【『大奥』に学ぶ】持続可能な組織づくりを叶える!即戦力中途採用者の上手な巻き込み方

マンガを介したコミュニケーションが生まれる状況をつくることを目的に活動しているユニット。小さな複合書店『マンガナイトBOOKS』の展開に加え、レビューや論評などの執筆活動、ワークショップの開催を行っている。本連載は「『ONE PIECE』に学ぶ最強ビジネスチームの作り方」(集英社)を共著した、代表・山内康裕(監修)と、いわもとたかこ=bookish(執筆)が担当する。

属性ではない、「仕組み」が組織の寿命を延ばす
内部で反感を抱かせずに、外部の力を取り入れた阿部正弘の才腕
大奥で描かれた、組織における「右腕」の重要性

江戸時代をモデルに男女の役割が逆転した世界を描くマンガ『大奥』(よしながふみ/白泉社)。疫病が原因で男性の人口が減少し、組織の運営や社会の重要な役割のほとんどを女性が担うようになった世界から、疫病の克服を経て再び男性が表社会に出てくるという物語です。このような展開から、性別や出自を問わない外部からの人材登用の重要さや、時代の転換点に求められる人材など、変化の激しい時代にふさわしい組織づくりのヒントを学ぶことができます。

属性ではない、「仕組み」が組織の寿命を延ばす

『大奥』の舞台は、男性のみがかかる謎の疫病によって男性の人口が急速に減少した、江戸時代をモデルとした日本です。男性の人数が減ることで、男性は子孫を残す役割などを担うように迫られ、代わりに女性が組織の要職を占め、社会運営の根幹で権力を握るようになっていきます。

徳川幕府も同様で、疫病で死亡した3代目の徳川家光に代わり、娘が「徳川家光」として将軍に就くと、徐々に将軍だけでなく老中なども女性が務めるようになっていきます。家光の時点では、まだ日本国内で徳川家の支配が盤石ではなく、女性の将軍の誕生は、将軍の死によって戦乱が引き起こされることを恐れた春日局の策略によるものでした。作中で「大奥」は女性の将軍を守る最後の砦として集められた男性で構成され、いつしか支配が固まることで、将軍の世継ぎづくりの相手を見つける場所となっていきます。

不思議なのは、男女が入れ替わっても組織は運営され、社会が動いていくことです。「大奥」ではあまりに自然に描かれていますが、これはそもそも、組織そのものが性別や年齢などの属性に依存しない設計になっているからこそ、可能だといえます。安定性と持続可能性が高い組織は、属性に関係なく運営できるような仕組みを持っています。

作中では、将軍や老中といった要職に就くために、男性であることなど特定の性別は指定されていません。男女のどちらが就任しても、組織の中で周りと協議しながら意思決定をしていくことに変わりはないからです。むしろ「将軍は男性のみ」と指定されていたのであれば、男性の家光が死亡した時点で徳川幕府は窮地に陥り、組織そのものが崩壊していた可能性もあります。

男性が少なくなり、有力な大名の跡継ぎも、密かに女性に変わっていることが明かされます。それは、幕府の要職や大名の跡継ぎを男性に限定していては、大名家が存続できなくなる危険性があったからでした。

こうした逆転は、武士の世界で起こっただけではありません。疫病によって男手が少なくなった農村でも女性が権限を握り、商人の世界でも、母親から娘に商売が引き継がれていきます。

もちろん、属性に頼らず人材を登用している分、その仕事を引き受けた方も、性別などを理由に仕事を拒否することはできません。『大奥』では、その職に就けば女性であっても幕府の転覆を狙う敵を摘発する現場に立ち会い、必要なら拷問も課します。

内部で反感を抱かせずに、外部の力を取り入れた阿部正弘の才腕

前述のような属性によらない組織を機能させるためには、その機能を十分に活用することのできる人材の登用が必要です。『大奥』のように世襲制を採用している徳川幕府では、世襲ではカバーできない分野で積極的に専門家を外部から登用しました。

登用のひとつが、作中で男性の人口減少の要因となった謎の疫病の克服のためのメンバーです。作中では、現代の予防接種のように感染拡大を効果的に防ぐ方法はありませんでした。この感染を防ぐ方法を確立して疫病の克服をしようとしたのが、8代将軍吉宗の遺志を継いだ田沼意次らです。

田沼意次の下には、平賀源内をはじめ、当時の医学の共通言語であったオランダ語に堪能な青沼らが集まります。平賀源内も青沼も、徳川家を頂点とする武士の世界とは縁もゆかりもない「外」の人間です。その彼らが大奥に出入りし、疫病の予防法確立に必要な研究や情報収集、語学の勉強を進めていきます。医学も語学も、専門知識に加えて並々ならぬ努力が必要な分野です。関心を持った人々がこれらの分野に取り組むことで、研究と知識の蓄積が進んだのです。

田沼意次が権力争いに負けたことで、青沼は志半ばで処刑されてしまいます。しかし、彼らの遺志を継いで疫病の予防法を確立した人々は、一度大奥から去っても、その後再び、将軍によって医師として組織に組み入れられることになります。

彼らのような専門家に限らず、『大奥』の中で、徳川幕府は多くの外部の人材を能力重視で登用し、組織内で活躍させていきます。幕末に徳川幕府を大奥総取締役として支えた瀧山もその一人でした。

彼らのように、組織内ですぐに活躍してくれる外部からの人材登用は、現代企業なら「即戦力の中途採用」に当たると言えます。彼らはあらかじめ、ポジションに就くための必要な条件を満たし、即戦力としての働きが期待されているわけです。幕末のように変化が急速に進む時代において、必要な知識や技術を得るために一から訓練を受けていては、とても追いつけません。急な変化に対応するため、従来の組織構造や業界の慣習、常識などに縛られない知見が求められることもあります。元々組織内にいる人への教育ももちろん重要ですが、組織全体の変革を一歩進めるために、外部から優秀な人材を採用して、人材を採用して成果を出すことは積極的に活用したいものです。

一方で、こうした「中途採用型」の人材は能力重視で採用された分、仕事はできても、組織にいた人たちとの間に生じた溝をなかなか埋められないことがあります。外国籍の人と日本人の間に生まれたことで外見が違う青沼はもちろん、詳細は描かれませんが、瀧山も外部からいきなり抜てきされただけに、組織の中に入った後のいざこざも大きかったことが推察できます。

こうした衝突を避けるためには、どうすればいいのでしょうか。一つは、中途採用で登用された人材と内部で育成された人材がそれぞれの力を認め合い、協力できる相手だとお互いを認識することです。組織をそれまで構成してきた人が外部からの異質な存在に警戒感を抱くのは自然なこと。外部からきた人はまずは人柄や能力を見せることでこの壁を取り払い、徐々に従来からいた人たちと連携して組織を動かしていくことが求められます。『大奥』では、幕末という社会や組織が揺れる困難な時期に登用された瀧山は、とにかく争いをおさえ不確実な社会で組織を引っ張れることを見せ、大奥の運営を取り仕切ることに成功しました。

もう一つは、抜てきの方法を工夫することです。阿部正弘は、幕府の存続をかけて、瀧山だけでなく、出自を問わず能力のある人材や聞くべき意見を持つ者を取り立てます。ただその際に、阿部は彼らを従来の役職ではなく、時代の変化に合わせて必要になった新しい役職に就けました。元々組織内にいた人から、“部外者にパイを奪われる”といった反感を抱かれずにすむようにするためです。

瀧山は結果的に、天璋院篤姫や和宮といった、いずれも外部から来た人たちとともに、誰よりも徳川家の存続のために奮闘することになります。作中では明言されていませんが、家族を失ったあとに自分を引き立ててくれた阿部が大切にした徳川家そのものを、自分の居場所と考えたのではないでしょうか。会社そのものへの帰属意識が薄れた現代でも、ある人がそこで働き続けたいと考える動機のひとつは、いま自分のいる場所が自分の所属するコミュニティのひとつだと考えられるかにあります。瀧山や天璋院のように、外部から来た人たちが「ここは自分の場所だ」と思えるようになって初めて、さまざまな背景を持つ人たちを融合させる組織づくりができたと言えます。

大奥で描かれた、組織における「右腕」の重要性

『大奥』はどの時代も面白く描かれていますが、組織や人材登用という点で特に注目すべきなのは、幕末です。仕事への取り組みや時代の読み方として、お手本にしたいと思えるようなキャラクターが続々と登場します。

男性が減っている事実を諸外国から隠すために、鎖国制度を導入していた徳川幕府ですが、ペリーの来航をきっかけに、とうとう国を開くことを迫られます。言わば時代の変わり目で、少しでも政策の方向性を間違えれば、幕府だけではなく日本全体の行く末をも左右することになる時代です。史実通り、『大奥』でも登場人物らは攘夷か開国かで、意見が大きく分かれます。

このように意見が対立しやすい状況下で能力を発揮するのは、血筋が良い人でも、聞こえの良い言葉を大声で主張する人でもありません。『大奥』で描かれた阿部正弘のように、対立相手をも交渉でうまく取り込もうとする粘り強さを持つ人物です。

若くして老中首座に抜てきされた阿部は、すでに疫病を克服し、男性が再び組織の要職に就くことが増えていた中、女性として管理職に就いていることに水戸藩の徳川斉昭から反発を受けます。斉昭以外の男性も、女性である阿部の手腕を様子見している状況でした。阿部は、そんな斉昭を説き伏せたり論破したりするのではなく、逆に相手の評価できるところは評価し、自分と同じ方向を向いてくれるように誘導します。それ以外の点でも、意見が対立する斉昭と、時間を取って話し合っていることが示唆されています。

鎖国制度を見直して諸外国と貿易などを始めるべきか、それとも外国との一切の付き合いを認めずに打ち払うべきかは、当時の日本では誰にも答えのわからない問題でした。当時の日本人にとって、異国は未知の存在です。誰も正解を知らない中で、それぞれの立場で理由を持って意見を主張すると、対立が生じやすくなるものです。反対派から相応の納得を得るには、阿部のように粘り強く時間をかけて交渉していく姿勢が求められます。

阿部は徳川幕府という自分の所属する組織を超えて、日本そのものが生き残るために、現実的にできることを進めていきます。そのために、勝海舟などの従来の身分などによらない人材登用にも積極的でした。しかも前述のように、登用した人物が無用な反発を受けないよう、新たに新設された部署に配属させるなど、旧来の人材との摩擦にも配慮。組織の効率性や目的だけでなく、人間の心理も踏まえた巧みな対応だと言えます。

阿部のような人との付き合いを通じたネットワークづくりは、大きなことを成し遂げようとするのであれば、より重要となります。

『大奥』の中で、孝明天皇が周囲の味方を得ることができずに、追い詰められていく様子が描かれました。史実では攘夷派とされている孝明天皇ですが、『大奥』では14代将軍徳川家茂との交流を通じて、外国勢とある程度の交易などを進めることを許容します。しかし、当時の宮廷で勢力を持っていたのは、攘夷を徹底する公家や長州藩でした。孝明天皇は、自分と同じ意見を持つ人が遠く離れた江戸にしかおらず、攘夷派の勢いを止めることができませんでした。

人とのつながりによるネットワークの究極の姿は、「リーダーと右腕となる人物との関係」と言えます。幕府の中興の祖とされる8代目徳川吉宗には、紀州徳川家時代からの側近だった加納久通がおり、阿部正弘は幕末の混乱期の13代徳川家定に仕えました。加納も阿部も、吉宗や家定以上に彼らのやりたいことを理解し、同じ方向を見て進む存在です。もちろん加納のように、自分の理想をかなえるためにライバルを毒殺するような犯罪行為は許されませんが、彼女らのような本当の意味での右腕となる存在は、現代社会の組織でも不可欠と言えるでしょう。

なお、このような阿部の姿とは対照的に描かれているのが、15代将軍の徳川慶喜です。知識や能力の面では将軍としてふさわしいと認められながらも、多くの人々に「人がついてこない」と指摘されます。作中では、決して間違った判断や主張をしているわけではないものの、徐々に家臣から反感を持たれるようになる様子が描かれます。本人としては正しいことを言っているにもかかわらず、それが周囲の人々にまったく伝わっていないため、「誤解」が積み重なることで人心が離れていきます。発言の内容とタイミング、言い方が相手との関係において適切でなく言った相手に反感を抱かせる『大奥』の中の慶喜の言動を、チームのリーダーは、反面教師にしたいものです。

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【まとめ】

14代将軍徳川家茂は、問題が山積する幕末の混乱期に生きる人々に対し、「私達はみな 何という面白き世に生きていることでございましょう!」と、身に背負う重責を悩むだけでなく、激動の時代に生きていることを前向きに捉える姿勢を見せました。実際に「おもしろき こともなき世を おもしろく……」という辞世の句を読んだと言われているのは、家茂と対立した倒幕派の長州藩の高杉晋作ですが、私たちも家茂にならい、価値観が揺れ動く時代を面白おかしく生き抜くための、柔軟で持続可能な組織をつくっていきたいものです。

文/bookish、企画・監修/山内康裕