母集団形成と選考を改善し、ミスマッチ解消にも効く!「採用ピッチ資料の作り方」最前線

HeaR株式会社

採用コンサルタント 三宅 真愛(みやけ・まい)

プロフィール

母集団形成や選考の課題を解決する手法として、「採用ピッチ資料」が注目されています。“ピッチ”とは、プレゼンテーションの短縮版のこと。実際に採用ピッチ資料を作成し、公開しているSmartHR社では、これまでに閲覧数が300万回を超え、応募数は5.3倍に増加したといいます。
※参考:【保存版】採用ピッチ資料100選|作り方~制作ポイントはコレ!

採用コンサルティングの一環として数多くの企業に採用ピッチ資料制作を提案する、HeaR株式会社の三宅真愛氏は、「採用ピッチ資料では採用上のペルソナに向けて、自社の強みや魅力だけでなく、弱みや課題についてもありのままに伝えることが重要」だと指摘します。読んだ人に「自分に合っている会社か、そうでないか」を判断してもらう。それが採用ピッチ資料の意義なのだと。

採用ピッチ資料はどうやって作られるのか。母集団形成や選考にはどのように活かされているのか。三宅氏に具体的なノウハウを聞きました。

採用見込み対象者の「知りたい」に応え、アップデートを重ねる採用ピッチ資料

——なぜ今、採用ピッチ資料が注目されているのでしょうか。

三宅氏:最大の要因は採用活動のオンライン化です。2020年以降、コロナ禍での採用ではオンラインベースの空中戦がメインとなりました。転職希望者も合同説明会などのリアルな場に参加しづらくなっているので、オンラインで情報を取りに行かざるを得ません。情報を適切に発信できている企業なのか、できていない企業なのか。それだけで二分化されつつあるのが今の採用市場だと感じます。

転職希望者との初期の接点をいかに早く持てるか。自社のことを複数のチャネルで発信し、いかに知ってもらえるか。それが鍵になっているからこそ、採用ピッチ資料が注目されているのではないでしょうか。

 

——企業が転職希望者に情報発信する手段として、採用サイトに力を入れている企業も多いと思います。これとは何が違うのでしょうか。

三宅氏:採用ピッチ資料は、3カ月に1回くらいのペースでアップデートしていくのが理想的なんです。事業の状況に応じて採用に求められることは変わっていきますよね。四半期ごとに見直しをかけていく企業が多いので、私たちはこのペースに合わせた資料のアップデートを提案しています。採用サイトは多くの場合、更新ハードルが資料以上に高いためここまで頻繁にアップデートするのは難しいと思います。

また、3カ月運用してみれば、採用ピッチ資料の内容が有効に機能しているかどうかも見えてきます。PDCAを回すために大切なのは、面談中の採用見込み対象者に直接資料の感想を聞いてみること。採用ピッチ資料を読んだ上で面談に来ていただき、どう感じたか、もっと知りたいことはないかなどを聞いて、伝え方の改善につなげていきます。

多いところでは月1回のペースで内容を更新し、メンバー紹介を追加したり、最新のサービス状況やプレスリリース情報を追加したりと、内容の充実を図っています。採用ピッチ資料はアップデートし続けるからこそ意味を持つものなんです。

採用ピッチ資料作りの鍵は現場のメンバーを巻き込むこと

——実際の採用ピッチ資料の作り方を教えていただけますでしょうか。

三宅氏:当社で採用ピッチ資料制作を進める際には、大きく4ステップに分かれます。

 

まずは「魅力の整理とペルソナ策定」。全てのステークホルダーに情報を届ける会社紹介資料とは異なり、採用ピッチ資料では採用上のペルソナ(理想のターゲット像)が求める情報を届けます。そのため、最初の段階で誰に何を届けるのかを整理することが重要なんです。同じ企業でも、営業とマーケティング、エンジニアサイドとビジネスサイドなど、ペルソナに応じて資料を作り分けることも多いですね。アンケートを取ったり社員にインタビューしたり、社員を巻き込んでワークショップを開いたりして、ペルソナを明確化していきます。

 

次に採用ピッチ資料の「構成案」を作ります。ペルソナに向けて伝えるべき情報を整理し、そのペルソナにどんな読後感を持ってほしいのかを考慮して構成案にまとめていきます。

続いて「デザイン方針の決定」。企業やペルソナの読後感に合わせて、カラーパターンやフォントなどを決定します。こうしたデザイン要素は読む人の心理状態にも大きな影響を及ぼします。

そして完成した資料は、先ほどお話ししたように実際の面談などで活用しながらPDCAを回し、アップデートを繰り返していきます。

——採用ピッチ資料を作る際には人事・採用担当だけでなく、他部署のメンバーを巻き込んで進めていくのですね。

三宅氏:はい。これは採用と組織の両方にメリットがあります。

採用においては、人事と現場の情報のズレがなくなっていきます。現場が望んでいる採用の在り方や現状認識と人事が考えていることの間には、ズレが起きやすいもの。大きな組織になればなるほど、人事側の理解が及ばないことも増えていくのではないでしょうか。だからこそ、現場の中枢で活躍しているメンバーを巻き込んでいくことが重要なんです。

組織の面で言えば、現場はどうしても現場の仕事が忙しいため、「採用活動に時間を割けない」と言われて人事との間にハレーションが起きている会社もあります。採用ピッチ資料作りに参加してもらえば、現場の人たちが組織について考える機会にもなるし、人事の考えを理解してもらうことにもつながります。

弱みや課題を積極的に開示する企業の方が好感を持たれやすい

——採用ピッチ資料には、具体的にどのような内容を盛り込むのでしょうか。

三宅氏:大きなカテゴリーとしては「会社紹介・事業紹介」「組織・企業文化の紹介」「求人情報」「待遇・福利厚生など基本情報」の4つです。ただし、この順番通りに伝えればいいわけではありません。構成においては、企業の特性や募集ポジションによって伝える順序を工夫することも大切です。

 

ミッションに共感して入ってくる採用見込み対象者が多いのか、サービスやプロダクトに共感して入ってくる採用見込み対象者が多いのか、それとも組織文化に共感して入ってくる採用見込み対象者が多いのか。

ミッション型の採用見込み対象者には企業ミッションから事業へのつながりを、サービス・プロダクト型の採用見込み対象者にはサービスの成長率やプロダクトへの経営の思いを重点的に伝えるなど、それぞれの情報の見せ方を練っていく必要があります。

——採用ピッチ資料では自社の強みや魅力だけでなく、弱みや課題も含めて「ありのまま誠実に伝える」ことが重要だとされています。この理由についてお聞かせください。

三宅氏:理由の一つには転職希望者側のリテラシーが高まってきていることが挙げられます。端的に言えば、きれいな情報だけを並べても「絶対に裏があるだろう」と思われてしまう時代なんですよね。むしろ企業側から弱みや課題を積極的に開示して、転職希望者と一緒に解決していく姿勢を見せた方が好感を持ってもらえるはずです。当社が作る採用ピッチ資料では「受け入れてほしいこと」や「中長期的に解決していきたいイシュー」という言い方で伝えていますね。

また、オンライン中心の採用活動だからこそ、採用のミスマッチを減らしていくことが以前にも増して重要になっています。コロナ禍以前なら、内定前に飲み会の場などで採用担当から弱みや課題についてじっくり話す機会があったかもしれませんが、今はそれも難しい。だからこそオンラインの段階で弱みや課題も見せてしまうべきなんです。

脱「いかにもテンプレ」。採用ピッチ資料は面談の在り方も変える

——母集団形成において、採用ピッチ資料はどのように活用されていますか?

三宅氏:採用サイトのわかりやすい場所に掲載することで、見てくれた人の応募動機を高めることにつながります。外部サービスを活用する場合も、求人広告によっては採用ピッチ資料のURLを貼って誘導できる場合があるので、積極的に活用すべきだと考えます。

スカウトメールに添付するのも効果的です。スカウトの文面ではテンプレートを活用することもあると思いますが、「いかにもテンプレ」な内容だと転職希望者に熱意が伝わりにくいですよね。採用ピッチ資料があることでスカウトの内容を差別化しやすくなりますし、採用ピッチ資料を見てもらえるように文章を工夫することもできます。

他にも、企業によっては採用ピッチ資料をアップデートするたびにTwitterなどのSNSで広報しているケースもあります。いろいろな導線から採用ピッチ資料に誘導していくことが重要です。

——選考の場面ではいかがでしょうか?

 

三宅氏:カジュアル面談や面接の前に、日程調整のメールに採用ピッチ資料を添付するなどして読んでもらうことが効果的だと考えます。採用見込み対象者に資料を読んでもらえていれば、面談で会社紹介に費やす時間を大幅に削減できるからです。実際に当社のクライアントでは、以前は60分の面談のうち30分を会社紹介に使っていたのですが、採用ピッチ資料を運用してからは面談を「資料へのQ&A」からスタートできるようになりました。面談の時間の使い方を改善し、より濃度の高い会話ができるようになったんです。

また、採用ピッチ資料は会社説明会のプレゼン資料としても大いに機能します。ある企業では、説明会に参加した方から「こんなにスタイリッシュな説明資料は見たことがない」という声が上がりました。特にオンライン上では資料を画面共有することが多いので見やすさが大切。若い人は動画サイトなどを見て目が肥えているので、デザイン一つで企業への印象が変わってしまうこともあります。

——ありがとうございます。これから採用ピッチ資料を作り、活用していきたいと考えている人事・採用担当者へアドバイスをお願いします。

三宅氏:私たちが実際に企業を支援する際は、「採用ピッチ資料はあくまでも手段の一つです」とお伝えしています。いちばん大切なのは、採用ピッチ資料ができ上がるまでの上流設計。何のために採用ピッチ資料を作りたいのか。誰に届けたいのか。どんなメッセージを打ち出せるのか。そうしたことを考えながら採用ピッチ資料を作っていくことにこそ意味があるんです。

「見てくれはかっこいいけれど中身がない」資料は、むしろ逆効果になってしまうこともあります。採用ピッチ資料が完成するまでのプロセスにこだわって、社内で多くの人を巻き込んでいただけたらと思います。

資料提供:HeaR株式会社

取材後記

アップデートを頻繁に行い、「企業の今」をリアルに伝える採用ピッチ資料。社内の人が感じている課題感も含めてありのままに表現するからこそ、採用見込み対象者が自分に合う会社なのかをセルフスクリーニングできるようになり、結果的に人事・採用担当者の業務を効率化することにもつながるのだと感じました。日ごろの採用活動で何となく使い回している資料、その意味を根本から見直してみるべきなのかもしれません。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/中澤真央