部下育成のポイントと指導法|失敗しやすい事例を紹介

d’s JOURNAL編集部

部下育成の役割を担うのは管理職ですが、十分な指導スキルを持っていなければ、思うように育成できず悩みを抱えてしまうこともあるでしょう。

上手に部下を育成し、成長につなげていくには部下の適性を見極めるとともに、指導に関する基本的なポイントを押さえておく必要があります。

この記事では、部下育成につながる指導法と失敗事例を解説します。

部下育成の基本となるポイント


部下をしっかりと育成していくには、基本となるポイントを理解しておく必要があります。部下の育成が必要な理由も踏まえて解説します。

部下育成とは

部下育成とは、上司が部下を指導する意味と捉えがちですが、本質的には部下自身が学んでいくプロセスをサポートすることを指します。適切な指導は必要ですが、部下は自らの体験を通じて学び、成長のきっかけをつかんでいくものです。

そのため、上司の役割は本人の適性を見極めたり、スキルアップにつながる機会を与えたりすることにあるといえます。あくまで、部下を中心に育成計画を立てていくことが大切で、上司は部下が目標に対してどのような取り組みを行ったかを評価し、フィードバックを行っていきます。

初めから大きな目標を目指すのではなく、部下の能力に応じて目標を設定し、どのようにすれば達成できるかを一緒に考えていくことが重要です。小さな目標を達成していく経験を通じて、やがて部下自身が主体的に学んでいくよう促すのが部下育成のあり方だといえます。

部下育成が重要な理由

部下育成が重要な理由は、組織全体の成長力を高めていく必要があるからです。競合他社に負けない競争力を発揮するためには、商品やサービスの開発や販売を担う人材の育成が欠かせません。

どれほど魅力的な商材があったとしても、事業を取り巻く環境は絶えず変化をしており、その変化に対応していくためには、人材の育成が欠かせません。企業が掲げる目標と個々の従業員の目標を擦り合わせ、業務に対するモチベーションを高めていくことで、生産性の向上につなげていきます。

また、業務に対して部下がやりがいを感じるようになれば、離職率の低下にもつながるでしょう。長く勤める従業員が増えれば、社内に蓄積されるノウハウや技術に厚みが出てくるため、結果的に組織としての競争力も高まるはずです。

部下育成で抱えがちな課題


部下の育成が必要なことはわかっていても、思うように成長につなげられないケースもあるでしょう。部下育成で抱えがちな課題としては、次の3つがあげられます。

■部下育成で抱えがちな3つの課題
・部下育成に十分な時間がかけられない
・管理職のマネジメント能力が不足している
・部下育成のノウハウが十分でない

それぞれの課題について、さらに詳しく見ていきましょう。

部下育成に十分な時間がかけられない

部下の育成に取り組もうとして起こりがちな課題として、「十分な時間が確保できない」という点があげられます。指導を行う上司自身も普段の業務を抱えながら部下の育成を行わなければならないため、なかなか手が回らないという場合があるでしょう。

また、複数の部下を同時に管理しなければならず、一人ひとりの部下に時間をあまりかけられないといったケースも考えられます。しっかりと部下育成に取り組んでいくには、まずは上司の業務負担を軽減する取り組みが必要です。

業務負担の改善を人事労務担当者と一緒に取り組んで、部下の育成に十分な時間を確保できるように努めてみましょう。

管理職のマネジメント能力が不足している

時間的な部分では問題がなかったとしても、管理職である上司のマネジメント能力が不足している場合もあります。部下育成はあくまで、上司と部下が連携して取り組むべきものであり、コミュニケーションが不足していると育成計画にも支障が出てしまうでしょう。

上司の経験や勘だけを頼りに指導を行うのではなく、適切な目標設定を行って、プロセスを練り、どのようなスキルを身につけてもらうのかを考えなければなりません。上司の指導力不足は部下のモチベーションを低下させる要因となるため、企業としても管理職向けの研修を実施し、マネジメント能力を養う機会をつくってみましょう。

部下育成のノウハウが十分でない

部下の育成にあまり取り組んだことがない上司であれば、どのように部下を育成していけばよいのかわからないものです。部下育成は一義的には上司の役割ではありますが、企業にとっては上司も部下も同じ従業員なので、全社的な人材戦略として取り組んでいく必要があるでしょう。

部下育成のノウハウが不足していると思われる管理職がいるなら、他部署・他部門の管理職とノウハウを共有する機会を設けてみましょう。また、タレントマネジメントシステム などを導入して情報を共有し、他の管理職に相談しやすい環境を整えるのも有効な方法です。

部下育成で管理職が頭を抱えてしまわないように、サポート体制を整備することが大事です。

部下育成の失敗事例と解決策


部下育成が思うように進まないのは、それなりに理由が存在します。ここでは、部下育成に行き詰まる失敗事例と解決策を見ていきましょう。

事例①部下育成の意味を十分に理解していない

先に述べたように、部下育成は「部下自身が学んでいくプロセスをサポートすること」を意味します。しかし、部下への指導で多いのが、上司が細かな指示を与えてそのとおりに仕事を進めているかをチェックするケースです。

たしかに、短期的に成果をあげたり、新しく入った部下を一定レベルまで育てたりするときには指示を中心としたマネジメントは効果があります。しかし、上司の指示に従っているだけでは、部下は自ら考えて行動する経験を得られずに成長は止まってしまうでしょう。

また、指示待ちの部下が増えれば、その分だけ上司の負担も大きくなり、組織としての問題にもつながっていく恐れがあります。部下育成を推進するには、指示型ではなく対話型のコーチング を中心にアプローチを行い、部下にできるだけ考えてもらう機会を増やすことが大事です。

事例②部下に余計なプレッシャーを与えてしまう

部下を育成する立場であるはずの上司が、期待するように部下が育たないと、つい感情的に接してしまうことがあるかもしれません。しかし、感情的な態度で接すれば部下は委縮してしまい、自ら考える力が育たなくなってしまいます。

また、叱られることにプレッシャーを感じ、報告・連絡・相談といった基本的なことまでためらいがちになってしまう恐れがあるでしょう。部下育成には土台として、上司と部下の間に信頼関係が構築されていなければなりません。

上司と部下の意思疎通がうまくいかない状態では、部下育成の効果も限定的なものになるでしょう。まずは上司がストレスを感じる原因を探り、アンガーマネジメントの方法を学ぶなどして、部下に余計なプレッシャーを与えない環境を整えることが大切です。

事例③責任のある業務を部下に割り振らない

部下の適性や能力を見極めて育成することは大事ですが、簡単な業務や責任の度合いが少ない仕事ばかりを任せ続けていても、部下は育たないものです。部下の成長に合わせて、少しずつ責任のある仕事を任せたり、実力を試せる機会を与えたりすることも重要だといえます。

もちろん、初めて取り組む業務が今までのものよりも難しければ、失敗してしまうこともあるでしょう。しかし、部下の成長を考えるなら、難易度の高い業務にチャレンジしてもらうのを避けるわけにもいかないものです。

上司がマネジメント能力を発揮して、少し余裕を持った状態で部下に業務を任せるようにすれば、チャレンジさせやすいといえます。部下が行き詰まりかけたときにも、上司に余裕があれば適切なサポートを行えるはずです。

難易度の高い業務を任せると決めたら、しっかりと見守って、部下が成長する機会をできるだけ多くつくってあげることが大事だといえます。

事例④指導を途中であきらめてしまう

最初は熱心に部下の育成に取り組んでいた上司が、なかなか指導の結果が出ずに、途中であきらめてしまうケースがあります。人材育成の現場において、人は計画どおりに育つものではありません。

絶えず計画を見直しながら、部下へのアプローチを適切にしていく必要があります。期待どおりのペースで成長していく人もいれば、初めのうちは思うような成長を遂げられない人もいるでしょう。

一時的に成長が伸び悩んだからといって、途中であきらめてしまっては、部下が成長する機会そのものを失ってしまうので注意が必要です。部下育成においては長い目で部下の成長を見守り、上司があきらめずに育成に取り組んでいく姿勢を保ち続けることが必要です。

部下育成を成功に導くポイント


部下育成を成功に導くには、基本的なポイントをしっかりと押さえておく必要があります。ここでは、主な7つのポイントから部下の育成につながる点を紹介します。

部下と一緒に成長目標を立てる

まず、部下と一緒に成長目標を立ててみましょう。コミュニケーションを取りながら目標設定を行うのが大事なのは、現在の実力に見合った目標を立てるためだといえます。目標が高すぎても低すぎてもモチベーションの低下につながるため、バランスの取れた目標を部下と話し合いながら設定してみましょう。

また、企業が掲げる目標をそのまま部下に押し付けず、「目標を達成することで、どのような成長につながるのか」といった点を丁寧に説明することが大事です。部下自身が叶えたい願望と企業が目指す方向性をうまく擦り合わせ、部下のモチベーションを高めてあげましょう。

ティーチングとコーチングをうまく組み合わせて指導する

部下が目標に向かって行動を起こしていけば、途中で課題にぶつかってしまうことが多いものです。悩みについて適切なアドバイスを行ったり、相談に乗ってあげたりすることも、上司として重要な役割です。

部下のフォローをしっかりと行うには、ティーチングとコーチングをうまく組み合わせた指導を心がけてみましょう。ティーチングは具体的な指示を出す行為ですが、ティーチングだけに偏ってしまっては、部下が自ら考える機会を失ってしまいます。

そのため、部下の理解度や習熟度に応じて、コーチングによる指導を行っていくことで、モチベーションの維持や主体性の向上などにつなげていけます。ティーチングとコーチングの使い分けとしては、まずティーチングによって必要な知識を身につけてもらい、ある程度業務の進め方に慣れたら、部下の意見やアイデアを引き出すアプローチを行っていくようにしましょう。

叱り方には十分配慮する

部下の行動や業務への取り組み方で明らかな間違いがあるときは、すぐに指摘してあげることが大切です。また、重大な事故やクレームにつながる恐れがあるときは、叱ることも必要だといえます。

しかし、ネガティブフィードバックはあくまで、部下に直してもらいたい部分を的確に指摘し、成長につなげていくためのものです。感情的になったり、必要以上に指摘したりすれば、部下のモチベーションを低下させたり、反発を招いたりするでしょう。

注意しておきたいのは、たとえ大きなミスであったとしても、部下の人格そのものを否定するような叱り方をしてはならない点です。人格に対する批判は部下の自己肯定感を失わせるだけでなく、パワーハラスメントにつながります。

あくまで、部下の行為に対して指摘をして、将来の成長につながるフィードバックを行いましょう。

結果だけでなくプロセスもきちんと見る

目標達成に向けた取り組みは、単に結果だけを見るのではなく、結果に至ったプロセスも含めて総合的に見てあげることが大事です。部下の育成という観点から見れば、プロセスを見て評価することは極めて重要だといえます。

なぜなら、たとえ手順どおりに進めていても、本人の能力不足や外部環境の影響などによって、思うように成果が出ないことはしばしばあるからです。短期的な成果はコントロールできない部分があるため、丁寧に評価を行っていく必要があるといえるでしょう。

逆にいえば、短期的に十分な成果をあげたとしても、それが本人の実力であるかは判断がしづらい部分があるので過大に評価するのは避けたほうが無難です。大事なポイントは、成果を出すために継続すべきプロセスを明示して、それらを習慣化してもらうことにあります。

短期的な成果はあげられなくても、自ら考え工夫した点はきちんと褒めて、モチベーションの向上につなげていきましょう。プロセスを改善し、さらに工夫できる取り組みにつなげてあげれば、自ずと成果につながっていくはずです。

声がけや面談を通じてコミュニケーションを適切に行う

部下育成においては、定期的に部下とコミュニケーションを取っていくことが大切です。部下の考えや強み、キャリアの捉え方などを踏まえたうえで、一人ひとりの部下に合った接し方を心がけてみましょう。

部下としても信頼のおける上司の前でなら、心理的安全性が機能するため、成長スピードも速くなるはずです。部下のほうから声がかかるのを待つのではなく、上司のほうからこまめに話しかけることで、コミュニケーションが円滑になる雰囲気をつくれるでしょう。

成長につながる仕事を任せてみる

部下の状況に応じて、現在の実力よりも少しレベルの高い業務を任せてみることも、ときには重要です。本人の実力だけで達成できる業務ばかりでは慣れが生じてしまい、目標を通じて成長していくという本来の目的が失われてしまいます。

実力よりも少し高めの目標なら、本人のモチベーションが高まるでしょうし、目標を達成するための工夫やアイデアも生まれてくるはずです。また、仮に失敗したとしても、自分の実力を客観的に見定めるよい機会になります。

管理職自身も学ぶ

部下育成をよい方向に進めていくには、上司自身も教え方を学んでいく必要があります。管理職向けの研修などを通じて、指導方法のバリエーションを増やしていけば、部下の適性や性格などに応じて、より丁寧できめ細かな指導を行えるでしょう。

また、上司が学んでいる姿勢を部下が目の当たりにすることで、部下自身の学ぶ意欲にもよい刺激を与えます。指導する側の姿勢が、部下によくも悪くも影響を与えていることを自覚することが大事です。

部下のタイプ別指導法


部下といっても、それぞれ価値観や考え方は異なるため、一人ひとりの特性に合わせて見ていくことが大事です。部下のタイプは大きく4つに分けることが可能なので、ここでは各タイプの指導法を解説します。

①他者に影響を受けにくいゴール型

「他者に影響を受けにくいゴール型」は、目標達成への意欲が基本的に高く、困難なものにチャレンジしていくことを好む傾向があります。このタイプの部下には、やや高めの目標に挑戦させて、成長につながる機会をできるだけ与えてみましょう。

また、目標に挑戦するプロセスにおいて、どのような努力をしたかをきちんと評価してあげることが大事です。

②他者に影響を受けにくいプロセス型

「他者に影響を受けにくいプロセス型」は、自分自身の関心がモチベーションの源泉であるため、周りに流されずマイペースで取り組めるのが特徴です。今まで自分が経験していないことに強い関心を示す傾向があります。

このタイプの場合、できるだけ自由な環境で取り組ませて、実力を最大限に引き出してみましょう。相対評価よりも、絶対評価を重視するので、本人がどのように努力したかを評価してみてください。

③他者に影響を受けやすいゴール型

「他者に影響を受けやすいゴール型」は、とにかく他者のことを強く意識する傾向があり、勝ち負けにこだわるタイプです。部下がライバルだと認めている相手と競わせてみると、勝つために努力をし、自らの能力を高めようとしてくれるしょう。

ライバルに差をつけたと実感したときにモチベーションが高まり、さらに意欲的な取り組みを見せてくれるはずです。評価に関しては、相手との差を強く意識するため、相対評価がモチベーションを高めることにつながります。

④他者に影響を受けやすいプロセス型

「他者に影響を受けやすいプロセス型」は、メンバーとの関係がモチベーションの源泉になります。目標達成そのものにはあまりこだわりがなく、メンバーと一緒にどれくらい頑張れたかを重視する傾向にあります。

周囲との助け合いに意義を感じやすいので、信頼できるメンバーと目標に向かって取り組んでいける環境を提供することで、力を引き出してあげる指導法が効果的です。

部下育成は個々の従業員の特性をよく見極めたうえで、一人ひとりに合わせた指導法を見つけていくことが大事です。日頃からしっかりとコミュニケーションを取って、目標達成に向けてどのような取り組みを行っているかを丁寧に見ていきましょう。

まとめ

部下育成は個々の従業員の特性をよく見極めたうえで、一人ひとりに合わせた指導法を見つけていくことが大事です。日頃からしっかりとコミュニケーションを取って、目標達成に向けてどのような取り組みを行っているかを丁寧に見ていきましょう。

部下自身が自ら考え、工夫していく力を身につけてもらうのが、部下育成の本来の目的です。主体的に行動できる部下に育っていけば、業務効率が高まり、結果として組織全体の成長にもつながるでしょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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