500社の事例から見えた、“人事のプロ”に共通する5つの力 ~人事図書館 吉田館長が説く~

New!

人事図書館館長

吉田洋介氏

プロフィール
この記事の要点をクリップ! あなたがクリップした一覧
  • 人事の専門性は、扱う領域の拡大に対して人員や経験が追いつかず、構造的に高めづらい状況にある
  • 「人事のプロ」とは、複数の専門性と深い事業理解をもとに人を生かして事をなし、事業成果と組織の健全性を両立できる存在である
  • 人事変革の鍵は制度ではなく個の姿勢にあり、Why発想とアウトカム重視をもって経営に信頼される人事になることが求められる

人事が扱うテーマは、ここ数年で一段と広がりつつあります。テクノロジーの進化や価値観の多様化、情報過多、そして人口減少など、さまざまな事象が同時進行する一方で、人事部の人員はなぜか増えにくく、「成果を出しづらい環境で、周囲からの期待だけは大きくなる」という構造が生まれています。
これからの時代に求められる「人事のプロ」とは何か。今回のセミナーでは「人事図書館」の館長である吉田洋介氏をお迎えし、コミュニティ運営や、500社以上の組織支援、そして人事の歴史をたどるプロジェクトなどで得た視点から、「モデルなき時代」における人事の専門性や在り方について、お話を伺いました。

これからの人事に「プロ」が求められる背景 ―人事の歴史から見る「人事に期待されること」とは

吉田洋介氏(以下、吉田氏):私が運営している「人事図書館」とは、人事をはじめとする「人・組織課題に向き合うすべての人」のための学びと交流の場で、東京・人形町にある拠点は24時間365日利用でき、3000冊以上の蔵書やワークスペースがあります。

人事責任者や人事部員の方を中心に、社労士、産業医、人事系コンサルの方など、多様な人々が集まります。社名や実名の共有、名刺交換などは禁止というユニークなルールの中、お互いにニックネームで呼び合い、立場や肩書を気にすることなく交流しています。

専門性が高めづらい人事部

テクノロジーの進化やはたらき方・価値観の多様化、情報過多、人口減少と課題や扱うテーマ、それにまつわるタスクは慢性的に増える一方なのに、人事部員の数は増えにくく、成果を出しづらい環境に置かれています。

大手企業では3~4年でジョブローテーションがあるため、人事部員の専門性が高まらず、外部企業の支援を頼らざるをえません。また、外部企業のサポートが手厚いほど、「経験の浅い人事部員だけでも業務が回ってしまう」という構造も生まれてしまいます。スタートアップ企業では、「ひとり人事」も珍しくなく、1人ですべてに取り組んでいる場合、専門性を高めることは不可能です。

出典:リクルートワークス研究所「人事が聞けない社員のホンネ」(2023年10月30日)
タント
そもそも人事は、一般社員や管理職から「何をしているのかわかりにくい」、「結局、現場のことはわかっていない」と見られやすいという、少しつらい現状があります。「人事のプロ」が持つ資格とは何かと考えてみると、キャリアコンサルタント、中小企業診断士、社労士、その他民間資格が挙げられますが、「これ」というものは見当たりません。

専門家でない人が必死で頑張るという状況では、経営や現場からの信頼を得づらく、自己効力感が得づらい状況を招いてしまいます。

では、「人事のプロ」とはどういう人を指すのでしょうか。

「人事のプロ」と言われる人が持つ専門性

吉田氏:私はこれまでに1,000人以上の人事のプロと仕事をしてきました。直近1年で50人の人事のプロに取材したところ、彼らに共通する点は「人を生かして事をなす」という姿勢でした。

「事をなす」ということは、事業成果を上げるということです。人事は人のことをするのであって、事業成果まで求めるのは難しいのではないかという声がありますが、外部から選ばれる組織には、業績・事業が前に進み、かつ、中ではたらく人が元気であるという特徴があります。

ハードルは高いかもしれませんが、事業推進と人・組織の健全性を実現し続けるために、人と組織の専門知識、技能、ソリューションを用いて挑戦、葛藤し続けて組織の熱源となれる人を、「人事のプロ」と定義しました。

人事のプロになるステップ

人事のプロには以下のような段階があります。

ステージ0:「人を生かして事をなす」から始まっていない
ステージ1:「人を生かして事をなす」を礎に置けている
ステージ2:経営陣を超える専門領域が1つある
ステージ3:経営陣を超える専門領域が3つ以上ある (↓ここからが人事のプロ)
ステージ4:経営会議などで日常的に4象限の役割を発揮している

給与計算業務ひとつとっても、給与計算という「作業」と考えるか、「事をなすための重要な仕事」と考えるかによって変わります。後者の自覚が芽生えて初めて、「ステージ1」に立ったと言えるでしょう。

その後、経営陣を超える専門領域を1つ得て「ステージ2」へ。3つ以上になれば「ステージ3」へとステップアップしていきます。

なぜ専門領域が「3つ」なのか。例えば採用に強い人が、労務や育成も一定レベルで理解できるようになると、「採用で埋められない課題は育成でカバーする設計にしましょう」というように、「全体最適の提案」が可能になります。複数領域の専門性をもって掛け算ができるようになれば、仕事はぐっとクリエイティブになるのです。

人事のプロに見られる共通点と「貢献」する意識

プロの人事に共通している点として、以下の5つが挙げられます。

(1)経営陣を超える高い専門性
(2)周囲の巻き込み、支援を取り付ける能力
(3)事業と組織の深い理解
(4)事業の当事者としての高い意識
(5)志/価値観の自覚

経営陣の本音として、「人事の仕事は自分がやったほうがうまくできるが、工数がかかるので人事に任せている」という声は根強いものです。
逆に言えば、「人事に任せたら、自分では採れない人材が採用できた」「人事のおかげでみんなのはたらき方が明らかに変わり、とても良くなった」などという期待を超えた成果があれば、人事部はリスペクトされる存在になることでしょう。

人事の方は学ぶ意欲が高い傾向がありますが、「(3)事業・組織の深い理解」について、以下のようなことを説明できる人は少ないようです。

・自社の売上、利益、キャッシュなどの財務的な状況、推移
・自社の売上構造、コスト構造
・顧客が自社サービス/商品を選んでいる理由
・事業の次なる打ち手、ストーリーの方向性
・これまでの主要な事業変遷とその背景
・社内の各部署の機能や組成された理由 など

また、経営トップに対しては、以下のような事項を説明できるかどうかも重要です。

・経営、人事の意思決定のパワーバランスや構造
・社内のキーパーソンの問題意識
・主要な人事施策の変遷とその成果や背景
・自社社員が感じているやりがいやつらさ など

「人事部長ならまだしも、担当者にこれらを求めるのは酷じゃないか」と言われることもありますが、ビジネスの基本は「貢献対象」に価値を提供し、対価をいただくことですから、貢献対象を知ることは当然のことなのです。

営業部に例えると、「顧客を知ることは営業部長/COOの仕事であって、営業部員は顧客のことまで考えなくてよい」と聞くと、違和感を覚えるでしょう。しかし、これがこと人事部となると、「人事にそこまで求めることは難しいだろう」などと、距離を置いてしまうのです。
人事のプロとそうでない人の差分は、貢献対象である経営者、社員、顧客をどれぐらい知っているかという点にあります。

パーソルキャリア経営戦略本部 石井GM:経営者としては、自分が考えつかないことを提案してほしいと考えているものです。リスペクトされる人事部員とは、経営者に代わり、これから先に起こることに対して先手を打って提案できる人材ということですね。

人事が変革するためのポイントとは ―人事部員としての具体的な行動や姿勢について

吉田氏:人事が変革するために、「行動面」と「姿勢面」からその方法を整理してみましょう。

3つの「行動」
・貢献対象を知る(事業・組織・人・歴史)
・力量を高める(専門性・スキル・引き出し)
・経験値を増やす(行動・訓練・体験)

2つの「姿勢」
・Howからではなく、Whyから始める
・アウトプットではなく、アウトカムにこだわりぬく

特に「アウトカムにこだわる」という点がポイントです。例えば人事制度をつくるとき、良い制度をつくり、現場に伝え、現場に浸透するような支援をする、というところまでは多くの人が行うことですが、アウトカムにこだわる場合には、「実際に変化が起きる」ところまで見届けることが大切なのです。

自分の仕事が事業にとってプラスになっているかどうか。ここに踏み込めるかどうかが、プロの分岐点だと言えるでしょう。

ここで具体的な事例をご紹介します。
アウトカムにこだわっている会社の好例が、「ポラス株式会社」です。この会社では、人事の組織目標(MBO)の過半に、事業部のKPI を取り入れています。

採用人数や充足率にとどまらず、現場への定着や活躍(営業成績など)までを人事の責任範囲と位置づけ、新卒では「入社後3年間の1人当たりの営業契約数」や、「2年目以降の成果」などもKPIに据えています。

さらに、人事プロパー、現場感のあるプロジェクト人材、外部専門人材をバランスよく配置し、長期的に「プロの人事を育てる」という発想も特徴的です。アウトカムを出すために、体制そのものを設計しているというわけです。

人事が変革するための概念

人事変革の起点は「制度」や「モデル」ではなく、「個」にあるのではないかと考えます。組織が大きく変わる際、多くの場合、誰か1人が勇気をもってリスクをとり、行動に移しているものです。

経営者は、「経営はどうあるべきか」ではなく、「自分はこの会社をどうしたいのか」と考えています。この点においては人事も同じ。アイディアを実現するために、自分自身がリスクを負って、最初の一歩を踏み出す「ソース」になれているかどうか。「人事がどうあるべきか」ではなく、「私はどうあって、どうしたいのか」と考える。モデルなき時代だからこそ、この問いが一段と重く、同時に希望にもつながっていくのです。

参考文献:『すべては1人から始まる』 ―トム・ニクソン著(英治出版)

石井GM:人事に関するセミナーといえば、「人事のソリューションとして、これからはこういう組織だ」と組織モデルを提示したり、「これからは~型人事だ」とスローガンをつくったりするものですが、吉田さんのコアメッセージは「私がどうあるか、どうするかである」というところが、非常に興味深いと思いました。
このメッセージを選択された背景にはどのような考えがあったのでしょうか。

吉田氏:成果を出すためには相手を知り、相手が望んでいるものを提供するということ。結局のところ、大切なことは新人研修で学ぶぐらい基本的でシンプルなことだという結論に至りました。

テクノロジー、AIと人事のこれからの展望、実例

吉田氏:AI活用は、人事業務の現場で確実に進んでいます。例としてご紹介したいのが、株式会社Progateの取り組みです。人事経験のあるCOOが自ら指揮をとって「評価AI」を構築し、その結果、マネジャーの工数が大幅に削減されたうえ、現場の納得感が高まったそうです。

AIの分析によって人事評価に対する納得感が高まり、きちんと評価されることがわかったメンバーは、自分の情報をこれまで以上にしっかり書き込むようになりました。AIは情報が多いほどより正確な分析を行いますから、好循環が起きる結果となりました。

出典:1on1総研「人事のAI導入はどう進める?人事のAI活用視界」

人事部における今後のAI活用は、少なくとも次の領域で広がっていくとみています。

・工数削減
・セルフマネジメント支援
・データ分析
・マネジメント支援

もちろん、AI導入が目的化すると本末転倒ですが、生成AIなどの先端テクノロジーを「頭で理解した人」よりも、「自ら触り、腹落ちした人」に優位になります。わかったことの積み重ねが発想につながり、引き出しになりますから、ChatGPTやGeminiなどのメジャーなAIだけでなく、Nano Banana、まじん式、Sora、NotebookLMなどのツールにも親しんでみてください。

2026年に向けた重要キーワードは「経営に信頼される人事」

吉田氏:2026年に向けた重要キーワードとして掲げたいのは、「経営に信頼される人事」です。これは「経営の言うことを聞く人事」でも、「人事のべき論をぶつける人事」でもありません。
事業成果を上げ、持続的な会社をつくり、アウトプットではなくアウトカムで成果を示せる人事です。

作業中心の人事業務は、AIのほうが効率的で、すでに人間が行う仕事にAIがリプレースされつつあります。一方で、事業と組織の健全性を両立させ、優先順位をつけて周りを巻き込み、成果に接続する「経営に信頼される人事」はAIに置き換わりにくい。ここが勝負どころとなるでしょう。

人事のプロチェックリスト

最後に、人事のプロ度を、15の観点でチェックできるテスト(無料)をご紹介します。知る行動、PDSの回し方、学びの習慣、仲間づくりなどのカテゴリーで、ご自身の理解度を確認してみてください。
社会人歴とスコアには相関性があまりないのですが、役職が上であるほどスコアが高くなるという傾向はみられます。
https://hr-library-program.studio.site/jinji-pro-check

まとめ

セミナー後の懇親会では、以下のようにさまざまな声が聞かれました。

「AIと一緒で、『人事部員がいればいい』というものではない」
「今日の講義は、人事だけでなく、どの部署にも言えることだと思った」
「自分の会社に合ったモデルを探すことが、『私がどうあるか、どうするか』ということの伏線回収で素晴らしい」
「HRBPと自分で名乗ってしまう人は、本当の意味のパートナーではないと感じた」

人口減少と環境変化の中で、人事は「成果を出しづらいのに期待が高い」構造の中に置かれています。だからこそ、これからは「誰かの正解」を待つのではなく、自社の正解を探して定め、事業成果へ接続する専門性が求められるのでしょう。
人事のプロは「人を生かして事をなす」存在。貢献対象を知り、力量を高めて経験値を増やし、アウトカムにこだわり抜く。そして「人事が」ではなく「私が」どうするかを問う。経営に信頼される人事となるべく、変革に向けての一歩を踏み出したいものです。

[取材・編集/d’s JOURNAL編集部、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション]

AI活用が進む今こそ見直すべき!採用CXとブランディング戦略

資料をダウンロード