オンボーディングとは?有効な施策や事例・導入プロセスについて解説<調査・対策資料付き>

2019.08.31(最終更新2022.03.18)
d's JOURNAL
編集部
オンボーディングとは?
オンボーディングが注目されている背景
オンボーディングを行う5つのメリット
オンボーディングに有効な施策とは?
オンボーディングの導入プロセス
オンボーディングの導入事例

採用した新入社員・中途社員には早期に戦力化してもらい、活躍を期待するものです。しかし、社風や仕事になじめずに離職となってしまうケースもあります。そんな課題に対して、近年注目されている施策が「オンボーディング(オン・ボーディング)」です。ここではオンボーディングの効果のある実践方法や、実際に企業がどのように取り組んでいるのかについて事例をご紹介します。

オンボーディングとは?

オンボーディング(オン・ボーディング)とは、企業が新規採用した従業員を対象として行う教育プログラムのことです。従業員が仕事の進め方や必要な知識、企業のルールや文化などを早期に身に付け、企業に早くなじんでもらうことを目的として行います。“オンボーディング”は、もともと飛行機や船に乗っていることを意味する「on-board」を語源としており、新しい乗組員が早く現場に慣れるようにサポートするという意味から派生して、現在は人事用語としても使用されるようになりました。

新人研修との違いやサポート期間について

オンボーディングは、新卒入社の社員を対象とした入社後研修やオリエンテーションなど、短期間に集中して行う一般的な新人研修とは異なり、継続的に実施するサポートプログラムです。この他、対象者やサポート期間などの違いがあります。

対象者 期間
新人研修 新入社員 入社直後のみ実施
オンボーディング 新入・中途社員(専門職・管理職含む) 入社後継続的に実施

教育プログラムというと新入社員への研修と思われるかもしれません。しかし、企業における人材開発・組織開発の研究者である中原淳教授は、中途採用者は組織を移行するにあたって、誰もが大なり小なり共通の逆境あるいは課題に直面すると述べており、オンボーディングの必要性を説いています。(参照:中原淳著『経営学習論 増補新装版 人材育成を科学する』)

アメリカではすでに社員の教育プログラムとしてオンボーディングが広く浸透しており、日本ではまだあまりなじみがないかもしれませんが、人材育成の重要性からオンボーディングを導入する企業が徐々に増えてきています。

オンボーディングが注目されている背景

オンボーディングが注目されるようになった背景には、主に次の3つの理由が挙げられます。

● 新入社員の早期離職
● 中途採用者の定着率の低さ
● 戦力として成長するまでに時間がかかる

平成30年10月に厚生労働省が公表した『新規学卒就職者の離職状況(平成27年3月卒業者の状況)』によると、新規学卒就職者の就職後3年以内の離職率は新規高卒就職者で39.3%、新規大卒就職者で31.8%となっています。

新規学卒就職者の離職状況

企業としては当然ながら、新入社員には「長く勤めてほしい」「早く戦力として成長してほしい」という思いがあるでしょう。そこで新入社員の早期離職や人材定着率低下の解決策として、オンボーディングが効果的であると注目されるようになったのです。

オンボーディングを行う5つのメリット

新たに採用した社員に対してオンボーディングを実施することで、企業は次の5つのメリットが得られます。

メリット①:新入社員の即戦力化

新入社員が仕事を覚え、即戦力となるまでにかかる期間は約1年といわれています。一から業務内容やスキルを身に付けなければなりませんので、新入社員の教育に時間がかかるのは仕方のないことですが、企業としては一日でも早く独り立ちしてほしいというのが本音でしょう。新卒で入社した社員に限ったことではなく、即戦力になると期待して雇用したはずの中途採用者についても、同業種の経験があったとしても、その企業のルールややり方などに慣れるまでに時間がかかり、なかなか本来の能力を発揮できないケースもあります。また、部署によって新入社員に対するサポート体制にばらつきがあることで、即戦力になるまで時間がかかることも考えられます。しかし、オンボーディングを実施することで、新入社員の能力を最大限に引き出しながら、業務を達成できるまでの一連の流れを身に付けてもらうことができ、通常かかるであろう教育期間を短縮して、いち早く戦力として活躍できるようにすることが可能です。また、新入社員が早期に戦力となることで会社への貢献度が増し、社員自身の承認欲求も満たされるので離職防止にもつながるでしょう。

メリット②:新入社員の離職防止

新入社員の離職防止

就職後3年以内に仕事を辞める理由として一番多いのが、「人間関係(上司・経営者)への不満」、次いで「業務内容への不満」となっています。仕事を円滑に進めるためには、周囲とのコミュニケーションが不可欠です。しかし、新しい環境で新たな人間関係を築くことは誰にとっても一苦労で、それがコミュニケーションを取るのが苦手な社員であれば、なおさらです。最初に人間関係の構築につまずいてしまうと、好きで選んだはずの仕事でもやりがいを感じづらくなるなど、離職の原因になりかねません。そのため、新入社員が入社してすぐに会社になじめるようサポートするためのオンボーディングが、離職防止に効果的なのです。

メリット③:採用にかかる費用の削減

新たに人を雇用するということは、当然ながら採用費用がかかります。採用費用には、就職情報サイトに掲載するなどの広告費用以外に、入社案内の作成費用や採用担当者の人件費なども含まれます。採用費用の主な内訳は次の通りです。

社内でかかる費用 ・新入社員の採用担当者の人件費
・インターンシップにかかる費用
・紹介社員へのインセンティブ
社外でかかる費用 ・求人サイトに掲載するための広告費
・会社説明会などのイベント出展費用
・会社案内、会社ホームページの作成費用
・紹介会社への紹介手数料

オンボーディングによって離職率が下がれば、新たに採用費用を費やすことはなくなりますし、その社員が戦力となれば事業貢献につながると言えるでしょう。

メリット④:チーム力の向上

新人研修は人事・採用担当者や、配属先の教育担当者任せになってしまっている企業もあるかと思います。しかし、オンボーディングは同じ部署の上司やメンバーだけでなく、他の部署や企業全体で新入社員をサポートすることになります。そのため、オンボーディングを通じて新入社員のみならず、周りの既存社員の間でも良好な人間関係を築けるというできるメリットがあります。結果として、企業に対する帰属意識も高めることが可能です。新入社員・既存社員それぞれが組織の一員であることを自覚し、帰属意識が高まれば、「もっとこの企業に貢献したい」という優れた働きにつながります。また、人間関係の良い職場になれば風通しも良くなり、業務の伝達や連携が円滑に実施されるなどしてチーム力が向上し、企業全体の業績向上も期待できるでしょう。

メリット⑤:社員のエンゲージメント向上

エンゲージメントとは、従業員の企業に対する愛着や思い入れのことで、従業員のエンゲージメントが高い=会社への愛着度が高いことを意味しています。社内コミュニケーションの活性化は、従業員のエンゲージメント向上に必要不可欠です。エンゲージメントが向上することで、従業員が自発的に業務に取り組んだり、従業員同士がお互いに助け合う関係性が構築されたり、企業と従業員により一体感が生まれたりするでしょう。

オンボーディングに有効な施策とは?

一口にオンボーディングと言っても、具体的には何をすれば良いのでしょうか。ここではオンボーディングのプラン例をご紹介します。業種や企業の規模などによって最適なオンボーディングは異なりますので、プラン例を参考に、自分の企業に合ったプランにカスタマイズすることが大切です。

いち早く社風になじんでもらうためのオンボーディングプラン

全ての新入社員が社風に合うとは限りませんが、いち早く社風になじんでもらうためのプランを設定することで、早期離職の防止につながります。企業のルールや文化を身に付けてもらうための具体的なプランは、次の通りです。

● 経営理念ブックや企業案内の配布
● 社長や経営陣などからの会社の歴史や経営理念の講義
● 組織や各部署が目指す目標や、提供したい価値についての説明会
● 会社独自の略語や専門用語の説明

(参考:『内定承諾後も不安だらけ? 転職者が入社前後に感じる不安と企業への要望を大調査』)

仕事に早く慣れてもらうためのオンボーディングプラン

仕事は現場で覚えるという教育スタイルの企業も多いですが、新入社員の教育を現場任せにしてしまうことで、独り立ちするまでに時間がかかってしまうこともあります。新入社員が早く仕事に慣れるには、知識やスキルを習得するための教育プログラムを取り入れることが大切です。
新入社員がいち早く戦力となるための具体的なプランは、次の通りです。

● OJT
● ブラザーシスター制度
● 異なる部署の見学会
● 業務日報の提出
● 主任やリーダー職など組織のキーパーソンとの面談
● 必要なスキルを身に付けるための課題図書の設定
● 外部研修の受講

人間関係を早期に築いてもらうためのオンボーディングプラン

入社後、なかなか会社になじめずに離職してしまう従業員が多い場合にお勧めのプランです。新入社員が良好な人間関係を築き、エンゲージメントを向上させるための具体的なプランは、次の通りです。

● メンター制度
● 同じ部署や他部署とのランチ会
● 歓迎会
● 同期会
● 交換日記
● 定期的な1対1の面談

(参考:『マネジメント層にはコーチングが必要。「人を生かし、育てる人」を育てる』)
(参考:『メンバーの弱みや本音と向き合うオンボーディング。異質性のあるチームは強い』)

オンボーディングの導入プロセス

では、実際に企業にオンボーディングを取り入れる際には、どのような流れで実施するのが良いのでしょうか。次の5つのフローを見ていきましょう。

ステップ

STEP①:目標の設定

新入社員にどのようなスキルを求め、どのように活躍してほしいのか、最終的なゴールを設定することで何をすべきかが明確になりますので、まずは目標を設定しましょう。目標を立てるときには、新入社員に企業に慣れてもらうためのコミュニケーションの観点と、仕事をする上で必要な知識やスキルを身に付けるための業務の観点から決めることが大切です。「思っていた仕事内容と違っていた」「会社になじめなかった」などの理由から、新入社員の定着率が低いという企業の課題がすでにあれば、その課題を解決するための目標を設定すると良いでしょう。

STEP②:プランの作成

オンボーディングプランは、入社後1年程度を目安にスケジュールを組み、実施する内容と達成すべき目標を定めて作成します。入社当日、1週間、1カ月、3カ月、半年…と長期的なスパンでプランを作成することが大切です。企業が抱えている課題を解決するためのプランも忘れずに盛り込みましょう。また、オンボーディングの基礎となる部分は共通項目として活用しても良いですが、新入社員一人一人の性格やスキルなどを踏まえて、オンボーディングを個別に作成する必要があります。新入社員が活躍する姿をイメージしながら、より具体的なプランをつくることで魅力的なオンボーディングとなるでしょう。

STEP③:すり合わせ

実際に業務を行っている現場の従業員と管理職とでは、課題と感じていることにズレが生じている可能性もありますので、プランが作成できたら人事・採用担当者や配属先の部署などの関係各所とプランを共有し、フィードバックをもらいましょう。改善すべき項目があれば見直しが必要です。また、企業の課題も変化しますので一度プランをつくったら終わりではなく、新入社員が入社するタイミングで定期的にプランの見直しを行うことも大切です。オンボーディングプランを共有することで、既存社員が新入社員を受け入れる態勢も整います。

STEP④:実施

オンボーディングプランが完成したら、いよいよ実行です。新入社員を快く受け入れ、作成したプランに沿ってオンボーディングを実施しましょう。新入社員の早期戦力化やチーム力の向上が期待できるオンボーディングですが、一朝一夕にはいきません。企業全体が一丸となってフォローしていくことが、オンボーディングを成功させるためのポイントです。新入社員が段階ごとに成功体験を積んでいくことで確実に実力が付き、一人前に成長していきます。多くの成功体験により、新入社員が企業の一員であると自覚できることで、さらなる生産性の向上や組織の一体化につながっていくでしょう。

STEP⑤:振り返り

オンボーディングが終了したら、必ずプランの見直しを行いましょう。人事・採用担当者や関係部署など新入社員を受け入れた側の意見と、実際にオンボーディングを行った新入社員からの意見の両方を聞き取ることが大切です。当事者の話を聞くことで、効果的な施策は何だったのかを知ることができます。PDCAサイクルを回し、より良いオンボーディングにしていきましょう。また、実際に離職率の低下やエンゲージメントの向上に寄与しているのか、定期的に効果の測定も行っていきましょう。

オンボーディングの導入事例

実際にオンボーディングを導入している企業2社を、事例を交えてご紹介します。

LINE株式会社:ささいな疑問でも気軽に相談できる場を設置

LINE株式会社では、疑問を気軽に聞ける場をオンライン上のシステムとオフィス内のサービスカウンターに設置しています。新入社員は仕事に関する疑問以外にも、ボールペンなどの備品が置いてある場所やパソコンの調子が悪いときの対処法など、わからないことがたくさんあります。しかし、「他の従業員の人は忙しそうだし、こんなささいなことを聞いても良いのだろうか…」と悩んでしまう新入社員も多いはずです。そこで、ちょっとした疑問であっても気軽に相談できる場をつくることで新入社員に安心感を与えられ、不安の解消にもつながります。
(参照:『「毎日が文化祭状態」。事業創出が続くLINEを“採用”で支える人事のホンネとは』)

日本オラクル株式会社:役割ごとに2人のメンターがサポート

日本オラクル株式会社では、現場の上司とは別に2人のメンター(教育担当・サポート担当)を新入社員に付け、役割を分けてサポートしています。新入社員にとって上司が一番頼りになる存在ですが、上司が全てをサポートするのは非常に困難です。そこで、経費精算や勤怠管理などの細かい部分をサポートするメンターや新入社員の目標の達成状況をサポートするメンターなど、複数のメンターを付けます。役割ごとにメンターがいることで、新入社員が誰に何を聞けば良いのか明確になりますので、早く企業に慣れることができ、仕事もはかどるでしょう。また、サポートする側の負担も分散されるというメリットも得られます。
(参照:『人材紹介の採用比率を0%にした、日本オラクルの採用戦略』)

【まとめ】

オンボーディングは、新入社員が企業になじむためだけに行われるのではなく、受け入れる企業が全体で新入社員をフォローしていくことで一体となり、組織の生産性を向上させることが目的です。企業がオンボーディングを導入することで、新入社員の即戦力化による業績向上や人材定着率アップなどのメリットが得られます。また、新入社員もオンボーディングが実施されることで仕事を早く覚えることができたり、良好な人間関係によって仕事への意欲が高まったりと、双方にとってメリットがあります。ただし、企業ごとに最適なオンボーディングは異なりますので、プラン作成→実行→見直しを繰り返し行い、独自のオンボーディングを確立していきましょう。

(制作協力/コピー&マーケティング株式会社、編集/d’s JOURNAL編集部)