ワークエンゲージメントとは?企業に与える影響と測定方法を解説

d’s JOURNAL編集部

従業員のパフォーマンスを最大限に引き出し、持続可能な成長を促していくためには、「ワークエンゲージメント」に気を配ることが大切です。ワークエンゲージメントとは、端的にいえば「従業員の仕事に対する前向きさや活力を示す度合い」のことです。

今回はワークエンゲージメントの概要や企業に与える影響、測定方法などをまとめてご紹介します。また、ワークエンゲージメントの向上を図るうえで、特に重要となる要素についてもあわせて見ていきましょう。

ワークエンゲージメントとは


ワークエンゲージメントとは、従業員が仕事に対して前向きな感情を抱き、充実した精神状態で自身の役割に臨めている状態を指します。 つまり、仕事にやりがいを持って没頭し、活き活きとした気持ちで働いている状態です。

もともとは1990年代にコンサルタント業界で使われていた概念 とされており、現在では従業員のパフォーマンスやメンタルヘルスにも大きな影響を与える要素として広く注目を集めています。ワークエンゲージメントの概念を構成する要素として、「熱意」「没頭」「活力」の3つが挙げられます。

「熱意」とは仕事に対するやりがいや誇りを指し、「没頭」は仕事を熱心に取り組んでいる状態のことです。そして、「活力」は活き活きとした気持ちで働き、仕事から生きるエネルギーを得ている状態を表わしているといえるでしょう。

仕事そのものに向けられた「持続的かつ全般的なポジティブな感情」を指しているのが大きな特徴です。

ワークエンゲージメントを構成する3つの要素


オランダ・ユトレヒト大学のシャウフェリ教授らの研究によれば、ワークエンゲージメントは「活力」「熱意」「没頭」の3つがそろった状態として定義されています。ここでは、3つの構成要素について詳しく見ていきましょう。

活力(Vigor)

活力とは、仕事に対するエネルギーの高さを示します。単に一時的な行動力の高さを示しているのではなく、持続性という点では、心理的な回復力も重要な要素となります。

活力が充実していれば、仕事への主体的な努力が見られるようになり、困難な課題にも積極的に向き合えます。そして、仕事の喜びや手ごたえによってさらに活力が高まるため、ストレスを感じることなく努力を重ねられるという好循環が生まれるのです。

熱意(Dedication)

熱意とは、仕事に対する情熱のことです。自分の業務や役割に対してやりがいを感じ、積極的に取り組める状態を指しています。

熱意が十分であれば、既存のシステムややり方に対して受け身になるのではなく、自ら主体的に改善の方法を探れるようになります。新しい知識をインプットしたり、さまざまな可能性を模索したりしながら、新しい商品・サービスを生み出す源泉となるのが熱意です。

没頭(Absorption)

没頭とは、文字どおり仕事に熱中できている状態を指しています。没頭している状況下では、仕事に取り組むうえで充実感や幸福感に満たされ、時間があっという間に進んでいくような感覚が得られます。

集中力が高まるため、業務の効率やクオリティも向上し、人為的なミスは自然と減少していくでしょう。このように、生産性の向上と精神の充実を両立させるうえで、没頭は欠かせない要素といえます。

ワークエンゲージメントと関連する概念


ワークエンゲージメントを正しく理解するためには、関連する概念についても押さえておくことが大切です。ここでは、3つの言葉について解説します。

ワーカホリズム

ワーカホリズムには、過度に一生懸命になって脅迫的に働く傾向という意味があります。仕事に没頭している状態という点においてはワークエンゲージメントと共通する部分がありますが、仕事への姿勢や認知に違いがあるといえるでしょう。

ネガティブな精神状態を指すのがワーカホリズムであり、仕事のパフォーマンスは高いものの、「仕事をしていないときの焦りや罪悪感から解放されたい」といった感情に突き動かされているのが特徴です。一方、ワークエンゲージメントは「仕事そのものが楽しい」というポジティブな感情が原動力となります。

バーンアウト

バーンアウトはいわゆる「燃え尽き」の状態を指すものであり、仕事に対して過度に取り組んだ結果、疲弊した状態をいいます。多くのエネルギーを仕事に費やすことで抑うつ状態に陥り、仕事に対する興味や関心、自信といったものが低下してしまう現象のことです。

ワーカホリズムと同様に、仕事へのネガティブな姿勢や状態を生み出すものとされています。

職務満足感

職務満足感とは、自らの仕事を評価したときに生じるポジティブな精神状態をいいます。仕事に対する前向きな姿勢という意味では、ワークエンゲージメントと共通します。

ただ、ワークエンゲージメントが仕事に取り組んでいるときの状態を表すことであるのに対して、職務満足感は仕事そのものに対する満足感を表している点に違いがあることを押さえておきましょう。

ワークエンゲージメントを高めることで企業が得られるプラスの影響


従業員のワークエンゲージメントが高まれば、本人はもちろん、組織や企業全体にもプラスの影響がもたらされます。ここでは、ワークエンゲージメントを高める効果について、企業視点から見たメリットを4つご紹介します。

生産性を高められる

ワークエンゲージメントが高まれば、従業員の学習意欲が高まったり、業務の進め方を工夫したりする効果も期待できます。例えば、「企業主催のセミナーにも主体的に参加してもらえる」「最新の技術を積極的に身につけられる」といった望ましい行動が見られるようになるのです。

能動的な姿勢で触れた知識や技術は、受け身で取り組んだときよりも、より活きたスキルとして身についていきます。その結果、個人の業務の質が高まり、組織全体としても生産性の向上につながっていくでしょう。

顧客満足度(CS)の向上につながる

ワークエンゲージメントが高い従業員は、主体的に自社の商品・サービスと向き合うため、仕事に対して誇りや自信が生まれやすい側面があります。提供する商品・サービスに自信を持ち、心からポジティブな感覚を持っている従業員の姿は、顧客から見ても安心感や信頼感につながるでしょう。

また、サービスの細かな品質についても、従業員のワークエンゲージメントが充実していれば、自然に改善されていくと考えられます。例えば、カスタマーサービス部門で働く従業員のワークエンゲージメントが高ければ、顧客とのやりとりにおいて気になるポイントを自ら発見し、改善につなげていくという姿勢が期待できるでしょう。

現場目線の意見が活発に挙がるようになれば、組織全体としてのサービスの向上につながります。その結果、顧客満足度の向上を期待できるのも大きな利点です。

心身の健康を維持できる

先にも述べたように、ワークエンゲージメントはワーカホリズムとは対極にある考え方であり、本人が前向きな精神状態にあるのが大きなポイントです。ワークエンゲージメントが向上すれば、生産性を維持したまま、従業員のメンタルヘルスの改善が図れるのです。

ワークエンゲージメントが高い状態が保たれていれば、業務や人間関係を通じたストレスが軽減されるため、疲労感が抑えられたり睡眠の質が向上したりする効果もあります。そのため、通常であればストレスに感じやすいような場面でも、メンタルへのネガティブな影響を最小限に抑えられるでしょう。

離職率の低下に結びつけられる

従業員の離職率低下は、ワークエンゲージメントを向上させる重要なメリットです。近年では転職活動もキャリア形成の有力な選択肢となっており、特に若手の従業員の定着率は多くの企業が抱える共通の課題といえます。

ワークエンゲージメントの向上に取り組めば、従業員は自社での仕事そのものに誇りと充実感が得られるため、自社でのキャリア形成も前向きに考えられるようになるでしょう。定着率が高まれば、組織力の低下を避けられるとともに、中長期的な視点での人材育成も行いやすくなります。

ワークエンゲージメントの尺度と測定する方法


自社のワークエンゲージメントを改善するうえでは、まず現状を的確に把握しておく必要があります。ここでは、ワークエンゲージメントを測定する3つの方法について、具体的な内容を解説します。

UWES (ユトレヒト・ワークエンゲージメント尺度)

「UWES(Utrecht Work Engagement Scale)」とは、ユトレヒト大学で開発されたワークエンゲージメントの測定方法です。活力・熱意・没頭の3つの要素を17種類の質問項目に盛り込んで判定する方法であり、ワークエンゲージメントの測定方法としてはもっとも広く活用されています。

なお、UWESでは3つの要素を3項目ずつ、合計9項目の質問に減らした短縮版や、合計3項目のみの質問で測定できるようにした超短縮版も開発されています。日本では、日本人労働者の特性に合わせて9個の質問項目に短縮した「日本版UWES」を用いられることも多いです。

<UWESの質問項目>
・仕事に熱心である(熱意)
・私は仕事にのめり込んでいる(没頭)
・仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる(活力)

<UWESの回答スコア>
・いつも感じる:6点
・とてもよく感じる:5点
・よく感じる:4点
・時々感じる:3点
・めったに感じない:2点
・ほとんど感じない:1点
・全くない:0点

(参考:島津明人研究室『ワーク・エンゲイジメント(UWES) 』)

上記のように、UWESの質問項目はすべて、熱意・没頭・活力のいずれかに分類されます。各項目のスコアを集計し、平均化することで測定します。

MBI-GS (マスラック・バーンアウト・インベントリー)

「MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)」とは、ワークエンゲージメントの対概念にあたる「バーンアウト(燃え尽き症候群)」の度合いを測定する手法です。

MBI-GSは「疲弊感(仕事に由来する疲弊)」「シニシズム(仕事に対する熱意や関心を失い、心理的に距離を置く態度)」「職務効力感の低下(仕事に対する自信、やりがいの低下)」の3つの因子について、合計16項目の質問から測定する仕組みです。バーンアウトに関する数値が低いほど、間接的にワークエンゲージメントが高いと判定することができます。

<MBI-GSの質問項目>
・一日の仕事が終わると疲れはてて、ぐったりすることがある
・自分は職場で役に立っていると思うことがある
・自分がしている仕事の意味や大切さがわからなくなることがある

(参考:石川県立看護大学 北岡(東口)和代・早稲田大学 荻野佳代子・慶應義塾大学 増田真也『日本版MBI-GS(The Maslach Burnout Inventory-General Survey)の妥当性の検討 』)

上記のような質問に回答し、UWESと同じようにスコア化することで測定します。

OLBI (オルデンバーグ・バーンアウト・インベントリ)

「OLBI(Oldenburg Burnout Inventory)」も、MBI-GSと同じようにバーンアウトを測定することで、間接的にワークエンゲージメントの測定が行えます。「疲弊」と「離脱」の2つの尺度について、ポジティブな項目とネガティブな項目を4項目ずつ、合計16項目の質問で測定していくのが特徴です。

<OLBIの質問項目>
・仕事への思い入れ消失
・仕事の前にすでに疲労感
・仕事量はしっかりこなせる

(参考:大阪市立大学看護学雑誌Vol.17『the Oldenburg Burnout Inventory−German version邦訳の信頼性と妥当性の検討 』)

各質問に対しては、1点から4点の4段階で回答し、単純加算した合計値によってバーンアウトの程度を測定します。

ワークエンゲージメントを高めるためのポイント


ワークエンゲージメントを高めるには、個人と組織の両方から適切なアプローチを行う必要があります。ここでは、向上させるために重要となる4つのポイントについて見ていきましょう。

仕事の資源

「仕事の資源」とは、ワークエンゲージメントを高める要素のうち、仕事そのものに関するポイントをまとめたものです。具体的には、「業務の効率化」「仕事を通じた成長実感が得られる環境」などを指しています。

仕事の資源を高めるための方法としては、次のようなものが挙げられます。

・上司の適切なサポート
・業務の質や貢献に対する適切なフィードバック
・仕事における十分な裁量権
・トレーニングの機会
・業務、役割の多様性
・チームビルディング

仕事の資源を向上させるアプローチは、基本的に組織が行います。上記で挙げた点のなかでも、特に「上司の適切なサポート」「業務の質や貢献に対する適切なフィードバック」「仕事における十分な裁量権」といったものは、1on1ミーティングなどを通じて取り組めるので優先的に実施してみましょう。

従業員のスキルや経験に応じて、適切な目標を設定することによって、任せる仕事の難易度を調整していくことも大切です。

個人の資源

「個人の資源」とは、ワークエンゲージメントに影響する要素のうち、従業員個人が持つ内的要因のことです。具体的には、「自尊心」や「ポジティブな思考ルーティン」などが挙げられます。

個人の資源が高い状態であれば、仕事における心理的なストレスが軽減され、モチベーションが向上していきます。自らの存在や役割に誇りが持てるようになり、仕事へのやりがいを感じやすくなっていくのです。

個人の資源を高める方法としては、「可能な範囲で仕事の権限移譲を促す」「社内公募制などの自ら進んでキャリアを開拓できる制度を導入する」「ジョブクラフティングの概念を取り入れる」などが挙げられます。ジョブクラフティングとは、働く人が自ら仕事への向き合い方を見直し、やりがいを見出していくためのアプローチです。

会社側が仕事のやり方や捉え方、人との関わり方などを教えるジョブクラフティング研修を実施することで、従業員の認知や行動を前向きに転換できる機会を提供できます。

自己効力感

個人の資源のなかでも、特に重要な要素として「自己効力感」が挙げられます。自己効力感とは、与えられた課題に対して「自分ならできる」「乗り越えられる」という前向きな認識が持てる状態のことです。

自己効力感を高めるためには、「今のスキルで達成できる仕事の成功体験を積み重ねる」「タイムマネジメントの訓練のために、タスク管理ツールなどを導入して仕事の進捗を可視化する」「他部署との交流などを通じて、コミュニケーションスキルに自信が持てるようにする」といった方法が重要となります。 それには、仕事のやり方などを極端に管理しすぎるのではなく、従業員自身に働き方やスケジュールをコントロールさせることも大切です。

1on1ミーティング

ワークエンゲージメントを高めるためには、定期的な1on1ミーティングを行い、仕事について適切なフィードバックを行うことも大切です。従業員にとっては、自身の現在地や課題を客観的に見つめ、成長の方向性を探れる重要な機会となるでしょう。

また、一対一のミーティングであれば、従業員も自身の本音や今後の目標について口にしやすいといえます。キャリア形成の悩みや現場における改善案などを丁寧にくみ取ることで、仕事や会社への納得感が増し、前向きな感情で業務に向き合えるようになるでしょう。

年収の増加でワークエンゲージメントが上昇するのは39歳以下


ワークエンゲージメントは、年収の増加によって高まる傾向が見られますが、年齢による違いがあります。具体的には、39歳以下の正社員においては年収が増えていくにしたがってワークエンゲージメントスコアが上昇する傾向が見られるものの、40~50歳台の正社員ではそのような傾向が見られないとされています。


(参考:厚生労働省『労働経済の分析』 )


(参考:厚生労働省『労働経済の分析』 )


(参考:厚生労働省『労働経済の分析』 )

年齢によってワークエンゲージメントに違いが見られる1つの要因として、ライフステージの変化が挙げられるでしょう。39歳以下の正社員であれば、結婚や育児などにお金がかかるため、年収といった経済的なインセンティブ(報酬)に魅力を感じられるといえます。

一方で、39歳以上の正社員の場合は、ある程度の年収を得ている状態にあるので、単に収入がアップするだけでは、ワークエンゲージメントの向上につながりにくいでしょう。新たなポジションを任せたり、仕事の裁量権を増やしたりすることで、役割を再定義することがワークエンゲージメントの向上につながっていきます。

自社のワークエンゲージメントについて考える際は、さまざまな角度から改善策を検討していくことが重要です。年収の増加だけでなく、仕事のあり方や職場環境をよくしていくなど、従業員の意見も交えながら取り組んでみましょう。

まとめ

ワークエンゲージメントは「仕事そのものに対するポジティブな感情」のことであり、焦りや不安感から仕事に打ち込むワーカホリズムとは異なる概念です。ワークエンゲージメントが高ければ、心身を害することなく優れた生産性が保たれるという理想的な状態が築かれます。

さらに、間接的には顧客満足度の向上や離職率の低下にもつながる重要な要素といえるでしょう。ワークエンゲージメントの向上を図るためには、仕事の資質と個人の資質の両面を充実させるためのアプローチが必要です。

まずは現在のワークエンゲージメントスコアを測定し、自社の従業員が仕事や会社にどのような感情を抱いているのか、どの程度まで前向きになれているのかを分析してみましょう。

(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)