SDGsを推進。DXで社員数が5倍以上、女性比率が60%超に!躍進する中小メーカー・テルミックの取り組みに学ぶ

株式会社テルミック

代表取締役 田中秀範(たなか・ひでのり)

愛知県碧南市に生まれ、24歳の時に製造業で起業。1990年に愛知県刈谷市で金属部品加工事業を立ち上げ、95年に「テルミック」を設立する。以後、異業種の経験なども活かした独自の事業展開で同社を成長させ、「EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2018ジャパン」の東海・北陸地区代表候補にも選出された。

「製造業は職人」「営業は外回り」の常識を覆す
オンライン交流とVR工場見学で千客万来
女性比率60%、女性活躍を後押しするテルミックの制度
SDGsを推進。組織の魅力を高めるために、常に新しい取り組みに挑む

中小の製造業というと、「気難しい職人が働く場所」を連想するかもしれません。そのイメージを180度転換させたのが、株式会社テルミックです。自動車などの産業機器に欠かせない部品加工を行う同社は、従業員130名のうち女性が6割強を占め、デジタル技術を駆使した効率的な業務を追求しています。

事業環境の悪化により経営危機に陥った時期があったものの、その逆境を機に大胆な改革を断行。DXを推進してローコスト・短納期・高品質の独自システムを構築するとともに、女性主体の「外に出ない営業」を展開して急成長を遂げました。

「あいち女性輝きカンパニーの優良企業」として表彰されるなど、数々の賞に輝く同社の工場を一目見たいと、今では年間1000社におよぶ見学者が来社するほど注目されています。躍進を続ける同社代表の田中氏に、女性活躍を後押しする業務体制や企業風土づくりのポイントなどをお聞きしました。

「製造業は職人」「営業は外回り」の常識を覆す

──貴社はさまざまな業務改革を行われていますが、どのようなきっかけで改革に着手したのでしょうか?

田中氏:当社はリーマンショックとコロナショックで2度の経営危機を経験しました。当初は、昔ながらの鉄工所のように男性の職人を集めて、旋盤・フライス・焼き入れ・研磨などの部品加工を行っていましたが、リーマンショックによって仕事の9割以上を占めていた自動車メーカーからの発注が途絶え、半数近くの社員に辞めてもらわざるを得ない状況にまでなったんです。

当時の社員数は20名弱。その危機を乗り越えるために、インターネットを活用してお客さまを開拓するとともに協力会社を増やし、特殊な部品以外の加工を外注するスタイルにシフトしました。当社のサーバーには創業以来蓄積してきた32万件のデータがあり、外部委託したものはどこの誰に発注したかという記録も残っています。それを調べれば、「この部品なら旋盤はAさん、フライスはBさんに依頼すれば大丈夫」といったことがすぐにわかるわけです。

 

──貴社では「外に出ない営業」を実践されているとも聞いています。

田中氏:「営業=外回り」という従来のスタイルが、お客さまのニーズに合っているのかと疑問を持ったのが始まりでした。外回りは移動に時間を取られるため、商談中に他のお客さまから問い合わせをいただいても、帰社するまで回答ができないことがあります。そこで、タイムラグをなくすため、営業担当を会社に常に在席させる形に改めたのです。

それによって、技術的に難しい問い合わせが来ても、社内のエンジニアに確認を取ってすぐに回答することができます。さらに、見積もりも最短45分で出せるようになり、内勤営業に転換することで受注率が結果的に向上しました。

──従業員の女性比率が高いのはなぜでしょう?

田中氏:既存の部品は、過去のデータを基に対応すれば発注先を決められるため、旋盤やフライスなどの技術知識を詳細に習得する必要はなくなります。つまり職人さんでなくても、仕事が回せるようになったわけです。

むしろパソコンでデータを検索したり、インターネットでお客さまとコンタクトを取ったりするのは、PC操作やオペレーションに強い人の方が適性は高く、スムーズに対応できる場合があると考えています。また、営業を内勤にしたことで、体力にものを言わせて外回りをする必要もなくなりました。当社の新たな業態に合った人材を探すうちに、女性社員が1人、2人と増えていったという流れです。

──誰もが仕事を回せるスタイルになって、属人性が排除されたということですね。

田中氏:当社では「外に出ない」だけでなく、逆にお客さまに来ていただけるような工夫もしています。例えば、テルミックタオルやテルミックボールペン、テルミックコースターなど、販促品をたくさんつくり、来社されたお客さまにお配りしていますし、「てるみちゃん」というオリジナルキャラクターまでつくって、ぬいぐるみなどのグッズもそろえました(笑)。

「ものづくりのエンターテイナー~製造業に携わる人たちすべてをワクワクさせる会社を目指す~」が当社のスローガンで、来ていただいた方々に「この会社、面白いな」という印象を持ってもらえるように努めています。

オンライン交流とVR工場見学で千客万来

──コロナショックでは、どのような対応を迫られましたか?

田中氏:コロナ禍になって、当社だけでなく同業者の売上は軒並み2~3割減りました。その減った分を取り戻すために取り組んだのが、Webマーケティングの強化です。Webサイトにリスティング広告を掲載してSEO対策もしましたし、コーポレートサイトもリニューアルして、女性社員が金属加工を体験する動画を載せ、YouTubeにもアップしました。

さらに、コロナ禍によって来社されるのが難しくなったお客さまのために、「VR工場見学」のコンテンツもつくり、りんくう常滑工場、営業所、検査・出荷センターをすべて360度でご覧いただけるようにしています。実際、遠方のお客さまとオンラインで交流した後、VR工場見学をしていただき、契約に至ったというケースも少なくありません。

また、産休明けの女性など、数名のメンバーでWebマーケティングに特化した「営業戦略チーム」を結成しました。このチームは、当社サイトにコンタクトされたお客さまをフォローし、一人一人のニーズにきめ細かく対応して受注に結び付けていきます。

私は最初、YouTubeは若い人しか見ないんじゃないかと思っていましたが、動画をアップしてみたら我々のような40~50代の人も見ていることがわかりました。そして、動画を見た人が自分のコミュニティの中でその話題を広げると、そこからさらに別のコミュニティにも情報が拡散されていきます。去年、Webマーケティングだけで7000万円近い受注を取ることができ、コロナ禍で減少した売上を回復することができました。

女性比率60%、女性活躍を後押しするテルミックの制度

──貴社の女性社員の比率は、今6割を超えているということですが、最適な女性を採用するためにどのような取り組みをしたのでしょうか?

田中氏:製造業はどこも、女性に限らず若い人をたくさん採用したいと思っていますが、なかなかうまくいきません。愛知県では、1人採用するのに求人広告などで平均100万円かかると言われていますが、それだけコストをかけても、採用力では大手メーカーにかなわないのが実情です。そこで、まず会社の魅力を高めなければならないと考え、会社訪問をした人が一目で魅了されるような「ワクワクする会社」をつくろうと考えました。

最初に手掛けたのは、オフィスの改造です。製造業というと、3K職場(きつい・汚い・危険)のイメージがまだ強く、それで製造業を敬遠する人も少なくありません。そこで、トイレのリフォームから始めて、3Kっぽくない明るくきれいなオフィスにつくり変えていきました。

オフィスがきれいになり、新たな社員が増えると、既存の社員の意識も変わってきます。作業着を洗いもしなかった人がビシっとアイロンをかけてくるようになるなど、身だしなみに気を使う人が自然と増え始めたんですね。やがてオフィスに花も飾られるようになって、会社全体がきれいで働きやすい雰囲気に変わり、ここで働いてみたいと思ってもらえるような会社になっていきました。

営業を内勤に変えたのも大きかったです。それまでは、営業職に興味はあるけど外回りは大変そうだからと二の足を踏んでいた人が、営業に挑戦してみようかという気になってくれる。内勤営業なら定時に終わって自分の時間を確保しやすいですし、お子さんがいる人は子どもを迎えに行ったり食事の支度をしたりするのにも支障が出なくなりますから。

 

──制度面ではどのような工夫をされていますか?

田中氏:もちろん、産休・育休は性別問わず取得できる制度になっており、皆さん1年程度は休みを取っています。また、職場復帰しても、しばらくは小さいお子さんの面倒を見なければなりませんので、在宅勤務や時短勤務の制度も整備しています。

産休・育休、時短勤務でよく問題になるのが、制度は整っているけれど、会社がそれを活用させてくれない雰囲気で、早めに産休を切り上げたり、「時短で帰ります」と言えずにフルで働いてしまったりという実情です。実際、当社に転職してきた社員で、前職では時短勤務ができず苦労したという人もいます。

社員がそういう思いをしなくてもいいように、当社では家で何かあれば上司や同僚が声をかけて、いつでも時短や休みが取れるようになっています。コロナ禍でお子さんの学校が休校になる日が多かった時期も、休暇や在宅勤務を積極的に推奨しており、社員は「働きやすい環境」と評価してくれていますね。

もう一つよくあるのが、産休・育休明けで復職したけど、やるべき仕事やポジションがないという問題。時短ではできる仕事も限られるでしょうし、取ってつけたような仕事を与えてもモチベーションは上がらないでしょう。産休・育休に入る人のために、あらかじめ仕事を用意しておかなければなりません。

産休明けの時短勤務者でも仕事に前向きに専念できるように、Webマーケティングに特化した営業戦略チームを設置したのもその一環です。このような組織体制や企業風土をつくることによって、当社では産休取得率100%、女性の育休取得率92%、男性の育休取得率44%、職場復帰率は100%を実現しています。さらに、2030年までには女性・男性ともに育休取得率100%を目指し、誰もが長く快適に働けるような会社にしたいと思っています。

SDGsを推進。組織の魅力を高めるために、常に新しい取り組みに挑む

──貴社ではSDGsに積極的に取り組まれていますね。

田中氏:女性活躍推進はもちろんのこと、SDGsの17の目標ほぼすべてに当てはまる取り組みを進めています。今は特に環境対策に力を入れており、再生利用可能な産業廃棄物の分別リサイクル率は2030年までに100%となるような取り組みを実施中。また、カーボンフリーへの取り組みにも注力し、CO₂の排出量も数値にして可視化。工場にソーラーパネルを設置するとともに、再生エネルギーも購入しており、2030年までに再エネ使用率100%を目標にしています。

当社には年間1000社ほどのお客さまが見学に来られますが、当社の取り組みや業務プロセス、ノウハウ、使用しているデジタルツールまですべて公開しています。その中で使えるものがあれば、どんどんまねしてもらって、お客さまの競争力を高めていただきたいんです。当社だけが儲かるのでは意味がない。お客さまも仕入れ先も、すべて利益を上げられるような形にしなければ、生き残ることはできないと思っています。

──いろいろな改革にチャレンジしていらっしゃいますが、他にはどんな取り組みをされていますか?

田中氏:常滑営業所ではペットとの同伴出勤もOKにしていますので、ワンちゃんネコちゃんがオフィスを歩き回っていますし、全社員が利用できる制度として、テイクアウトを持ち寄って社内で食事会をしたら1人1500円の補助を受けられる「Eat in Telmic」という福利厚生もあります。

昼食に関しては、「昼フレックス」という制度をつくり、11~14時までの間、食事にいつでも行っていいことにしました。そうすると、例えば家のガス工事の立会いだとか、病院に薬をもらいにいくとか、その時間をいろいろなことに使えるようになるわけです。

また、「2+1制度」といって、同じ職場の2人+他部署の人1人を誘って定時に退勤すれば、1人1500円補助するという制度もつくりました。社員同士が雑談するのは当然のことですが、勤務中にあれこれ長話をしていると仕事の効率も上がらず、残業が増えていってしまう。それなら、定時に上がって食事でもしながらおしゃべりする方が、社員にとっても会社にとってもメリットになるはずです。

──ユニークな制度をつくっているんですね。組織や採用の強化を考えている企業の皆さんに、貴社の経験を踏まえてアドバイスをお願いします。

田中氏:採用難や離職問題で悩む企業も多いと思いますが、会社が面白いことに取り組み続けられれば、人は自然についてきます。既存の制度に縛られず、新しい取り組みを考え、実践し、魅力的な会社にしていかなければなりません。そのためには社員の自主性を伸ばす、社員を信用する姿勢が必要です。

もちろん、最初のうちはうまくいかないこともあるでしょう。先ほどの「2+1制度」なども、あらかじめ3人で遊びに行くことを決めていた日に2+1を申請すれば、制度の乱用になってしまうという問題があることがわかり、後日、運用基準の見直しをしました。

とりあえずやってみて、うまくいかなかったら、修正を加えたり元に戻したりすればいいんです。失敗を恐れることなく、新しい取り組みにどんどんチャレンジしてみてください。

写真提供:株式会社テルミック

取材後記

テルミックは、業務改革を進める過程で社員が持つポテンシャルに気づきました。そして、社員の能力を確実に引き出し、フル活躍してもらうための取り組みを矢継ぎ早に実行していきました。その取り組みは、形だけの制度やポジションづくりではなく、社員の気持ちに寄り添い、真のニーズをくみ取り、社員が本当に働きやすい環境を整備するためのものでした。

その結果、会社は躍進を遂げ、コロナ禍にも負けず業績を伸ばしています。誰もが長く楽しく働ける魅力的な企業を志向することが、成長の原動力になるのだということを改めて感じさせられました。

企画・編集/白水衛(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/森英信