アフターコロナの時代に求められるニュータイプのリーダーシップ「これからの経営と人材要件はどう変わるか」

独立研究者/著作家/パブリックスピーカー
山口 周 氏

プロフィール

「正解を出す力」に、もはや価値はない。問題が複雑に絡み合う時代においては、これまで私たちが優秀、必要と考えてきた人物像は一変、異なるのではないでしょうか。サスティナブルな社会システムと共存し、企業が成長していくためには、これまでの経営の在り方や人材要件も見直す必要があります。企業活動の源泉である人と向き合う企業経営者や人事パーソンが、今、正面から考えなければいけないことは何かをお話いただきます。

山口 周 氏

アフターコロナの時代において新たな価値を生み出す行動・思考様式をニュータイプ、その反対に、20世紀の後半から21世紀の前半まで、50年ほどのあいだ望ましいとされてきた行動・思考様式をオールドタイプとして象徴的に表現させていただいています。

あくまで、ニューとオールドというのは行動・思考様式のことですので、すべてがどちらか一方に偏るというものではありません。70歳・80歳の方でもニュータイプの発想をされる方もいれば、20代の方でもオールドタイプに近い行動や考え方をすることがあります。

ニュータイプ・オールドタイプ

問題の希少化と正解のコモディティ化

構想を描き、問題を探すことが求められている。

皆さんは先進7カ国の経済成長率がピークを記録したのはいつかご存じでしょうか?実は、1960年代以降その成長率は下降の一途を遂げています。

先進7カ国のGDP成長率の推移

1960年代、日本の経済成長率が8%だった頃というのは、固定電話が当たり前、計算機は一人に1台もなく、コピーやFAXもなかった時代です。一方、成長率1%の今の時代というのは、一人ひとりにPCとスマホがあり、オンラインでいつでもどこでもつながれる世の中。効率の観点で言えば、間違いなく進化しているように思えますが、経済成長率の点からいえば価値につながっていないといえます。

労働生産性8%、1%の時代

このことは、価値につながらない解決しなくても良い問題にばかり取り組んでいると言い換えることができます。たしかに現代は、無料のサービスが増え、ネットで検索すればいろんな情報やサービスが溢れており、ソリューションがたたき売りされている状態です。

高度経済成長期においては、「豊かな生活」を実現するために、テレビ・洗濯機・冷蔵庫の3種の神器をはじめ、便利・快適・安全を享受するために、多くの人たちが新しいモノが欲しいと思って生活していたわけですが、令和の時代に生きる私たちは、それほどモノは要らないと考えるようになってきています。

また、日本の携帯電話のガラパゴス化に代表されるように、同じ問題に対して、顧客調査や統計・解析を念入りに行い、機能を追求した結果、泥沼の同質化を引き起こし、価値を生まなくなってしまったという現象が所々で起きています。

2007年の携帯電話新機種

問題自体が希少化しているわけですから、逆に言えば、問題をつくることができれば大きな価値につながります。つまり、現状からありたい姿の構想を描き、そのギャップ=問題を探すことができる力が武器になる時代となってきているのです。

ありたい姿が描けないと問題を生み出すことができない

役に立つより意味がある

「役に立つ」より「意味がある」にプレミアムが払われる時代

イノベーションとは、「非連続的な価値の増大が実現する」という現象です。そして、そこには2つのイノベーションの起こり方があります。1つは、機能や効率などが大きく向上し、安全・快適・便利になるテクニカルイノベーション。そしてもう一つが、顧客の心の中に新しい価値・評価属性が発生する意味のイノベーションです。

「役に立つ」ものは世の中に溢れており、テクニカルイノベーションによって低価格・高機能なアパレルや雑貨・家具などがたくさん手に入るようになりました。また、かつては嗜好品であったクルマやカメラなども身近なものに変わってきています。

クルマを例にあげると、100~300万円あれば実用的な日本車で自由に移動することができます。しかし一方で、イギリスの高級車メーカージャガーのEタイプ(1961年~1975年販売)の中には、数億円というプレミアがつくものもあるわけです。

操作性にしても、快適性にしても、燃費にしても、機能としては日本車の方が圧倒的に優れているにもかかわらず、爆音を発して突進するように走るスーパーカーには機能や効率でははかれない意味があり、大きな価値=意味のイノベーションが発生するのです。

「役に立つ」より「意味がある」にプレミアムが払われる時代

知識・経験の不良資産化

各企業を創業した人物の創業当時の年齢

上の数字は、各企業を創業した人物の創業当時の年齢です。平均すると24歳。日本の新入社員の年齢で創った会社が今の世界経済を席巻しています。本質的な発見によって新しいパラダイムへの転換を成し遂げる人間のほとんどが、年齢が非常に若いか、あるいはその分野に入って日が浅いかのどちらかであると言われています。

正解のコモディティ化が頻繁に起こる変化の激しい時代において、長年培ってきた知識・経験が突然通用しなくなり、不良資産化するということが起こりやすくなってきていると言えるでしょう。

そこでご提案申し上げたいのは、サーバントリーダーシップの発揮と、批判的思考力・ネガティブケイパビリティ(答えの出ない事態に耐える力)を養うことです。

二つの提案

遠心力の時代、モチベーション競争優位へ

「夢中になっている人」に「頑張る人」は勝てない

マッキンゼーの調査結果によると、これからの時代は、高所得専門職の7~9割がリモートワークになると予測されています。同じ時間・同じ場所・同じ仲間で働くことがないわけですから、必然的に人の心が離れていくことになります。

マッキンゼーの調査結果

イノベーション=創造性を促すために何が必要か。過去の例を紐解いてみても、内発的動機づけ(高いモチベーション)によって行動する人が高い成果を上げており、必ずしも環境やリソースが豊富にある方が成功しているわけではありません。

「夢中になっている人」に「頑張る人」は勝てない

価値観の多様化による断絶

組織の壁を超える重要性

ぬいぐるみ専門の旅行サービス

価値観の多様化は、人がお金を払う価値観も多様化しているということを意味しています。例えば、ぬいぐるみ専門の旅行サービスの存在をご存じですか?

お客様はあくまでもぬいぐるみさん。依頼するのは、病気や障がいがあって旅行ができない方や日本の文化に興味のある海外の方など、自分自身が旅行に行くのではなく、ぬいぐるみさんに旅行に行ってもらい、楽しんでいる様子を撮影してSNSなどに投稿し、その様子を見て楽しんでいただくサービスです。

このビジネスのアイデアを部下がもってきた時に、「このビジネス見込みがあるな!」と評価する自信はありますか?私は絶対的に自信がありません。

ただ、安心してください。過去のイノベーションの種子を見ても、ほとんどの場合、直属の上司はその可能性を適切に評価することはできていません。実は、イノベーションの多くは「斜め上の上司」が救い上げています。

様々なところへアイデアを持ち込み、組織の壁を越えたコミュニケーションを増やしていくことが、新たな価値創造に求められる行動様式となっていくことでしょう。

イノベーションの多くは「斜め上の上司」が救い上げている

【取材後記】

ご登壇いただいた山口氏は、作曲家の坂本龍一さんを敬愛されていらっしゃるそうです。その坂本さんは、日本でミリオンセラーを目指すより、世界各国に1万人ずつファンを増やしていくということを戦略的に選んだ方なのだそう。その理由は、大衆に迎合することなく、自分が最高だと思う音楽のクオリティを圧倒的に追求できるから。「価値がある」と「意味がある」。今の時代、選んでもらえるモノを生み出している人は、何よりもまず自己満足を必ずしているはずだという山口氏の言葉は、“もっと自分らしくあれ!”という現代ビジネスパーソンへのエールのように感じました。

取材・文/d’s JOURNAL編集部 白水 衛、編集/d’s JOURNAL編集部 白水 衛