情意考課(情意評価)とは?導入時のポイントと注意点

d’s JOURNAL編集部

情意考課は人事における評価軸の一つであり、主に勤務態度や意欲、周囲への接し方などを評価する項目群です。情意に関する項目は、人材育成を長い目で見たときに大きな影響力を持つことが多い傾向です。

一方で、目に見えやすい業績考課や能力考課と比較して数値化が難しく、評価者の主観に影響されやすいなどの注意点もあります。

この記事では情意考課の意味や重要性、取り入れる際の注意点などを詳しく見ていきましょう。

情意考課とは

情意考課とは、従業員が企業の理念やビジョンに沿った行動ができているかどうかを評価するものです。雇用形態や従業員の個性が多様化していくこれからの社会においては、企業理念とメンバー個人の価値観のすり合わせが難しくなる場面も増えていくと予想されます。

情意考課はそうした時代の変化に合わせて、適切な評価軸を設けるための考え方と表現することもできるでしょう。ここではまず、情意考課の基本的な概念について解説します。

 

人事考課の一つ

情意考課は人事考課の一つです。人事考課とは、「従業員の能力や勤務態度に対する評価を行うための制度」を意味します。情意考課の他に、業績考課や能力考課などがあり、それぞれの評価結果は賃金管理や人事配置、能力開発などのさまざまな用途に使われます。

人事考課は人事評価と同じような意味合いで用いられることが多く、特に区別して使用しなくても問題はありません。ただし、あえて人事考課と表現する場合には、「評価の仕組み」により強く焦点を当てるといった意味合いが強いケースもあります。

(参照:『人事考課をうまく運用するために、押さえたい目標設定と評価のポイント』)

業績考課

業績考課とは、その名のとおり成果や業績に関する評価の仕組みです。一定期間における目標達成度や、結果に至るまでのプロセスを評価することであり、成績考課と呼ばれることもあります。

一般的には、年度末の人事面談でその年の目標達成度を振り返りながら状態を評価し、来年度の目標などを決めるときに用います。成果や業績に関する項目は、具体的な数値に照らし合わせて査定できるため、比較的に判断しやすいのが特徴です。

一方で、プロセスについては客観的な評価が難しいため、上司だけでなく同僚や身近なリーダーの意見も参考にするなど、公平・公正に査定が行える仕組みを整えることが大切です。

能力考課

能力考課とは、知識や能力に関する評価の仕組みです。業務や自己学習で得た知識や資格を積極的に評価することを指すとともに、得られたスキルを活かして業務へどのように反映させたかなども査定の対象です。

たとえば、特殊なスキルを用いて難易度の高い仕事を達成したり、突発的な出来事に対応したりするときの方法・結果が評価の対象となる場合もあります。そのうえで、能力考課は評価者の立場や業務内容、さらには企業の将来的なビジョンによっても評価基準が大きく変化します。

そのため、社内で職能に関する規定を定めたうえで、明確な基準にのっとって査定を行うことが大切です。

情意考課

情意考課は「行動考課」や「執務態度考課」とも呼ばれ、勤務態度や仕事に対する意欲を評価する仕組みです。具体的には、遅刻や早退などの勤怠状況、モラル、規律への向き合い方や協調性など、職務を遂行する際の行動や態度などを評価することを指します。

ただし、その他の考課項目と比較して主観が入りやすく、評価の公平性を保つのが難しいのが特徴です。上司やリーダーだけでなく、同僚や部下といったあらゆる角度からの評価を集めるなど、査定方法にはさまざまな工夫が求められます。

人事考課における情意考課の役割

情意考課は人事考課のなかでも評価が難しい項目であり、制度を整えるためにはさまざまな準備が必要です。そのため、従来型の評価制度ではあまり重視されてこなかった傾向があります。

しかし、人事考課においては、情意考課が「成果絶対主義からの脱却」という重要な役割を担っているのも確かです。もちろん、企業や組織の生産性を考えるうえでは、当然ながら成果に重点を置いて評価を行うことが大切です。

一方で、結果のみを求めてプロセスは問わないといった評価基準を設けてしまうと、従業員にはそれがそのまま企業の姿勢として映ってしまいかねません。評価の仕組みにともなって、従業員のマインドや組織の姿勢も成果絶対主義に陥ってしまえば、長期的な視点で見れば企業にとって大きなマイナス要因となります。

情意考課は短期的な効果を見込んだ仕組みではなく、将来を見越した人材育成や企業風土の醸成といった、長期的な視点での取り組みとして考えることが大切です。

情意考課の7つの要素

情意考課は前述のとおり主観が入りやすい評価項目であるため、できる限り客観的な基準に沿って考えることが大切です。ここでは、情意考課を構成する要素を7つに分けて、それぞれの内容を解説します。

 

①感謝

情意考課のポイントの一つとして、「周囲への感謝の心が見えているかどうか」という視点が挙げられます。周囲のメンバーや取引先など、日ごろから接している相手への感謝の気持ちを忘れず、適切な形で表現できているかというポイントが判断基準となります。

また、自分をサポートしているメンバーへの感謝を忘れずに目を向けられる視野の広さは、仕事をするうえでもさまざまな場面でプラスに働くでしょう。

②積極性

業務や組織としての取り組みに対して「積極性が見えているかどうか」も重要なポイントです。積極性に優れる人材は自ら成長への機会をつかんでいけるため、個人として高い生産性を発揮するだけでなく、組織全体にもよい影響を与えます。

ただし、積極性については、たとえば「初めての事柄も恐れず取り組めているか」「自身の長所を発揮できる工夫をしているか」など、さまざまな捉え方があるため、評価の基準は明確に示すことが大切です。

③責任性

責任性とは、文字どおり「自身の役割に対して誠実に向き合えているか」という責任感です。物事を投げ出さずに最後まで実行できるか、自身の業務を自分で処理しようとする姿勢が築けているかなどが具体的な判断基準となります。

責任性は将来的なリーダー・管理職の育成においても指標となる重要な項目です。早い段階で評価基準を明確にしておくと、人材育成や組織の人事配置に役立ちます。

④思いやり

思いやりは「周囲に対して思いやりのある振る舞いができているかどうか」という点が判断基準になりますが、情意考課のなかでも特に評価が難しい項目です。上司から見た思いやりと、部下や同僚から見た思いやりとでは意味合いが異なる場合もあるため、評価には慎重になる必要があります。

そのうえで、具体的な評価基準の例としては、「周囲への気配り」や「困っているメンバーに気づく視野の広さ」などが挙げられます。

⑤規律性

規律性とは、社内規定や職場における暗黙のルールなどを守れているかどうかという評価項目です。具体的には「身だしなみや時間管理に問題はないか」「TPOに合わせた振る舞いができているか」「ともに働くメンバーに不快感を与えていないか」など、人間関係を円満に保つための基本的なポイントが挙げられます。

規律性は「行き過ぎた成果主義から脱却する」という情意考課の役割を考えれば、重要な項目の一つといえます。しかし、個人的な感情が入り込みやすい項目でもあるため、評価基準には公平性を持たせる工夫が必要です。

⑥協調性

協調性は「周囲と歩調を合わせて行動できるか」「企業の方向性をくみ取って行動できているか」などを測る評価項目です。チームとして業務を進めるうえでは、メンバーそれぞれが個性を発揮しながらも、互いに協働できる関係性を築く必要があります。

そうした意味で、協調性は従業員の多様性を重視すればするほど重要度を増していく資質といえます。

⑦地域貢献

地域貢献とは、従業員が地域貢献に対してどのように向き合っているかを測る評価項目です。企業にとって自社が拠点を置く周辺地域との関係性は、日常的な取引や業績、人材採用、将来性にも関わる重要なポイントとなります。

地域からの評価を無視して良好な企業活動を行うことはできないため、自社の強みを活かした方法で地域貢献を行う企業も多い傾向にあります。そのうえで、実際に地域貢献の取り組みを行うのは、組織や仕組みではなくあくまでも従業員個人です。

そのため、人事考課として地域貢献の姿勢や度合いに目を向けるのも一つの考え方といえます。災害支援やボランティアなど、貢献の方法は企業やその地域によっても異なるため、自社の状況を踏まえた評価基準を設けることが大切です。

情意考課の配分に関する捉え方

情意考課は人事考課の一つの分野であるため、全体のなかでどのような配分を行うのかも重要な観点となります。ここでは、情意考課を評価に取り入れるうえで、どのような捉え方をしていくべきかについて3つの視点から見ていきましょう。

他のカテゴリーとのウェイト配分

まずは、人事考課におけるその他のカテゴリーとのバランスを考慮することが大切です。業績考課・能力考課・情意考課の3つのうちどれに重きを置くべきか、評価対象に合わせてそれぞれのウェイトを決める必要があります。

たとえば、業績考課は「評価対象の結果を問う」という現実的な側面があるため、数字上の責任が求められる管理職などの上位グレードほどウェイトを大きくするのが一般的です。反対に、将来性が問われる新入社員や若手のメンバーに対しては、ウェイトを小さく設定します。

一方で、能力考課や情意考課はどちらも「現状だけでなく将来にも目を向けた評価項目」にあたるため、下位のグレード・役職にある人物ほどウェイトを大きくするのが適切です。ただし、管理職などの上位グレードでは情意考課をないがしろにしてよいというわけではありません。

一般の従業員から見れば、管理職は企業理念を実践するお手本のような存在でもあります。そのため、情意考課のなかでも規律性や地域貢献といった項目は、評価基準として意識することも大切です。

部署・職種ごとのウェイト配分

部署や職種によっても、従業員に求められる資質は異なります。そのため、当然ながら人事考課のウェイト配分も異なると考えられます。

たとえば、営業職では業績考課のウェイトを大きく設定し、事務職では反対に小さく設定するといった具合です。また、人事や教育に携わるメンバーは、その成果を短期的に判断するのは難しいため、情意考課のウェイトを大きめに設定して業績考課のウェイトを下げるといった考え方もあります。

仕事の重要度によるウェイト配分

それぞれが担う業務の重要度によっても、評価のウェイトは異なります。たとえば、新入社員に対しては、業務の基本となるマナーや報連相に関する項目のウェイトが大きくなるのに対して、上位の役職においてウェイトが大きくなるのは育成指導などの項目です。

また、会社全体で考えても、フェーズによって重視したい項目は異なります。たとえば、製造業で製品に関する改善案を必要としている場合は、改善提案に関する項目のウェイトを普段よりも大きくするといった具合です。

ウェイトの適切な配分は、人事考課を価値的なものにするための重要なステップです。まずは部署や役職のグレードに分けて、おおまかなウェイト配分を検討しましょう。

情意考課の4つの注意点

情意考課を人事考課に導入する際は、主観が入らないためにいくつか気をつけておきたいポイントがあります。ここでは、具体的な注意点を4つに分けて見ていきましょう。

ハロー効果

ハロー効果とは、目立った一面の特徴を基準にして人を評価してしまうことを指します。ハローとは「後光」のことであり、一つの評価基準が過度に大きく映り、その他の項目が見えなくなってしまう状態を示しています。

なお、ハロー効果には「ポジティブ・ハロー効果」と「ネガティブ・ハロー効果」の2種類があり、それぞれ逆の働きを見せるのが特徴です。前者は優れた一面がその他の評価にも影響を与え、全体としての印象が本来よりもよく見えてしまうことを指します。

一方で、後者は一つの目立った欠点により、その他のポイントまで悪く映ってしまう状況です。いずれも正しい評価を行ううえでは避けるべき弊害にあたるため、一つの項目を評価したら必ず考えをリセットし、改めて別の側面の評価に移るように注意しましょう。

中心化傾向

中心化傾向とは評価者が陥りやすいエラーの一つであり、結果や期待値に関わらず、知らないうち標準値に近い評価に偏ってしまう状態を指します。特に評価に自信が持てなかったり、対象者の能力や実績を十分に把握できていなかったりする場合に、評価者に両極端な査定を避けてしまう心理作用が働きます。

また、評価基準があいまいな場合など、仕組みが原因で陥ってしまうケースも多い傾向です。

寛大化傾向

寛大化傾向とは、誰に対しても甘い評価をしてしまう状態を指します。評価者と対象者との関係性や距離感によっては、個人的な感情が働いてしまい、どうしても全体としての査定結果が甘くなることがあります。

また、中心化傾向と同様に、評価者が十分に対象者の能力や業績を把握できていない場合にも陥りやすい状態です。寛大化傾向を避けるためには、評価者の育成がもちろん重要な課題となりますが、評価基準の明確化・数値化、評価の目的の共有など、組織全体として取り組むべきテーマも多くあります。

多面評価(360度評価)

多面評価とは、複数の立場の人がそれぞれの立場から一人の従業員の評価を行うことを指します。人事評価においては、直属の上司から見た評価と、同僚や部下から見た評価には乖離が生まれることも少なくありません。

そこで、あらかじめ多様な視点で評価を行い、公平性を高めるというのが多面評価の目的です。評価者の選定や育成、評価システムの整備などには時間がかかってしまうものの、客観的な評価を行ううえでは大きな効果を発揮します。

まとめ

情意考課とは人事考課の一つであり、勤務態度や仕事に対する意欲を評価することを指します。思いやりや地域貢献といった項目も評価基準として捉えることから、従来型の人事評価システムと比較して、「過度な成果主義からの脱却」を期待できるのが特徴です。

一方で、評価者の主観が入り込みやすい面もあるため、評価の基準や仕組みを十分に整備して、公平性を保つ必要があります。人事考課は人材育成の土台にもなるため、自社の実情を踏まえて最適な方法を見極めることが大切です。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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