現代における組織マネジメントとは?目的や必要な資質、重視すべきポイントを解説
d’s JOURNAL編集部
組織マネジメントは以前からある手法ですが、現代の組織においてはこれまでとは異なる発想やあり方を問われることも多くなっています。円滑に組織をマネジメントしていくには、基本的なポイントや必要な資質などをしっかりと押さえておくことが必要です。
この記事では、現代の組織マネジメントにおける役割や重要性などを詳しく解説します。
組織マネジメントとは
組織マネジメントとは、その名のとおり組織をスムーズに運営するためのマネジメント手法です。組織における4つの経営資源、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」を管理し、効果的に機能させていくのが組織マネジメントの役割です。
ここではまず、組織マネジメントの目的や、同じく管理を示す用語である「リーダーシップ」との違いなどから、基本的な理解を深めましょう。
組織マネジメントの目的
組織マネジメントの目的は、前述のように経営資源を適切に管理し、目標達成に導くことにあります。そして、経営資源のなかでも、特に「ヒト」に着目した管理を目的とするのが組織マネジメントの特徴です。
経営資源としての「ヒト」は、「モノ」や「カネ」と異なり感情や体調といった数字では計測しにくい条件に左右されやすく、管理がもっとも難しいとされています。一方で、組織が動いていくうえでは、もっとも欠かせない資源でもあります。
それだけに、組織マネジメントは企業のあり方や将来性を決定づける最重要課題といっても過言ではありません。
マネジメントとリーダーシップの違い
組織の管理を行うという側面が共通しているため、マネジメントはリーダーシップと混同されることも少なくありません。しかし、リーダーシップはあくまでもマネジメントの一部を示した能力であるため、両者はきちんと分けて考える必要があります。
リーダーシップとは、メンバーを目標やビジョンの達成に導いていくスキルを指します。明確な目標に向かって、メンバーを力強く引っ張っていく役割が求められるため、プロセスより結果が重視されることも多い傾向です。
対して、マネジメントは組織目標を達成するための戦略や仕組みをつくり、計画を実行・管理することを指します。メンバーそれぞれの力を最大限に発揮させるような役割が求められており、どちらかといえば、結果以上にプロセスを重視して管理するものです。
組織マネジメントの重要性
現代の企業活動においては、従来よりも組織マネジメントの重要性が高まっているとされています。その理由の一つには、「企業競争の激化」が挙げられます。
現在のビジネス環境は、グローバル化やIT技術の進歩などの影響を受け、従来よりもスピーディな変化を続けているのが特徴です。外部環境が大きく変化するなかで、会社によっては、これまで長く企業を支えてきた主力製品・サービスが社会的なニーズから外れてしまうといった事態に陥ることもあります。
また、既存の人事制度が時代に合わなくなったり、社内の基幹システムを一新しなければならなくなったりと、組織として自ら変化を受け入れなければならない場面も増えています。こうした状況を乗り越えるうえでは、「ヒト」をどのように管理し、活かしていくかが大きな課題です。
組織マネジメントの質が向上すれば、変化に対応できるスピードが速まり、外部環境と柔軟に向き合えるようになります。また、生産性も向上するため、企業としての競争力を高めることにもつながります。
現代に求められる組織マネジメントの形
組織マネジメントの考え方自体は、それほど新しいものではありません。しかし、現在の組織マネジメントは、従来と異なる役割や視点を持っている点に注意が必要です。
ここでは、従来の組織マネジメントと現代の組織マネジメントの違いについて見ていきましょう。
従来の組織マネジメント
従来の組織マネジメントは、上位組織の意思決定を下位組織に落とし込んでいくことをメインの目的としていました。これは、組織から組織という大きな枠組みだけでなく、上司と部下のやりとりにおいても同じです。
経験豊富な管理職には、仕事の道筋や細かな業務の正解が見えていたため、自身の考えに基づいて指示・命令を行うことができていました。そして、上位組織の方針に沿った計画と管理を行い、目標を達成することで組織としての評価を向上させていったのです。
そのため、上意下達型の指揮命令系統が適しており、コミュニケーションも上から下への単方向的な指示が中心となっていました。
現代の組織マネジメント
先行きが不透明な現代のビジネス環境においては、従来型の組織マネジメントではどうしても変化に追いつくことが難しくなります。上位組織の判断を待つ間に周囲の環境が変化していくため、企業競争に置いていかれてしまうリスクが高くなるのです。
また、従来と比較して、テクノロジーの進歩が激しい現代では管理職の経験や知識が通用しない場面も増えています。こうした状況下にあって、リーダーの役割は大きく変化してきました。
現代の組織マネジメントにおいて、管理職はチームメンバーの力を引き出すことを主な役割とし、自らは進むべきビジョンを示す存在となる必要があります。多様な価値観・能力を持ったメンバーとビジョンをすり合わせ、「協働」と「創発」によって組織をまとめていくのが、現代の理想的な管理職とされているのです。
そのため、コミュニケーションは立場にかかわらずオープンかつ対等であり、それぞれが自由な発想で意見を出せるような雰囲気づくりが必要となります。
組織マネジメントに力を入れる3つのメリット
ここまでの内容をとおして、組織マネジメントは従来型と現代型の2つに分けられることがわかりました。ここからは、現代型の組織マネジメントに力を入れることで、組織にどのようなメリットが生まれるのかについて解説します。
組織全体の生産性が向上する
組織マネジメントの効用は、全体としての生産性向上にあります。組織マネジメントが確立されると、メンバー個人の能力や感覚を最大限に発揮できるようになるため、結果としてチーム全体の力も強くなっていくのです。
また、効率的なマネジメントが行われれば、組織の見えない無駄や課題も浮き彫りになります。組織運営にゆとりが生まれるため、「複数の部署で業務の一部に重複が見られる」「営業とマーケティングの連携がうまくいっていない」など、それまで気づかなかった課題が分析できるようになるのです。
管理職の負担が軽減される
組織マネジメントが適切に行われれば、管理職の負担軽減も期待できます。業務に合わせて最適なヒトの配置や労働力の配分が行えるようになるため、組織の管理に取り組むうえで、時間や気持ちのゆとりが生まれやすくなります。
管理職に余裕が生まれれば、イノベーションを生み出しやすい土壌が築かれるため、管理職自身の生産性も向上していくでしょう。
個人に合わせたマネジメントが可能になる
現代型の組織マネジメントは、従来よりも個人にフォーカスして管理を行うのが特徴です。それぞれの価値観や多様性、スキルを活かすことに目的があるため、適切に導入されれば雇用や働き方に柔軟性を持たせられるようになります。
従業員からのワークライフバランスの要望に応えやすくなったり、多様な人材に活躍の場を用意できたりと、組織にとっても大きなメリットがあります。また、各メンバーの個性を伸ばしながら幅広い人材を育成していけるため、外部環境の変化に強いしなやかな組織づくりが実現可能です。
組織マネジメントの対象となる7つのS
組織マネジメントを行ううえでは、管理する対象を明確にしておくことも重要です。ここでは、組織を構成する要素を7つに分けて分析する「マッキンゼーの7S」を用いて、具体的な項目を見ていきましょう。
マッキンゼーの7Sとは、コンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニーが提唱している組織の考え方です。7Sでは組織をハード面に関する3つのSと、ソフト面に関する4つのSに分けてとらえているのが特徴です。
ハードの3S
ハードの3Sとは、以下の3つが挙げられます。
・Structure(組織構造)
・Strategy(戦略)
・System(システム)
Structure(組織構造)とは、組織の仕組みや階層のあり方、指揮命令系統などを指す要素です。組織が動くための基本的な土台であり、機能的かどうか、生産性を高める仕組みになっているか、権限が明確になっているかなどが重要となります。
Strategy(戦略)とは、事業の方向性や経営戦略です。競争優位性を維持し、向上させていくための手段であり、経営資源の配分方法なども含まれます。
System(システム)は会計制度や人事評価制度、報酬制度などの仕組みです。組織マネジメントにおいて、ハードの3Sは目に見えやすいため、比較的管理がしやすい点が特徴です。
対して、ソフトの4Sはいずれも目に見えにくく数値化も難しいため、管理の難易度が高くなる点に注意する必要があります。
ソフトの4S
ソフトの4Sとは、次の4つの項目です。
・Staff(人材)
・Skill(スキル)
・Style(スタイル)
・Shared value(共通の価値観)
Staff(人材)とは、組織が抱えている人材やその質です。また、人員の配置や育成への取り組みなども含まれます。
Skill(スキル)とは、個人ではなく組織全体として持っている競争優位性です。マーケティング力や正確な技術力、営業力といった組織全体のスキルを示した考え方です。
Style(スタイル)は組織の風土や雰囲気、マインドであり、具体的な仕事の進め方を指す場合もあります。組織マネジメントの施策は、対象の組織が持つスタイルをきちんと把握したうえで実行することが大切です。
Shared value(共通の価値観)とは、組織全体で共通認識されている価値観です。具体的には、組織の理念やビジョンなどが当てはまります。
ソフトの4Sについては、そもそも現状の把握が難しいため、実情の調査を行うのに多くの時間を必要とします。しかし、繰り返しにはなりますが、組織マネジメントの本質は「ヒト」のマネジメントにあるため、ソフト面に目を向けないわけにはいきません。
そのため、組織マネジメントについて考える際は、焦らずに長期的な視点で取り組むことが大切です。
7Sを活用するためのフレームワーク
7Sの考え方を活用するためには、それぞれの項目の内容を理解したうえで、具体的なフレームワークに当てはめて実践するのがおすすめです。
1.現状分析
2.問題点の明確化
3.改革案の作成
4.改革案と現状の比較
まずは7つの要素を一つずつ把握し、現状を分析していくことが大切です。組織が持つ独自性や強み、弱点と課題を洗い出し、客観的に状況を把握しましょう。
続いて、現状分析で明らかになった課題を一つずつ検証し、具体的な問題点としてピックアップします。そのうえで、問題解決の優先度を決めて、組織マネジメントによってまずは何から変えていくべきなのかを明確にしましょう。
続いて、問題点を解決するための改革案を作成します。このときは、一部の改善により7Sのほかの要素に生まれる影響にも目を向けることが大切です。
7Sはそれぞれ独立して成り立っているものではないため、何かを変えることで、ほかの項目が劣化してしまう恐れもあります。そのため、7Sのバランスを十分に考慮した改革案の考案が必要です。
改革案が固まったら、現状と比較をしながら有効性を検証しましょう。このように、一つひとつの要素を分析して丁寧に課題を洗い出し、解決していくのが7Sの基本的なフレームワークです。
組織マネジメントに必要な能力
組織マネジメントに必要とされる能力は多岐にわたりますが、ここでは特に管理職の方に求められる能力について解説します。主なものとして、次の6つが挙げられます。
組織マネジメントに必要な6つの能力
・コミュニケーション能力
・目標設定力
・計画遂行力
・人材マネジメント力
・評価力
・リスク管理力
それぞれの能力について、さらに詳しく解説します。
コミュニケーション能力
管理を行う側に求められるコミュニケーション能力として、メンバー間の円滑なやりとりを生み出す力が挙げられます。現場担当者の意見や考えにしっかりと耳を傾け、何でも話し合える職場づくりを目指してみましょう。
また、管理職の場合は経営層とのコミュニケーション能力も重要なポイントです。組織全体の経営を考える上位のマネジメント層に対して、現場の状況を理解してもらうための高度なコミュニケーション能力が求められるといえます。
目標設定力
目標設定力とは、組織として達成すべき目標やゴールをきちんと把握したうえで、計画や施策を取りまとめて適切な人員配置ができる能力を指します。予定されているスケジュールや数値目標から逆算してプランニングできる力ともいえます。
目標設定において重要な点は、今の組織が持つ力を十分に活かし切れるラインで目標を立てることです。また、実際の進捗状況に応じて、柔軟に計画や目標を見直していく力も求められます。
計画遂行力
目標達成までのプロセスを分けて、計画を立てられる能力を指します。担当者に滞りなく業務を遂行してもらうため、それぞれが取り組む業務レベルにまで計画を落とし込んでいく必要があります。
各メンバーが迷わずに業務へ取り組める環境を整えることが重要です。計画通りに業務が進んでいないメンバーへのフォローなどを適宜行うなどの対応も求められます。
人材マネジメント力
各メンバーの能力を最大限に引き出すためには、人材マネジメントの力も欠かすことができません。一人ひとりの個性に応じた人員配置を考え、必要に応じて動機づけや指導なども行っていく必要があります。
単に口頭で指示を出せばよいというものではなく、管理職自身がお手本となってメンバーを引っ張っていく力が求められるといえるでしょう。メンバーの士気を高め、自発的な行動を促していく必要があります。
一方で、モチベーションが低くても成果を出せる仕組みを整えていくことも組織マネジメントにおいては重要です。モチベーションに軸足を置くのではなく、評価体制やキャリアプランの形成など、中長期的な視点で人材の能力を引き出す施策を実行していくことが大切です。
評価力
組織のために頑張っているメンバーに対して、公平かつ適切な評価を行うことが重要です。どれほど意欲の高いメンバーであっても、きちんと評価されなければ、やがて意欲を失ってしまいます。
優秀な成果を出したメンバーに対して、報奨や役職などのインセンティブを用意しておくことが必要です。適切な評価を行うことで、評価された本人だけでなく、周囲のメンバーにとってもモチベーションのアップにつながるきっかけとなるでしょう。
リスク管理力
組織のマネジメントを担う役割にある人は、社内の環境ばかりに目を向けるのではなく、社外の変化にいち早く気づく力も求められます。取引先との契約条件やビジネス環境の変化など、常に変わっていく動きに対応していく力を持っておく必要があります。
大きなリスクが発生する前に対策を立てておき、実際にリスクが起こった場合を想定して、対策に優先順位をつけておかなければなりません。トラブルが発生した際の対応マニュアルの整備や業務の代替手段の確保など、現場担当者の意見も交えながら、必要な対策を立てていくことが大事です。
現代型の組織マネジメントに必要な4つのポイント
現代型の組織マネジメントを実現するための考え方として、次の4つのポイントが重視されています。
現代型の組織マネジメントに必要な4つのポイント
・ビジョンと目的を明確にする
・心理的安全性の担保に努める
・メンバー間の対話の仕組みを整える
・影響力の行使は慎重に検討する
それぞれのポイントについて、詳しく解説します。
ビジョンと目的を明確にする
現代型の組織マネジメントにおいては、組織としての共通のビジョンをしっかりと持っておくことが重要です。どのような組織やチームをつくっていきたいか、そしてどんな目標を達成したいのかといった点から組織マネジメントは始まっていきます。
また、組織として明確なビジョンを打ち出すには、管理を行う側が自分自身のビジョンやミッションを持っておく必要もあるといえます。組織の管理を行う側として何が期待されているのかや、世の中に対してどのような貢献ができるのかを考えて、整理してみましょう。
自社のミッションやビジョンをもとに経営計画を定め、その目標をメンバーとも共有していく必要があります。組織を引っ張っていく力を持つには、経営の目的や中長期的なビジョンを打ち出していくことが大切です。
心理的安全性の確保に努める
コミュニケーションが活発で風通しのよい組織づくりを行うには、メンバー間の信頼関係と心理的安全性(psychological safety)の確保が必要です。心理的安全性とは、組織の中において自分の考えや思いを誰に対しても、安心して発言できる状態を指します。
心理的安全性が高い状態の組織であれば、質問や提案をしても受け止めてもらえると信じられるため、活発なアイデアが飛び交う状況を生み出せるでしょう。メンバー間の交流が活性化することで信頼が生まれ、より強固な組織へと生まれ変われます。
また、リーダーシップを発揮していくためには、信頼関係が土台にあることが前提でもあります。組織として相互信頼に基づいた関係を築けていなければ、本来の能力を発揮できずに組織としての目標を達成するのが困難になることもあるでしょう。
普段から積極的なコミュニケーションを行ったうえで、定期的なミーティングや1on1ミーティングなどを通じて、お互いの理解を深めていくことが重要です。
メンバー間の対話の仕組みを整える
各メンバーの目標と組織としての目標が同じ方向であることで、組織としての力が発揮されます。組織の目標実現に向けた取り組みを強力に推し進めていくには、効率的な対話サイクルでチームとしてのビジョンやミッションを共有していくことが大事です。
メンバー各自の思いやビジョンに触れ、反映させながらチームビジョンを自分事化してもらう場をつくってみましょう。マネジメントを行う側が率先して、自らの考えや思いを語り、メンバーの話に耳を傾けながらまとめあげていくことが重要です。
影響力の行使は慎重に検討する
現代型のマネジメントを遂行するなかでも、必要に応じて従来型のマネジメントを行うこともあります。しかし、組織に与える影響力をよく考えたうえで実行しなければ、かえって組織の結束を乱すことにもつながりかねないので注意が必要です。
管理職としての影響力を行使する際は、各メンバーにどのような心理が働いているかを慎重に見極めてみましょう。先に述べたように、相互信頼や心理的安全性を十分に考慮し、時間をかけて取り組んでいく姿勢を見せることが大切です。
いくら正しい方向に組織を引っ張っていこうとしても、急速な変革はメンバーに不安感をもたらしてしまいます。組織としてのミッションやビジョンを明確に打ち出したうえで、具体的な計画を策定し、それをもとにメンバーと繰り返しコミュニケーションをとっていくことが重要です。
まとめ
組織マネジメントはビジネス環境の変化とともに、適切な手法を用いていく必要があります。効果的に組織の力を発揮していくためには、メンバーとの信頼関係を土台とした組織づくりが欠かせません。
心理的安全性の高い状態の組織を築き、自社のビジョンやミッションを共有できていれば、目標の実現に向けた確かな歩みを進めていけるでしょう。組織の目的の捉え方や役立つフレームワークなどを押さえたうえで、具体的な計画や実行のためのプロセスを描いていくことが大事です。
組織に所属するメンバーの自律的な行動を促すために、組織のあり方について定期的にチェックする機会を設けてみましょう。
(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)
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