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アルムナイとは「卒業生」「同窓生」を意味する言葉で、英語ではalumniと表記します。派生して、企業では何らかの理由で一度退職した人(OG・OB)を指す言葉として使われており、一般的には定年退職者以外の退職者を指します。
近年では、このアルムナイを貴重な人的資源として捉え、組織化して継続的にコミュニケーションを取ることで再雇用につなげる採用手法が活用されるようになりました。
また、企業ブランディング手法の一つとしても注目されており、アルムナイを活用する日本企業も出始めています。雇用の流動性が高まってきた現代では、今後さらに普及していくと考えられるでしょう。
この記事では、アルムナイ制度はどのように採用に活かせるのか、導入方法やメリット・デメリット、活用事例などをわかりやすくご紹介します。
アルムナイ制度とは、何らかの理由で自社を退職した人を、再度雇用すること。退職した労働者の希望により、企業が再び労働契約を結ぶ「再雇用制度」のうちの一つです。「カムバック制度」や「出戻り制度」と呼ばれることもあります。
結婚や出産、育児、介護などの事情で離職した社員を再雇用する「ジョブリターン制度」と比較されることもありますが、アルムナイ制度では理由を問わず、主に他社への転職や起業など、自社の退職後もビジネスシーンで活躍している人材を再雇用することが特徴です。
アルムナイが注目されている背景には、次の3つの理由が挙げられます。具体的に見ていきましょう。
第一に、採用の難易度が上昇していることが挙げられます。転職・求人サイトdodaの『転職求人倍率レポート(2022年8月)』によると、2022年7月の転職求人倍率は、全体で1.98倍でした。
前月差0.07ポイント増、前年同月差0.55ポイント増と微増しており、人材が採用しにくい状況が続いています。新型コロナウイルス感染症の影響で落ち込んでいた求人数が回復していることも、原因の一つとして考えられるでしょう。
また、コロナ禍前の2019年同月比では、求人数173.8%、転職希望者数100.3%、求人倍率は0.84ポイント上昇となり、人材の流動化が見てとれます。
少子高齢化により今後も売り手市場が続くと予想される中、自社の退職者をターゲットとしたアルムナイ制度が、人材を確保するための新たな採用手法として注目されているのです。
(参考:doda『転職求人倍率レポート(2022年8月)』)
働き方が多様化したことにより、優秀な人材の採用が困難化していることもアルムナイが注目されている理由です。
昨今は一つの企業に縛られない働き方が増えており、フリーランスとして働く人や起業をする人も珍しくありません。労働力人口不足の課題もあり、能力の高い人材の新規獲得や囲い込みがさらに難しくなっていると言えるでしょう。
その点、自社での経験に加え、他社でさらにスキルを伸ばしているアルムナイを再雇用できれば、即戦力としての活躍が期待できます。優秀なアルムナイの状況を把握し続けられるよう、アルムナイを対象としたネットワークを形成している企業も増加しています。
かつての日本では「終身雇用」が前提とされており、定年ややむを得ない事情以外の退職にネガティブな印象を持たれることが多々ありました。
しかし、現在は終身雇用の前提が崩れ、ライフステージに合わせた働き方や自分らしい生き方を実現するための転職も当たり前になっています。
退職に対する価値観が前向きなものに変化したことにより、離職者や退職者を貴重な人的資本と捉え、アルムナイ制度を活用して再雇用につなげる企業が増えているのです。
アルムナイ採用に積極的な人の特性について、2020年6月にパーソル総合研究所が発表した『コーポレート・アルムナイ(企業同窓生)に関する定量調査』を基に解説します。
日ごろから友人や知人と継続的に関わりを持とうとする意識が高い人は、元同僚や上司との交流回数も多く、アルムナイ意識が高いことがわかっています。加えて、アルムナイ意識が高い人には、「一緒に活動できる仲間」や「信頼できる知人・友人」など、会社に限らない人的資本が蓄積されていることも特徴です。
また、離職後のアルムナイ意識の醸成について、学校卒業後も交友を続ける、同窓会には積極的に参加するなどの「継続的な交流意識」や、社内での接点や他部署とのコミュニケーションといった「積極的な社内交流」はプラスに働きますが、前の会社の同僚に負けたくない、前職よりも成功したいといった「見返し意識」はマイナスに作用することがわかりました。
これらのことを踏まえ、アルムナイに積極的な人・消極的な人の特性をまとめると、以下の通りです。今後の施策や採用活動の参考にしてみてください。
(参考:パーソル総合研究所『コーポレート・アルムナイ(企業同窓生)に関する定量調査』P49)
実際にどのようにアルムナイとの関係を維持し、活用していくとよいのでしょうか。アルムナイの活用に成功している企業の事例をご紹介します。
デロイト トーマツ グループの「デロイト トーマツ アラムナイ(アルムナイ)」は、退職後のアルムナイの支援や既存社員との交流を目的としているようです。懇親会やセミナーなどのイベント開催や各種情報の提供に加え、CPA協会のCPE単位付き講座やビジネスナレッジに関するe-learningを提供することで、アルムナイと関係を構築しています。
(参考:『企業目線でアルムナイは動かない―。共創を重視したデロイト トーマツ流 成功の舞台裏』)
株式会社良品計画では、アルムナイを再度迎え入れるための仕組みを「カムバック採用」として制度化し、運用しています。2016年3月の制度化以降、店舗で働いていたパート・アルバイトスタッフを中心に、約680人がカムバックを果たしています。
(参考:『正式な制度が安心を生む。「カムバック採用」の良品計画がつくる、戻りたくなる組織』)
アルムナイを活用することで、実際にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここではアルムナイを活用するメリットについて、3つにポイントを絞ってご紹介します。
(参考:パーソル総合研究所『コーポレート・アルムナイ(企業同窓生)に関する定量調査』P7)
採用の現場では、たとえ優秀な人材でも企業文化に合わないと判断される場合、採用を見送るというケースもあるでしょう。企業が求めるスキルや経験のみならず、企業文化になじんでいく適応力を有していることも、採用を考える際には重要です。十分なスキルや経験があり企業文化をよく理解しているアルムナイであれば、適応力が高くミスマッチが起きづらいため、復職後の活躍が期待できます。
アルムナイは企業の採用基準を満たして採用され、かつ社内で実際に一定の期間働いていた人材のため、再雇用する時点でも十分なスキルや経験を有している可能性が高く、教育コストの削減が期待できます。中途採用で一度もその会社で働いたことがない人を採用する場合と比べると、研修やOJTにかかるコストや時間を大幅に削減できるというメリットがあります。
新たな人材を採用する際には、人材サービス各社への依頼や説明会・面接の実施など、ある程度の期間を要するのが一般的。そのため、即座に優秀な人材を採用するというのは難しいのが現状です。アルムナイであれば直接声を掛けられる上、会社概要の説明も省くことができるため、採用に要する時間の大幅な削減が見込めます。
アルムナイを活用する際には、その方法を間違えるとデメリットになることもあります。ここでは、アルムナイを活用する上で気を付けたい3つのデメリットをご紹介します。
アルムナイは会社を一度退職した人材であるため、既存社員からは「会社を一度捨てた人材」と見なされて上手くなじめない、若手社員などに煙たがられるといったケースも考えられます。既存社員との人間関係をうまく構築できるような配慮をする必要があるでしょう。再雇用する前に既存社員とコミュニケーションを取る場を設けるなど、既存社員がアルムナイを友好的に受け入れられるような準備が求められます。
アルムナイを活用する際には、給与や待遇面での不公平感が生じないように留意する必要もあります。会社を離れている間に、かつての同期や部下が昇進していることに不満を感じる人もいるかもしれません。またその一方で、アルムナイを給与や地位などで優遇し過ぎると、既存社員のモチベーションが下がることも予想されます。アルムナイと既存社員が共に不公平感を抱かないような配慮が必要です。
アルムナイに再び活躍してもらうためには、良好な関係を保ち続けるためのコミュニケーションを惜しまないことも重要です。メールやSNSで情報を発信する、アルムナイ専用サービスを提供するなど関係を保つための方法はさまざまですが、いざという時にすぐに声を掛けられるように、アルムナイとの友好的な関係を長期間維持していくことが必要でしょう。
企業でアルムナイを活用するとき、どのようなフローで進めるとよいか紹介します。
アルムナイを活用するにあたり、どのような条件であれば復職可能かどうか整理する必要があります。「リーダー職以上の役職を経験した人」「3年以上働いた人」など、アルムナイとして再雇用される条件を具体的に示すとよいでしょう。
アルムナイの活用を進めるためには、退職時にいかに良好な関係を保ったまま退職してもらえるかという点が重要となります。アルムナイとして活躍してもらうためには、「良い会社だったので、またいずれ時期が来たら戻ってきたい」「子育てが落ち着いたら、またここで働きたい」など良いイメージを持って円満退職していくことが前提となるからです。具体的な施策としては、退職時・退職後のステップアップの支援や、アルムナイ・ネットワークの構築(プール化)などがあります。また、退職時に社内にアルムナイを再雇用する制度があることを周知することも有効でしょう。
アルムナイを活用していくためには、定期的にコミュニケーションを取っていくことも必要です。アルムナイとの関係を維持するための方法は企業によってさまざまで、アルムナイ向けのSNSグループの作成や会社情報をお知らせするメルマガ配信、定期イベントの開催、アルムナイ専用サービスの提供などがあります。定期的に情報をアルムナイ・ネットワークに向けて発信していく場合、アルムナイが実際に復職して活躍している様子や、現在の社内の状況、現職の社員の評価されている取り組み事例等、復職後のイメージが湧く情報や現在の企業の様子を伝えるとよいでしょう。企業によっては社外秘の情報もあるため、どのような情報をどういった方法でアルムナイに伝えていくのか、明確に規定しておくことが求められるでしょう。
アルムナイの活用を始めるためには、受け入れ体制を整えることも必要です。受け入れ体制を整えておかないと、既存の社員にうまく溶け込めなかったり、企業の人事制度や仕事の進め方などの変化に対応できなかったりといった問題が生じる可能性があります。
アルムナイ・ネットワークとは、自社を退職した人(OB・OG)で形成されるコミュニティーのこと。「社内にポータルサイトを作る」「SNSのグループ機能を使用する」など、企業によって運用の方法はさまざまです。
アルムナイとのつながりを効果的に維持することは、その後のスムーズな採用につながるでしょう。ここでは、アルムナイ・ネットワークを構築する際のポイントをご紹介します。
前述の通り、アルムナイ採用に積極的な人の特性として「継続的な交流意識」が挙げられます。そこで重要となるのが、アルムナイと既存社員が情報交換できる場を設けることです。
アルムナイは退職後の企業や同僚の状況を知ることができ、既存社員はアルムナイから社外の情報を得ることができるため、双方にとってメリットがあると言えるでしょう。
また、両者が情報交換できる場を提供することは、アルムナイを受け入れるカルチャーを醸成することにもつながります。効果的なイベントを開催することができれば、参加者同士の関係性を深められるだけでなく、参加者の口コミを通して新規参加者を増やすことも期待できるでしょう。
アルムナイは自社の事情に詳しい半面、第三者としての視点を持っています。そのため、「商品やサービスに対する意見の提供」や「求める人材の紹介」などに協力してもらえる可能性も秘めています。
企業によっては、製品開発会議にアルムナイを招くこともあるようです。協力者や情報提供者へのお礼の制度をあらかじめ作っておくことで、アルムナイからの接触が増える可能性が高まるでしょう。
アルムナイ制度は企業文化に適した優秀な人材を採用できる可能性が高く、中途採用に比べ教育コストがかからない点もメリットです。
アルムナイに自社で再び活躍してもらうためには、アルムナイを受け入れる企業風土を構築しつつ、アルムナイ・ネットワークを効果的に運用していくことがポイントとなります。
導入を検討する際は、メリット・デメリットを把握した上で、社内の体制を整えるところからスタートしましょう。
(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)
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社会保険労務士法人クラシコ 代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】
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