カルチャーフィットとは?重要性と採用時の見極め方を解説

d’s JOURNAL編集部

カルチャーフィットとは、自社の文化や企業風土に対して、人材が適切にフィットしている状態を指します。主に人材採用の分野で用いられる言葉であり、重要な選考基準の一つとして注目度が高まっています。

人材が多様化する現代にあっては、スキルや経験といった基本的なポイントだけでなく、自社文化との相性も欠かせない判断基準となっているのです。今回はカルチャーフィットの意味や重要性、採用時に重視するメリットについて解説します。

また、実際にカルチャーフィットを踏まえた採用を行ううえで、意識しておきたい手順や注意点もあわせて見ていきましょう。

カルチャーフィットとは

「カルチャーフィット」とは、企業が持つ独自の文化や風土に対して、人材がうまくフィットする状態のことです。企業にはそれぞれ言語化が難しい独特な風土があり、文化として定着しています。

そうしたカルチャーが上手にフィットすれば、「居心地がよい」「安心して働ける」といった前向きな状態をもたらし、必要な人材に長く定着してもらいやすくなるでしょう。

その反面、カルチャーフィットが不十分な人材は、業務や待遇以外の面で不満を感じてしまい、早期離職につながってしまう可能性が高くなります。

スキルフィットとの違い

人材採用において重視されるポイントに「スキルフィット」があります。これは文字通り「スキルや経験が採用後の業務に適しているかどうか」を判断する指標です。

スキルフィットはカルチャーフィットと比べて定量化しやすく、採用の基準として設けやすいことから、従来重要視されてきた経緯があります。しかし、スキルフィットが高い人材を採用するからといって、必ずしも自社で活躍してもらえるとは限りません。

企業文化とマッチしなければ、当事者の定着が難しいだけでなく、周囲とのコミュニケーションに支障をきたしてしまうリスクもあります。そのため、採用活動を成功させるうえでは、スキルフィットとカルチャーフィットの両面に目を向けることが重要となるのです。

採用時にカルチャーフィットを重視するメリット

人材採用において、企業がカルチャーフィットを重視することにはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは3つのポイントに分けて解説します。

人材定着率の向上

カルチャーフィットを重視した人材採用は、早期離職の防止につながります。離職の主なケースに、「周囲との人間関係に不満を感じた」「社風に合わなかった」といったカルチャーに関する問題が原因であることも少なくありません。

一般的に企業のカルチャーは求職者側から見えづらいものであるため、応募の段階で判断してもらうことは難しいといえます。スキルや経験、待遇と比べてミスマッチが起こりやすいため、企業が自社のカルチャーを客観的に理解したうえで選考を行うことが重要な意味を持つのです。

人材の定着率が向上すれば、採用・育成コストの削減につながり、組織全体としての力も強まります。

社内コミュニケーションの充実

カルチャーフィットを踏まえた採用を続ければ、社内には自然と価値観の近い人材同士が集まるようになります。共通する目標や考え方を持っているメンバー同士であれば、コミュニケーションが充実しやすく、人間関係の摩擦やストレスが生じにくくなるのがメリットです。

社内コミュニケーションが円滑に図れていれば、従業員同士の連携が密になるだけでなく、企業への帰属意識を高めることにもつながります。

生産性の向上

社内コミュニケーションが円滑になれば、組織内の意思疎通がスムーズになり、全体としての生産性も向上します。細かな業務のすり合わせや、担当業務で得た情報の共有などもしやすいため、効率的に仕事を進めることができるのです。

また、カルチャーフィットしている人材は、企業が目指すビジョンや方向性なども浸透しやすいため、成長とともに自発的な判断が行えるようになっていきます。そうした点も、組織の生産性を高める重要なポイントといえるでしょう。

カルチャーフィットが注目される背景

近年では、さまざまな環境の変化によって、人材採用におけるカルチャーフィットの重要性が高まっています。ここでは、その背景について3つの理由から見ていきましょう。

中途採用の普及

カルチャーフィットが重要性を持つ背景の一つには、中途採用の普及があげられます。終身雇用が当たり前ではなくなった現代においては、転職に対するマイナスイメージが薄れ、中途採用を行う大企業も増えています。

一般的に、即戦力としての働きが期待される中途採用では、スキルフィットが重視されてきた傾向がありました。しかし、カルチャーフィットが不十分であるために定着しないケースも多く、採用コストをかけても早期離職に至ってしまうのが課題となる場合もあります。

特に中途採用者には、以前の勤め先企業のカルチャーが浸透していることも多いため、新卒者に比べて摩擦が生じやすい傾向もあるといえるでしょう。そうしたことから、カルチャーフィットの重要度が相対的に高まっているのです。

売り手市場への変化

採用市場においては、労働人口の減少による売り手市場化が長らく続いており、人材の確保が従来よりも大きな課題となっているのが現状です。業界や業種にかかわらず、人手不足に悩む企業は少なくなく、コストをかけて採用した人材が離職すれば大きな痛手になってしまいます。

また、転職への抵抗感が薄れていることで、カルチャーフィットしていない人材の離職リスクが高まっている面もあります。こうした理由から、はじめからカルチャーフィットを意識した採用を行い、人材の流出リスクを軽減させる重要性が高まっているのです。

多様な働き方の導入によるコミュニケーション不足

リモートワークをはじめとする働き方の多様化も、カルチャーフィットの重要度が高まっている一つの要因です。必ずしもオフィスに出社するという働き方が前提ではなくなったことで、従業員同士のコミュニケーション不足が起こりやすくなっており、ときには業務に影響を及ぼしてしまう可能性もあります。

カルチャーフィットが不十分な状態では、それぞれの意思疎通が難しくなってしまうため、採用時にある程度の相性を見極める重要性が高まっているのです。

カルチャーフィットを重視した人材採用を行う5つのステップ

カルチャーフィットする人材を採用するためには、採用担当者の感覚に任せるのではなく、しっかりと仕組みを整えることが重要となります。ここでは、具体的な手順を5つのステップに分けてご紹介します。

■カルチャーフィットを重視した人材採用を行う5つのステップ
ステップ1:自社のカルチャーを明確化する
ステップ2:社内でカルチャーを醸成する
ステップ3:カルチャーを踏まえて採用×ターゲットを設定する
ステップ4:社内のカルチャーを外部へ発信する
ステップ5:カルチャーを踏まえた選考を行う

「カルチャーの分析・言語化」「社内への浸透・カルチャーの醸成」「採用ターゲットの明確化」「社外への発信」「カルチャーを反映させた選考」という手順に沿って、丁寧に進めていくことが大切です。各ステップの内容や意識すべきポイントを詳しく見ていきましょう。

カルチャーモデルの7s

 

ステップ1:自社のカルチャーを明確化する

まずは、自社のカルチャーを明確化し、社内に醸成することが第一歩となります。カルチャーの大部分は言語化されていないものであり、従業員同士で認識が異なるケースも少なくありません。

少なくとも、採用担当者が自社のカルチャーについて言語化された状態で理解しておかなければ、客観的な基準で判断するのは難しいでしょう。カルチャーの明確化には、大きく分けて2つの方法があります。

既存のメンバーとコミュニケーションを図る

カルチャーフィットを客観的に言語化するためには、既存社員に話を聞いて分析するのが近道です。アンケートや対話の機会を用いて、次のようなテーマ例で自社のカルチャーを振り返ってみるとよいでしょう。

■カルチャー分析を行う際のテーマ例
・仕事において大切にしていること
・自社の好きなところやその理由
・コミュニケーションの図り方
・日常業務の進め方

多くのメンバーから共通して得られた意見があれば、自社の中心的なカルチャーを担うポイントとしてとらえることができます。そのうえで、重要な項目を言語化・定量化すれば、採用の現場に活かすことができます。

マルチフォーカスモデルによってカルチャーの見える化を行う

「マルチフォーカスモデル」とは、組織カルチャーを「6つの独立した次元」と「2つの半独立の次元」という切り口で分析する方法です。自社の組織を客観的に診断するツールであり、さまざまな側面から見つめることで現状を立体的に把握できるのが特徴です。

具体的には、次の8つの次元から自社のカルチャーを分析していきます。

切り口 主な分析内容
6つの独立した次元
組織の効果性 手段重視か目標重視か
顧客志向のあり方 内部理論か顧客優先か
仕事の進め方 厳格な規律かゆるやかなルールか
組織の関心のあり方 職場の関心は上司か専門性か
組織外との関わり方 オープンかクローズドか
マネジメントの哲学 従業員志向か仕事志向か
2つの半独立の次元
リーダーシップの受容度 人と組織の一体感

具体的な分析項目に基づいて診断すれば、自社の組織に対するイメージの食い違いを防ぎ、採用担当者もカルチャーフィットを意識した選考を行いやすくなります。

ステップ2:社内でカルチャーを醸成する

カルチャーフィットを意識した組織づくりを行うには、既存の従業員にカルチャーが定着しているかどうかも重要な観点となります。自社のカルチャーを明確化したら、改めて社内で醸成させていくことが大切です。

カルチャーを言語化して浸透させる

カルチャーの多くは共有が難しいものであるため、等しく定着させるためには言語化することが重要となります。前述のとおり、言語化は人材採用時に基準を定量化するためにも欠かせないプロセスとなるため、早い段階で着手することが大切です。

企業理念やカルチャーを文書化した「クレド」(全従業員が心がける信条や行動指針)を作成し、資料として配布するのも効果的な方法といえます。目に見える形で残すことで、管理職などのリーダーも現場の従業員へ共有しやすくなるため、ツールを有効活用することが大切です。

カルチャーに沿った社内制度を整える

続いて、言語化されたカルチャーをもとに、現行の社内制度が適切なものであるかどうかを見直す必要があります。大事にしたいカルチャーと実態とに食い違いがあれば、従業員全体に浸透させることはできません。

現状を振り返ったうえで、必要があれば社内制度の整備を行いましょう。たとえば、個人のキャリアアップやスキルアップを重要視する企業であれば、実際に資格取得手当を設けたり、書籍購入費の支給を行ったりするなどの施策を行うと効果的です。

また、社内のコミュニケーションを重視する企業なら、立場や部門を超えた交流会を設けるといった方法もあります。

定期的な社内研修を行う

定期的な社内研修により、カルチャーの浸透を促すことも重要となります。特に新しい企業文化を取り入れたい場合には、理念や目的を丁寧に共有できる場を設け、無理なく浸透していくように働きかけることが大切です。

ステップ3:カルチャーを踏まえて採用×ターゲットを設定する

社内にカルチャーがしっかりと浸透したら、採用活動にも反映させていくステップへと進みましょう。具体的には、カルチャーを考慮した採用ペルソナを描き、ターゲットを設定することが主な取り組みとなります。

ターゲット設定においては、社内で活躍する人材を対象にヒアリングを行い、行動特性や価値観などについて情報を収集するのも一つの方法です。できるだけ具体的に思い描くことが、採用時のミスマッチを防ぐカギとなります。

ステップ4:社内のカルチャーを外部へ発信する

自社にフィットする人材からの応募を増やすためにも、カルチャーは積極的に発信することが重要となります。採用サイトやオウンドメディア、各種サービスを利用して、待遇や労働環境、採用条件だけでなくカルチャーの発信にも力を入れましょう。

企業側が自社の文化を明示しておけば、価値観や希望の働き方に合っていると判断した転職潜在層からの応募も期待できるようになります。また、独自性を持ったよいカルチャーを外部向けに発信すれば、それ自体が企業イメージを向上させる武器にもなるでしょう。

発信の方法にはさまざまなパターンがありますが、カルチャーを実際に体現するのは従業員であるため、実際に働いている人の声を掲載することも大切です。従業員それぞれが発信者となることで、求職者にも入社後の働き方をイメージしてもらいやすくなるでしょう。

ステップ5:カルチャーを踏まえた選考を行う

企業カルチャーの言語化、求める人材の明確化が行われていれば、採用プロセスに反映させるのはそう難しいことではありません。選考段階で価値観や志向性を確認するプロセスを導入し、カルチャーフィットを意識した人材採用を可能にする仕組みを整えましょう。

カルチャーフィットの度合いを見極める具体的な方法については、次のブロックで詳しくご紹介するので、そちらも参考にしてみてください。

採用時にカルチャーフィットしているかどうかを見極める方法

ここまでの内容を通して、カルチャーフィットを踏まえた人材採用を行うためには、「カルチャーの明文化」や「採用基準へ落とし込むための定量化」が必要であることを確認しました。そのうえで、カルチャーフィットの度合いを的確に見極めるためには、細かな採用方法も改善していくことが大切です。

ここでは、具体的な手法として4つのポイントを見ていきましょう。

面談時の質問のクオリティを上げる

まずは、面接時の質問内容ついてカルチャーフィットを意識したものへ変えることが重要です。言語化された自社のカルチャーに基づき、質問内容を丁寧に検討しながら質を高めていきましょう。

たとえば、協調性を重視するカルチャーを持った企業であれば、「周囲との関係性構築に向けて努力してきたこと」や、「苦手な相手との接し方」などを質問項目に加えるといった方法があります。また、採用候補者の価値観を掘り下げて確認するためには、「STAR型」の質問をするのも効果的です。

これは、次の手順で過去の実績や経験に基づく行動・思考を尋ねる方法です。

■STAR型の質問内容と質問例
・S:Situation(当時の状況)
質問例「業務を通じて困難に直面したときのことを状況も踏まえて教えてください」
・T:Task(当時の課題)
質問例「そのときには、どのようなことが課題となっていましたか」
・A:Action(具体的に取った行動)
質問例「そのときに取った行動を具体的に教えてください」
・R:Result(得られた結果)
質問例「行動によって課題がどのように克服され、どのような成果が得られましたか」

順を追って背景と行動を説明してもらうことで、採用候補者の人柄や価値観を的確に把握できるため、カルチャーフィットを見極めるのにも役立ちます。

複数の担当者による面接の実施

実際のところ、1人の担当者によって採用候補者がカルチャーフィットしているかどうかを見極めるのは難しい面があります。どれだけ言語化できていたとしても、カルチャーには多様な側面があるため、個人によってどうしてもとらえ方の相違は生まれてしまうでしょう。

そこで、複数の担当者によって面接を行い、多面的な評価が行えるようにするのも効果的な方法といえます。複数の異なる視点でカルチャーとの親和性を見極めることで、より精度の高い選考が行えるようになるのです。

そのため、担当者の立場や専門は偏らせず、あえて異なる部署、役職の従業員に振り分けるのも効果的です。たとえば、営業職の採用を行う場合であっても、営業部の担当者だけで選考を行うのではなく、他の部門からも担当者を選出するのが偏りを予防する大切なポイントとなります。

1DAYインターンを実施する

1DAYインターンとは、主に新卒者を対象としたインターンシップのなかで、期間を1日に限定したものを指します。通常のインターンシップと比べて期間が短いことから、スキルや体験を積んでもらうのではなく、社内の雰囲気や企業風土に触れてもらうのが主な目的とされます。

そのため、応募者側にカルチャーフィットの度合いを判断してもらうのにも効果的な方法です。また、長期のインターンシップと比べて参加のハードルが低いため、より多くの候補者と接点を持てるのも大きなメリットといえるでしょう。

カルチャーフィット診断を実施する

選考の効率性と客観性を重視するのであれば、AIを用いた「カルチャーフィット診断」を取り入れるのも有効な方法です。AIによる適性検査の一種であるため、面接担当者の主観が入り込まず、客観的かつ多角的に相性を見極めることができるのがメリットです。

一方、カルチャーフィットには定量化が困難な項目も多いため、最終的には面接担当者の判断も重要な役割を果たします。そのため、カルチャーフィット診断は、あくまでもサポートツールの一つとして活用するのがコツです。

まとめ

カルチャーフィットを重視した人材採用は、企業への人材定着率を向上させたり、組織を活性化させたりする効果を生み出します。特に、労働人口の減少や中途採用の普及といった現代のビジネス環境においては、単なるスキルや経験だけでなく、自社のカルチャーとの親和性も重要な採用基準となります。

まずは自社が持つ独自カルチャーを丁寧に分析し、可能な項目はできるだけ言語化・定量化することが大切です。そのうえで、選考プロセスにカルチャーフィットを見極めるステップをつくり、精度の高い採用活動が行えるように準備しましょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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