく「仕事の責任(変化や覚えることの多い仕事内容、目標設定等)」について伝えるようにしています。入社前に極力ギャップを減らしておくことで、入社後の不安感の払拭にもつながります。

自己理解では、「キャリア・アンカー(※)」の診断テストを実施。診断結果を踏まえて、自分が大事にしたい上位3つの価値観を選び、全参加者と運営者で共有する時間を設けています。
もともとは、スタッフ同士が価値観の違いを知るために取り入れたものですが、会社とのカルチャーマッチを測り、参加者自身にも働くスタンスを明確にしてもらうために、説明会でも実施することになりました。子育て中、仕事から離れて「子どものため」「家族のため」に時間を使ってきた女性が多く、働くことを通して「自分は何を大事にしていきたいか」に向き合うきっかけにもなっています。

※「キャリア・アンカー」とは、アメリカの組織心理学者エドガー・H・シャイン博士によって提唱されたキャリア理論の概念。自らのキャリアを選択する際に、最も大切な価値観や欲求のこと。主に8つの価値観(専門・機能的能力/管理能力/自立・独立/保障・安定/創造性/奉仕・社会貢献/純粋な挑戦/ワークライフバランス)に分類される

キャリア・アンカー

(キャリア・アンカーの結果の一例)

 

また大事なのが、お金の理解。過去に、働き始めたばかりのスタッフからの「扶養の範囲内での働き方」に関する相談が多かったことから、説明会でも取り入れることにしました。はたらクリエイトでは、基本的にパートタイマーからのスタートとなるため、過去に正社員で働いていた場合には「収入」の考え方が変わってきます。「今は子どもが小さいから、お小遣い稼ぎ程度で…」と安易に選択してしまうと、いざ子どもが大きくなって収入を増やしていきたいときに困ることも。長期的なキャリアを視野に入れた働き方を選択できるよう、説明会の時点で収入や保険・税金についての理解を促しています。

③面接では過去の経験だけでなくその人の思考や行動を見る

面接では、その人の過去の経験や仕事への姿勢を確かめる質問の他、思考や行動の特性を見る実技テストを実施しています。

<物事の考え方や取り組み方を見る実技テストの例>
●PCライティング
お題例「『女の子の始めての靴』というテーマで、500文字以内で文章を作成してください。(作成時間は15分。作成の際、インターネットでの情報収集も可)」
⇒何から取り掛かり始めるか?(とにかく書き始める、構成立てから行う、情報収集から行う…など)
⇒記事の視点は?(自分の経験則に寄っているのか、一般的な情報を入れているか…など)

●ケース質問
お題例「あなたはフレンチレストランのシェフです。1週間後に、芸能人のAさんが来店することになり、オーナーから『ケーキを用意するように』と言われました。あなたならどうしますか?(考える時間は5分。質問があれば適宜聞いてください)」
⇒答えの導き方(内容を深めるための質問をするか、自分で考えるか…など)
⇒着目点(「ケーキを用意する」に対する回答か、「どうしますか?」に対する回答か…など)

曖昧なお題を出すことで、その人の思考(自分の中から考えを生み出すタイプか、外の情報から生み出すタイプか)や行動(目の前のことからコツコツ作り上げるタイプか、大枠から作るタイプか)などの特性を確認しています。「良い・悪い」ではなく、その人の思考や行動の特性を知ることが、適材適所で力を発揮するために大事な要素と考えているためです。

業務を定着・進化させていくサイクル

はたらクリエイトが展開するのは「リモートチームサービス」。これは単なる外注ではなく、クライアント企業ごとに専属のチームをつくり雇用している感覚でコミュニケーションを取りながら、クライアントの事業発展に伴走するサービスです。1日の勤務時間が短い中で、スピーディに質を高めていくため、日々状況をキャッチアップし、改善をしていく必要があります。そこで私たちは、以下のようなサイクルで業務を定着・進化させています。
リモートチームサービス

①目標設定・進捗の見える化

案件ごとに月の稼働時間に応じた目標設定を行い、進捗管理表で現状を可視化しています。「掛けた時間に対して、現状どの程度アウトプットできているのか」「目標ペースから遅れている場合、何に課題があり、どのような対策が必要か」を日々確認しながら業務を行っています。
目標設定・進捗の見える化

(日々の稼働時間の予定・実績管理)

また、それぞれのコラム記事で「何にどれくらい時間が掛かっているのか」についても可視化しています。こうすることによって記事の特性による変動や、個々の成長度合い・コンディションなどを確認し、いち早く課題解決に結びつけています。
コラム1本あたりの時間

(コラム記事1本あたりの時間推移の測定)

目標達成ための日々のすり合わせ

(目標達成ための日々のすり合わせ)

②内省とフィードバック

目標に対する結果を踏まえて個別に振り返りを行い、良かった点や課題、次の目標に対するアクションを検討。それに対して、チームメンバーからフィードバックを行うことで「個」の視点だけではなく「チーム」としての視点も培っています。フィードバックの際は数字や具体的行動などの「事象」と、モチベーション等の「マインド」を分離して話すことで、前向きに課題に取り組むサポートができるよう心掛けています。

③改善提案

日頃の業務だけでなく、組織や環境に対する改善点について、スタッフ全員が意見を出し合える場を設けています。
制度ミーティング
上の写真は、スタッフ全員が参加する制度ミーティングの様子。「今後売上が増えてきたときに、どんな制度や仕組みを作っていきたいか?」をチームに分かれてディスカッションし、発表する場を設けました。全員で出た意見を分類し、重要度・導入コスト・負担感の偏りがないか等の基準をもとに、実行に移しています。
WISHリスト
そして次の写真は、欲しいモノやコトを壁に貼り出して提案する「WISHリスト」。「小さなことでも自分の考えを提案し、変えていく経験を積んでほしい」という思いから、取り組み始めました。提案項目には「5W1H」の要素を盛り込み、特に「Why」や「How」の視点を重視することで、「消費者視点」から仕事をする上での「提供者視点」への切り替えを意識しています。

こうした取り組みを通して「自分たちの意見で会社の制度や仕組みを変えることができる」という楽しさに気付き、「会社=上の人が決めたことに従う」といった固定概念にとらわれず、「自分たちも会社を作り上げる一員である」という当事者意識につなげたいと思っています。

④平準化・マニュアル化

ルールが定まったものや改善し効果が出たものについて、平準化やマニュアル化を進めています。
平準化やマニュアル化
上の図は、はたらクリエイトの「フレックスタイム制」と「稼働時間による案件ごとの目標・進捗管理」を効率的・安定的に運用していくための仕組みです。様々なツールを組み合わせて、煩雑な情報を集約・一元管理することで管理工数を減らし、新たなチャレンジに時間を投資できる状況をつくっています。

違いを受け入れ補い合う。目指すのは”価値の最大化”

近年フリーランスやテレワーク等の働き方が多様化する中で、私たちがあえて同じ場所に集まって働いているのは、個々が潜在的に持つ力やモチベーションの根源を引き出し活かしていく「タレントディベロプメント」の考え方を重視しているためです。子育てによるブランクで見失いがちな、個々の仕事への価値観や自分の強み・弱みを、他者との関わりを通して認識し、「できることを伸ばし、できないことは補い方を考える」というスキルを磨き合っていくことで、集団の価値を高めたいと考えています。

個々の違いの可視化

個々の強みを認識する取り組みの一つとして「ストレングスファインダー(R)※」をスタッフ全員で実施。それぞれが、診断された自分のTOP5の強みの資質をもとに取扱説明書を作成し、Web上ではなく紙で誰でも見られるところに掲載しています。「自分がどんな人間なのか」「どんなときに力が発揮できるのか」を開示することで、お互いの強みを活かしあう組織を目指しています。

※「ストレングスファインダー(R)」とは、アメリカのギャラップ社が開発「才能診断」ツール。177個の質問に答えることで、思考、感情、行動のパターンから、自分の強みの資質を知ることができる。

視察

(視察に来られた方が個々の“取扱説明書”を見ている様子)

補い合う

私たちが事業を行う上で、最も考慮すべき組織特性の一つとして「急な欠席等のイレギュラーが発生しやすい個人が集まっている」ということ。予めイレギュラーを想定したチーム体制とルールの構築を行っています。
補うためのフロー
この結果、ほとんどのスタッフが、子どもの体調不良等による休みを想定した勤務時間を設定して自らの責任を果たそうと工夫する動きや、他のスタッフが休んだ際は率先してカバーを行うといった「補い合う風土」が生まれています。

別の属性を歓迎する

「子育て中」「女性」といった共通点を持つ人材が特定の場所に集まると、「視点が硬直しやすくなる」という特性も考慮する必要があります。そこで、時代の変化を捉え柔軟に対応していくため、首都圏の顧客やコワーキングスペースの会員といった別の属性とも積極的に関わりを持たせてもらうことで、情報を取り入れ学習の機会を増やしています。
その他にも、東京在住の営業担当や四国在住の広報担当など、遠隔にいる業務委託スタッフの力も借りて事業を運営しています。
リモート

(週1回のWebミーティングの様子)

また代表の井上は常々「母親が楽しく働く姿を見せることが、子どもにとって最大のキャリア教育である」という考えをスタッフに伝えています。
「子どもに働いている姿を見せることが、子どもの将来の夢や期待の持ち方によい影響を与える」という研究結果もあり、託児所の存在や休み期間中子どもが来る環境が、働く意識向上にもつながっているようです。

わたしたちが考える「働く」は価値の最大化

はたらクリエイトのビジョンは「”はたらく”をクリエイトすることで仕事を楽しむ人を世の中に増やす」ということ。仕事への価値観は人それぞれですが、様々な課題を乗り越え目標を達成したり、世の中に価値を生み出したり、「ありがとう」と感謝されたり…といった喜びを知り、仕事を楽しむ人が増えたら嬉しいですし、仕事を楽しむ人が増えれば、世の中に生み出される価値も高まるのではないかと考えています。
まずは子育て中の女性と共に楽しく働ける環境をつくり、その取り組みを世の中に知ってもらうことで、今後外国人労働者やシルバー人材など、働きにくさを感じている層に向けても波及していくことを願っています。

【まとめ】

今回は、「子育て中の女性」が活きる仕組みと、事業の継続・発展を両立させていくための採用や業務向上の仕組みについて紹介しました。どの取り組みにも共通するのは「(スタンスや価値観、状況などを)明確にして、個々に向き合う」という、実はとてもシンプルなこと。私たちはまだまだ発展途上ですが、引き続き模索しながら「はたらくを楽しむ」ことに挑戦し続けたいと思います。

3回連載の最後となる次回は、「“はたらクリエイト” 実現の裏側」を立ち上げメンバーによる対談形式でお伝えします。「子育て中の女性 “じゃない層” 」が、どのように立場の違う人と向き合ってきたのか、はたらクリエイト立ち上げの背景やここに至るまでの苦悩などを掘り下げます。