バリューチェーンとは?意味と重要性・分析の手法を解説
d’s JOURNAL編集部
バリューチェーンとは、企業が行うそれぞれの事業活動を一連の流れとして捉える考え方を指します。企業が生み出す付加価値は、活動ごとに創出した価値の単純合計ではなく、複雑に絡み合って最適化された連鎖する価値だといわれています。
バリューチェーンに基づいた分析を用いることで、自社の強みや解決すべき課題が明らかになり、よりよい戦略を立てることにつながるはずです。
この記事では、バリューチェーンの定義や重要性、分析手法などを詳しく解説します。
バリューチェーンとは
バリューチェーンとは、「価値連鎖」を意味する言葉であり、企業が行う事業活動を価値創造のための一連の流れとして捉えるものです。経済学者であるマイケル・ポーターの著作『競争の戦略』で提唱された概念であり、バリューチェーンの考え方は経営戦略やマーケティングなどの領域で活用されています。
企業の事業活動が製造業であれば、原材料の調達から製造・流通・販売・アフターサービスなどが企業の事業活動です。各事業は役割や機能を持っており、それぞれの価値を生み出しています。
しかし、企業が生み出す付加価値は、各事業が創出した価値を単純に合計したものではないといえるでしょう。それぞれの事業が複雑に絡み合うことによって、連鎖した価値であるバリューチェーンであると捉えられます。
いくつもの事業が重なり合って生み出される価値は、競合他社も簡単には真似ができないものです。そのため、バリューチェーンを分析することは競合他社との差別化や、経営資源の配分などを検討するきっかけとなります。
自社の強みや弱みを理解することにもつながるため、経営戦略や事業の見直しに役立つはずです。
バリューチェーンとサプライチェーンの違い
バリューチェーンとよく似た言葉として、サプライチェーンが挙げられます。サプライチェーンは「供給連鎖」を意味しており、製品やサービスが顧客の元に届くまでの一連の流れを指します。
原材料の調達から販売、サービスの提供までを供給側の視点から見た言葉であり、携わる部門や会社が連携をして効率化し、最適化していくことをサプライチェーン・マネジメント(SCM)と表現します。サプライチェーンが物や資金の流れに注目するのに対して、バリューチェーンは価値の創造に着目するといった違いがあります。
企業価値を高めるために、どのように最適化していくかといった視点がバリューチェーンでは必要です。
バリューチェーンの基本的な考え方
バリューチェーンは企業における事業活動を「主活動」と「支援活動」の2つに分け、構造を細かく捉えていく考え方です。それぞれの活動が何を意味しているのかを解説します。
主活動とは
バリューチェーンにおける主活動は、製品やサービスを生み出して顧客に提供するまでの一連の流れに関して、直接的に関わる事業活動を指すものです。何が主活動となるかは業種によって違ってきますが、たとえば製造業であれば次の5つに分類することができます。
主活動の具体例
・購買物流
・製造
・出荷物流
・販売、マーケティング
・サービス
「購買物流」とは、製品を製造するために原材料の入手・貯蔵・配分などを行う活動をいいます。「製造」は設備のメンテナンスなども含めた、原材料を加工して製造するための活動です。
「出荷物流」は、梱包・保管・輸送・受注処理など、つくった製品を倉庫や店舗に運ぶ活動全般を指すものです。そして、「販売、マーケティング」は製品の販売や広告・販促・営業活動などを意味しています。
さらに、「サービス」とは製品やサービスを提供した後の修理・メンテナンスなどのアフターサービス、問い合わせへの対応などの活動です。上記の活動がそれぞれ円滑に行われることによって、バリューチェーンの主活動は機能しているといえます。
支援活動とは
バリューチェーンにおける支援活動は、主活動を支えるための活動を指します。主な支援活動としては、以下のものが当てはまります。
支援活動の具体例
・全般管理
・人事、労務管理
・技術開発
・調達
経営企画・財務・総務など、企業活動が円滑に行われるための支援活動を「全般管理」といいます。「人事・労務管理」は、給与の支払いや社会保険の手続き、社員教育などの活動です。
「技術開発」は製品開発や品質向上、生産工程の効率化など技術に関する全般の活動を指します。そして、「調達」は社外から必要な原材料や物品・サービスなどを購入したり、契約したりする活動のことです。
自社のバリューチェーンについて分析するときは、事業活動を主活動・支援活動に分類して、それぞれの活動がどのような価値を生み出しているのかを細かく見ていくことが大切です。一口に事業活動といっても、複数の活動が絡み合って成り立っていることを押さえておきましょう。
バリューチェーン分析とは?目的とメリット
バリューチェーン分析は、基本モデルに沿って事業活動を分類し、それぞれの活動がどのような価値を生み出し、課題を抱えているかを把握するためのフレームワークです。バリューチェーン分析を行うことで、以下の4つのメリットを得られます。
バリューチェーン分析を行う4つのメリット
・事業活動のコストを把握できる
・経営資源の分配方法が明確になる
・自社の強みと弱みを客観視できる
・競合他社に対する理解が深まる
それぞれのメリットについて、さらに詳しく見ていきましょう。
事業活動のコストを把握できる
バリューチェーン分析を行うメリットとして、それぞれの事業活動におけるコストを可視化できることが挙げられます。各事業のコストを洗い出せれば、会社全体のコストを俯瞰して把握できるため、無駄なコストの圧縮につなげていけるでしょう。
重複する業務をなくし、組織構造そのものの見直しによって、製品やサービスの質を保ったまま、効率のよい経営を行う体質へと変化していくことができます。特定の事業活動を見直すことは、他の事業活動にも影響を与えるため、結果として事業活動全体のコスト削減に結びついていくはずです。
経営資源の分配方法が明確になる
バリューチェーン分析は、経営資源の再配分につなげられます。ヒト・モノ・カネといった経営資源には限りがあるため、企業価値を最大化するには経営資源を適切に配分する必要があります。
事業活動ごとの強みや弱みを把握することによって、どの事業に経営資源を優先的に配分すべきかが把握できるでしょう。効率の悪い事業を整理することによって、より企業価値を高める事業に経営資源を集中的に割り当てられます。
特に事業規模がそれほど大きくない企業にとって、経営資源をどのように配分するかは経営そのものにも大きな影響を与えます。バリューチェーン分析を行うことで、経営資源の再配分を論理的に実施可能です。
自社の強みと弱みを客観視できる
バリューチェーン分析を行うことは、自社の独自性を改めて見直すきっかけになります。事業活動ごとにどのような価値を生み出しているかを把握することで、自社の強みと弱みを的確に知ることが可能です。
競合他社と比較して、自社が強みとする部分を強化していければ、事業の差別化にもつながります。経営戦略の方向性をしっかりと捉えていくことにつながるといえます。
競合他社に対する理解が深まる
バリューチェーン分析は、自社の強みや弱みを把握するだけでなく、競合他社の価値提供についても正しく理解することにつながります。競合となる会社の事業活動がどのような価値を生み出しているのか、逆にどの分野において課題や弱みを持っているのかに気づけるはずです。
競合他社の今後の事業展開や市場全体の予測につながり、自社の立ち位置の見直しにも役立ちます。競合他社の動きを的確に捉えることによって、自社の優位性を高めていくことにつなげられます。
バリューチェーン分析の4つのステップ
バリューチェーン分析を効果的に行うには、基本的な手順をしっかりと押さえておく必要があります。次の4つのステップに分けて、バリュー分析の手順を紹介します。
バリューチェーン分析の4つのステップ
1.自社のバリューチェーンを把握
2.コストを分析
3.強み・弱みを分析
4.VRIO分析
①自社のバリューチェーンを把握
自社のバリューチェーンについて把握するためにまず行うのが、主活動と支援活動の洗い出し作業です。対象事業に関係するすべての活動を機能別に分類し、活動としてリストアップします。
リストアップが完了したら、生産や流通、消費との直接的な関連性の有無によって、主活動と支援活動に分けます。そして、下記のように主活動をさらに細分化していきましょう。
製造業でのバリューチェーン細分化例
細かく分けることによって、自社のバリューチェーンを正確に把握することが可能です。バリューチェーンを構成する活動は業界や業種によって異なるため、自社が取り扱う事業における一般的なバリューチェーンを参考にするとよいでしょう。
②コストを分析
次に、コストを分析します。コストを分析することにより、活動ごとの収益性やコストを明確に把握することが可能です。
手順としては、Excelなどの表計算ソフトを使用して、活動ごとのコストを一覧化します。その際に、担当部署も忘れずに明記することが大切です。
一つの活動を複数の部署で行っている場合は、合算した金額を記載します。製造業におけるコストの一覧をまとめると、次のとおりです。
製造業でのコスト一覧記載例
活動 | 担当部署 | 年間コスト (単位:百万円) |
---|---|---|
購買 | 購買部 | 300 |
製造 | A工場 | 1,500 |
B工場 | 700 | |
C工場 | 800 | |
計 | 3,000 | |
販売 | 本社営業部 | 900 |
海外営業部 | 500 | |
計 | 1,400 |
コストの一覧化が完了したら、より効果的なコスト戦略につなげるために、下記の分析もあわせて行ってみましょう。
コスト比率の計算 | 各活動にかかっているコストの比率を計算し可視化する |
---|---|
コストドライバーを分析 | コストがどのような要因に影響しているのかを分析する (例:人件費、設備費など) |
コストの関連性調査 | 各活動間でコストがどのような関連性を持つのかを調査する (例:〇〇のコストを削減すると、その分△△のコストが増大する など) |
上記の分析を行うことによって、効率的な活動と非効率的な活動が明確に区別されることになります。それによって、コスト削減の方法をピンポイントで見つけることが可能となるはずです。
③強み・弱みを分析
コストの分析が終わったら、各活動が持っている強みと弱みを分析していきます。事業の現状を正しく反映させるために、できる限り多くの関係者から話を聞き、資料にまとめてみましょう。
卸売業であれば、以下のように取りまとめてみると、全体の状況を把握しやすくなります。
卸売業での強み・弱み分析例
そして同時に、競合他社の強みと弱みについても、分析や比較を行うことが大事です。他社の動きと照らし合わせることで、今後の戦略を立てやすくなります。
④VRIO分析
バリューチェーン分析の活用法として、最後にVRIO(ブリオ)による経営資源の競争優位性分析を行います。VRIOとは、Value(経済価値)・Rareness(希少性)・Imitability(模倣可能性)・Organization(組織)の頭文字を取ったものです。
VRIOというフレームワークを用いることで、組織が持つ内部資源を有効に活用する可能性を確認できます。
VRIO分析の4つの要素
通常のVRIO分析では、「経済価値→希少性→模倣可能性→組織」の順に、「Yes」または「No」で判定を行います。「Yes」の数が多い活動は「競争優位」に、少ない活動は「競争劣位」にあると判断することが可能です。
VRIO分析の4つの要素
Value(経済価値) | ある経営資源を保有していることによって、企業は外部環境の機会を活用、あるいは脅威を無力化することができる |
---|---|
Rarity(希少性) | その経営資源を保有する企業が少数である |
Imitability(模倣可能性) | その経営資源の獲得・開発・模倣コストが非常に高い |
Organization(組織) | その経営資源を活用するための組織的な方針がある |
アパレル業でのVRIO分析例
自社が生み出す価値の最大化のためには、バリューチェーンの各活動において、VRIOの4つの要素がすべてそろっている状態が理想とされています。「No」と判定された活動に対しては、何が不足しているのかを分析し、それを補うための施策を導入することにより、事業の価値を高めていくとよいでしょう。
アパレル業におけるVRIO分析の場合、次のようにまとめられます。
アパレル業でのVRIO分析例
業界別バリューチェーンの特徴
バリューチェーンにおける主活動と支援活動の分類は、業界や業種によって違います。以下の項目では、業界別の特徴を踏まえたうえで、製造業・サービス業・農業の各ケースで解説します。
製造業
製造業では、「製品」を生み出す活動が価値創出を担うための大切な部分とされています。したがって、購買・加工・製造が活動の中心となるでしょう。
特に原材料購買活動は、コストを左右する重要な役割を担っています。価値を最大化するためには、製造・加工した製品が、迅速かつ安定的に顧客に届くよう活動を連携させることが必要です。
サービス業
サービス業では、企画したサービスにどの程度のニーズがあるのかといった「事業の訴求性」が、価値創出の要となります。そのため、サービスの企画や購買に向けた営業活動が活動のメインになると考えられます。
それに加えて、顧客との関係性を構築するためのカスタマーサポートも欠かせません。業種や自社の持つサービスの特徴などを把握したうえで、「どの活動にコストをかけるのか」を検討するとよいでしょう。
農業
農業ではこれまで「バリューチェーン」の考え方があまり浸透しておらず、農家・加工会社・販売会社など、それぞれが個別に付加価値を生むという意識が一般的でした。しかし現在では、農林水産物の生産から製造・加工、流通、消費に至る各段階の付加価値をつなぎ合わせ、「バリューチェーン」を生み出している企業が増えています。
これを「フードバリューチェーン」といいます。フードバリューチェーンを意識した活動を重視することにより、品質の向上や新しい流通システムの構築や販売ルートの新規開拓などが期待できるでしょう。
バリューチェーンの他社事例
バリューチェーン分析をうまく活用するには、すでに導入している企業の事例を参考にすることも大切です。他社との差別化や効率化に成功した3社の事例を紹介します。
トヨタ自動車株式会社
トヨタはモビリティカンパニーへの変革に向け、2016年に「コネクティッド戦略」を発表しました。そのなかでは、既存のバリューチェーンは維持・拡大させながらも、MaaS(Mobility as a Service)への取り組みを加速させていく意向を表明しています。
MaaSとは、「ICT(情報通信技術)を活用してマイカー以外の移動をシームレスにつなぐ」という概念のことです。近年需要が高まっているカーシェアリング、ライドシェア、サブスクリプションサービスの展開により、トヨタ車の運用拡大はもちろん、メンテナンス・保険・リースといったバリューチェーンの確保も図っていくことを掲げています。
(参照:トヨタ自動車株式会社『アニュアルレポート 2019』)
ZARA
ZARAでは、製造のみを工場で行い、その他の企画・デザイン・設計等の工程はすべて本社で行う一貫体制によって、サプライチェーン全体を効率化させています。商品の内製により、需要に合わせ製造量をコントロールできているため、コスト削減が実現できているようです。
また、製品完成までのリードタイムを徹底的に短縮化させたことで、2週間ごとに新商品を投入するといったバリューを顧客に提供しています。顧客満足度を高めつつ、製造コストを低下させるという成果を同時に獲得しているのが特徴です。
(参照:経済産業省 製造産業局『第1回 アパレル・サプライチェーン研究会)』
東京ガスグループ:LNGのグローバルバリューチェーン
東京ガスグループでは、LNG(液化天然ガス)の調達から輸送、都市ガスの製造・供給・エネルギーソリューションの提供まで、一連の事業活動を自社で行っています。安定的なLNGの調達や強固なインフラ、地域密着型の営業体制により、「快適な暮らしの実現」という価値を提供しているのが特徴です。
また、効率的な運輸手法により、地球環境への貢献やエネルギーコストの削減なども実現していくとしています。
(参照:東京ガスグループ『チャレンジ2020ビジョン』)
バリューチェーンはDX導入に不可欠
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、単に業務プロセスをデジタル化するという意味ではありません。デジタル技術を活用することでビジネスモデルを変革し、自社の競争優位性を確立することを狙いとしています。
そのため、DXを推進する取り組みは業務全般や組織のあり方、さらには企業文化や風土までも変えていき、新たな企業価値を生み出して自社の競争優位性を高めていくことになります。取り組みを効果的に行うには、自社のすべての事業活動を包括的に見直すことが重要であり、バリューチェーン全体の効率化・高付加価値化・コスト低減をそれぞれ実現させることが必要です。
DXを実現するにはバリューチェーン分析は欠かせないものであり、基本的なポイントを押さえ、積極的に活用していくことが求められるでしょう。
まとめ
企業経営における課題を解決していくには、自社の事業活動がどのような動きをしているのかを正しく把握する必要があります。
的確な分析を行うときに役立つのがバリューチェーン分析であり、実施によりそれぞれの事業活動が抱える課題や創出している価値の把握を理解できます。
現場の従業員の声も聞きながら、各事業の役割と機能を押さえたうえで、より高い付加価値を生み出せるように効率化していくことが重要です。
定期的に見直す機会を設け、競合他社の動きもつかみながら、企業価値をさらに高めていきましょう。
(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)
【PPT版】バリューチェーン分析フレームワーク
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