即戦力の定義とは?人材の見極め方や定着率向上のコツを紹介

d's JOURNAL 編集部

企業が組織力を向上させる方法として、即戦力となる人材の採用は効率的かつ重要な施策です。即戦力とは、入社後にすぐ現場で活躍できる人材のことを指します。

この記事では、即戦力が具体的にどのような価値をもたらすのか、その定義や重要性について解説します。そのうえで、即戦力人材を採用するうえで重要となる「見極め方」や「定着率向上のコツ」も併せて詳しく見ていきましょう。

即戦力の定義


どのような人材を即戦力と呼ぶのかについて、明確な定義はありません。しかし、人材採用においては、特に研修やOJTを行わなくても、すぐに業務を担当できる人材を指す場合が多いです。

一般的な中途採用の場合は、その業界や業務が未経験の人材も採用対象に入り、幅広い視点で募集を行うこととなります。それに対して、即戦力はその業界で一定以上の経験を積んだ人を対象にするため、より限定的な採用手法といえます。

現場ですぐに活躍してもらえるかどうかが重要な判断基準となるため、経験やスキルだけでなく、新しい環境への適応力も求められるのが特徴です。企業側としても、ピンポイントで条件に合う人材を採用するために、手厚い待遇で迎え入れようとするケースが多いです。

企業が即戦力を求める理由


企業にとって、即戦力の人材が大きな価値を持つことは事実です。そのうえで、現代は特に即戦力採用に力を入れる企業が増えている傾向にあります。

ここでは、積極的な即戦力採用が行われる背景に、どのような狙いがあるのかについて見ていきましょう。

育成コストの削減につながる

即戦力人材の大きな特徴として、育成のコストや手間がかからず、すぐに活躍を期待できる点があげられます。新卒で入社した従業員を一から育てるのと、即戦力の人材を活用するのとでは、育成コストには大きな差が生まれます。

さらに、育成を行うためには担当者をつける必要があるため、人的なリソースも割かなければなりません。また、後述するように現代は転職も一般化しているため、新卒から育成を行ったとしても、必ずしもそのまま企業に残ってもらえるとは限りません。

こうした理由から、特に経営基盤が比較的に弱くなりやすい中小企業では、育成コストの面で即戦力に頼るというケースがあります。

人材不足の解消

現代の国内企業には、少子高齢化にともなう人材不足という共通の悩みが存在しています。労働人口の絶対数が減少しているため、新卒採用のみでは十分な人材を確保するのが難しく、中途採用にも力を入れる企業が増えているのです。

そのうえで、確実に活躍が計算できる人材を迎え入れたいという視点から、即戦力採用が注目されていると考えられます。

転職市場の活性化

現代のビジネス環境においては、従来と比べて終身雇用という感覚が弱まっており、1つの会社に勤め上げるというスタイルが必ずしも一般的ではなくなっています。転職に対するネガティブなイメージも薄れており、前向きな意味でキャリアの転向を考える人材も多くなっているといえるでしょう。

こうした転職市場の活性化により、優秀な人材も広く新たな活躍の場を探すケースが増えているため、即戦力採用のチャンスが広がっているのも大きな理由の一つです。

即戦力を採用する際の懸念点


即戦力人材の活用にはさまざまなメリットがありますが、採用を行う際には、いくつか頭に入れておきたい注意点もあります。ここでは、即戦力の採用時に意識すべき懸念点について見ていきましょう。

採用コストがかかる

即戦力として活躍できるほどの優秀な人材を獲得するには、人材紹介サービスなどを利用するケースが多いです。専門性の高い知識やスキルを持つ人材は、単に応募を待っているだけではなかなか出会えません。

高度な能力を求めるのであれば、適切な人材紹介サービスを通じてマッチングをしてもらうほうが円滑に採用活動を進められます。そのため、新卒採用などと比べると、1人あたりの採用コストは高くなってしまうのが一般的です。

また、即戦力人材には、前職以上の給与を求めて転職を考える方も少なくありません。満足のいく条件を提示できなければ、そもそも応募が集まらない可能性もあるため、入社後の人件費も高くなりやすいといえます。

採用活動が空振りに終わってしまわないためにも、十分な予算の確保に努めることが大切です。

ミスマッチが起こる可能性がある

中途採用で入社する従業員は、すでに他社で働いていた経験があることから、前職と自社の考え方や価値観の違いにギャップを感じてしまうケースもめずらしくありません。特に即戦力の人材は、基本的に同業種からの転職となるため、未経験の人材よりも細かなやり方や習慣の違いを実感しやすい面もあります。

また、柔軟に企業の価値観や理念を受け入れてもらいやすい新卒者と比べると、社風と合わないなどのミスマッチが起こりやすいのも確かです。採用におけるミスマッチは、優秀な人材のパフォーマンスも低下させてしまう恐れがあり、最悪の場合は離職につながってしまう可能性まであります。

入社後に早期離職されてしまえば、採用にかかったコストが大きな損失となってしまうでしょう。そのため、即戦力採用においては、いかにしてミスマッチを防ぐかが重要な観点となります。

(参考:『ミスマッチとは?新卒・ミスマッチが起こる原因は?企業に与える影響と対応方法を紹介』

既存の従業員や組織によい影響を与えるとは限らない

どれだけ優れたスキルや経験を持っていても、それだけで必ずしも期待するような実力を発揮してもらえるとは限りません。人間関係がうまく構築できないなどの理由で、業務の遂行に支障をきたしたり、組織に悪影響を与えたりする可能性もあります。

また、組織全体への影響を考慮して、給与や待遇面の設定も慎重に行わなければなりません。報酬や役職などで公平さを欠くと、既存の従業員のモチベーションを下げてしまう恐れもあるため、客観的かつ公正な評価基準を設けることが大切です。

即戦力を採用するうえで必要な準備


これまで見てきたように、即戦力採用にはメリットだけでなくいくつかの注意点もあります。デメリットによる影響を避け、効果的に実施するためには、採用活動を行う前の準備が重要となります。

ここでは、即戦力の採用を始める前に取り組むべきこととして、4つのポイントを見ていきましょう。

求める人材像の明確化

まずは、自社が求めている人材像を明確化することが大切です。必要なスキル・経験はもちろんのこと、人柄や適性、キャリアに対する考え方など、細かな部分についてもできるだけ明確に描き出しましょう。

そのためには、経営戦略・事業戦略といった上位の概念だけでなく、現場での意見やアイデアなどにも耳を傾けながら情報収集することが重要です。必要な人材像を言語化しておけば、採用担当者や面接官などともスムーズに連携が図れるため、採用基準にブレが生じなくなります。

自社の魅力の分析・発信

優秀な即戦力人材に応募してもらうためには、自社の強みや魅力をきちんと実感してもらう必要があります。それには、企業自身が自社の魅力を客観的に分析し、しっかりと候補者に伝わるように発信していかなければなりません。

具体的な方法としては、「自社で採用サイトを運営する」「SNSの運用に力を入れる」といったものがあげられます。企業が主体となって情報発信できるため、知ってもらいたい魅力を十分にアピールできるのが強みです。

また、「即戦力採用に強い求人サイトを活用する」のも一つの方法です。スタートの時点から一定以上のアクセスが見込めるため、短期間で優秀な人材の採用を実現したい場合には有力な手段となります。

中途採用者の心理状態の分析

優秀な人材に自社で働きたいと感じてもらうためには、相手に合ったアプローチを行うことも重要となります。社内に即戦力採用の仕組みが構築されていない場合は、まず中途人材が不安を感じやすいポイントを的確におさえておくとよいでしょう。

たとえば、転職を希望する理由には、単に高い給与がほしいというだけでなく、「やりたいことができる」「ワークライフバランスを実現しやすい」といったものが隠されているケースも多いです。また、前職を飛び出した場合の自らの価値やキャリアに不安を感じる転職者も少なくありません。

採用を考える企業としては、これらの希望や不安をしっかりと理解しておくと、情報発信や候補者とのコミュニケーションに活かすことができるでしょう。

面接力の強化

スムーズに採用活動を行うためには、面接官のスキルを向上させることも重要です。面接に関する研修を行ったり、必要に応じてロールプレイングなどの機会を設けたりするなど、企業側が率先して育成に力を入れる必要があります。

また、面接官の主観に頼りすぎないためにも、判断基準や面接の内容はあらかじめ明確化しておくことが大切です。面接官のやり方と心得について、さらに詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。

(参考:『面接官のやり方と心得|事前準備や質問例など基礎ノウハウを解説【マニュアル付】』

即戦力の人材を見極めるポイント


即戦力人材は、入社後にできるだけ早く活躍してもらうことを期待する存在です。面接時においては、スキルや経験といった目に見えるものだけでなく、さまざまなポイントを重視する必要があります。

ここでは、即戦力人材を見極めるうえで重要視したいポイントをご紹介します。

十分な実績があるか

まずは、やはり業務を任せられるだけの実績や経験があるかが重要なポイントとなります。入社後にすぐ活躍してもらううえで、一定以上の実務経験は欠かせません。

たとえば、即戦力のエンジニアを採用する場合には、扱えるプログラミング言語の種類やチームの管理経験といった細かなポイントもチェックし、自社とマッチするかどうかを見極めることが大切です。

また、前職の経験について尋ねる際には、達成した成果だけでなく、そのプロセスについても質問するとよいでしょう。成果を出すためにどのような工夫をしたのかなど、仕事の取り組み方についても尋ねることで、即戦力として活躍してもらえるかどうかが見極めやすくなります。

必要な資格を保有しているか

必要な資格をきちんと保有しているかどうかも、重要かつわかりやすい判断基準です。たとえば、エンジニアを採用するのであれば、基本情報技術者試験や応用情報技術者試験などに合格していれば、一定以上の知識を保有していることがわかります。

そのうえで、即戦力を求めるのであれば、資格を通じて得られた経験・スキルがあるかどうかも大切な観点となります。「その資格でどのような経験が得られたのか」「前職でどのように活用できたのか」なども併せて質問することで、入社後の活躍もイメージしやすくなるのです。

社風に合う人材か

前述のように、中途採用で入社する人材は、新卒者と比べても企業とのミスマッチを起こしやすい面があります。スキルや経験が十分であっても、社風に合わなければうまく組織になじめず、期待されるような活躍を果たすことができません。

そのため、スキルや経験と同じレベルで、自社の方針や理念に合うかどうかを丁寧に見極めることが大切です。さらに、選考の段階で、自社の企業理念や経営方針を企業側からも説明し、候補者に正しく理解してもらう必要もあります。

そうすることで、採用後のミスマッチが起こる可能性を抑えることが可能です。また、すぐに活躍してもらうという点では、既存の従業員との相性に問題がないかも重要となります。

即戦力採用の場合、入社後の配属先は決まっているケースがほとんどであるため、少なくとも合流するチーム内の事情やメンバーの個性などは考慮しておきましょう。そのため、該当する部署や部門のリーダーにも、あらかじめ状況を詳しくヒアリングしておくことが大切です。

自発的に行動できるか

即戦力の人材は、それほど育成の手間やコストをかけず、スムーズに実務になじんでもらうことが期待されます。しかした、前職のやり方や判断基準などとの細かな違いは、あらかじめ採用する企業側が想定しておくことができません。

業務を進めるうえでわからないことがあれば、従業員自身が進んで周囲に尋ねたり、新たな環境でのルールを学んだりする必要があります。つまり、指示を待たなければ動けない受け身の姿勢では、なかなか即戦力として実力を発揮することができないということです。

そのため、即戦力人材の採用では、「自発的に考えられるか」「主体的に行動できるか」という資質の部分の見極めも特に重要となります。また、新しい環境にスムーズになじむためには、もちろん柔軟性も欠かせないポイントとなります。

こうした資質を見極めるために、面接時にはコミュニケーション能力やトラブル処理能力などに関する質問を用意しておくのも有効です。

即戦力の人材を定着させるための施策


採用した人材にきちんと活躍してもらうためには、入社後の受け入れやフォローの体制をしっかりと構築しておくことも大切です。せっかく採用した即戦力の人材を手放さないためにも、定着率の向上に力を入れ、スムーズな合流を促しましょう。

ここからは、即戦力の人材を定着させるための具体的な施策を3つご紹介します。

柔軟性の高い職場環境の整備

世代が統一されている新卒採用と比べて、即戦力の人材は年齢・経験ともにバラバラであり、自身の就業経験を通して多様な価値観を持っているのが特徴です。即戦力の人材に活躍してもらうためには、こうした性質を踏まえ、多様な人材が活躍できるような柔軟性の高い組織づくりを実現する必要があります。

たとえば、「ノー残業デーを設ける」「リモートワークやフレックスタイム制に対応する」「副業を解禁する」など、選択肢に柔軟性を持たせる方法があげられます。可能な範囲でルールの枠組みを広げることで、採用できる人材の幅も広げられるのです。

また、社内の老朽化した設備・システムを入れ替える、作業に専念できるようにスペースの改善を行うなど、社内環境の見直しも有効です。特にエンジニアなどのIT関連の人材を採用する際には、その機会に既存のITシステムもまとめて見直すのが効率的といえます。

利用しているツールやサービスが古いタイプのものである場合、せっかく優秀な人材を採用しても、なかなか本来の実力を発揮してもらうことができません。業務効率化を図る意味でも、システムの入れ替えを検討してみるとよいでしょう。

オンボーディングの実施

「オンボーディング」とは、新たに採用した人材を組織の一員として定着させ、戦力として受け入れるための一連のプロセスを指します。転職の一般化により、中途採用を行うケースが増えたことで、オンボーディングの考え方も自然と注目されていきました。

具体的な取り組みとしては、次のようなものがあげられます。

<入社前>
・従業員との交流
・社内見学
・社内報の配布

<入社後まもなく>
・仕事の進め方の説明
・現場研修
・歓迎会の開催

<入社後>
・定期的な1on1
・社内メンター制度の導入

即戦力人材の場合、ある程度の工程を省略することはできますが、人間関係づくりに関するプロセスは丁寧に行うのが理想といえます。オンボーディングに積極的に取り組めば、採用される人材にとっても「自らが大事にされている」という実感を得やすいため、定着率の向上も期待できるでしょう。

オンボーディングについて、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

(参照:『オンボーディングとは?有効な施策や事例・導入プロセスについて解説<調査・対策資料付き>』)

きめ細やかな情報共有

組織文化に円滑になじんでもらうためには、入社前や直後のタイミングできめ細やかな情報共有を行うことも大切です。特に社内独自のルールや価値観、慣行などは、入社後まもない段階ではなかなか把握が難しいものです。

また、一定以上の規模の企業であれば、チームごとに異なるルールが存在するケースもあります。新たに入社する人材には、できるだけこれらのルールを言語化した状態で、人事担当者などを通じて伝えておくとよいでしょう。

まとめ

入社後すぐに具体的な業務を担ってくれる即戦力の人材は、企業にとって組織力を強化する重要な手段となります。一から人材を育成するよりも、コストや時間を省略できるとともに、異なる文化や視点を持ち込んでくれるのが即戦力人材の魅力です。

一方で、採用にコストがかかってしまう点や、能力の高い人材ほど定着させるのが難しい点など、導入時には注意したいポイントがあるのも確かです。

新たに即戦力採用を取り入れる際は、スムーズに活躍してもらうためにも、入社後の受け入れやフォローの体制も含めて改善に取り組みましょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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