サーバント・リーダーシップとは?10の特性と効果・注意点を解説

d's JOURNAL
編集部

激しい変化にさらされるビジネス環境にあって、企業のリーダーシップに対する考え方も少しずつ変遷してきています。そうしたなかで、より柔軟で強靭な組織づくりを行える手段として注目を集めるのが、サーバント・リーダーシップです。

今回はサーバント・リーダーシップについて、基本的な定義や目的、求められる特性などのさまざまな側面から詳しく見ていきましょう。

サーバント・リーダーシップとは


「サーバント・リーダーシップ」とは、アメリカで提唱されたリーダーシップ理論の一つです。古くから主流とされてきた強烈な統率力によるリーダーシップではなく、奉仕精神に基づいた概念となっているのが特徴であり、最新のリーダーシップ哲学として注目されています。

まずは、サーバント・リーダーシップの基本的な定義と役割について見ていきましょう。

サーバント・リーダーシップの定義

英語のサーバント(servant)には、「奉仕者」や「使用人」といった意味があります。この語源の通り、サーバント・リーダーシップとは、一言で表せば「リーダーが奉仕によって下支えしていく支援型のリーダーシップ」のことです。

これには、「チームメンバーを導くにあたって、リーダーはまず周囲に奉仕し、その後にはじめて具体的なアプローチを行う」という概念が基本となっています。

従来型のリーダーシップのように、一方的な命令によって部下やチームメンバーを動かすのではなく、部下の能力を肯定してお互いの利益になる信頼関係を築くといったスタイルが特徴です。

サーバント・リーダーシップの役割

サーバント・リーダーシップの理論では、部下やメンバーへの「奉仕」がリーダーの中心的な役割となります。自分自身の欲求や願望を満たす前に、部下やメンバーの考えに耳を傾け、悩みや不安を解消することにこそ、リーダーの存在意義があると考えるのが特徴です。

こうした理由から、サーバント・リーダーシップにおけるリーダーには、必ずしもカリスマ性や高位の職権を必要としません。力強い統率力よりも、周囲への奉仕によって安心感や信頼関係を生み出せる力が求められるのです。

サーバント・リーダーシップが持つ10の特性


それでは、サーバント型のリーダーには、具体的にどのような特性が必要とされるのでしょうか。NPO法人「日本サーバント・リーダーシップ協会」によれば、サーバントリーダーには大きく分けて10種類の特性があるとされています。

ここでは、それぞれの内容について詳しく見ていきましょう。

傾聴

部下やメンバーへ奉仕するにあたり、基本となるのは悩みや不安を丁寧に引き出せる「傾聴」の姿勢です。傾聴とは、耳だけでなく目や心もしっかりと相手に傾けて、真摯な態度で話を聴くコミュニケーション方法です。

サーバントリーダーは自分の意見を押し通すのではなく、メンバーの意見にしっかりと耳を傾け、リーダーとしてどのように支えられるかまで考える必要があります。また、メンバーの些細な仕草や言動の変化を察知し、気持ちに寄り添えるのが理想的なリーダーシップといえます。

一般的な上司と部下の関係性においては、リーダーが待っているだけではどうしても本音を言ってもらうことは難しいものです。そのため、単に話を聴くだけでなく、各メンバーの変化に関心を持ち、必要に応じて質問を投げかけてみることも大切なテクニックとなります。

共感

アメリカの心理学者で、カウンセリングの第一人者であるカール・ロジャーズによれば、傾聴には「共感的理解」が重要であることが示されています。共感的理解とは、相手の話を相手の立場に立って、相手の気持ちに寄り添いながら理解しようとする姿勢です。

サーバントリーダーには、メンバーの多様な意見に寄り添い、相手の立場に立って物事を考えられる共感的な姿勢が求められます。チームメンバーからすれば、なかなか周囲に受け入れてもらえない価値観に理解を示し、味方でいてもらえるという安心感がリーダーへの信頼につながるのです。

癒やし

サーバントリーダーの重要な資質の一つに「癒やし」があげられます。これは、文字通りメンバーに心の癒やしや安心感を与えるスキルのことです。

ビジネスにおいては、誰でも意気消沈したり、衝突によって心が傷ついたりする場面があるものです。しかし、癒やしを与えられるサーバントリーダーがいる組織では、メンバーも必要以上に心の傷を引きずることなく、すぐに前向きな気持ちを取り戻せるようになります。

気づき

「気づき」とは、物事をありのままに捉え、本質を鋭く見極める能力のことです。具体的には、チームでの行動やメンバーの変化など、社内のさまざまな環境に目を向け、的確に状況把握ができるスキルを指します。

視野を広く持てるリーダーがいる組織では、特定のメンバーや課題に関心が偏るのを回避でき、リソースを効率的に傾けられるようになります。また、無理を重ねているメンバーがいれば、自己申告を待つことなく先んじて負担軽減などの措置が行えるようになるでしょう。

このように、一人ひとりに対するケアが迅速に行えるのも、気づきの重要な効果です。そのためには、偏見や先入観にとらわれず、物事をフラットに見つめられる資質が必要となります。

説得

サーバントリーダーが自分の意見や価値観を伝える際には、権限によって命令するのではなく、対等な立場として説得するのが基本です。それには、丁寧な話し合いにより、相手から同意を得られる説得のスキルも重要となります。

そのうえで、単に自分の意見を実現するだけでなく、相手の意見を踏まえながら、お互いにとって最適な結論を出すのが理想です。

概念化

「概念化」とは、目に見える具体的な事象を目に見えない概念として捉え直すことを指します。個別の事象をまとめて抽象化し、汎用性を持たせたり統合したりするスキルであり、リーダーに必要な資質の一つとしても注目されています。

組織においては、チームとしてのビジョンや達成目標を明確にし、各メンバーにわかりやすく伝えるスキルでもあります。全員が同じ方向を目指し、一体感を持って行動するうえでは重要な能力といえるでしょう。

先見力

「先見力」とは、過去の経験や事象と現在の状態を照らし合わせ、将来の出来事を予測する能力のことです。先々の変化を的確に判断し、組織を正しい方向へと導いていける能力であり、サーバントリーダーに限らずリーダー全般に必要なスキルといえます。

このように、先見力の役割の一つは、将来のチャンスをつかんだり想定されるリスクを避けたりすることにあります。しかし、変化の激しい現代のビジネス環境では、すべてのリスクを完全に回避しようとするのは現実的ではありません。

そこで、万が一トラブルに巻き込まれたとしても、スムーズに対応できるように準備しておけるのも先見力の重要な役割となります。

執事役

「執事役」とは、その名の通り執事のように一歩引いて周囲をサポートできる能力のことです。サーバントリーダーの大きな特徴の一つであり、メンバーが気持ちよく仕事ができるように支えるとともに、ときには自己犠牲の精神を発揮できるスキルでもあります。

そのためには、自分以外の成長や喜びを我がことのように受け止められる、大きな器が必要となります。自分の利益ではなく、メンバーや部下の利益を優先し、その実現に喜びを感じられるかどうかがサーバントリーダーの重要な資質といえるでしょう。

人々の成長にかかわる

サーバントリーダーは、組織の発展を下から支える「縁の下の力持ち」でもあります。組織のパフォーマンスを底上げするには、部下やチームメンバーの成長を考え、積極的に育成を促していくことも重要な資質です。

それには、一人ひとりの特性を丁寧に理解し、ときには適切な課題を与えられる広い視野と観察力が求められます。また、何よりもメンバー個人が秘めている価値や可能性を心から信じ、大切に考えられるかどうかが重要なポイントとなるでしょう。

コミュニティづくり

生き生きとした組織へと発展させるためには、リーダー自らが主導して、質の高いコミュニティづくりを行うことも大切です。具体的には、「それぞれのメンバーがのびのびと個性を発揮できる」「メンバー同士が主体的にサポートし合える」「自ら成長を求めて行動できる」といった前向きな組織づくりが理想といえます。

こうした組織を実現するうえでは、メンバー一人ひとりの主体性を引き出す必要があるため、強権的なリーダーシップでは限界に突き当たってしまうでしょう。サーバント・リーダーシップによって徹底的に下支えをすることで、誰もが安心して自分の考えを実行できる組織へと育っていくのです。

従来型のリーダーシップとの違い


伝統的なリーダーシップは、リーダーからのトップダウンによって指示・命令が行われ、それに部下が従う形で成り立っていました。この方式のメリットは、とにかく短時間で成果を出せる点にあります。

リーダー1人が決定権を持ち、アイデアを強力に推し進めていけるため、組織のまとまりがスピーディに行われるのです。また、多少強引ながらも経験の浅い人材を巻き込みながら育成していけることから、日本の企業では古くから用いられてきた方式といえます。

しかし、一方で「指示がなければ動けない人材が増えてしまう」「組織に新しい考えを取り入れにくい」といったデメリットもあり、トレンドが激しく移ろう現代のビジネス環境では競争優位性を失いやすい面もあります。これに対して、サーバント・リーダーシップはまずリーダーが部下の意見を傾聴し、積極的に奉仕や支援をしながら強みを引き出していく方法です。

サーバント・リーダーシップという言葉を表面的に捉えると、「部下の言いなりになる」「メンバーに好き放題に発言させる」といった印象を受けてしまう方もいるかもしれません。しかし、本来は部下の強みや主体性を引き出し、成長へと導いていくことに主眼を置く概念であり、単に部下を甘やかしたりリーダーの厳しい言葉を封じたりするものではありません。

メンバーそれぞれに自分で考えられる力を身につけさせ、環境の変化にも負けない柔軟かつ強靭な組織へと発展させていくことこそ、サーバント・リーダーシップの目的といえるでしょう。

サーバント・リーダーシップの3つのメリット


企業の組織運営にサーバント・リーダーシップを導入した場合、具体的にはどのような効果が期待できるのでしょうか。ここでは主なメリットを3つに分けてご紹介します。

メンバーの行動の変化に期待できる

サーバント・リーダーシップが発揮された組織では、メンバーそれぞれの帰属意識が高まり、業務に対するモチベーションも向上していきます。リーダーがきめ細やかに不安や悩みをくみ取り、共感や傾聴の姿勢を見せることで、組織内に信頼関係が生まれていくのです。

チームに貢献したいと感じるメンバーが増えれば、組織全体に主体性が生まれ、チームに一体感が芽生えていきます。また、サーバントリーダーの働きかけによって各メンバーが自分の強みを自覚できるため、自然と自信が芽生え、行動の前向きな変化も期待できるでしょう。

社内コミュニケーションが活発になる

伝統的な上意下達型の指揮命令系統と比べて、サーバント・リーダーシップによる組織運営は、従業員同士のコミュニケーションが活性化しやすいのも特徴です。従来型のリーダーシップでは、どうしても指示や命令を伝達するリーダーの発言機会が多くなり、各従業員は受け身の姿勢をとらざるを得ません。

それに対して、サーバント・リーダーシップではむしろ部下の発言を引き出すことにリーダーの役割を置くため、各メンバーが発言する機会は増えていきます。また、リーダーが率先して個人の価値観や意見を尊重するため、メンバー同士も多様な意見を柔軟に受け入れられるようになります。

その結果、リーダーと各従業員の間で信頼関係が構築されるだけでなく、チーム全体としての絆が深まっていくのです。社内コミュニケーションが活発になれば、全員が柔軟な意見やアイデアを主張しやすくなり、イノベーションが生まれやすい土壌が耕されていきます。

従業員が能動的に目標を達成する

サーバント・リーダーシップが上手に発揮されれば、従業員一人ひとりがしっかりと組織のビジョンや目標に共感し、納得したうえで行動できるようになります。単に上司やリーダーの意見に従うのではなく、自分の考えに基づきながらも、組織のために行動できるのが大きな違いといえるでしょう。

その結果、現場レベルの瞬発性が求められるような判断は、各メンバーが自発的に行えるようになります。上の指示を待つだけの時間を短縮できるため、意思決定のスピードが上がり、組織としての競争力も向上していくのです。

サーバント・リーダーシップの2つのデメリット


これまで見てきたように、サーバント・リーダーシップは、うまく機能すればさまざまなメリットをもたらす概念です。しかし、きちんと活用するのは難しく、かえって組織内に混乱をもたらしてしまうケースもあります。

ここでは、サーバント・リーダーシップの負の側面について見ていきましょう。

組織が目指す方向性の調整が難しい

意思決定のシステムとしては、従来のトップダウン型のリーダーシップのほうがシンプルであり、効率的といえます。強権的なリーダーの考えに沿って組織も動くため、方向性を統一しやすい点は強みです。

一方で、サーバント・リーダーシップでは従業員個人の意見や価値観をくみ取り、ときには組織の動きとして反映していく必要があります。そのため、組織の方向性を調整するのが難しく、かえって混乱を生み出してしまうリスクもあるのです。

また、そもそも全従業員の意見を平等に傾聴しようとすると、リーダーには膨大な負荷がかかってしまいます。時間や工数の面から見ても、組織を統一するまでには大きなコストがかかるため、導入すべきかどうかは慎重に検討することが大切です。

途中で脱落するメンバーも出てくる

リーダーが温かくサポートしてくれるサーバント・リーダーシップ型の組織は、一見すると従業員にとって居心地がよいものであると感じられるかもしれません。しかし、メンバーに自主性がなければ成り立たない組織形態であるため、人によっては合わないと感じるケースもあります。

「社会人経験が浅い」「知識量が不足している」「自ら考えて行動するのが苦手」といったメンバーは、命令や指示がないことに不安を覚えてしまう場合もあります。特に急激にリーダーシップのあり方を変える場合、組織の変化についていくことができず、脱落してしまうメンバーもいるでしょう。

このように、サーバント・リーダーシップは、必ずしもどんな人材にも適した方法であるとは言い切れません。従業員にもある程度の経験値と主体性が求められるので、社風や人材の特性に合っているかどうかは慎重に見極める必要があります。

サーバント・リーダーシップが求められる背景と必要な能力


サーバント・リーダーシップは1970年代のアメリカで提唱されたのが始まりであり、概念そのものは決して新しいものではありません。それにもかかわらず、現代社会でも注目を集めているのにはどのような背景があるのでしょうか。

ここでは、現代におけるサーバント・リーダーシップの重要性と求められる背景について解説します。

サーバント・リーダーシップが注目される理由

現代社会において、サーバント・リーダーシップが注目されているのは、リーダーに倫理的な信頼感を求める動きが強まっているためです。IT技術の進歩やグローバリゼーションにより、現代のビジネス環境は激しい変化に見舞われています。

ときには企業の中心的な商品・サービスが社会から必要とされなくなったり、磨いてきた技術が通用しなくなったりする場面もあるでしょう。こうした社会的な不安が強まるなかで、強いカリスマ性を持った1人のリーダーよりも、しっかりとバランスを保てるリーダーが必要とされるケースが増えているのです。

サーバント・リーダーシップが求められる背景

従来型のリーダーシップが大きな効果を発揮した時代は、大量生産・大量消費が経済の土台を支えており、業務の効率化こそが生産性の向上に直結する鍵となっていました。そのため、強力な支配型リーダーシップによる組織運営が、企業の飛躍的な成長につながっていったのです。

しかし、現代は将来が不確実で予測が難しい「VUCAの時代」とされています。VUCAとは「Volatility(ボラティリティ:変動性)」「Uncertainty(アンサートゥンティ:不確実性)」「Complexity(コムプレクシティ:複雑性)」「Ambiguity(アムビギュイティ:曖昧性)」の頭文字を並べた造語です。

VUCAの時代に企業が生き残っていくためには、硬直化した組織を生まれ変わらせ、臨機応変に環境の変化と向き合い続ける必要があります。それには、現場レベルで細かな変化を見抜き、自主的に判断ができるメンバーの存在が欠かせません。

こうしたビジネス環境の変化から、サーバント・リーダーシップはVUCA時代を生き抜くために有効な方式として考えられているのです。

サーバント・リーダーシップに必要な能力

最後に、改めてサーバント・リーダーシップに必要な能力を確認しておきましょう。

リーダーとしての役割を考えられる

サーバント・リーダーシップを実践するためには、リーダーが自らの役割を客観的に理解することが大切です。上から何かを伝達したり指示したりするのではなく、メンバーの可能性を引き出すために、どのように支援すべきかを問い直す必要があります。

メンバーの意見を丁寧にくみ取る

繰り返しにはなりますが、メンバーそれぞれの個性や可能性を存分に引き出すためには、意見を丁寧にくみ取る傾聴の姿勢が求められます。それには、一人ひとりにじっくりと向き合えるだけの余裕や、自分のことを後回しにできる奉仕の精神、多様な意見を受け入れられる柔軟性など、さまざまな条件を満たす必要があります。

他者のために行動することを嫌がらず、周囲の成長を一緒に喜び合える人材こそ、サーバントリーダーに適した存在といえるでしょう。

まとめ

サーバント・リーダーシップは部下の意見に耳を傾け、個性や可能性にしっかりと目を向けながら、組織を底から支えていくのが特徴です。そうした意味では、強力な統率力で組織をまとめる従来型のリーダーシップとは対極にある考え方といえるでしょう。

しかし、単に部下を甘やかしたり、放任したりするわけではありません。それぞれの主体性を引き出し、自ら行動できる人材へ育成することが目的であるため、実践できれば組織のパフォーマンスを大きく向上させる可能性があります。

サーバント・リーダーシップの特性や必要とされるスキルなどを把握し、まずはリーダーが自身の変革を目指すことからスタートしてみましょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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