【導入・育成マニュアル付き】「4つのスキル・適性」に基づくインサイドセールス組織のつくり方

株式会社ラクス

堀田 健太(ほった・けんた)

プロフィール

コロナ禍による変化は、営業職の常識も塗り替えつつあります。従来の営業職と言えば、フィールドセールス(外勤営業)が一般的でしたが、訪問・対面による営業活動に制約がかかる中、インサイドセールス(内勤営業)の存在がにわかに注目を集めるようになりました。

インサイドセールスの活用が特に進んでいると考えられるのは、顧客との長期的な関係性の構築が前提となるSaaS(サービスとしてのソフトウェア)企業。経費精算システムなどでバックオフィス業務をサポートする株式会社ラクスも、コロナ禍前からインサイドセールスを組織化しています。

インサイドセールスとは、どのような役割を担う職種なのか。人材配置や採用に必要な視点とは何か。同社でインサイドセールス部門の構築とマネジメントに携わった堀田健太氏に伺いました。

有限の見込み客へ「データに基づいてアプローチ」するインサイドセールス

――堀田さんは貴社のサイト内で「インサイドセールスはただアポを取るだけではなく、商談の質や量をコントロールする存在」と指摘されています。堀田さんが考えるインサイドセールスの定義や役割をお聞かせください。

 

堀田氏:当社では、インサイドセールスの役割を「適切な商談を獲得すること」と考えています。マーケティング部門が獲得した見込み客に対して電話やメールでアプローチし、見込み客が抱える課題を把握した上で、商談を成約につなげるフィールドセールス部門へと受け渡していくミッションです。

ここで言う「適切な商談」とは、必ずしも受注確度の高い商談だけを意味するものではありません。見込み客の状況や課題を踏まえて、まだクロージングすべきタイミングではないと思えば、フィールドセールスに対して「商談では関係性構築に徹してほしい」と依頼して、その後は再びインサイドセールス側からフォローする場合もあります。

また、フィールドセールスのキャパシティーを超えないように、商談件数を調整することも重要です。そうした意味では、インサイドセールスには営業プロセス全体の司令塔としての役割もあるんです。

――貴社ではなぜ、インサイドセールスを導入したのでしょうか。

堀田氏:当社では、従来マーケティングチームがさまざまな施策を通じて、見込み客を獲得していました。課題が明確で、当社のサービスを利用する動機がある見込み客に対しては、フィールドセールスが直接アプローチした方が早く受注につながります。一方で、当社のサービスにあまり興味がなかったり、検討段階で長引いたり、あるいは一度失注してしまったりした見込み客へは、フィールドセールスだけでは継続的なアプローチがしづらい状況だったのです。

しかし、見込み客は市場に無限にいるわけではありません。当社の事業計画を実現するためには、なかなかご検討いただけない見込み客や、一度失注してしまった見込み客のデータを蓄積し、アプローチを続けていく必要がありました。

そこで私たちは、インサイドセールスの組織化に着手しました。電話やメール、セミナーなどのさまざまなアプローチ方法を用い、目の前の受注可能性にとらわれることなく、見込み客の情報を蓄積していきました。

結果的に、「今は適切な時期ではないから3カ月後に再度連絡しよう」といった冷静なアプローチができるようになり、フィールドセールスへも「こんなお悩みが聞けたので、製品のこの情報を伝えてください」「他社との比較を気にされていたので、この情報を届けてください」といった、データに基づく連携が可能となっています。フィールドセールス側では、これまでアポ取得に割いていた時間と負担がなくなり、商談や提案に時間を割けるようになりました。

インサイドセールスに求められる「4つのスキル・適性」と「見極め方」

――インサイドセールスを担う人材には、どのようなスキル・適性が求められるのでしょうか。

 

堀田氏:私は以下の4つのスキル・適性が重要だと考えています。

顧客との関係性を維持・発展させるための「コミュニケーション力」
電話やオンライン会議で好印象を与える声の所作・トーンなどの「表現力」
データベースを活用し、顧客情報をチームの共有資産としていく「情報管理能力」
他部署と連携して組織に貢献する「献身性」

これらをベースとして、部門のリーダークラスを担う人材には、仕組みづくりやKPI設計などの構築力も求められるでしょう。

――採用において、これらのスキル・適性を見極める際、堀田さんはどのような質問を投げ掛けていますか?

堀田氏:「コミュニケーション力」や「表現力」は、面接での会話や受け答えを通じて判断します。テレフォンアポインターやコールセンターなど、具体的な職務経験も参考になりますね。

「情報管理能力」を見極める際には、「過去の仕事でどのようにKPIを設定し管理してきたか」を聞くようにしていますね。重要なのはどんなKPIかではなく、そのKPIを立てた意図や背景です。営業プロセスの中で、受注から逆算して分析的にKPIを設計し、達成に向けて動いた経験のある人は、インサイドセールスとして活躍できる可能性が高いと考えています。

「献身性」については、「1人で取り組む仕事が多かったのか、それともチームで取り組む仕事が多かったのか」「チームの仕事では互いのノウハウや成功体験をどのように共有していたか」を聞きます。周囲の協力を得る力も重要なので、「仕事でわからないことが出てきた場合は、どのように解決しますか?」といった質問も投げ掛けています。

発信力のあるメンバーを集めて小さくスタートし、なるべく早く実績をつくる

――これからインサイドセールスを導入し、チームを組織していきたいと考えている企業は、どのような点に留意すべきでしょうか。

 

堀田氏:最も大切なのは部署間のコミュニケーションだと思います。インサイドセールスだけが頑張っても、フィールドセールスやマーケティングとうまく連携しなければ、営業成果を出すことはできません。一方で、異なるKPIを追い掛けている別部署が同じ方向へ進むのは簡単ではないのも事実です。

当社の場合、インサイドセールス立ち上げにおいて、マーケティングと営業、それぞれの部門からリーダー人材を出してもらい、プロジェクトオーナーとして力を発揮してもらいました。これまでにしっかり成果を残し、発信力のあるメンバーがインサイドセールスに入っていることで、対等な立場で別部門へアプローチをすることができたのです。

メンバー育成においては、週1回、30分のペースで1on1を実施し、メンバーの悩みや考えを聞きながら、組織づくりへのビジョンや意義を常に語り掛けていきました。コミュニケーションを頻繁に取りながら、「小さく試して大きく育てる」(※)を実行しています。

(※)ラクス社のリーダーシッププリンシプル(行動指針)の1つ

体制づくりだけではなく、他部門のメンバーがインサイドセールスに対して理解を深めることも重要です。特に立ち上げ期においては、小さな実績を積み重ねて徐々に理解を広げていく必要がありますね。

私たちは事業においても組織づくりにおいても、「小さく試して大きく育てる」ことを大切にしています。インサイドセールスも、すぐに大きな成果が出たわけではありません。その意味では、小さくてもいいからまずはスタートさせ、なるべく早く実績を出すことが大切なのではないでしょうか。どんな企業でも、最初から完璧なインサイドセールスチームをつくることなんて、できないはずですから。

写真提供:株式会社ラクス

取材後記

取材の中で、堀田さんは「『インサイドセールスがはやっているから導入してみよう』では失敗する可能性が高い」と話していました。実際に堀田さんは、知り合いの企業からインサイドセールス立ち上げについて相談された際にも、受注確度の高い見込み客を集められている場合は「むしろフィールドセールスを純増した方が成果を出せるのでは?」とアドバイスしていると言います。

従来の営業体制でうまくいかなかった部分を立て直し、戦略的な施策を生み出していくためにこそ、インサイドセールスが必要なのではないでしょうか。その視点を持ち、世間のトレンドや採用難易度に流されることなく自社の課題を見極めていくことが、これからの営業組織づくりには欠かせないと感じました。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介