カゴメ&参天製薬。ハード・ソフト両面必要、”生き方改革”の先にタレントの自律がある

カゴメ株式会社

常務執行役員CHO(最高人事責任者)
有沢 正人 氏

1984年に協和銀行(現りそな銀行)に入行。銀行派遣により米国でMBAを取得後、主に人事、経営企画に携わる。
2004年にHOYA株式会社に入社。人事担当ディレクターとして全世界のHOYAグループの人事を統括。全世界共通の職務等級制度や評価制度の導入を行う。また委員会設置会社として指名委員会、報酬委員会の事務局長も兼任。グローバルサクセッションプランの導入等を通じて事業部の枠を超えたグローバルな人事制度を構築する。
2008年にAIU保険会社(現AIG損害保険)に人事担当執行役員として入社。ニューヨークの本社とともに日本独自のジョブグレーディング制度や評価体系を構築する。
2012年1月にカゴメ㈱に特別顧問として入社。カゴメ㈱の人事面でのグローバル化の統括責任者となり、全世界共通の人事制度の構築を行っている。同年10月より執行役員人事部長に就任。2018年4月より常務執行役員CHO(最高人事責任者)となり国内だけでなく全世界のカゴメの人事最高責任者に。

参天製薬株式会社

理事 人事担当
藤間 美樹 氏

1985年神戸大学卒業。同年藤沢薬品工業(現アステラス製薬)に入社し、営業、労働組合、人事、事業企画を経験。人事部では米国駐在を含め主に海外人事を担当した。2005年にバイエルメディカルに人事総務部長として入社。さらに2007年に武田薬品工業に入社し、本社部門の戦略的人事ビジネスパートナーをグローバルに統括するグローバルHRBPコーポレートヘッドなどを歴任した。
2018年7月に参天製薬に人材組織開発本部副本部長として入社し、2019年4月に執行役員人事本部長、2020年4月より現職。参天製薬のグローバル化を推進。M&Aは米国と欧州の海外案件を中心に10件以上経験し、米国駐在は3回、計6年となる。グローバル化の流れを日米欧の3大拠点で経験し、グローバルに通用する経営に資する戦略人事を探究。人と組織の活性化研究会「APO研」メンバーでもある。

ジョブ型人事への移行と経営に資する未来人材育成思考/カゴメ 有沢 正人氏
HRBPと本部が連携することで人・組織が活性化する/参天製薬 藤間 美樹氏

経営者や事業責任者のパートナーとして、人と組織両面からトップならびに企業の戦略(事業成長)の実現をサポートするHRビジネスパートナー(HRBP)。同ポジションへの期待や関心が以前にも増して高まっています。そのような中でHRBPの機能や役割も含め、一人一人の従業員のタレントを活かすために人事・採用担当者はどうあるべきか。同分野のプロフェッショナル2人が登壇したウェビナーをレポートします。

ジョブ型人事への移行と経営に資する未来人材育成思考/カゴメ 有沢 正人氏

ジョブ型人事への移行と経営に資する未来人材育成思考

●HRBPは人事のなかで最も重要なポジション

HRBPはすべての人事制度において最も重要な機能かつポジションであり、今ではカゴメにとって欠かせません。カゴメにおけるHRBPの役割は次の3つに大きく分けられます。

【カゴメにおけるHRBPの役割】
・個人の自律的キャリアの開発支援
・現場での人事課題を明確化
・経営/本部との強固なブリッジ

HRBPはとにかく現場に行くことが重要です。現場に赴き、派遣社員や新入社員も含めた全社員の声に耳を傾けます。あるいは事前に書かれた自己申告シートに目を通し、その内容を踏まえ、当該社員のこれから先(未来)の役割を考えていきます。

HRBPから社員に何かを言うことはありません。なぜなら、得た情報を基にそのメンバーが今後どのようなキャリアを希望しているのか、ガイダンスすることが重要だからです。またこれから先、家族で介護が必要な人がいそうだ、などといった情報を得た場合には、本部に情報を伝え、社員の異動に関する周辺情報として活用しています。

HRBPは、経営サイドの情報を伝える役割も担いますが、基本的な軸足は現場です。そのためカゴメでは現在3名の専任担当者を置いています。全員現場経験者です。それも元工場長、営業のエース、役員手前のメンバーなど。実務においてピカピカの3名をあえて任命したのです。さらにキャリアカウンセラーや産業カウンセラーの資格なども取得してもらい、現場を知るメンバーだからこそ味わう痛みや苦しさなどといった気持ちも含めて、経営サイドに上げることができると考えています。人事権限も当然あり、人事部長と同等レベルとしています。

●トップから変えオープンにすることが重要

カゴメがHRBPを導入したのは2017年度からです。きっかけは2025年に向けて掲げた経営計画「野菜の会社」に変革・成長しようの策定です。同目標の実現には、大きく分けて以下の3つのキーワードが必要であり、人材の“自律的成長”が必要との結論にも至りました。そこでHRBPも含めた人事制度の見直しを行ったのです。

・Pay for Job:「年功型」から「職務型」等級制度への移行
・Pay for Performance:より業績/評価と連動した報酬制度への改革
・Pay for Differentiation:メリハリを付けた明確な処遇の実現

今回の管理職人事制度改訂のポイントと狙い

私が入社した8年前のカゴメは、完全な年功序列型でした。そのため優秀な人材であっても入社から16年たたないと課長に昇進できないなどのルールがあったため、年功序列型から職務型に制度を刷新していきました。具体的には3要素8項目の評価指標で職務評価を行い、その内容を点数で定量化することで、仕事の成果を明確にしたのです。

これは私が何度も言っていることですが、このような改革を行う際はトップから行う必要があります。実際に、私は同改革を役員や、部長などのトップ層、さらに「グローバル・ジョブ・グレード」として、日本国内に限らず、米国、欧州、豪州のトップにも同じく導入しました。当時16人にいた執行役員の報酬は全て同額でしたが、こちらも業績や評価に連動した内容に刷新。当時の会長・社長の固定報酬が80%だったのを50%に削減するなど、役位別に固定報酬および変動報酬の構成比の変更も行いました。

もう一つ、このような改革を進める上で重要なことがあります。内容をオープンにすることです。私は先の評価項目や刷新された報酬制度の詳細といった、言わば仕事の成果や価値が明確化されたものを、社内報などでグローバルの全従業員に公開しました。役員であっても成果を出さなければ役員報酬は下がる、ということを周知させるためです。逆に、若くて優秀なのに旧態依然の人事制度のために給与が低かったメンバーのやる気を喚起する狙いもありました。

このような制度で、健全な競争意識の醸成ならびに抜擢人事が進み、結果として個人と組織が最大の成果を出すことでも、先の目標を実現していこうと考えたのです。ただし成果報酬型の制度では短期の成果に走るメンバーが現れる懸念があるため、中・長期で成果を定量化するよう、そこは仕組みをしっかりと整備しました。

職務評価指標

●“生き方改革”でタレントを活かす

カゴメでは、個人のマーケットバリューの総和が会社全体のマーケットバリューだと考えています。つまり個人のマーケットバリューを高めることが、結果として会社の価値を高めることだと――。実現にはそれぞれの従業員の能力が存分に発揮できる、働きやすい環境づくりが重要だと考えています。

私たちは“働き方改革”という言葉を使っていません。というのは、この言葉は企業側の理論から生まれた労働生産性を向上させるためのワードだと捉えているからです。ではカゴメの考える働きやすさとは何なのか。

会社側からではなく、個人それぞれが働き方も含めた日々の生活の質、いわゆるQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高めていくことであり、カゴメでは“生き方改革”と呼んでいます。これまで仕事に使い過ぎていた時間を、働き方を改革することで個人や家族に充て、より充実した人生を送ってもらおうというものです。

具体的には働き方のオプションを多様に用意し、かつスムーズに機能するよう、同じく多様なハード・ソフト両面のアセットや対策を整備していきました。従業員一人一人が会社側からではなく自分発でキャリアを決定する。まさに冒頭で説明したキャリア自律を実現しようとしています。

たとえば勤務時間では、2019年からスーパーフレックス制度を導入しています。コアタイムを廃止し、朝5時から夜の22時までの間であれば、始業終業はいつでもよしとし、1カ月で清算する仕組みです。

働く場所についてはすでに広まった感もありますが、テレワークなどを活用することで、オフィス以外の場所での勤務を可能としています。回数制限も特に設けていません。また自分だけではなく、家族や配偶者の急な転勤などによって退職せざるを得ない状況を回避する制度も設けました。たとえば、しばらくの間は今の場所で働きたい。逆に、別の場所で働きたいといった希望などを、3年を1タームとして2回まで選択できるように制度化したのです。

このような柔軟な働き方を実現するためにサーバーを増強したり、スケジューラーを活用したりすることで従業員の勤怠管理を簡便に行うといった取り組みも平行して進めてきました。そのほか副業を希望する従業員へのサポート制度、種の開発など一つの領域に特化した仕事で、キャリアを築きたい人向けの「専門職コース」といった制度なども用意しました。

人事制度改革の先に

●サクセッションマネジメントを実践

当社は現在、次世代経営者やコア人材となる後継者育成のためのサクセッションマネジメントのプランニングも進めています。サクセッションマネジメントとは、今後企業の重要なポストを担う人材の識別や認識、育成、そしてそれに関わる準備についての戦略的なプロセスを指しますが、当社にとって今後の経営を担う者に対する育成および透明性の高い選任の実現は、コーポレートガバナンスコードにおける必達事項と捉えています。

そのためポジションや人材情報を可視化した上で、経営陣で議論、意思決定を実行する仕組みを整えています。それを人材開発に結びつけ、現任者および候補者の底上げを実践しようというものです。またキーポジションのパイプラインや育成計画についても、人材開発委員会が検討、起案、推進し、報酬・指名諮問委員会においての確認や助言を行うスキームも設けています。

このようにカゴメでは、「野菜の会社」として変革・成長に向けてまい進している最中にあります。そこでは人材の自律的成長が要になるとにらんでいるわけです。今回のテーマはHRBPでしたが、紹介したような制度を整えなければ、そもそもHRBPは機能しないでしょう。実際カゴメがHRBPを導入したのは、制度が整ってから最後の最後でした。そしてこのような制度が整うことで、HRBPの一番の目標である会社のトップ、経営人材の育成が実現すると考えています。

サクセッションプロセス

HRBPと本部が連携することで人・組織が活性化する/参天製薬 藤間 美樹氏

●変化をリードし、人と組織を動かすのが人事の目的

人事の目的は、何か決められた事柄があるわけではありません。それぞれの企業ならびに人事が考えるものだからです。強いて言えば、時代のトレンドが参考になります。ミシガン大学のDave Ulrich教授によれば、時代とともに管理、実践、戦略、アウトサイドインと移行してきており、このような時代のトレンドを踏まえ、自社のポジションを加味した上で人事の目的を決めていきます。

なお私が考える人事の目的は以下の2つで、ここ数年変わっていません。

・経営に資する戦略人事(人事戦略で事業に貢献する)
・人と組織の活性化(人と組織のイキイキを追求)

重要なのは、人・組織両方が動くこと。しかし多様な人が働くようになり、新型コロナウイルスの影響などでVUCAがますます顕著となった現代では、人事制度を定めて発表したり伝えたりするだけでは、人も組織もおそらく動かないでしょう。

しかしこのような時代だからこそ変革を起こし、新しいことを始めるべきだと私は考えています。正解もありません。過去の人事のように正しい答えを出すのではなく、新しいソリューションを求めて、人事はチャレンジする時代が来ています。

人事業務の進化

●答えのないことを実行するのがHRBPの役割

このような変革で重要な役割を担うのがHRBPです。HRBPの役割は現場に入り、各部門の戦略達成に資する人事ソリューションを実行することです。言い方を変えると、従来の人事業務である報酬制度の整備などは、HRBPの範疇ではないと言えます。

人事には大きく2つの輪があると私は考えています。現場に深く入り込み、制度の実行を担うHRBP。もう一つが戦略ソリューションの設計も含め、会社全体の人事施策については部署を超えて横断的に行うCoE(Center of Excellence)で、HRBPを持たない会社ではここが本部人事です。

重要なのはCoEとHRBPの両輪が連携していることです。たとえば、HRBPは現場で戦略がよりスピーディに進行すると考えられる施策を見つけたら、CoEに共有します。逆にCoEも制度を整備する上で、より現場の意見を反映して共感を得られるよう、HRBPの情報を傾聴します。

ただし現状の人事体制で人も組織も活性化している企業であれば、あえてHRBPを導入する必要はないでしょう。また両者が連携しながら人事を進めていきますから、お互いの領域を明確にすることもポイントです。トラブルが発生した際、どちらの責任かでもめることが往々にしてあるからです。そしてこの領域においても、各社それぞれのルールで構いません。

欧米の企業では一般的であるHRBPが、なぜ日本では難しいと捉えられるのか。日本人の生真面目さが足かせになっていると私は見ています。日本企業で導入している人事論のほとんどは、米国など海外の文献やモデルを参考としています。そしてこれらの内容は毎年のように更新されていて、海外の企業はこの変化も含め理論を参考にしながらも、各企業の人事たちが自分なりにアレンジするなどの工夫を凝らして、最適なソリューションを構築しています。

たとえば私が米国の藤沢薬品工業にいたときに経験した事例です。その人自身の評価が基準となるはずのプロモーション審査において、ポジションを評価する職務評価を使っていたんです。最初は驚きましたし、「職務評価はポジション評価であり、人を評価するものではない」と提言したところ、「こうするとプロモーション評価にも使えるだろ。使えるものを使って何がいけないんだ。お前は何を堅いことを言っているんだ」と諭されましたからね(笑)。

一方、日本の企業はまるでバイブルのように海外の人事論を厳格に扱うため、そのまま導入している場合が大半です。ましてや、HRBPの仕事には答えはありません。目の前にある人事論をそのまま使うのではなく、柔軟に自社に当てはめ、独創的な考えや施策を生み出すことが求められます。

HR Transformation

●“キャリア自律”思考を醸成させる

タレントを活かすには「育成」「評価」「配置」の施策を各部門で行います。同業務はまさにHRBPが担う領域で、内容はもちろん順番や流れなども先に紹介したように、本部と連携しながらトライ・アンド・エラーを繰り返し、最適な仕組みを柔軟に構築していくことが重要です。

ポジション審査において、多くの企業では年次評価を参考にしているようですが、私の考えは異なります。年次評価はあくまでそのポジションでの成果で、過去に対する評価です。一方、ポジション審査とはその人物がポジションに就いて、その役割が果たせるかという将来について評価をすべきです。

ある特定の専門分野に秀でるタレントがいる一方で、幅広い業務スキルを身に付け、ジェネラリストとしていずれは経営に携わりたいという人もいます。キャリアは大きくこの2つに分かれ、それぞれ育成方法や担当部門が変わります。

大切なのは「キャリア自律」の考えです。部署の都合で異動させるのではなく、本人がどのようなキャリアを望んでいるのかという意思を尊重し、そのうえで適性を確認する必要があります。そのためには上司部下で定期的にキャリア面談をし、部門で適性を確認します。

タレントレビューはこれを実現する有効な仕組みの一つです。タレントレビューは会社のさまざまな組織で実施されますが、部門であれば部門長と部門のリーダーで実施します。事前にキャリア面談を実施、メンバーのキャリア志向を確認したうえで、タレントレビューでは各人の適正やキャリアの方向性を議論しますし、部門で育成する人材か部門の枠を超え会社全体で育成する人材かも議論します。タレントレビューのアドバイスを再び従業員にフィードバックし、改めて自身で思い描くキャリアを実現するための計画を本人に作成してもらいます。

トップも含めた経営人材の育成フローについては、2つのプールに分けることも有効です。候補となる人材をピックアップするのはどちらも同じですが、5~10年後に役員となる可能性が高い従業員。もう一つはキャリア5年~10年の将来が期待できる人材です。

タレント(個人)の成長はもちろん大事ですが、組織の成長も重要です。組織の成長は人の成長に比べ4倍も事業に貢献すると言われているからです。例えば、Google社などが取り組む、お互いの関係性にアプローチする、心理的安全性がポイントになるでしょう。

タレントマネジメント

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【取材後記】

すべてのビジネスパーソンにとって“キャリアの自律”はひとつのキーワード。HRBPはすべての人事制度において最も重要な機能かつポジションを担うことがお分かりいただけたであろうか。会社のトップ、経営人材の育成を実現するHRBP。育成候補となる本人がどのようなキャリアを歩みたいかが重要だ。両社の取り組み事例から、自社のタレントマネジメントを今一度見直してみるのもいいだろう。

取材・文/鈴政武尊・杉山忠義、編集/鈴政武尊