オンボーディングとは?実施する目的やメリット・成功させるためのポイントを紹介

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編集部

人材採用を行った際には、自社の雰囲気や仕組みになじんでもらい、できるだけ早く戦力化することが大切です。せっかく優秀な人材を獲得できても、入社後のフォローが不十分であれば、実力が発揮されるまでに時間がかかってしまいます。

組織への合流に失敗すれば、そのまま離職につながってしまうケースもあるでしょう。今回は、新しい人材をスムーズに受け入れるための取り組みとして、「オンボーディング」の重要性や実施するうえでのポイントを解説します。

オンボーディングとは


「オンボーディング」は、「目的地までの飛行機や船に乗っている状態」という意味の英語です。人材採用の分野では、新規に採用されたメンバーが組織へスムーズに合流できるような工夫や取り組み、アプローチのことを指します。

つまり、新規メンバーが既存の従業員と同じチームに加わり、1つの飛行機や船に乗って共通の目的を目指す状態をいち早く整えるのがオンボーディングの目的ということです。そのため、オンボーディングの対象には、新卒社員だけでなく中途採用された従業員、ときには配置転換で配属先が変わった従業員も含まれます。

新たな環境や風土に慣れてもらい、仕事への違和感や不安、疑問を解消することが目的であるため、人事だけでなく上司や同僚といった近しい存在にも協力を得る必要があります。

OJTとの違い

新入社員に対する教育的なアプローチとしては、「OJT」も代表的な手法です。OJTとは、「On The Job Training」の略語であり、実務を通して仕事を教える教育・育成手法を指します。

OJTは「業務を通じた実践的な教育」という側面があり、具体的な業務を担えるだけの即戦力になってもらうことが目的です。それに対して、オンボーディングには、企業文化や人間関係などの環境全般になじむためのサポートも含まれます。

そのため、研修の期間も相対的に長期化する傾向があり、OJTよりも幅広い意味を持った概念といえるでしょう。OJTについては、以下の記事でも詳しく解説されているので、参考にしてみてください。

(参考:『OJTとは?目的とメリット・取り組みの具体例を解説』

オンボーディングが注目される理由

オンボーディングが注目を集めているのには、採用環境と労働環境の変化が関係しています。主な理由としてあげられるのは、「労働力人口の減少による人材不足」です。

現代の採用環境では、人材不足による売り手市場化が続いており、新たな人材を採用する費用は上昇しています。さらに、新入社員の3年以内離職率は長年3割程度で高止まりしており、特に中小規模では数値が高くなる傾向が見られます。

こうした状況を踏まえて、貴重な人材の離職を防ぐ重要性が高まり、オンボーディングに対する注目度も上がっているのです。また、「リモートワークの普及による職場環境の変化」も、オンボーディングの重要性を高めています。

2020年以降のコロナ禍によって、企業ではリモートワークを取り入れた働き方の導入が進んでおり、それにともなって「人間関係の構築が不十分」「社風や企業文化の浸透が難しい」といった新たな課題が浮上しています。そこで、リモート環境でも企業風土を理解できる仕組みとして、オンボーディングの必要性に目が向けられるようになっているのです。

オンボーディングを実施する狙い


オンボーディングの目的について、ここでは3つの観点からより具体的に見ていきましょう。

新入社員の早期離職防止

前述のように、オンボーディングは新入社員にスムーズに自社の組織へ合流してもらい、不安や悩みを解消するための取り組みです。その主要な目的は、早期離職の防止にあります。

厚生労働省のデータによれば、新規学卒者の3年以内離職率は大卒で3割超、高卒で4割近くとされており、この数値は過去数十年にわたって大きな変化がありません。新卒者は社会人経験が少ないことから、「思っていたイメージと違っていた」「想像以上に負担が大きかった」といったギャップを感じやすく、中途採用以上に離職リスクが高いのです。


(参照:厚生労働省『新規学卒就職者の離職状況(平成27年3月卒業者の状況)』

企業としては、採用した人材には早く戦力になってもらうとともに、長く勤めてもらう
ことも重要となります。そこで、オンボーディングによって新たに入社した一人ひとりの不安を解消し、早期離職を防ぐ必要があると考えられているのです。

新入社員の即戦力化

オンボーディングでは、新入社員に企業文化や社内ルール、業務に必要な知識の理解を促し、早期に戦力となってもらうことも目的とします。新たに加入した従業員は、社内特有のルールや人間関係、情報伝達の仕組みなどを理解するまで、なかなか思うような活躍が果たせません。

たとえ他社で十分な経験値を持った中途採用の従業員であっても、社内の細かなシステムを把握するまでは、即戦力としての働きは難しいといえます。こうした加入後のロスを軽減し、新しい環境下でもスムーズに能力を十分に発揮できるようにサポートすることもオンボーディングの重要な目的です。

人材育成の環境の標準化

人材育成の手法として考えたときに、オンボーディングは「人事部による体系的なプログラムを実行できる」のも大きな特徴といえます。一般的な新人研修の場合、細かなプロセスや教育内容は、ある程度トレーナーである上司や先輩従業員に任されます。

また、OJTの場合も、研修の内容は対象の部門やチームが決めるのが一般的です。そのため、教育の内容や質は、配属された先によってバラつきが生まれてしまう面もあります。

一方、オンボーディングは人事部が体系的にプログラムを組み、新入社員に一斉に提供するのが特徴です。そのため、配属先にかかわらず、すべての新入社員に安定した品質の教育機会を与え、人材育成のクオリティを標準化するのも重要な狙いです。

オンボーディングの実施で得られるメリット

オンボーディングの実施によって、企業にはどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。ここでは3つに分けて解説します。

メリット①:採用にかかる費用の削減

新たに人を雇用するということは、当然ながら採用費用がかかります。採用費用には、就職情報サイトに掲載するなどの広告費用以外に、入社案内の作成費用や採用担当者の人件費なども含まれます。

採用費用の主な内訳は次の通りです。

社内でかかる費用 ・新入社員の採用担当者の人件費

・インターンシップにかかる費用

・紹介社員へのインセンティブ

社外でかかる費用 ・求人サイトに掲載するための広告費

・会社説明会などのイベント出展費用

・会社案内、会社ホームページの作成費用

・紹介会社への紹介手数料

オンボーディングによって離職率が下がれば、無駄な採用費用が削減され、全体としてのコストパフォーマンスが向上します。採用費用を育成費用に回せば、より有益かつ効果的な社内環境を構築することもできるでしょう。

メリット②:チーム力の向上

一般的な新人研修は、人事・採用担当者や、配属先の教育担当者任せになってしまうケースが少なくありません。しかし、オンボーディングでは同じ部署の上司やメンバーだけでなく、他の部署や企業全体で新入社員をサポートすることになります。

そのため、オンボーディングを通じて新入社員のみならず、周囲の従業員の間でも良好な人間関係を築けるというできるメリットがあります。結果的に、組織全体として企業に対する帰属意識も高めることが可能です。

新入社員・既存社員それぞれが組織の一員であることを自覚し、帰属意識が高まれば、「もっとこの企業に貢献したい」という優れた働きにつながります。また、人間関係のよい職場になれば風通しもよくなり、業務の伝達や連携が円滑に実施されるなどしてチーム力が向上し、企業全体の業績向上も期待できるでしょう。

メリット③:従業員のエンゲージメントの向上

エンゲージメントとは、従業員の企業に対する愛着や思い入れのことであり、「従業員のエンゲージメントが高い=会社への愛着度が高い」ことを意味します。社内コミュニケーションの活性化は、従業員のエンゲージメント向上に必要不可欠な要素です。

オンボーディングによって良質なコミュニケーションの機会が増えれば、自然とエンゲージメントが向上し、企業や仕事への前向きな感情が醸成されていくでしょう。その結果、従業員が自発的に業務に取り組んだり、従業員同士がお互いに助け合う関係性が構築されたりと、組織の活性化が促されていくのです。

オンボーディングを実施するプロセスと施策


オンボーディングの具体的な取り組みは、「入社前」「入社後」「継続的な実施」の3つのプロセスに分けて考える必要があります。ここでは、各プロセスにおける具体的な施策について見ていきましょう。

入社前のプロセス

企業によっては、入社前の段階からオンボーディングに取り組むこともあります。この場合、主な目的は内定者の疑問や不安を払拭して、入社意欲を高められるように促すことです。

特に新卒採用の場合は、内定してから入社するまでのタイムラグが大きく、複数の企業の選考を並行して受けることから、入社辞退に至る可能性も決して低くはありません。この間に企業が内定者とのコミュニケーションを図り、信頼関係を確立させることが重要となるのです。

入社前のオンボーディングでは、会社見学や先輩従業員との懇談会などで自社への理解を深めてもらいつつ、社内のメンバーとの親交を深めてもらうのが基本です。そのうえで、入社前研修や内定者インターンのように、ある程度実践的な経験ができる機会も設けると、入社後のイメージを膨らませやすく、前向きに臨んでもらえる可能性が高まります。

また、中途採用の場合も、入社までの期間が空いてしまうようであれば、入社前懇談会や社内報のシェアなどで接点を持つのが重要です。

入社後のプロセス

入社後のオンボーディングは、新入社員の不安や疑問を取り除き、職場になじんでもらうのが目的です。そのため、基本的には企業独自の文化やルールを学び、自社が属する業界や携わる仕事への理解を深めてもらうこととなります。

主な施策例としては、「企業理念やルールを学ぶ研修会の実施」「ランチミーティング」「交流会」「OJT」「個別の短期目標の設定とサポート」「各部署・施設の見学会」などがあげられます。また、疑問があったときにすぐ解消できるように、オンボーディングの対象者専用の相談窓口を期間限定で設けておくのも有効です。

継続して実施するオンボーディング

オンボーディングの効果を確認するためには、ある程度長期的な目線で新入社員をサポートすることも大切です。「1on1ミーティング」や「メンター制度」などを定期的に実施し、継続してサポートできるような仕組みも整えておきましょう。

また、ある程度社内の風土に慣れてきたタイミングで、部署を越えた同期の交流会などを行い、視野を広げてもらうきっかけをつくるのも一つの方法です。

オンボーディングを成功させるポイント


最後に、オンボーディングを成功させるためにおさえておくべきポイントをご紹介します。

信頼関係の土台をつくる

まずは、新入社員と丁寧にコミュニケーションを図り、確かな信頼関係を築く必要があります。そのためには、できるだけ情報を隠さず、新入社員が疑問・不安に思っているポイントを踏まえてオープンな姿勢を見せることが大切です。

特に現代では、インターネットを通じて個人でもさまざまな情報を取得できるようになっています。そのため、耳心地のよい情報だけでなく、仕事をするうえで乗り越えなければならない課題などもきちんと伝え、透明性の高いコミュニケーションを心がけるのがポイントです。

企業の姿勢や発言を信頼してもらえるようになれば、オンボーディングの効果が向上しやすくなるでしょう。

教育体制を充実させる

社内の状況に合わせて、十分な教育体制を構築することも大切です。たとえば、テレワークを導入している企業では、オンボーディングを実施するためにWeb会議システムやチャットツールの導入といった環境整備を行う必要があります。

また、研修の質を高めるためには、必要に応じてオンラインによる外部研修を積極的に利用するのも効果的です。

スモールステップ法を活用する

「スモールステップ法」とは、目標を細かく設定しながら最終的な目標達成を目指す主要な教育手法の一つです。入社後間もない段階では、長期的な計画や難易度の高い目標を掲げられても、自身がどのように到達すればよいのかを判断できません。

その結果、目標に対して受け身になり、思うように実力を伸ばしていけないというケースは多いです。スモールステップ法であれば、目標に対して自分なりの向き合い方を見つけられるため、従業員の主体性を引き出すのにうってつけです。

さらに、目に見える成功体験を積み重ねてもらうことで、仕事に対するモチベーションも自然と向上していくでしょう。

メンター制度を導入する

「メンター制度」とは、1人の新入社員に対して、それほど年齢や階級が離れていない先輩従業員がサポート役として関わる制度のことです。決まったメンターが1人につくことにより、信頼関係が深まりやすくなり、早いタイミングで業務への不安や悩みを打ち明けてもらえるのがメリットです。

職場環境や業務に慣れやすくすることで早期離職が抑止され、成長スピードも速まるため、有効なオンボーディング施策の一つといえます。メンター制度については、以下の記事で詳しく解説されているので、参考にしてみてください。

(参考元:『メンター制度導入のメリット・デメリットとは。 押さえておきたい制度運用のコツも解説 』

PDCAサイクルを回す

オンボーディングを成功させるには、PDCAサイクルを回して効果検証と改善と重ねていくことも大切です。たとえば、新入社員一人ひとりに個別の目標を立ててもらい、1カ月後や1年後の明確な到達点を決めます。

そのうえで、メンターや上司とともに達成度を確認し、必要に応じて一緒に改善点を見つけていくことで、成長のスピードがさらに高まります。また、オンボーディングの施策そのものについても、人事部で効果検証と改善を重ね、年単位でブラッシュアップしていけるのが理想です。

まとめ

オンボーディングは新入社員に自社の社風やルールを理解してもらい、できるだけ早く組織になじんでもらうことを目的としています。そうした点では、業務に慣れてもらうためのOJTよりも幅広い概念であり、ときには人間関係やキャリアの悩みなども払拭する必要があります。

研修項目も幅広いため、オンボーディングを実施するうえでは、社内の仕組みをしっかりと整えておくことが大切です。まずは、自社で実施するにあたって必要な要素を洗い出し、独自のオンボーディングを確立していきましょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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