採用コストを掛けられない、即戦力人材を獲得したいという採用担当者の方へ。中小企業こそやるべき!?「アルムナイ採用」の設計ノウハウ

d’s JOURNAL編集部

自社を一度退職した社員を再雇用する、「アルムナイ採用」。大企業や中堅企業では組織的に導入されている一方で、中小企業では個々の既存従業員を通してイレギュラー的に行われるにとどまり、積極的に活用されていないのが現状です。

しかし、アルムナイ採用には「即戦力人材を獲得できる」「採用コストを抑えられる」「ミスマッチが少ない」などのメリットがあるため、組織的に実施することで採用課題の解決やエンゲージメントの向上が期待できます。

そこで今回は、アルムナイ採用制度の設計方法や活用している中小企業の事例、成功のためのポイントを、詳しくご紹介します。「どのようにアルムナイ制度を設計したらよいのかわからない」「アルムナイ採用を取り入れているけれど、応募がない」とお悩みの中小企業の人事・採用担当者の方、必見です。

参照:『アルムナイとは|採用で注目される理由や制度の事例・導入方法を解説

自社でも始められる!アルムナイ採用制度の設計方法

アルムナイ採用のメリットはなんとなく理解できているけれど、実際にはどのように制度を整えるとよいのか、イメージが湧きにくい方もいるのではないでしょうか。ここでは具体的な設計方法をご紹介します。実際の運用を想定し、必要な準備や流れをイメージしてみましょう。

自社でも始められる!アルムナイ採用制度の設計方法

アルムナイネットワークを形成する

アルムナイネットワークとは、コミュニティー形成の考え方の一つです。退職したアルムナイでコミュニティーを形成した状態を指します。退社後も社内の情報や人脈を断絶させないことにより、アルムナイとの関係を維持しやすくなります。まずは担当者を立てて、以下のような方法でアルムナイネットワークを形成しましょう。

●社内にアルムナイ用のポータルサイトを作成する
●SNSやビジネスチャットツールのグループ機能を利用する
●アルムナイに特化したサービスを利用する など

ただし、継続的に制度運用をしていくためには、自社の担当者にとって負担が少なく、アルムナイにとっても気軽に参加できる場である必要があります。その場合は、利用者の多いSNSや社内のチャットツールを活用するのがおすすめです。

アルムナイとの交流の場をつくる

アルムナイネットワークを形成したら、アルムナイと企業(既存従業員)、もしくはアルムナイ同士が定期的にコミュニケーションを図れる機会をつくりましょう。具体的な方法は、以下の通りです。

●メルマガやSNSで企業情報を発信する
●交流会やイベントを開催する
●業務提携や協業を依頼する など

企業から情報を発信する際には、「現在の社内の様子」や「アルムナイが復職して活躍している様子」などを伝えると、復職後のイメージがしやすくなるでしょう。また、「交流会やイベントの開催」「業務提携や協業の依頼」は、アルムナイと既存従業員との交流によって、復職の土壌を整える効果や、オープンイノベーションの創出などが期待できます。

企業からの一方的なコミュニケーションで終わってしまうのではなく、企業とアルムナイ、もしくはアルムナイ同士のコミュニケーションが活発に行われる仕組みをつくりましょう。

アルムナイ用の採用ルールを定める

事前にアルムナイの復職条件を具体的に定めておくことは、スムーズな採用とトラブルの防止につながります。以下の求人例を参考にしつつ、自社の求める人材に応じた採用ルールを検討しましょう。

アルムナイ採用の求人例

【募集職種】
技術職

【応募資格】
・在籍年数:勤続●年以上
・退職してからの年数:●年以内
・退職理由:結婚、妊娠・出産、育児、介護、病気療養、配偶者の転勤、留学、自己啓発のための転職のいずれかに該当すること
・年齢:再雇用時の年齢が満●●歳(定年)以下
・実務経験:部門リーダー以上の役職を経験
・歓迎する免許・資格:普通自動車免許、●●●●資格

【応募方法】
以下に記載のエントリーフォームより応募

【選考方法】
書類選考、適性試験、面接

【雇用形態】
正社員もしくはパートタイマー(本人の希望および当社での実績を踏まえて個別に決定)

【勤務地】
●●県●●市

【待遇・給与】
退職前の勤務実績および再雇用までの就業経験実績等を踏まえて個別に決定

【その他】
再雇用時の教育訓練有り、在宅勤務可

一口にアルムナイといっても、在籍時の経験には個人差があります。求人する職種や役割に応じて、自社への在籍年数および実務経験、退職してから自社を離れていた期間などを絞って求人するのも効果的でしょう。しかし、少なからず過去に自社での業務を経験しているため、選考フローは「筆記試験を免除」「面接は役員面接の1回のみ」とするなど、通常の中途採用に比べて簡素化する企業が多いようです。

また、退職理由や再雇用までの期間、退職後に取得したスキルには個人差があるため、雇用形態や待遇・給与については、退職前の勤務実績やその後の実績などを踏まえて個別に設定するとよいでしょう。その際は、アルムナイと既存社員どちらかを優遇し過ぎて一方のモチベーションが下がらないような配慮が必要です。

アルムナイが復職しやすい環境を整える

アルムナイに再び自社で活躍してもらうためには、復職を友好的に受け入れる土壌を整えておくことも重要です。現在はライフステージに合わせた働き方や、自分らしく生活するための転職が当たり前になってきてはいますが、退職・転職に対するネガティブな印象が完全になくなったとは言えません。

そのような理由から復職したアルムナイがうまくなじめない、煙たがられるといったことがないよう、日頃から「個々の状況や退職の意思は尊重されるべき」「転職はスキルアップの機会の一つ」といったことを発信したり、復職の仕組みを整えたりして、アルムナイが戻りやすく、楽しく働ける職場づくりを人事・採用担当者が率先して行いましょう。

具体的には、前述の「アルムナイと既存社員がコミュニケーションを取れる場を設ける」ほか、語学留学のために退社したアルムナイを語学力の活かせるグローバルなポジションに配置するなど、「アルムナイ用のポジションを用意する」といった方法があります。

アルムナイ採用を実施している中小企業事例

大企業でないと導入が難しいと思われがちなアルムナイ採用。しかし、中小企業でも積極的にアルムナイ採用を活用している企業があります。実際の事例を3社ご紹介します。

アルムナイ採用を実施している中小企業事例

株式会社インテグレート(正社員数70名※2022年10月時点)

株式会社インテグレートでは、アルムナイにさまざまなフィールドでの経験や知見を活かして再度活躍してもらうべく、カムバック採用を実施。再入社メンバーからは「インテグレートの環境はさまざまなことに挑戦できる場だと改めて考えた。得意領域をより積極的に伸ばしながら、新しいことにも挑戦していく社風はとても刺激的」「以前より効率的に働ける環境になったと聞いて再入社した。各パートの専門化が進んでおり、効率的かつ質の高い仕事ができる環境が整ってきていると感じる」などの声が上がっているそうです。

株式会社ソフトコム(従業員数143名※2022年4月1日時点)

株式会社ソフトコムではジョブリターン制度を導入し、育児や介護、配偶者の転勤などのやむを得ない理由や、キャリアアップのために退職したアルムナイを再雇用しています。在籍中や退職後に培った経験や能力を活かし、即戦力として活躍してもらうべく、退職経過年数の制限は設けていないそうです。選考の流れも通常のキャリア選考とは異なり、書類審査と適性検査、役員および担当部長との1回の面接で採用が決定します。

株式会社唐沢農機サービス(従業員数33名※パート3名を含む)

株式会社唐沢農機サービスでは、やむを得ない理由やチャレンジのために退職したアルムナイを対象に再雇用制度を導入しています。元々正社員の給与テーブルの一部を一般公開しており、アルムナイの給与もそれを基に退職前の勤務実績および再雇用までの就業経験などの実績を踏まえ、個別に決定するそうです。また、採用ページ内に匿名で雇用条件に関する問い合わせができるエントリーフォームを設ける工夫もしています。

アルムナイ採用成功のために今から注力しておくこと

アルムナイ採用成功のために今から注力しておくこと

アルムナイ採用を成功させるために最も重要なことは、退職時の対応です。いくら制度を整えたとしても、退職時の印象が悪ければ復職したいと思ってもらうことはできません。アルムナイが「またここで働きたい」「時期が来たら戻ってきたい」とよい印象を持って退社できるよう、以下のことに留意しましょう。

●退職・転職の決断を頭ごなしに否定しない/誠実に話を聞く
●速やかに引き継ぎ先を決定し、業務を調整する
●有給消化を踏まえた余裕のある退職までのスケジュールを組む
●最終出社日や送別会では感謝を伝える
●アルムナイ採用制度、アルムナイネットワークについて説明する

まずは退職の意思を尊重し、誠実に話を聞く姿勢が求められます。退職が決定したら、退職者が余裕を持って引き継ぎができるようサポートしましょう。退職者にアルムナイ採用の制度やアルムナイネットワークについて説明をし、復職に歓迎的な姿勢を示すことも大切です。

また、「起業・独立する社員への出資」「交流会、勉強会の機会提供」「社割・福利厚生の継続提供」など、退職後のサポートや応援をすることで、アルムナイが自社を好意的に受け止めてくれる可能性が高まるでしょう。

まとめ

売り手市場が続き、雇用の流動性も高まっている昨今、従来の採用手法だけでは、自社の求める人材を確保することが難しくなりつつあります。今回ご紹介した内容を参考にしながら、採用手法の新たな選択肢として「アルムナイ採用」の組織的な導入を検討してみてはいかがでしょうか。

(企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、制作協力/株式会社はたらクリエイト

【Excel版】退職者アンケートテンプレート

資料をダウンロード