アルムナイとは?注目される理由とメリット・デメリットを解説

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編集部

アルムナイは同窓生・卒業生を意味する英語ですが、近年では人事領域の分野で用いられるケースが増えています。

企業にとってのアルムナイは「離職者・退職者の集まり」を意味し、アルムナイの活用によって人材不足の解消が期待できるなど、人事戦略のカギを握る可能性も大いにあります。

今回はアルムナイの基本的な定義や注目されている理由、企業にとってのメリット・デメリットについて詳しく見ていきましょう。

アルムナイとは


「アルムナイ」とは、主に人材採用の現場で耳にする機会の多い言葉です。ここではまず、アルムナイの定義や基本的な意味について確認しておきましょう。

アルムナイの定義

アルムナイ(alumni)は、「卒業生」「同窓生」といった意味を持つ英単語です。人事領域では、そこから転じて「企業の離職者・退職者の集まり」を指すようになっています。

従来はOB・OGという言葉が広く用いられていましたが、ジェンダー配慮の観点からアルムナイを使用するケースも増えています。アルムナイはその企業で就労した経験があることから、「企業の文化や理念を理解している」「企業に対して一定の愛着や信頼を持っている」など、その他の集団とは異なる傾向を持っているのが最大の特徴です。

アルムナイ採用とは

アルムナイ採用とは、一度自社を離職した人材を再び採用することを指します。前述のように、アルムナイは自社に対して一定の理解や信頼を示していることから、通常の応募者よりも採用をスムーズに行いやすいのが特徴です。

また、求人広告や人材紹介会社などを利用せずに採用活動を行えるため、採用コストを抑えられるのもメリットです。そのため、企業によってはアルムナイの採用に特化した仕組みを設けるケースもあります。

たとえば、在職時から接点のある上司や同僚が直接声を掛けて、採用につなげるといった方法があげられます。あるいはSNSなどを通じたアルムナイネットワークを用いて情報共有し、再雇用の窓口を広げておくといった方法も、アルムナイ向けの制度としては一般的です。

アルムナイが注目される理由


アルムナイの採用は、もともと主に海外の企業や外資系の企業で注目されていた制度でした。しかし、近年では国内企業においても、積極的にアルムナイ制度を取り入れるケースが見られています。

現代のビジネス環境においてアルムナイが注目されているのには、大きく分けて3つの理由があげられます。ここでは、具体的な背景について見ていきましょう。

売り手市場による採用難易度の上昇

現在の人材採用を取り巻く環境は、少子高齢化による売り手市場化が長く続いている状態です。労働人口が減少していることで、多くの企業が人員不足に関する悩みを抱えており、優秀な人材の確保が重要な課題となっています。

こうした環境下にあって、自社での業務を経験しているアルムナイは、有効な人材群として大きな価値を持ちます。外部から新たな人材を確保するよりも、アルムナイに積極的なアプローチを仕掛けるほうが、効率的な組織力の向上につながりやすいと考えられているのです。

働き方に対する価値観の多様化

働き方の多様化により、安定的に優秀な人材を確保し続けることが難しくなっている点も、アルムナイが注目されている理由です。昨今は特定の企業に縛られない働き方も普及し始めており、高いスキルや経験を持った人材がフリーランスとして働いたり、起業したりするケースもめずらしくありません。

それに対して、企業側も外部リソースの活用などで対応するケースは増えていますが、必ずしも長期的に安定した戦力として計算できるわけではありません。このように、優秀な人材の新規獲得や囲い込みは、従来と比べてもハードルが高くなっているといえるでしょう。

その点、自社での経験に加えて、他社でもさらにスキルを磨いているアルムナイを再雇用できれば、即戦力としての活躍が期待できます。

退職や転職に関する考え方の変化

かつての日本では終身雇用が前提とされており、定年ややむを得ない事情を除く退職にはネガティブな印象を持たれることが多くありました。しかし、現在では終身雇用や年功序列といった前提が崩れ、ライフステージに合わせた柔軟な働き方を実現するためにも、転職を志す人はめずらしくなくなりました。

官公庁や大手の企業も中途採用を積極的に行っているように、転職に対するネガティブなイメージは薄れ、むしろ優秀な人材ほど転職を含めたさまざまな可能性を模索するケースが増えています。そして、転職に対する価値観が前向きなものに変化したことで、結果としてアルムナイの重要性も高まっていくと考えられます。

その理由の一つは、転職者の増加により、各企業が抱えるアルムナイの母数も自然と増えていくという点です。そして、もう一つの理由は、優秀な転職者の増加により、アルムナイの質も向上していくという点です。

アルムナイの母数が大きくなり、優秀な人材も増えるなかで、人事戦略における重要性はますます高まっていくといえるでしょう。

アルムナイを導入する4つのメリット


それでは、アルムナイ採用に力を入れることにはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、4つのポイントから詳しく見ていきましょう。

即戦力を採用できる

1つめのメリットは、即戦力としての活躍が期待できる点にあります。アルムナイは自社での勤務経験を通じて、事業や業務の内容を把握しているとともに、社風や人間関係といった内情も理解しています。

そのため、新規で採用する場合と比べて、すぐに具体的な戦力として計算できるのが魅力です。また、採用後のミスマッチも起こりにくいため、再雇用後は定着率が高くなりやすいのも特徴です。

企業ブランディングの強化につながる

アルムナイの再雇用実績が増えれば、自社の企業ブランディングにも大きく貢献します。なぜなら、「多くの人材が離職後も戻りたいと思える企業」であることの客観的な証明になるためです。

また、退職後も良好な人間関係を保ち続けられるという証しにもなるため、企業のイメージアップにつながりやすいといえます。

新たな関係性の構築が可能

アルムナイと良好な関係を維持することには、たとえ再雇用につながらなかったとしても大きな意味があります。なぜなら、自社を離れた人材との間に新たな関係性を構築することができるためです。

アルムナイのネットワークを大切にするなかで、自社の新商品の情報を拡散してもらえたり、ときには客観的な立場からアンバサダーを務めてもらえたりすることもできます。また、アルムナイが他社で意思決定を任されるような地位をつかめば、パートナー企業や取引先として強固な関係性を築ける可能性もあります。

教育コストの削減

アルムナイは、自社の採用基準をクリアして採用された実績があり、なおかつ社内で実際に一定の期間働いていた人材群です。すでに十分なスキルや経験を有している可能性が高いため、アルムナイを再雇用する場合は、教育コストを大幅に削減できるのもメリットとなります。

アルムナイを導入する3つのデメリット


一方、アルムナイとの関わりにおいては、いくつか注意しなければならないデメリットもあります。ここでは、3つの注意点について解説します。

既存社員に対する影響

アルムナイを再雇用する場合には、既存の従業員への影響を十分に考慮する必要があります。アルムナイの待遇や給与などの条件によっては、既存の従業員から不満が出てしまう可能性があるため、労働条件は慎重に検討しなければなりません。

また、自社を離れてから一定以上の期間が経過している場合は、在職当時の環境と現在の状況が大きく変化している可能性もあります。過去の業務の進め方にこだわるあまり、既存の従業員と摩擦や衝突を起こしてしまうリスクもあるので、事前に研修や説明会を行って予防することも大切です。

情報漏えいのリスクが発生する

アルムナイとの関わりにおいては、継続的に接点が持てるようにSNSなどでネットワークを構築しておくのが一般的です。良好な関係性を保つためにも、定期的に連絡を取り合える環境を用意するのは重要な取り組みといえるでしょう。

しかし、自社で再雇用する場合を除き、あくまでも外部の存在であるという点を忘れてはなりません。自社の従業員であったという安心感から、重要な機密情報を漏らしてしまえば、大きな損害につながるリスクもあります。

あくまでも対外的な立場であることを忘れず、情報をどこまで共有するのか、どのように管理するのかなどを明確に決めておくことが大切です。

関係維持のためにコストが必要

アルムナイとの関わりを保つためには、一定のコストが掛かる点も意識しておく必要があります。専用サイトを用意する場合にはその開発費や管理維持費、イベントを開催する場合にはその費用や人件費など、一つひとつの取り組みにはコストが発生します。

そのため、メリットとのバランスを十分に踏まえて、どのくらいまでのコストなら許容できるかをあらかじめ計算しておくとよいでしょう。

アルムナイ採用を導入する手順


企業でアルムナイ採用を行うときには、どのような点を意識すべきなのでしょうか。ここでは、具体的なフローに沿って見ていきましょう。
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復職の条件を整理する

アルムナイを採用するにあたって、どのような条件であれば復職を認められるかどうかを整理する必要があります。たとえば、「リーダー職以上の役職を経験した」「3年以上自社で働いた」など、アルムナイとして再雇用される条件を具体的に設定することが大切です。

復職条件の整理は、既存の従業員からの納得を得るうえでも重要です。誰でも簡単に戻れるとなれば、自社への帰属意識や業務へのモチベーションが下がってしまう可能性もあるので、幅広い視野から検討しましょう。

退職時のコミュニケーションを円滑にする

アルムナイの活用を進めるためには、退職時にどれだけ良好な関係を保ったまま送り出せるかも重要なポイントとなります。再雇用の可能性を残すためには、円満退職が前提であり、何かあれば再び戻ってきてもらえるようなよい印象を与えておくことが大切です。

具体的な施策としては、退職時・退職後のステップアップの支援や、アルムナイネットワークの構築などがあげられます。また、退職時にアルムナイの再雇用制度があることを伝えておくのも有効といえます。

退職者との関係維持の方法を検討する

アルムナイとの関係を維持するためには、定期的なコミュニケーションを図れる制度を整えておくことも大切です。たとえば、アルムナイ向けのSNSグループの作成や、アルムナイネットワークの構築、メルマガ配信、定期イベントの開催などがあげられます。

そのうえで、情報発信をする場合は、アルムナイが実際に復職して活躍している様子や、現在の社内の状況などを定期配信することで、復職後のイメージを持たせやすくなります。

受け入れ体制を整備する

アルムナイの再雇用を行ううえでは、受け入れ体制を整えることも大切です。担当業務の研修を行ったり、復職後のキャリア形成について相談に応じたりと、さまざまなサポート体制を用意しておけるのが理想です。

また、必要に応じて既存の従業員にも情報共有を行い、スムーズにチームとして協力
できるような根回しを済ませておくことも重要といえます。

アルムナイ採用に積極的な個人の特性

アルムナイ採用に積極的な人の特性について、2020年6月にパーソル総合研究所が発表した『コーポレート・アルムナイ(企業同窓生)に関する定量調査』を基に解説します。

日ごろから友人や知人と継続的に関わりを持とうとする意識が高い人は、元同僚や上司との交流回数も多く、アルムナイ意識が高いことがわかっています。加えて、アルムナイ意識が高い人には、「一緒に活動できる仲間」や「信頼できる知人・友人」など、会社に限らない人的資本が蓄積されていることも特徴です。

また、離職後のアルムナイ意識の醸成について、学校卒業後も交友を続ける、同窓会には積極的に参加するなどの「継続的な交流意識」や、社内での接点や他部署とのコミュニケーションといった「積極的な社内交流」はプラスに働きますが、前の会社の同僚に負けたくない、前職よりも成功したいといった「見返し意識」はマイナスに作用することがわかりました。

これらのことを踏まえ、アルムナイに積極的な人・消極的な人の特性をまとめると、以下の通りです。今後の施策や採用活動の参考にしてみてください。

アルムナイ採用に積極的な個人の特性

(参考:パーソル総合研究所『コーポレート・アルムナイ(企業同窓生)に関する定量調査』P49)

アルムナイ採用を活用している企業事例

実際にどのようにアルムナイとの関係を維持し、活用していくとよいのでしょうか。アルムナイの活用に成功している企業の事例をご紹介します。

各種イベント・e-learningの提供|デロイト トーマツ グループ

デロイト トーマツ グループの「デロイト トーマツ アラムナイ(アルムナイ)」は、退職後のアルムナイの支援や既存社員との交流を目的としているようです。懇親会やセミナーなどのイベント開催や各種情報の提供に加え、CPA協会のCPE単位付き講座やビジネスナレッジに関するe-learningを提供することで、アルムナイと関係を構築しています。
(参考:『企業目線でアルムナイは動かない―。共創を重視したデロイト トーマツ流 成功の舞台裏』)

カムバック採用としての制度化|株式会社良品計画

株式会社良品計画では、アルムナイを再度迎え入れるための仕組みを「カムバック採用」として制度化し、運用しています。2016年3月の制度化以降、店舗で働いていたパート・アルバイトスタッフを中心に、約680人がカムバックを果たしています。
(参考:『正式な制度が安心を生む。「カムバック採用」の良品計画がつくる、戻りたくなる組織』)

まとめ

アルムナイは自社で働いていた実績があることから、再雇用時には「ミスマッチが起こりにくい」「即戦力として期待できる」「採用・教育コストを抑えられる」といったさまざまなメリットがあります。また、アルムナイの再雇用例が増えれば、「離職しても戻りたくなる会社」として企業のブランディングイメージも向上するでしょう。

アルムナイに活躍してもらうためには、定期的にコミュニケーションを図れる仕組みや制度を整えることが重要です。良質なアルムナイネットワークを形成し、丁寧に運営すれば、自社の人事戦略において新たな武器となっていくでしょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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