採用の歩留まりとは?計算方法と改善策を解説

d’s JOURNAL編集部

「多数の応募者を集めたはずなのに選考参加者が少ない」「どの採用チャネルが成果につながっているのか知りたい」という場合には、「歩留まり」に着目してみるとヒントが見つかることも多いです。歩留まりを調べることで、採用フローのどの点に問題があるのかを発見できるため、採用活動の質を改善しやすくなります。

この記事では採用における歩留まりの考え方や計算方法、歩留まり率を低下させてしまう要因について解説します。そのうえで、歩留まり率を改善するための方法について見ていきましょう。

採用の歩留まりとは


採用活動の質を高めるためには、「歩留まり」に関するデータにも注目する必要があります。宣伝広告や企業イベントなどで多くの母集団を獲得しても、歩留まり率が低ければ思うような効果は得られません。

ここではまず、歩留まりの基本的な意味や計算方法について見ていきましょう。

歩留まりの意味

歩留まりとは、もともと製造業などの生産現場で用いられてきた言葉であり、「原料の投入量から得られた生産数量の割合」を示したものです。また、歩留まりを百分率で表したものが「歩留まり率」です。

素材からどれだけ効率的に成果物が得られたかを示す指標であり、歩留まり率が高いほど「原材料をムダにせず、効率的に活用できている」と判断できます。採用活動における歩留まり率も、基本的には同じような考え方で成り立っており、採用フローの各プロセスに進んだ人数の割合を指しています。

応募者数を母数にしてそこから書類選考までに何%の応募者が残ったか、さらに面接、内定までに何%の応募者が残ったかを数値で把握するのが歩留まり率の目的です。歩留まり率が高いほど、そのプロセスの通過者数が多いことを表しています。

歩留まり率の計算方法

歩留まり率の計算方法は次のとおりです。

歩留まり率の計算方法
歩留まり率=選考通過者÷選考人数×100

例えば、応募者数が500名おり、そのうち次のプロセスにあたる書類選考を通過した人数が100名いたとすると、書類選考の歩留まり率は「100名÷500名×100=20%」となります。歩留まり率の計算そのものはとてもシンプルなので、採用選考におけるすべてのプロセスを算出対象にしたとしても、それほど大きな手間にはなりません。

採用活動の質を高めるためには、各工程の歩留まり率を丁寧に求めるとよいでしょう。

採用の歩留まりにおける項目

歩留まり率は基本的にすべての採用フローを対象に求めることが大切です。例えば、一般的な採用フローと各プロセスの歩留まり率の具体例を挙げると、次のようになります。

一般的な採用フローと各プロセスにおける歩留まり率の例

採用プロセス 受験者数 歩留まり率
応募 1,000名
説明会予約 950名 95%
説明会参加 800名 84%
書類応募 200名 25%
一次面接 100名 50%
最終面接 50名 50%
内定出し 30名 60%
入社 15名 50%

さらに歩留まり率は各プロセス間だけでなく、以下のようにさまざまな工程を挟んで計算することも重要です。

各種の歩留まり率

選考参加率(書類応募者数÷応募者数×100) 20%
面接通過率(内定者数÷一次面接参加者数×100) 30%
内定率(内定者数÷書類応募者数×100) 15%

このように、さまざまな歩留まり率を算出することで、採用活動における課題を発見しやすくなります。

採用の歩留まり率が低くなる6つの原因


応募者からの人気によって採用倍率が極端に高くなっている場合などを除けば、基本的には歩留まり率が低いほうが、採用活動の効率も悪いと考えられます。ここでは、歩留まり率が低くなってしまう原因を6つに分けて見ていきましょう。

事前の説明と面接でのギャップがある

面接後の歩留まり率が低い場合は、事前の会社説明と面接時の説明のギャップによって、候補者の辞退が発生していると考えられます。会社説明会などで伝えられた情報と面接での情報に食い違いがあると、期待していた理想と現実にギャップを感じてしまい、志望意欲が低下する原因となるのです。

面接における歩留まりを改善するためには、面接官の対応などを見直すだけでなく、発信する情報に一貫性があるかを改めてチェックすることが大切です。

連絡や説明が不足している

基本的に、応募者は自社も含めた複数の企業の選考を受けているため、会社側からの連絡や説明が少なければ次第に関心が薄れてしまいます。特に「説明会から書類応募まで」、「内定出しから入社まで」の間は時間が空いてしまいやすいことから、企業への志望度が薄れやすいタイミングとなります。

例えば、せっかく内定を出していても、その後にほかの企業から内定が出た結果、そちらに関心が移ってしまうというケースはめずらしくありません。両者に志望度の差がそれほどない場合、こまめに連絡を取ってコミュニケーションを図った企業のほうが選ばれる可能性は高くなるので、丁寧なアプローチが重要となります。

自社の魅力を十分に伝えきれていない

歩留まり率が低下してしまう要因としては、「応募者に自社の魅力がうまく伝わっていない」というものも考えられます。例えば、企業説明会から応募までの歩留まり率が低い場合には、説明会で他社と比べて魅力をアピールできていなかったと判断することができます。

求職者は複数の企業を比較しながら応募を検討するため、他社との違いや強みをきちんと打ち出せなければ、志望意欲を引き出すことはできません。また、内定出しからの歩留まり率が悪い場合も、他社と比べて採用ブランディングがうまくいっておらず、より魅力的な会社からの内定をきっかけに離脱されてしまったと考えられます。

内定獲得数が増えている

歩留まり率の低下については、採用市場全体の動きも大きく関係しています。現代は労働人口の減少による人手不足が深刻化しており、多くの企業が若手人材を強く求めている状態です。

こうした売り手市場の環境では、求職者が同時に数多くの内定を獲得するケースもめずらしくなく、企業から見れば入社してもらうまでの競争率が高まってしまいます。また、人材の獲得競争が激しくなると、企業側も積極的に広告宣伝を行い、より多くの母集団を築かなければならないと考えます。

必要以上に母数が増える結果、自然と採用活動全体の歩留まり率が低下するといったケースも考えられるでしょう。求職者1人あたりの内定獲得数が増えている現状では、スピーディーに採用活動を進めて、他社をリードしていくことも重要な施策となります。

競合他社との差別化ができていない

求職者からすると、同じ業界や類似する規模の企業同士は比較しやすいため、選考を受けるかどうかの大きな判断基準となります。そのため、競合他社と比べて給与や福利厚生などが見劣りすれば、どうしても他社に人材を取られてしまう可能性は高まります。

比較による不利益を避けるためには、業界平均などを踏まえて自社の待遇を見直すことが大切です。特に近年では、働き方改革の推進にともない労務環境の改善に着手する企業も増えているため、競合調査も欠かさず行うようにしましょう。

家族や周囲からの反対がある

歩留まり率が下がってしまう原因の一つには、家族や周囲からの反対も関係しています。求職者本人は入社する意欲があっても、家族や周囲からの反対に遭い、せっかく内定を受けていても断念してしまうというケースは少なくありません。

特に中途採用の場合は、「前職より年収が下がってしまうことへの不安」「勤務地の変更への不満」「新しい業界へのネガティブなイメージ」などが原因で、配偶者から反対を受けてしまうこともあります。転職に対する考え方は人それぞれであるため、夫婦の間で意思疎通が図れないまま内定出しを迎えてしまうという場合もあるでしょう。

配偶者の反対による辞退を避けるためには、内定者を対象にヒアリングを行って、不安や懸念を取り除いていくことが大切です。給与テーブルや退職金制度を資料で説明し、まずは候補者自身に自社の魅力をきちんと理解してもらいましょう。

そのうえで、求職者の希望があれば、条件面談の際に家族に同席してもらい、将来性や福利厚生について丁寧に説明する機会を設けるのも有効な方法です。

歩留まり率を改善するための対策


歩留まり率は採用フローのすべてに関係のある数値であるため、改善するためにはさまざまなアプローチが考えられます。ここでは、主な改善方法について詳しく見ていきましょう。

各歩留まり率を分析する

歩留まり率は各選考段階で算出できるため、まずはどの段階での数値を改善すべきなのかを明確にする必要があります。原因が応募段階、選考段階、内定から入社までの段階のどこにあるのかを探り、問題点を明らかにしましょう。

また、歩留まり率は採用段階ごとだけでなく、採用ルートごとにチェックしてみることも大切です。「どの採用媒体からのエントリー数が多いのか」「ソーシャルリクルーティングの効果はどの程度表れているのか」などを知るためにも、採用媒体ごとに検証してみましょう。

例えば、採用媒体ごとの内定率を割り出してみることで、思いがけない問題点が見つかる場合もあります。ある媒体をきっかけにした応募者の内定率のみが突出して低い場合には、その媒体の利用を続けるかどうか見直す必要があるでしょう。

このように、自社に合った採用媒体の強化を図るためにも、歩留まり率の分析を丁寧に行うことが重要です。

母集団の質を高める

応募者数が多くても、その後の選考過程において歩留まり率が低下している場合は、募集の時点でミスマッチが起こっている可能性が考えられます。この場合は、質の高い母集団を形成できるように、採用計画そのものを見直すことが大切です。

母集団の質を高めるには、まず「チーム全体で採用の目的や採用ペルソナを共有する」という点が重要となります。自社がどのような人材を求めているのか、具体的な人物像としてきちんと明確化し、チーム内で共通認識を持っておけば募集段階での齟齬は生じにくくなるでしょう。

そのうえで、採用ペルソナに合わせたアプローチ手法を検討することが重要です。募集する職種や雇用形態、年齢層に応じて適した採用手法は異なるので、柔軟に戦略を見直してみましょう。

母集団について、さらに詳しく調べたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

(参考:『母集団形成と選考を改善し、ミスマッチ解消にも効く!「採用ピッチ資料の作り方」最前線 』)

求職者にとって有益な情報を発信する

募集におけるミスマッチを防ぐためには、求職者が知りたい情報を前もって発信することも大切です。オフィスや職場の様子、仕事を通じた社会貢献の仕組みなど、志望意欲を高めるような情報は積極的に発信しましょう。

そのうえで、ポジティブな情報だけでなく、現実的な業務内容やキャリア形成などに関するポイントもきちんと公開しておくことが大切です。リアルな情報をきちんと伝えておくことで、選考段階におけるギャップを埋められ、歩留まりの改善につながります。

コミュニケーションを緊密にする

選考段階にある候補者とは、できるだけこまめに連絡を行い、緊密なコミュニケーションを図ることが大切です。仮に競合他社から内定が出ていたとしても、会社側がこまめに連絡を取り続ければ、関心が薄れることなく選考に臨んでもらえる可能性が高まるでしょう。

また、面接などの日程調整も柔軟に対応すると、候補者には「丁寧に気にかけてもらえている」というプラスイメージを持ってもらいやすくなります。面接の予約確認や直前でのリマインドなど、企業側から候補者に連絡できる機会は数多くあります。

一つひとつのタイミングを大事にして、丁寧に連絡を入れることで求職者に与える印象は変わってくるでしょう。

待遇面での改善を図る

求職者に自社の魅力を訴求するうえでは、実際に待遇面での改善を図り、採用市場における競争力を高めることが大切です。基本的には業界平均と比較しながら、自社がどの程度の水準にあるのかを確認することが重要となりますが、近年では人材不足の解消に向けてさまざまな企業が独創的な取り組みを行っています。

他社に後れを取らないためには、業界平均だけでなく競合の分析もしっかりと行い、自社の相対的な立ち位置をチェックしましょう。また、歩留まりを改善するためには、働きやすい環境づくりに努めることも大切です。

給与面だけでなく、有給休暇の取得率向上やリモートワーク、フレックスタイム制の導入などに力を入れることで、求職者にとっての魅力は高まります。待遇改善に力を入れれば、採用後の早期離職を防げるとともに、次年度以降の採用活動においても競争優位性を確立しやすくなります。

選考を受けやすい体制を整える

面接辞退を避けるためには、選考を受けやすい環境を整えることも大切です。そのための代表的な施策として挙げられるのが、オンライン面接の導入です。

Web会議ツールなどを用いて一次面接のみオンラインでの実施を可能にすれば、それほど志望意欲が醸成されていない応募者に対しても選考参加のハードルを下げることができます。例えば、複数の企業に応募する求職者にとっては、同時にいくつもの選考を受け続けるのは負担になるため、どこかのタイミングで優先度の低い企業の選考を辞退するのも自然なことです。

しかし、一次面接だけでもオンラインで受けられるのであれば、移動や時間帯の制約がなくなるため、選考参加に踏み切りやすくなるでしょう。そして、面接を通じてその企業への関心が強まり、入社へ至るという可能性も十分に考えられます。

また、そもそもオンライン選考が可能であれば、遠方の求職者も応募が行えるため、母集団形成の幅も大きく広げることができます。

各種イベントを開催する

新卒採用においては、採用スケジュールが長期にわたるため、懇親会や各種イベントの開催を検討してみるのも有効です。学生からすれば、社会に出ることそのものに不安を感じる面もあるため、どうしても企業との間に距離感を覚えてしまいやすいものです。

懇親感や社内見学会、OB・OGを巻き込んだランチ会などを開催すれば、対面形式でじっくりとコミュニケーションを図れるので、学生との距離を縮めやすくなります。また、学生側からの質問にもその場で対応できるため、不安や疑問を解消する機会にもなるでしょう。

そのうえで、イベント参加の歩留まり率が低い場合には、オンラインイベントを行って直接足を運べない応募者のフォローを行うのも一つの方法です。直接対面できなくても、良好な関係性を保つことができるため、応募段階の歩留まり改善に大きく貢献します。

面接官の育成に力を入れる

選考段階での歩留まり率が低い場合は、面接のクオリティを見直してみることも大切です。応募者にとって、面接官はその企業で直接的にコミュニケーションを図る窓口のような存在であるため、対応次第で会社そのものの印象も左右されます。

他社と比べて面接官の印象が悪ければ、内定承諾の段階で自社が不利になってしまうリスクもあるのです。そのため、面接官の人選や育成にもしっかりと力を入れ、候補者によい印象を与えられるようにスキルを磨いてもらうことも大切となります。

また、複数の面接官が面接を担当する場合は、採用基準のすり合わせも十分に行う必要があります。担当者によって基準にばらつきがあれば、選考の質が保てなくなり、次の採用プロセスでの歩留まりを悪化させる原因にもなりかねません。

面接官の間で評価基準を統一させるためにも、しっかりと育成・研修を行いましょう。

内定者のフォローを丁寧に行う

採用フロー全体の歩留まりを確認したうえで、内定出しから入社までの数値が優れない場合は、内定者フォローが不十分である可能性が考えられます。特に新卒採用の場合、内定が出てから入社までにはタイムラグが生まれるため、不安や迷いといったネガティブな思考も膨らみやすくなります。

その間に適切なフォローを行わなければ、内定辞退につながるリスクもあるでしょう。入社の意思をしっかりと固めてもらうためには、企業側から積極的に接点を築き、きめ細やかなフォローを行う必要があるのです。

内定者フォローの具体的な方法としては、「内定者懇談会を行って内定者同士のつながりを深めてもらう」「先輩従業員との座談会を設けて不安や悩みを解消してもらう」「社内イベントに誘って既存の従業員との人間関係を築いてもらう」などのさまざまなパターンが考えられます。内定段階まで採用フローが進んでいれば、対象者もある程度まで絞り込まれているので、比較的柔軟にアイデアを実行できるでしょう。

内定者のフォローについて、さらに詳しく調べたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

(参考:『内定者のフォローは何をすべき?具体例と実施する際のポイントを紹介 』)

まとめ

採用活動における歩留まり率は、自社の採用プロセスがどのように機能しているのかを細かく調べるうえで有力なデータとなります。想定以上に歩留まり率が低いプロセスがある場合は、何らかの問題が隠されている可能性もあるので、原因を細かく調べなければなりません。

歩留まり率を改善する方法には、「母集団の質を高める」「待遇面を改善する」「選考を受けやすい仕組みを構築する」「内定者フォローに力を入れる」といったさまざまなアプローチが考えられます。

どの段階の数値を改善したいかによって、実行すべき施策も変わってくるため、まずはデータの分析を丁寧に行いましょう。

(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)

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