成長の後押し、忠告…最新少年漫画のオトナに見る組織の年長者の在り方

マンガを介したコミュニケーションが生まれる状況をつくることを目的に活動しているユニット。小さな複合書店『マンガナイトBOOKS』の展開に加え、レビューや論評などの執筆活動、ワークショップの開催を行っている。

『ハイキュー!!』武田先生に学ぶ、未熟な存在の前進を後押しする強い言葉(古舘春一/集英社)
『呪術廻戦』の七海健人に見る、発展途上の子どもを見守る冷静な態度(芥見下々/集英社)
周りが見えていない子どもに「適切なブレーキ」を掛ける『僕のヒーローアカデミア』の教師陣(堀越耕平/集英社)

最近の少年漫画における特徴の一つは、主人公ら少年を取り巻く「オトナ」の存在があることです。時に前のめりになり過ぎる少年らの未熟さを叱ったり指摘したりして、彼らを導く年長者たちの言動は、組織の中で経験を重ね、支える側に回った人にも参考になるでしょう。『ハイキュー!!』(古舘春一/集英社)、『僕のヒーローアカデミア』(堀越耕平/集英社)、『呪術廻戦』(芥見下々/集英社)を題材に、それぞれの大人の在り方について考えます。

『ハイキュー!!』武田先生に学ぶ、未熟な存在の前進を後押しする強い言葉(古舘春一/集英社)


少年漫画の主なテーマの一つは、未熟な存在の成長です。可能性を秘めた若者が試練を乗り越えて自分自身を高めていく。大人は、その過程で立ちはだかる存在になることもありますが、最近のヒット作では少年に寄り添い、その成長を後押しするような存在が目立ちます。古舘春一先生によるバレーボール漫画『ハイキュー!!』(集英社)に登場する武田一鉄先生も、その一人です。

烏野高校バレーボール部の顧問・監督である武田先生は、バレーボールの経験はありません。しかし、生徒を導くという強い熱意と、いい意味での執拗さで、練習相手の高校やコーチを見つけ、烏野高校排球部の部員が強くなる機会を用意します。

武田先生がその本領を発揮するのは、部員が落ち込み、歩みを止めそうになるときです。

部員とコーチがそろい、インターハイ県予選に挑戦した烏野高校排球部。3回戦で因縁の青葉城西高校とぶつかり、主人公の日向翔陽と影山飛雄による速攻を止められて敗北します。自分たちの全力のプレーを止められたことが敗北につながってしまい、落ち込む日向と影山。そんな二人に武田先生は、以下のような言葉を掛けます。

“負けは弱さの証明ですか?君たちにとって負けは試練なんじゃないですか?地に這いつくばった後、また立って歩けるのかという。君たちがそこに這いつくばったままならば、それこそが弱さの証明です。”

この言葉を受けた日向と影山はまた立ち上がり、春の高校バレーの県予選に向けて練習を再開します。

よほどの自信家でもない限り、新しいことに挑戦するときや失敗の直後には、時として立ち止まってしまうことがあります。これは未熟な若者だけでなく、大人でも同じこと。特に社会の変化が大きい現代では、新しい分野に挑戦する場合も増えています。どんなに準備をしても、失敗する可能性をゼロにはできるわけではないでしょう。これから挑戦しようとしている人に対し、組織にいる先達が大人としてできるのは、武田先生のように彼らの挑戦を後押しすることです。ここでいう「オトナ」は、必ずしも年長者の大人だけではありません。比較した際に何らかの分野で経験をしていたり、違う視点を持っていたりする人が大人として背中を押してあげましょう。

『呪術廻戦』の七海健人に見る、発展途上の子どもを見守る冷静な態度(芥見下々/集英社)


未熟な存在である子どもの成長を後押しする大人の存在。ただ時には、自分の能力を超えて進もうとする未熟な存在の前のめりな行動を戒め、貴重な人材を守ることも重要になります。

人間の負の感情から生まれる化け物・呪霊と呪術師の戦いを描く芥見下々先生の『呪術廻戦』(集英社)では、作中に登場する東京都立呪術高等専門学校所属の七海建人が、その役割を果たします。特級呪術を飲み込んだことで、呪術師を管理する体制側にとっては脅威となった主人公・虎杖悠仁を、彼が子どもであることを理由に、大人の自分よりもその生命を守ることを優先する義務があると断言します。さらに虎杖が親しくなった吉野順平の母親が殺されたときには、その直接の原因を虎杖本人には隠しました。起こったことを自分の責任だと考えやすい虎杖を理解し、むやみに責任を負わせないための判断です。

七海のこうした態度は、自分と虎杖の関係を、教師と生徒ではなく、大人と子どもとして捉えているからでしょう。呪術師をサポートする役割として登場するキャラクターのセリフにも表れていますが、危険に巻き込まれやすい呪術師の世界で、まだ発展途上の子どもである虎杖に対し、適切な試練を与えつつも死につながるような危険な目を避けるように動きます。七海は二人で行う最初の任務に際して、虎杖にこう話しかけます。

“勝てないと判断したら呼んでください。私は大人で君は子供。私には君を自分より優先する義務があります。”

それは相手を見くびっているわけではなく、まだ子どもの虎杖は敵と戦うための心構えが今の段階では不十分だと判断しているためです。七海は虎杖との共闘のシーンでも、積極的に力の使い方を指導するわけではありませんが、虎杖の動きをしっかりと見守り、虎杖をかばう動きをしばしば見せます。

もちろん相手が成長を見せれば、こうした態度を見直します。戦いの結果、成長した虎杖に対しては死なない程度に力を尽くすよう七海は激励し、虎杖の信じる道を進むことを促します。

こうした七海の態度は、同じく呪術高専で教師を務める五条悟の虎杖への接し方とは対照的です。五条は、実践で力を使わせて技術を磨かせるタイプ。意図的に生徒らを死なせようとは考えていなくても、自分が能力も経験もある呪術師だからこそ、厳しすぎる試練を与えてしまうこともあります。これでは、大人から子どもへの「指導」としては危ういものがあります。現実の組織では、実際に呪術廻戦の世界のように命のやりとりが行われるわけではありません。発展途上の相手には、時には五条のように厳しい試練を課すことも求められます。ただ、そうした厳しい試練を通じた育成は、相手が受け止められるかどうかの見極めが難しく、失敗すれば相手をつぶすことにもなりかねません。より多くの人たちを適切に育てるには、七海のように冷静に相手の力量と余力を見極めた接し方が求められるでしょう。

周りが見えていない子どもに「適切なブレーキ」を掛ける『僕のヒーローアカデミア』の教師陣(堀越耕平/集英社)


『呪術廻戦』と同じく、バトル漫画である堀越耕平先生の『僕のヒーローアカデミア』(以下、ヒロアカ/集英社)でも若者の勇み足を止めようとする教師陣が登場します。

ヒロアカは、世界総人口の約8割が超常能力としての“個性”を持つようになった世界を舞台に、個性を活かしてヒーローを目指す子どもたちの活躍と成長を描きます。物語の展開上、子どもたちは敵との戦いに巻き込まれていきます。一方で、ヒーローを育成する雄英高校の先生たちの多くは、人に危害を加える可能性がある個性を持った生徒たちが、むやみに力を使って無茶をしないように戒めます。

その代表格が、主人公らの担任を務める相澤消太。過去にヒーローを目指していた友人を亡くしていることから、思いだけで前のめりになりがちな生徒たちに対してしばしばブレーキを掛けます。

敵側に雄英高校の生徒がさらわれたことで、教師らに無断で救出作戦に動いた生徒たち。作戦は成功するものの、後から作戦を知った相澤先生は、生徒たちにこう話しかけます。

“理由はどうあれ 俺たちの信頼を裏切った事には変わりない。正規の手続きを踏み正規の活躍をして信頼を取り戻してくれるとありがたい。”

成功したという結果だけを見るのではなく、無断で動いた生徒たちを褒めずに自らの信頼を取り戻すことを期待します。それは主人公の緑谷出久に対しても同様で、正式なヒーローらとの共同作戦でもルールの範囲内で活躍をするように促します。

もちろん、現実の企業組織などに新たに加わるメンバーは、少年漫画の主人公らのように未成年であるわけではありません。それぞれが限界はわかっていると思いたいものですが、どこで適切なブレーキを踏むべきかについては案外、外から見ている人が気付くことがあります。もちろん組織のメンバーが自分の限界をわきまえているのであれば見守るだけで充分ですが、うまく制御できていないのであれば、いったん手綱を引くことが組織の大人には求められます。

ただ注意したいのは、こうした言動の前提となる、大人の側とメッセージを受け取る側の関係です。双方の間で敬意と尊重を重んじる関係がなければ、大人からのどのような言動も、押し付けになってしまう。組織の中で大人として振る舞えるようになるためには、まずメッセージの受信者に自分の言動が受け入れられるような関係構築にあることが、出発点となるでしょう。

文/bookish、企画・監修/山内康裕