稟議書とは?書き方と例文・テンプレートと承認されるポイントを解説
個人の権限では判断できない事柄を回覧し、承認を得るための手続きである「稟議(りんぎ)」。
社内の意思決定手段の一つとして、「高額な備品の購入」「新規取引先との契約」「人材の雇用」などの場面で、稟議が必要になります。
この記事では、稟議の概要や稟議書の書き方、承認を得るための稟議の流れなどについて、詳しく解説します。
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稟議書の書き方と例文
稟議に欠かせない稟議書の実際の書き方について、フォーマットを用いて解説します。
稟議書に記載する項目
稟議書は、簡潔・明快・正確に書くことが望ましいとされます。
稟議書に記載する項目について、ポイントを解説します。
●起案者・起案日などの基本情報
●申請番号・決裁番号
●件名
●稟議の内容(申請事項)
●金額(予算の内訳・支払い条件)
●承認者コメント欄
●押印欄
●添付資料について
起案者・起案日などの基本情報
稟議書には「いつ」「誰が」提案したものかを明記する必要があります。稟議書を提出する起案日や、起案者の氏名と所属、社員番号を記載しましょう。
起案日の西暦・和暦は社内の規程に合わせ、所属部署名には正式名称を記載してください。
申請番号・決裁番号
稟議書は、会社全体や部署ごとに番号を振って管理しているケースが多いです。管理者が管理しやすいよう、社内のフローに従って取得した申請番号を記載します。
決裁後も、同様に決裁番号を記載しましょう。
件名
どのような事柄について申請するのかを、「件名」として明記します。ひと目でわかるよう「新規パソコン購入について」「新規の取引開始について」「新卒採用について」というように、件名は要点を絞って簡潔に記載することが重要です。
稟議の内容(申請事項)
申請事項についても件名と同様、「承認してもらうための説明」を簡素にわかりやすく記載することが欠かせません。結論を先に、かつ箇条書きで記載します。
稟議内容の必要性や費用対効果、ほかの商品やサービスよりも優れている点などを、具体的なデータを交えて明確に記載しましょう。リスク・デメリットを伴う場合は、解決策も併せて記載し、承認者の理解を得られるよう努めます。
また、稟議書を作成する背景・理由についても、具体的な課題を含めて記載する必要があります。
【申請事項の内容】
●承認してもらいたい内容(物品購入であれば物品名、購入先の企業・業者名、仕様、購入時期など)
●申請理由(目的、意義など)
●稟議内容が実行された場合のメリットや効果
●稟議が承認されない場合に生じるリスクやデメリット
金額(予算の内訳・支払い条件)
金額については見積書を入手して、できる限り正確に記入します。予算内なのか、予算外なのかチェックできる項目を設けることも良いでしょう。予算の内訳や支払い条件なども、併せて記載します。
承認者コメント欄
承認者コメント欄には、承認者が「承認・却下」などの理由を記載します。承認者コメント欄を設けることで、回覧時に情報が共有しやすくなるほか、差し戻された理由も容易に確認できるでしょう。
押印欄
最下部に承認者の押印欄を設けます。承認する場合は、左から右へ下位職位者から押印していくケースが一般的です。承認者の押印欄のほか、「財務責任者」「出金担当者」の枠も設けておくと、決裁状況を把握しやすくなるでしょう。
添付資料について
必要に応じて、稟議の申請事項に関する見積書やカタログ、工事明細書、写真、図面、イラストなどを添付します。稟議書にも、添付書類がある旨をひと言添えましょう。
稟議書の例文・書き方サンプル
稟議書の書き方を、「購入の場合」「新規業者との取引の場合」「人員の増員、採用の場合」のケース別に解説します。
備品購入の稟議書例
パソコンやITシステム、事務用品など、業務で使用する物品を購入する際は「購買稟議書」を作成します。購入する物品について「納得できる理由」と「購入に必要な合計金額」を明記する必要があります。また、必要台数についても、数字の根拠を示しておくと稟議が通りやすくなるでしょう。
購買稟議書には、主に次のような項目を記載します。
【記載例】
作成日:2025年10月29日
起案部署:営業部第一課
起案者:山田 太郎
件名:営業部で使用するパソコンの購入について
稟議内容:
営業部で使用するパソコンを以下の理由で購入したく、承認をお願いいたします。
背景については以下の通りです。
1.背景・理由
使用中のパソコンが先日一台故障し、業務に支障を来しています。また、従業員が増えたことにより、台数も不足しています。購入予定のパソコンは、廉価な上に故障の確率が低いため、業務に従事する従業員が使いやすい機種であると考えます。
2.購入内容
対象製品名:○○○社製「AB-0001型○○○○」
価格:1台234,500円(税込)
数量:3台(計:703,500円税込)
3.導入効果
不足分を補填できることで、パソコンを使用していなかった従業員の作業効率が上がり、資料準備にかかる時間が1時間から30分に短縮される見込みです。営業部全体の効率化が促進され、営業提案の質の向上にもつながると考えます。
4.購入予定日
2025年〇月〇日
5.添付書類
〇〇〇社〇〇〇〇のパンフレット
新規取引先との契約申請の稟議書例
新規業者と契約を結ぶ際は、「契約稟議書」を作成します。新規の取引先を承認してもらうためには、「その企業と取引したときのメリット」と「客観的な信用に値する資料」が必要となります。
具体的には、「品質が良い」「価格が安い」「大量発注ができる」など、上長を納得させられる情報が必要です。取引企業によっては、経営状態などの資料の添付を求められる場合もあるでしょう。
【記載例】
作成日:2025年10月29日
起案部署:営業部第一課
起案者:山田 太郎
件名:○○○株式会社との新規取引について
下記の通り、新たに○○○○株式会社との取引を開始したく、お伺いいたします。
1.背景・理由
〇〇〇株式会社はここ数年で、業績を20%伸ばしており、部品の安定した取引が期待できるため
2.新規取引先概要
取引先名:〇〇〇株式会社
住所:東京都〇〇区〇〇〇1-2-3(本社)
連絡先:03-1234-5678(営業部)
資本金:5億円
業種:製造業
社員数:600人
設立年数:1970年
3.期待効果
新プロジェクトに向けて必要な部品を、高品質低コストで取り入れることができる
4.取引条件
取引開始希望日:2025年12月1日
初回取引額:□□万円
支払方法:掛け取引(末締め翌月末払い)
5.添付資料(別添)
〇〇〇株式会社概要1部
人員採用・増員の稟議書例
求人募集を開始する際や採用を決定する際には、「採用稟議書」を作成します。採用稟議書の内容は、「求人募集時」と「採用決定時」で異なります。求人募集のための採用稟議書に記載する情報は、採用予定人数や職種、募集方法、応募資格などです。
具体的には「どのような人材を」「どれくらいの期間で」「どれくらいのコストを使って」採用するのか?といった情報を記載します。一方、入社のための稟議書では、「どのような人材を」「どの部署で」採用することになったのか?という採用候補者の情報を共有します。
採用稟議書については、以下の記事で詳しくご紹介しているので、併せてチェックしてください。
(参考:『採用稟議書とは?承認される稟議書の書き方を解説【フォーマット&例文付】 』)
稟議書とは?
そもそも稟議書とは、稟議にかける際に使われる書面のことです。稟議書の使用で、誰が意思決定に関わったのかを書面で残すことができます。企業によっては「起案書」や「立案書」などと呼ばれることもあります。
稟議書が必要な理由
社内稟議は、自らの意思だけで決定できない事案が発生した場合に、その内容を稟議書にまとめて上司や経営陣といった決裁者に承認を取るために行われます。
決裁を取る事案は大小さまざまですが、稟議のたびに関係者を集めることは現実的ではありません。その際、稟議書を活用することで、他部署との連携や情報共有をスムーズに行えるのです。
稟議書を複数の関係部署に回覧すると、稟議の内容や検討事項について共通認識が持てることも稟議書が必要な理由の一つです。
決裁書との違い
稟議書と似ている用語として「決裁書」があります。決裁書は、稟議書の内容に対して最終的な判断を下すための書類です。
稟議書は下位の承認者から順に承認していきますが、決裁書の場合は複数の承認者を介さず、決裁者のみが承認します。稟議書が事案に伴う承認プロセスを進めるための書類であり、決裁書が最終判断を行うための書類であるということです。
起案書との違い
稟議書と似ている役割を持つ書類には「起案書」が挙げられます。起案書は、社内で実行段階にある事案やプロジェクトに関する原案を作成する際の書類です。
起案の際に作成した原案が起案書となるため、起案は稟議が始まる部分といえるでしょう。
稟議とは?
そもそも稟議とは、「会社のお金を使う」「クライアントと契約を結ぶ」など、個人の権限だけでは決定できない事柄について組織の上層部に回覧し、承認を得る手続きのことです。稟議は、日本特有の意思決定方法とされています。
企業や官公庁など多くの組織では、部署の上長をはじめとする管理職に、意思決定の権限があります。文房具などの少額の消耗品を購入する際は上長の承認が不要でも、パソコンなどの高額商品の購入には、上長に加えて役員クラスの承認を得なければならない組織も多いでしょう。
それらの意思決定について、毎回上層部が集まって合議しようとすると、時間や手間がかかります。そこで、代わりに行われるものが稟議です。
稟議は、本来は「ひんぎ」と読みますが、現在では「りんぎ」と読まれることが一般的になっています。英語圏では、「internal memo」や「request for decision」などのフレーズで表されることが多いようです。
稟議の目的・必要性
日本の組織は、「合議」と「決裁」を経て動き出すという特徴があります。「稟議する」という意味は、組織の同意を得ることですが、山のように存在する案件ごとに会議を開いていては業務が進みません。
こうした点で稟議書を作成して上司に回覧することにより、複数の関係者を集めて会議を開催するまでの手間を省きながら、関係者の総意を確認できます。
さらに、稟議には「組織内での認識のずれや失念を防止できる」「計画通りに物事が進んでいるかどうかを確認できる」というメリットもあります。
稟議の種類
稟議の種類として代表的なものに、「購買稟議」「契約稟議」「採用稟議」「接待交際稟議」「押印稟議」の5種類が挙げられます。それぞれの特徴を下の表にまとめました。
| 内容 | 稟議が必要となる場面 |
|---|---|
| 購買稟議 | パソコンやITシステムなど高額な備品や業務で使用する物品を購入する際に、稟議書を回覧して承認を得る |
| 契約稟議 | 新規取引先との契約時に、「価格」「条件設定」「日程」「期限」「担当者」「返品」「ペナルティー」などの内容について承認を得る |
| 採用稟議 | 人材の雇用時に、人材像や採用要件が適当かといった点で承認を得る |
| 接待交際稟議 | 取引先との会食や贈答品を購入する際、一定金額以上の経費が発生する場合に承認を得る |
| 押印稟議 | すでに承認されている契約書に対して押印を求める稟議。契約締結の最終段階で、会社代表者の印鑑を押すための承諾を得る |
稟議金額の基準と判断ライン
一般的に、稟議が必要な金額については企業ごとに規程を設けます。
下記のように、金額に応じた決裁権限を設定しているケースもあります。
【規程金額の例】
10万円未満→課長+総務部
10万円以上→課長+部長+総務部
50万円以上→課長+部長+社長+総務部
金額が高くなるほど、承認を得る範囲や人数も増えることが多いようです。
なお、稟議は日本特有の意思決定方法のため、欧米企業では稟議のシステムを採用していないケースがほとんどです。
これは、日本企業が「ボトムアップ型」の体制であることに対して、欧米企業は経営陣による「全体最適」に基づいた判断で動く「トップダウン型」が一般的であることが影響しています。
しかし近年では、日本企業でも業務効率化の観点から、稟議は「現在の市場スピードに合わない」「ベンチャー企業の経営には合わない」という考えも珍しくなくなってきています。
稟議と決裁・承認・起案の違い
社内での意思決定にまつわる用語には、「稟議」のほかに「決裁」や「承認」などがあります。それぞれどのような意味を持ち、稟議とはどのような違い・関係性があるのかを下の表にまとめました。
【組織の意思決定にまつわる用語】
| 用語 | 意味 | 稟議との違い・関係性 |
|---|---|---|
| 決裁 | 権限を持つ上長が、提案された内容の可否を決定すること |
|
| 承認 | その事柄が正当または事実であると認めること |
|
| 起案 | 公式文書などの草案を作成すること |
|
稟議の申請から保管までの承認フロー
ここからは、稟議書の作成から承認までの流れについて見ていきましょう。
【稟議の申請から保管までの承認フロー】
1.起案者が稟議書を作成する
2.稟議書を役職の低い順に回覧する
3.承認・決裁を得る
4.稟議書を保管する
5.差し戻し・却下時は再申請を行う
1.起案者が稟議書を作成する
起案者は、「申請事項」「申請理由」「金額」「効果」などを記載した稟議書を作成します。短時間で内容を確実に把握できるよう、まずは結論から書き、内容を端的にまとめることがポイントです。
稟議書は企業全体や部署ごとに番号を振って管理しているケースが多いため、社内のフローに従って稟議書の番号を取得・記載しましょう。
2.稟議書を役職の低い順に回覧する
稟議書を承認してもらうために「起案者→直属の上長→部長→役員→決裁者」というように、低い役職から高い役職へと順に回覧することが多いです。
図にあるように、「重要案件事項」や「部門内決裁事項」など、申請する内容によって承認を必要とする役職の範囲は異なります。また「金額により自動で分岐するルート」のように、稟議する内容の予算によって回覧の範囲が異なるケースもあります。
案件によっては役員以上の承認が必要な場合もあるため、その都度、社内ルールを確認しましょう。
●稟議の承認フロールート


3.承認・決裁を得る
前述のように、申請内容によって承認を得る範囲は異なります。無事に承認が通れば、起案者は申請内容の実現に向けて、業務を進めていきます。
4.稟議書を保管する
決裁された稟議書は、管理部門で保管します。稟議書の管理には、「種類別に年度ごとにファイリングする」「電子化してサーバー上に保管する」などの方法があります。
保管する際は、管理IDを付ける方法であれば時系列で管理でき、書類を探す時間の短縮も期待できるためお勧めです。
5.差し戻し・却下時は再申請を行う
稟議書に不備がある場合には、承認者によって「却下」や「取り消し」がなされます。却下の場合は承認者が、取り消しの場合は起案者が処理を行います。
どちらの場合でも、取り消しされた文書は削除されないため、新規文書として再利用申請の上で再度稟議にかけます。再利用申請により、スケジュールが大幅にずれ込む恐れがあるため、スケジュールに余裕を持たせた上で、稟議を回すことが大切です。
必要な記載項目を網羅した稟議書フォーマットを、下記から無料でダウンロードできます。再申請や差し戻しを防ぎたい方は、自社用にカスタマイズしてお使いください。
稟議規程とは?テンプレート付きで解説
社内で稟議制度を実施する場合は、事前に稟議規程を作成すると良いでしょう。ここでは、稟議規程を作成する必要性がある理由を説明した上で、記載する内容についても紹介します。
稟議規程とは?なぜ必要?
稟議規程とは、稟議事項の基準および稟議の手続きを定めたものです。稟議規程は、職務権限規程等の中に含める場合と、稟議規程だけを抜き出して定める場合があります。
そもそも稟議とは、個別案件の意思決定にあたり、職務権限の行使を統制する手段であり、組織的かつ迅速な経営活動が行えるように、適切な内部統制を前提としています。
稟議規程を定めることで、企業の意思決定の過程が明確になり、業務の透明性や円滑性を確保できます。これにより、稟議制度を運営しやすくなるとされています。
稟議規程に記載する内容
稟議規程の内容は、規程の総則として「目的」「定義」「稟議の原則」「稟議事項および決裁基準」などについて記載します。
「起案」を行う担当者や順次回覧する関係者の詳細を記した「回議」、承認過程の段階を記した「決裁の種類」など、稟議の流れで必要となるルールを記載しましょう。
稟議規程のテンプレート【無料】
上記で稟議規程の理解を深めたあとは、実際に稟議規程を作成してみましょう。
以下から「稟議規程」のフォーマットもダウンロードできますので、ぜひご活用ください。
稟議書の3つのメリット
稟議書を作成することには、以下3点のメリットがあります。
1.会議を開かずに承認を得られる
2.複数部署で情報共有でき意思決定の質が向上する
3.承認履歴が残り稟議全体の流れを把握できる
1.会議を開かずに承認を得られる
稟議書の作成では、事案ごとに会議を開かずに関係者からの承認を得られます。会議を開催する手間が減る分、業務効率化にもつながるでしょう。
稟議書には、事案の概要から検討事項まで必要な情報が全て含まれているため、承認者はその書類を確認するだけで内容を把握し、承認可否を判断できます。
作成された稟議書が丁寧であるほど、承認者が確認に割く時間が少なくなり、よりスムーズな意思決定につながります。
2.複数部署で情報共有でき意思決定の質が向上する
稟議には複数の承認者が存在するため意思決定が遅くなったり、品質が担保されなかったりすると思われるかもしれません。
しかし、適切に運用すれば意思決定の質を向上させることが可能です。
稟議を回す上では部署関係なく、関係者全員が事案の内容を把握するため、意思決定までのプロセスに透明性が担保されています。仮に稟議が却下された場合にはその理由が記録されるので、不正や不透明な取引を抑制できるのです。
適切な情報共有により、組織全体の連携強化も期待できます。
3.承認履歴が残り稟議全体の流れを把握できる
稟議書には、起案者から決裁者まで、関連する担当者の氏名だけでなく、承認・却下の理由まで記録されるため、稟議全体の流れを把握することができます。
何かしらの問題が発生した場合にも、いつ・誰が・何を・どういった理由で承認したか証拠が残るため、原因究明と対応を迅速に進めることがかないます。
例えば、新事業にかける予算超過が判明した場合は、稟議書を確認すれば、超過している予算を承認した担当者と、承認された理由を特定できます。
稟議書の2つのデメリット
反対に、稟議書には2つのデメリットが伴うことも押さえておきましょう。
1.承認完了までに一定の期間を要する
2.責任の所在があいまいになりやすい
1.承認完了までに一定の期間を要する
稟議は、複数の関係者による確認が必要となるため、承認を得るまでに一定の期間を要する場合があります。特に承認者の数が多い場合や、承認者のスケジュール調整が困難な場合には承認が滞り、これがボトルネックとなる可能性がある点には注意したいところです。
緊急度が高く迅速な意思決定が必要な場合に、稟議の承認プロセスに時間を要すると、ビジネスチャンスを失ったり、損失拡大につながったりするかもしれません。事前に承認者のスケジュールを調整しておくなど、対策を検討しておくことをお勧めします。
2.責任の所在があいまいになりやすい
稟議では責任の所在が明確になる点がメリットである一方、承認者が多い場合や承認プロセスが複雑である場合には責任の所在があいまいになる可能性があります。
例えば、新事業で複数の部署が関わる問題が発生した場合に、どの部署のどの従業員に責任があるのかが不明瞭(ふめいりょう)になる場合があります。
そのほか、承認者が多過ぎることで責任の所在が分散し、「自分の関与によるものではない」という意識が広まるリスクも考えられます。
このような事象を防ぐためには、承認プロセスを一本化して情報共有目的の承認者を増やし過ぎないことが重要です。
稟議申請の電子化のメリット・デメリット
稟議書の管理を容易にするため、稟議書の作成および上長などの決裁者への回覧プロセスを電子化し、パソコンやネットワーク上で稟議手続きを行う企業が増えています。
ここでは、電子化のメリット・デメリットをご紹介します。
稟議申請の電子化のメリット
稟議の電子化によってまず期待できる点が、単純に紙を用意するコストがかからないという「ペーパーレス化によるコスト削減」です。
ペーパーレス化には、「稟議書を保管するスペースの削減」や「書類検索の簡易化」といった管理面でのメリットもあります。電子化によって、「システムの中に用意されたフォーマットを利用する」「記入例を見ながら作業する」ことができるため、記入ミスの防止も期待できます。
ワークフローでは、1つのデータを活用して別の稟議書を作成できるため、起案者の負担も軽減するでしょう。
また、書面での稟議・決裁では、意図的な改ざんなどの不正につながる恐れもあります。その点でも電子化により稟議・決裁の適切な承認ルートを設定し、モニタリングも可能になることから、不正の防止に役立つというメリットも考えられます。
稟議申請の電子化のデメリット
稟議の電子化によるデメリットとしては、「システムの導入によりコストがかかる可能性がある」「従業員にとって使いにくいと定着しない」などが挙げられます。
自社に適したアプリやシステムを導入できれば、電子化にかかるコストはそれほど大きな負担にはならないでしょう。従業員に定着させるためにも、実務に即したシステムを正しく選ぶことが重要です。
承認を得やすい稟議書を作成するコツ
承認者の理解を得てスムーズな承認を実現するためのコツがあります。
●決裁者が必要な情報を簡潔に記載する
●根拠となるデータや事例を添付する
●課題となるポイントと対応策を記載する
●事前に承認者・決裁者に確認を取っておく
それぞれの詳細を解説します。
決裁者が必要な情報を簡潔に記載する
稟議で承認を得るには、まず承認者がひと目見て理解できるように必要な情報を、簡潔に記載することが大切です。
稟議書は読みやすい内容に仕上げることが重要ですが、端的に絞った結果、必要な情報が抜けていては承認が得られません。本記事でも述べたように、「目的」や「理由」を冒頭で示した上で、詳細を加えていきます。
文章が長くなったり専門用語や略語があふれていたりするとわかりづらくなり、誰が読んでも理解できるような平易な言葉を用いることも意識しましょう。
根拠となるデータや事例を添付する
稟議書の説得力を上げるには、必要な情報に根拠となるデータや事例を添付することが効果的です。その際は、稟議に必要のない情報ばかりを詰め込むのではなく、費用対効果が見えるデータや売上予測に基づくデータなどの情報を含めましょう。
「従来の作業時間を30%削減できる見込み」「導入費200万円に対して、年間の人件費削減効果は400万円を見込める」など具体的な数値を提示すると、稟議書の信頼性が高まります。
課題となるポイントと対応策を記載する
稟議書にはポジティブな情報だけではなく、デメリットやリスクについても含めましょう。
しかし、ただ課題点を示すだけでは承認を得られにくいので、各課題の対応策を併せて明示することが必要です。
新規システムの導入を稟議に回す場合、導入費用や研修期間を要する点、また既存システムからのデータ移行に伴うリスクといった、その時点で想定される課題を明示します。
これらの課題に対する具体的な対処方法として、導入計画やバックアップ体制の整備などを提示すれば、実現可能性が高い事案という扱いで承認を得られる可能性を高められます。
事前に承認者・決裁者に確認を取っておく
承認を得られやすくするには、稟議書を提出する前の情報共有を済ませておくことも有効な手法です。
回覧の前に、稟議の概要を承認者や決裁者へ口頭で伝えておくと、その時点の懸念事項をアドバイスしてもらえることも期待できます。指摘事項を修正して稟議書の完成度をより高められるため、承認を得られる確率も高くなるでしょう。
稟議に関するQ&A
稟議についてよくある疑問を、2つピックアップして解説します。
稟議内容を変更・追加・増額・減額しても良い?
変更内容にもよりますが、稟議の途中で内容を変更することは可能です。その際は、先に決裁を受けた決裁番号と表題を明記の上、「一部変更する旨を明記した稟議書を起案する」「先に受けた決裁文書に変更されている旨を赤字で追記する」「管理台帳に、表題・決裁番号に基づいて一部変更を追記する」などの対応を取ります。
さらに、計画の誤差や一部変更をあらかじめ設定していた場合には、よほど重大な変更でない限り、再稟議をしない企業もあるようです。起案者や承認者が混乱しないように、途中変更に関するルールについても、稟議規程に定めておくと良いでしょう。
発注した後に事後申請しても良い?
ビジネスの価格交渉では、現場での即断が必要になり、交渉結果について事後承認を受けなければならないケースも少なくありません。
そのため、企業によっては事後申請を認めている場合もあります。事後申請の場合には、「事後伺いとなった経緯を丁寧に説明する」必要があります。
まとめ
個人の権限だけでは決定できない事柄について、組織の上層部に回覧し承認を得る「稟議」。組織の意思決定をスムーズに行うためには、稟議制度を運営するための「稟議規程」を定め、申請するタイミングなど稟議全体の流れを把握することが重要です。
「申請事項に抜け漏れがないか」「記載内容が簡素でわかりやすいか」などを十分確認した上で、稟議書を作成しましょう。
稟議書の作成に不安がある方は、下記より無料ダウンロードできる稟議書フォーマットをご活用ください。あわせて、稟議制度の整備に役立つ「稟議規程」のフォーマットも無料でご提供していますので、自社向けにカスタマイズしてお使いいただけます。
(制作協力/株式会社eclore、監修協力/弁護士 藥師寺正典、編集/d’s JOURNAL編集部)
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