【テンプレート付】職務分掌とは?規程はなぜ必要?基本知識や作り方を弁護士が解説

弁護士法人 第一法律事務所(東京事務所)

弁護士
藥師寺 正典

プロフィール

役職や特定の担当者が取り組むべき仕事を整理し、それぞれの職務における責任や権限を明確化する「職務分掌」。

業務を円滑に遂行するための方法として、大手企業やベンチャー企業などで広く導入されています。

この記事では、職務分掌の基礎知識や作り方 などについて詳しく解説します。「職務分掌規程」や「職務権限規程」のテンプレートもダウンロードできますので、ぜひご活用ください。

職務分掌とは

職務分掌とは、部長や課長などの役職や職務についてそれぞれの役割を明確にし、職務における責任や権限を適切に配分することです。職務分掌には、業務上の役割分担への疑問やストレスを最小限に抑えられる効果があるとされています。英語では、職務の分担を意味する「division of duties」や、職務の隔離を意味する「segregation of duties」などと表現します。

職務分掌をする目的には内部統制やリスクマネジメントがある

職務分掌は、「内部統制」や「リスクマネジメント」を目的としています。「誰が」「どんなチームが」「どんな仕事をすべきか」を明確にできるのが、職務分掌の特徴です。個人レベルで優先すべき仕事がわかるため、「非効率な業務の防止」や「人間関係によるトラブルの抑制」など、内部統制を図れます。また、業務上で実行可能な権限を「制限なく個人に与えない」「内部でけん制する」ことで従業員による不正を防止でき、リスクマネジメントにもつながります。

職務分掌と業務分掌、ジョブディスクリプションは何が違う?

職務分掌と混同される言葉に、「業務分掌」や「ジョブディスクリプション」などがあります。それぞれの「対象とする範囲」や「目的」、「期待できる効果」についての違いを、下の表にまとめました。

職務分掌 業務分掌 ジョブディスクリプション
対象とする範囲 個人が担う役職や職務 役割ごとに取り組むべき具体的な仕事内容 職務ごとに必要となるスキルや特性
目的 ●役職や職務ごとの役割の明確化
●各職務における責任や権限の適切な配分
●各部門の役割が果たすべき具体的な仕事や作業の明確化 ●業務上必要とされるスキルや求められる成果などを詳細に記載
期待できる効果 ●内部統制
●リスクマネジメント
●人材育成
●業務の円滑な遂行 ●職務に見合った人材の採用
●能力・成果に応じた適正な待遇の決定

業務分掌との違い

業務分掌とは、職務分掌でそれぞれの役割を明確にした上で、「その役割が果たすべき具体的な仕事を明らかにすること」です。対象とする範囲が、職務分掌は「個人が担う役職や職務」、業務分掌は「役割ごとに取り組むべき具体的な仕事内容」と異なります。

ジョブディスクリプションとの違い

ジョブディスクリプションとは、職務内容について詳細に記載した文書のこと。担当する職務ごとに「業務上必要とされるスキル」や「求められる成果」などを明確化することを目的としています。どちらも職務にまつわる言葉ですが、職務分掌では「個人が担う役職や職務」、ジョブディスクリプションでは「職務ごとに必要となるスキルや特性」に関する事柄を扱うという違いがあります。
(参考:『ジョブディスクリプションとは?テンプレートと記載例を使って作成、採用・評価に活用!』)

職務分掌を作る方法~まずは組織図で企業全体を把握する~

職務分掌は、以下のフローで作成します。

職務分掌フロー図

①組織図で企業全体を把握する

最初に組織図を作成します。組織図には、本社・支社から、各部門・部署まで、企業を構成している要素を全て記載しましょう。組織の全体像を把握することで、部署同士の関係性や連携が必要となる業務の範囲が明確になります。「なぜ職務分掌を取り入れるのか」というテーマで経営層にヒアリングを行い、ビジョンを共有することで、組織設計をスムーズに行えるでしょう。

②部署・職務単位で職務内容を細分化する

次に、部署や職務単位で担当している具体的な「役割」や「責任」について確認します。社内アンケートやヒアリングを実施し、現場の声を取り入れましょう。客観的に職務内容と役割を洗い出すことで、業務の重複や非効率な作業を発見するヒントになります。

③権限を振り分ける

部署同士の関係性や、連携が必要となる業務の範囲を考慮した上で、権限を振り分けましょう。権限の範囲があいまいだと、将来イレギュラーな仕事が発生した際に、責任の押し付け合いや軋轢の原因となってしまいますので、注意が必要です。

④職務分掌表および職務分掌規程を作成する

その後、「職務分掌表」を作成します。経営者とは「中長期的な経営方針やビジョンと相違がないか」を、各部署の担当者とは「役割と権限に不備・不足がないか」を確認しましょう。経営者と各部署の担当者の声を反映することで、職務分掌表で決められた事項と現実のギャップを最小限に抑えられます。従業員にも周知した上で「職務分掌規程」を作成することで、より実現性を高められるでしょう。

職務分掌規程とは

職務分掌規程とは、職務ごとに果たすべき責任や権限を明確にするための規程です。役職や職務ごとに取り組むべき仕事内容を記した「職務分掌表」を基に明文化します。必要なときにすぐに確認できるよう、従業員に周知しておくことが重要です。

職務分掌規程を定めるのは義務?ないと法律違反になる?

職務分掌規程は、社内規則の一つとして位置付けられるのが一般的です。就業規則のように作成や労働基準監督署への届け出は義務付けられておらず、作成しなくても法律違反にはなりません。
(参考:『【社労士監修・サンプル付】就業規則の変更&新規制定時、押さえておきたい基礎知識』)

職務分掌規程の書き方~テンプレートを使って解説!~

職務分掌規程には、「①目的」「②組織単位」「③業務分掌」に加え、付則として「④規程の改発」「⑤実施期日」を記載します。「③業務分掌」の詳細については、部署ごとにどのような業務において責任や権限を有するのかを「⑥別紙1」として規定しましょう。業務分掌の業務範囲については、自社の必要な業務に応じてアレンジ可能です。ここでは、一般的な例として職務ごとの業務範囲をご紹介します。

「職務分掌規程」テンプレを基にした図版

例:各部署(共通業務)

各部署における共通業務では、「所管業務の計画に関する事項」「所管業務の予算の立案、実施、分析に関する事項」「所管業務施策上の申請・実行に関する事項」などを規定します。

例:経営企画室のケース

経営企画室では、「内部監査の年度計画の立案に関する事項」「報告結果に基づく業務改善事項の、関連部署への勧告に関する事項」「定款、株主総会、取締役会に関する事項」など、内部監査や株主総会に関する重要な事項を列挙します。

例:製造部のケース

製造部では、「製品の製造に関する事項」「販売した製品のメンテナンスに関する事項」など、製造過程で発生する業務について規定します。

例:研究開発部のケース

研究開発部では、「製品の開発に関する事項」「製品設計に関する事項」「ソフトウェア開発に関する事項」「製品評価、出荷検査等の評価業務に関する事項」など、開発から製品評価、技術マニュアル作成までを規定します。

例:営業部のケース

営業部では、「営業活動および営業活動の統轄指導に関する事項」「企画提案営業に関する事項」「新規市場の開拓に関する事項」など、営業活動やマーケティング活動などを列挙します。

例:管理部(総務関係、人事関係、経理関係)のケース

管理部では、経営基本関係として「経営方針、経営方策の立案に関する事項」など、経営方針や予算といった企業運営に関わる業務について規定します。加えて、総務関係として「社長印および社印の管理に関する事項」、人事関係として「総合人事政策の企画・立案に関する事項」、経理関係として「長期・短期資金計画の企画・立案に関する事項」など、部門ごとに細かく規程を設けましょう。

職務権限規程とは

職務権限規程とは、職務に対する権限を記した文書です。特定の権限を役職者だけでなく、一般の担当者に与えてしまうと、権限を越えた仕事を行うことになるため、役職者だけに与える権限を規定します。

例として、人事関係の担当者には従業員の採用内定や従業員の評定・昇進の有無に関わる手続きなどを行う権限があります。

こうしたケースにおいて、「人事部の課長職は採用内定に関する決定権を所有する」「人事部の部長職は従業員の昇格について決定権を持つ」というように役職者だけに権限を与えることで、重要な業務に適切な制限を設けられます。

職務分掌表とは?サンプルで解説!

職務分掌表とは、課長職や監督職などの「各職務が担う業務内容」と、業務を円滑に遂行するための「具体的な行動」を明記した文書のこと。職務分掌規程の基盤とされます。厚生労働省の資料を基に、記載項目について見ていきましょう。

職務分掌表サンプル

(参考:厚生労働省『職務分掌:課長職(課長代理・課長)、職務分掌:監督職(班長・係長)』より一部抜粋)

①タイトル

「部署を活性化させる」や「他部署と協働する」というように、各職務が果たすべき役割や責任を記載します。

②内容

各職務の役割や責任を果たすために担う業務内容を記載します。例として、「部署を活性化させる」というタイトルに呼応した内容は、「メンバーが働きやすい職場づくり」となります。

③具体的な行動

業務を円滑に遂行するための具体的な行動を記載します。「内容」に書いた事柄を具体的な行動に落とし込みましょう。そうすることで、「今やっている仕事は、本当は私の仕事ではないのでは?」といったストレスを解消する効果が期待できます。

職務分掌のデメリットは?

職務分掌は「いつ・誰が・何をすべきか」を明確にできる反面、「決まった業務以外はしなくていい」と捉えられるリスクがあります。職務分掌があることで従業員の行動を制限してしまわないよう、個々の主体性を高める必要があるでしょう。

職務分掌について学べる参考書籍

職務分掌について学べる参考書籍をご紹介します。

改訂版 精選 組織・分掌・職務権限規程とつくり方』経営書院・編(産労総合研究所出版部経営書院)

企業の組織づくりに役立つ業務分掌と職務権限の作り方などを掲載した1冊。各社ケース別の分析を基に、原則的かつ基本的な規程・マニュアル作りについて理解を深められます。

まとめ

「職務分掌」は、業務を円滑に遂行するための具体的な行動を定めるものとして注目されています。職務分掌を作る際は、組織の全体像を把握し、経営者や現場担当者の声を反映することが重要です。

職務分掌規程を作成し、職務ごとの役割が明確化された組織を構築してみてはいかがでしょうか。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/弁護士 藥師寺正典、編集/d’s JOURNAL編集部)

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