カリスマヘッドハンター中田莉沙に聞く、採用成功企業が「必ずやっている」こと

フォースタートアップス株式会社

中田莉沙(なかだ・りさ)

プロフィール

ヘッドハンター歴わずか2年で、ビズリーチ ヘッドハンター オブ ザ イヤー IT インターネット部門 MVP受賞。スタートアップ・ベンチャー企業の成長支援を行うフォースタートアップス株式会社には、カリスマヘッドハンターとして今注目されている女性がいます。

テレビ番組をはじめメディアにも取り上げられている中田莉沙氏。採用に対する強い想いを伺っていくと、人と企業を結び付けるストーリーテラーとしての在り方が見えてきました。

スタートアップの成長に必要なのはヒューマンキャピタル(人的資源)の適切な配分

――大学時代のインターンシップから大手証券会社を経て、ヒューマンキャピタリスト(※)というキャリアを歩まれていますが、一貫して変わらない仕事観はありますか?

(※)ヘッドハンターについて、フォースタートアップス株式会社ではヒューマンキャピタリスト「人の無限大の可能性を使った事業創造を行う人」と定義。

中田氏:「日本経済が衰退していくことに対する強い危機感と、それを食い止めるために成長産業に十分なリソース(資源)を配分するべき」という想いですね。

国内における上場企業の時価総額ランキングを10年前と比較しても、名を連ねる企業は大きく変わっていません。ところが米国に目を向けると、新しいテック企業がどんどん台頭しており、市場における存在感を増してきています。明らかに、日本経済は世界の潮流から取り残されています。

成長産業への資金供給不足という課題を解決するためには、金融からアプローチすることで、社会的なインパクトを最大化できると考え、大学卒業後は証券会社に就職しました。しかし、規模が大きい組織だったので、良い部分もたくさんありましたが、中には非効率でスピード感に欠ける側面も多々あり、自分の性分とは合わないと感じるようになったんです。

数十年の時間をかけて社会に影響を与えるよりも、有力なスタートアップにジョインする方が良いと考えて、現在のフォースタートアップスに転職をすることになりました。証券会社で自分の適性を見定められたことや、大手証券会社の実務を知ることができたのは、貴重な学びになりました。

――金融業界から人材業界への転職。大きな決断だったのではないでしょうか?

中田氏:実は人材業界にはまったく興味がなかったんです。人材業界のビジネスって、法人向け(toB)と採用候補者向け(toC)に大きく分けることができますよね。当時の私の認識では、身もふたもない言い方になりますが、法人向けビジネスというのは、資金力のある企業が求人媒体で自社の求人を上位表示させられる、つまり優位に立てるという意味で、公平性に欠けていると考えていたんです。また、採用候補者向けビジネスは、採用候補者全員に対して悩みを聞きながらも、スキルマッチがメインの転職の支援をするということが、自分にはあまり向いていないだろうと感じていました。

そんな中でフォースタートアップスに入社を決めた理由は、代表の志水(志水雄一郎氏)が掲げるビジョンやバリューに共感したからです。社名の通り私たちは、スタートアップ支援にフォーカスしています。

※写真提供:フォースタートアップス株式会社

スタートアップ企業の成長にとって一番大切なことは「ヒューマンキャピタル(人的資源)」の適切な配分だと捉えています。それは、日本経済を成長産業の発展によって立て直すことにつながります。つまり私にとっては、想いを実現する手段が「カネ」から「ヒト」に変わっただけなんです。

採用候補者の「心の琴線」の揺らし方

――ここからは現在のお仕事について伺います。中田さんはCxOクラスの転職支援もされていますよね。そのクラスであれば、すでに明確なキャリアプランを持って、自力で転職活動をしている人が多いイメージなのですが…。

 

中田氏:現在まで、フォースタートアップスでは約170名、CxOクラスの転職支援をした実績があります。意外かもしれませんが、自分のやりたいことを明確に認識している人は少ないです。また、認識していたとしてもそれが実現できる場所はどこなのか、現職にコミットされている中で、日々マーケット全体を見て情報をキャッチアップするというのはなかなか難しいので、私たちが素晴らしい起業家との出会いを生むことが大切だと思っています。

――出会いについて、具体的に伺えますか?

中田氏:自分の好きなものだけ見ていても興味は広がらないと思っていて。たとえばテレビや街で見つけたものなど何でもいいのですが、見た瞬間にときめく、あるいは心が揺れる経験って誰しもあると思います。わざわざ「私たちと会う」ことは、おそらくそういうことだと思っています。

私たちは、ご紹介する企業について、起業家・投資家・マーケットの情報から、組織についてだけでなく、事業計画や資本戦略など多くの情報を取得しています。その企業について、世の中に出ている情報だけでは知ることのできない、未来の企業の姿を採用候補者にお伝えしています。その姿をさまざまな語り口で伝えることで、心の琴線に触れるものを見つけてもらう。

たとえば私が「建設業界」を提案したとして、採用候補者に「自分には合わないよ」と言われたとします。でも、世の中にはさまざまな歴史的建造物がありますよね。それらをたどってみると、建物には必ず当時の文化が表現されています。つまり、建物を造るということは、その時代の文化を形にすることなんです。このような伝え方をすると、心の琴線に少し触れる感じがしませんか?

――はい、すごく触れた感じがします…!そうやって物語を語るように、採用候補者に経営者の想いを代弁しているんですね。具体的に、採用候補者との出会いから採用の決定までの流れを教えていただけますか?

 

中田氏:まず私たちは、企業からヒアリングをした後、各種媒体から採用候補者を見つけます。そして、その企業を成長させることができる人だと思ったら、採用候補者へコンタクトを取ります。幅広く採用候補者を募るのではなく、狙った人を取りにいく、まさにヘッドハンティング型ですね。

返信が来て興味を持ってもらえたら、打ち合わせで私たち自身やスタートアップ市場の説明をして、具体的なお話に入ります。そこからは一般的ですが、応募書類を作成してもらって複数社の面接を受けていただき、内定が出たら意志決定という流れになります。

採用候補者に紹介する企業の数を限定する理由

――中田さんは、採用候補者に紹介する企業の数を限定していると伺いました。

中田氏:そうですね、むやみに企業を紹介するようなことはしないと決めています。スキルマッチだけを考えるのであれば、紹介する企業は無数にあります。100社以上の企業を紹介する転職エージェントもいるようですしね。でも私は、経営者と採用候補者がお互いに譲れない想いを擦り合わせることを大切にしています。

たとえば、私がフォースタートアップスに入社したばかりの頃に「とにかく熱い起業家と働きたい」という応募者がいました。それを聞いた私はピンときて、ある起業家を紹介したところ意気投合。入社する運びになりました。それから3年経ちますが、未経験職種で入社したにもかかわらず、その方は今ではその企業で重要なポジションまで昇格していました。

これって、スキルマッチだけじゃ決して起こらないことだと思っています。この会社の経営者は「この人と背中合わせで戦いたい」と考えたから、その応募者が採用されているはずです。

結局、企業に本当に必要な人材を見極めて採用につなげればWin-Winの関係を築けるんですよね。企業も成長できるし、人材も成長できる。ただ、そのために大切なことは、経営者の思想をとことん理解することです。起業の背景や、今の事業に懸ける想い、成し遂げたいことや実現したい世界など、とにかく根掘り葉掘り聞きます。そこの理解があって初めて、本当に未来を創っていけるようなマッチングを実現できると考えています。

【採用成功する人事の共通点1】経営陣を巻き込める

――中田さんのご経験から、求める人材を採用できている人事の共通点について、お考えはありますか?

 

中田氏:経営陣を巻き込むのがうまい人ですね。個人的に、採用は経営者の仕事だと思っています。それくらい組織にとって重要な戦略だということです。特に、採用について経営者と共通認識を持っているかどうかは非常に大切。面接で全社員が同じビジョンを語ることができていたら強いと思いませんか?人事は採用をタスクとしてこなすのではなく、いかに全社的な取り組みにできるかが重要です。これは手腕が試されますよね。

【採用成功する人事の共通点2】柔軟性のある対応ができる

――逆に、求める人材の採用がうまくいかない人事の共通点については、いかがでしょうか?

中田氏:柔軟性が欠如している場合が多いと思います。全てを型にはめないと安心できないという人は、考えを改めるといいかもしれません。極端に言うと、定型的な対応だけで良いならAI(人工知能)でも良いですし、人間らしさがにじみ出ている、柔軟な対応が板に付いている人事の方が私は強いと思います。

――それでは、中田さんがヘッドハンターとして、仕事をしやすいと感じる人事にはどんな特徴がありますか?

中田氏:いちエージェントではなく、本気で肩を組み、共に成長していくパートナーなんだという対応をしてくださる人事・採用担当者はファンになってしまいますよね(笑)。私たちも人間なので、ファンになった人事、あるいは企業には、良い人を紹介したいという気持ちが強くなります。ですから「良い人事」はファンをつくるのが上手だと思います。

【採用成功する人事の共通点3】フィードバックが丁寧

――人事がファンをつくるために必要なことは何でしょうか

中田氏:先ほど言った「経営陣を巻き込める力」「柔軟性のある対応」に加えて「フィードバックが丁寧」なことが挙げられます。フィードバックは、採用候補者の弱みだけでなく、「今回はお見送りだけれど、2~3年後にはこういう人が欲しくなると思う」というように、採用戦略の具体的なイメージがつかめるようなフィードバックをいただけると、こちらも仕事がしやすいですね。

【採用成功する人事の共通点4】「初回面談者が重要」だとわかっている

――市場価値の高いエンジニアを採用する、口説き落とすためのコツはありますか?

中田氏:初回の面談の印象が非常に重要です。選考体験が悪いと、その印象はその後に回復させることは非常に難しいです。だからこそ、一次面接者など初回でフロントに立つ社員に対しては、人事が徹底的に自社のコアとなるビジョンやミッション、バリューをたたき込んで、きちんと採用候補者の印象をコントロールできるようにするべきです。これについても採用がどれだけ大切かを、人事が会社全体に対して発信しておく必要があります。

柔軟性を担保して、いかにその人に合わせた採用を設計できるかも重要なポイントです。たとえば、採用候補者が最後の意志決定の段階で迷っていたら、オフィスでビール片手にカジュアルに社員と話す機会をセッティングすることもあります。また、自分で冷静に決めたいから、社員と会いたくないというような人には、経営者に手紙を書いてもらい、採用候補者にメッセージを送ることもあります。つまり、経営陣を巻き込める力と柔軟性のある対応が、結局は肝になってくるんですよね。それがきちんとできるのであれば、市場価値の高い人材も採用できるチャンスはあると思います。

――貴重なお話をありがとうございました。最後に中田さんの今後の抱負を聞かせてください。

中田氏:「ヒューマンキャピタリスト」という肩書をもっと普及させたいですね。日本だとヘッドハンターはあまり良いイメージじゃないですよね(笑)。冒頭でも言いましたが、成長産業の主役であるスタートアップに「ヒト」という資源をあてがうことで、日本経済に貢献するというのが、私の想いです。これはもちろん、フォースタートアップスの目指すところでもあります。人に寄り添うことを前提として、スタートアップの成長を支援することで、社会的インパクトを生み出したい。この大役を、私が体現したいですね。

 

編集後記

インタビューで中田さんがおっしゃっていることは、いたって真面目です。しかし、当日は笑いに包まれた楽しい現場でした。後からその理由を考えたときに、中田さんが初めから終わりまで笑顔に絶えず、率先して朗らかな空気づくりをしてくださっていたと、感じました。

ヘッドハンター、いや、ヒューマンキャピタリストとして、3年目のキャリアでこれだけ実績を出している理由には、このようなホスピタリティも一因としてあるのだろうなと、しみじみ感じました。取材中には「嘘を言えない」と自身のことをおっしゃっていました。ですので、ここまでの内容は信じてもらって大丈夫です。できることから実践していきましょう。

※この記事は2020年12月に取材・撮影を行っています。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、編集/野村英之(プレスラボ)、取材・文/師田賢人、撮影/中澤真央