「日本一働きたい会社」から「世界最高のチーム」へ。ビジョン・カルチャー採用の実践

株式会社LIFULL

執行役員 Chief People Officer 羽田 幸広

1976年生まれ。上智大学を卒業後、人材関連企業を経て2005年にネクスト(現LIFULL)入社。人事責任者として、経営理念と社員のキャリアビジョンの実現をミッションに掲げ、組織のデザインや採用、人材育成などの指揮をとる。社員有志を集めた「日本一働きたい会社プロジェクト」を推進し、「ベストモチベーションカンパニーアワード」1位(2017年)、「働きがいのある会社」ベストカンパニー選出(2011年~2017年)などの賞を獲得。著書に『日本一働きたい会社のつくりかた』(PHP研究所)。

人材採用は、目前の事業推進のみならず、経営理念を実現するためのもの
ビジョンを浸透させるべく、各部門にまで細分化したビジョンを設定して共有
採用活動でもビジョン・カルチャーを発信。採用後も手厚いフォローを
ビジョンを定め、すべてにおいて一貫した姿勢で取り組んでいく

「あらゆるLIFEを、FULLに。」という想いのもと、不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」をはじめ、人々の暮らしに関わる事業を展開する株式会社LIFULL。現在、国内のみならず海外63カ国にも事業を展開している成長の源は、その組織力にあります。

人事部門の責任者である羽田さんは、社員の有志を集め「日本一働きたい会社プロジェクト」を推進し、「ベストモチベーションカンパニーアワード」1位獲得や「働きがいのある会社」ベストカンパニー選出など、自社の組織づくりにおいて数々の功績を挙げてきました。なかでも注目を集めているのが、ビジョンやカルチャーへの理解・共感を重視した採用や社員教育です。今回は、その背景や狙い、実践している各種制度などについてお聞きしました。

人材採用は、目前の事業推進のみならず、経営理念を実現するためのもの

採用市場では、スキルや経歴だけでなく、企業のビジョン・カルチャーとのマッチングを重視する採用活動への注目が高まっています。御社の場合、ビジョンはどのようにつくられたのでしょうか? 

人材採用は、目前の事業推進のみならず、経営理念を実現するためのもの

羽田氏:弊社は1997年創業、ビジョンができたのは2005年4月です。当時の社員数は30名ほど。みんなで自分たちの目指すことを3~4カ月ほど議論して社是「利他主義」・経営理念・ガイドラインを記した「ビジョンカード」を作成しました。私が入社したのはその直後の6月です。

社是・経営理念は不変としていますが、ガイドラインは事業の変遷とともに改訂を重ね、現在の「ビジョンカード」は4代目です。改訂は有志のメンバーで行っているのですが、半年から1年ほど話し合っていますね。もちろん、勝手に決めるのではなく、経営陣や他社員とコミュニケーションを取りながら決定しています。

ビジョンカード

羽田さんご自身が推進された「日本一働きたい会社プロジェクト」によって、「ベストモチベーションカンパニーアワード」などを受賞されています。これはどのような活動だったのでしょう?

羽田氏:「日本一働きたい会社プロジェクト」については、2006年に会社が東証マザーズに上場したあと、新しい事業や海外展開を見据え組織のステージを上げていく一環として、2008年から始めました。役員、人事、有志の社員が集まっていくつかのプロジェクトを立ち上げ、「日本一の採用とは?」「日本一の人材育成とは?」など、人事・採用のための策を提案してもらい、良いものを取り入れるようにしていったのです。それが今の人事施策のベースになっています。

羽田さんは入社された当初から、ビジョンやカルチャーにマッチした採用活動を行っていたのでしょうか?

羽田氏:人事未経験だった私が入社したころ、採用活動で使う資料は「HOME’S(現LIFULL HOME’S)」や業務内容の説明が中心でした。事業の中心ですから当たり前ですね。しかし私はこの資料について疑問を抱いたんです。見つけるべきは、僕らと一緒に経営理念を目指してくれる仲間なんじゃないか。事業説明ばかりに力を入れては経営理念の実現に近づけないのではないか、と。そこで、人材採用について、経営理念に重きを置くように方針を変え、資料を改訂していきました。

見つけるべきは、僕らと一緒に経営理念を目指してくれる仲間なんじゃないか。

もちろん、これについて当時は賛否両論がありました。これまでの「『HOME’S』の説明を聞いて入社し、『HOME’S』の仕事をする」という、当たり前にあった流れが変わったからです。

しかし、ビジョン採用で入社した人からは、「住まい以外の事業をやりたい」「こんな事業をスタートしてはどうか」といった声が続々と上がりました。「HOME’S」の現場は少し混乱したかもしれませんが、私は5年後、10年後の将来を考えるとそれが正しいと思い、推進していきました。

一方で、スキル重視で採用をされていた時期もあったと聞きました。

羽田氏:はい。もともと採用はエージェントなどにアレンジしてもらって、社長の井上が最終面接を行っていましたが、徐々に井上の手が回らなくなり、最終面接の権限を各事業部長に委ねていたことがありました。当時は急激な成長フェーズにあり、会社全体で150名しかいないのに採用目標は100名、とは言えまだまだ会社の知名度もない…という時期。人手が足りないからこそ、部門によってはスキルを重視した採用を行っていました。

スキルのある方は短期的には実績を出し、評価されやすいです。役職も上がります。しかしながら、会社のビジョンや方針と合わない人も出てきます。実際、成長を重視するあまり少し手厳しいマネジメントをする人や、社是の「利他主義」に合わないような「単純に儲かればいい」という事業を提案する人などが現れ、社内の文化が乱れかねないようなことがありました。

ビジョンやカルチャーの重要性を再確認

羽田氏:最終面接の権限を、各事業部長ではなくいったん井上や私に戻しました。会社のビジョンやカルチャーに最も近い所にいる私たちは、面接で話す内容も採用基準も一貫している。そんな選考を経て採用した人材は、ビジョンをしっかり共有できている同志です。その人たちが社内でステップアップしていくのに伴い、組織づくりを進めていきました。現在は、一般社員がマネジャーなどに昇進する際の審査も、役員全員で話し合って決めています。そこでも能力や実績だけでなく、ビジョンやカルチャーなどの体現が求められます。

ビジョン・カルチャーの浸透が進み、今では採用の一次面接を担当する部門マネジャーや人事・採用担当者も、ビジョン・カルチャーを重視した採用活動を行えるようになっています。

ビジョンを浸透させるべく、各部門にまで細分化したビジョンを設定して共有

多くの社員にビジョンを浸透させていくのは難しいことだと思います。実際にどんな取り組みをしていますか?

羽田氏:まずは先ほど紹介したとおり、みんなで話し合ってつくるビジョンカードがありますね。また、社内で新規事業のアイデアを募る「SWITCH」という制度では、経営理念を実現する事業を提案してもらいます。また、全社員に対して年一回実施する「LIFULLテスト」というものもあります。これは経営理念についてはもちろんのことグループ企業も含めた各部門まで落とし込んだそれぞれのビジョンや戦略などを学ぶ資料を人事部門がつくり、それに基づいた内容のテストを受けてもらうというものです。

部門ごとにもビジョンがあるのですか?

羽田氏:はい。2013年に「ビジョンプロジェクト」が発足しました。これは有志の社員が集まり、ビジョンの浸透や体現を目指す活動です。その際、自分の目の前の仕事と経営理念が結びつかないという意見がありましたので、組織内の部門ごとに噛み砕いたビジョンをつくりました。

LIFULLテストいった試験だけでなく、ビジョンの浸透度を測る半年ごとの社内サーベイ、ほかに「360度フィードバック」といって、ガイドラインの体現度合いについて、ほかの社員から見た印象やコメントをフィードバックする仕組みもあります。これは社員だけでなく、役員も周りからフィードバックを受けるんですよ。

それから、新卒・中途の採用活動に現場の社員が関わるようにもしています。リクルーターであれば、当然会社のことを語らなければなりませんから、外に話すことで自分自身の経営理念の理解が深まるはずです。

組織内の部門ごとに噛み砕いたビジョン

かなりたくさんの施策が織り込まれていますね。

羽田氏:車や自転車の運転と同じです。運転も、最初は頭で意識しますが、そのうち慣れてスムーズにできるようになりますよね。会社の理念も、数々の学習やフィードバックの機会を設けることで、無意識に理念に従った行動できるようになると考えています。

採用活動でもビジョン・カルチャーを発信。採用後も手厚いフォローを

これから採用する人、社外の人に対しては、どのようにビジョンを伝える工夫をされているのでしょうか?

羽田氏:中途採用ですと、エージェントに依頼することが多いですね。エージェントへは定期的に説明会を行い、事業概要だけでなく、経営理念についても説明しています。あとは、私自身のFacebookやTwitterでの発信。当社のビジョン・カルチャー理解を深めていただけるような情報発信を行っていますので、それを見てくださっているエージェント・候補者の方もいらっしゃると思います。

エージェント側も御社を熟知したうえで人材を紹介されるんですね。実際の選考はどのようなプロセスで進行していきますか?

羽田氏:面接は3回あります。1次面接は採用する部門のマネジャーが、スキルやポテンシャルを。2次では、さらに上のマネジメント層が、主にカルチャーへのフィットを見ます。このとき適性検査もあり、さらに進む場合は拙著(『日本一働きたい会社のつくりかた』)をお渡しするなど、弊社のことを知っていただくようお願いしているんです。最終面接は、私や部門の役員クラスのメンバーによって、ビジョンやカルチャーにフィットしているか、ポテンシャルがあるかどうかを判断します。

徐々にビジョンへの理解が進むようなプロセスですね。その中で羽田さんは、特にどういった点を基準にしてビジョン・カルチャーフィットをチェックされているのでしょう?

羽田氏:適性結果の分析結果も参照し、面接時の応対や所作なども含め、総合的に見ています。ビジョンについては新卒の場合、「こういう事業をやってみたいです!」といった未来への志向性を重視しますが、中途採用の方の場合は、ビジョンに共感する部分があるかどうかを判断するために、共感しているとおっしゃっていただけた理由やこれまでのリアルな体験を詳しく聞くようにしますね。もちろん面接で私たちに見せている一面だけでなく、エージェントからのお話や中途採用担当からの情報など、各関係者からの評価も重要です。

入社後のソフト面のサポートも、オンボーディングにおいては必要不可欠です。新入社員向けの研修などはありますか?

羽田氏:絶えず社員が入社していますので、現状ほぼ毎月入社式があります。入社式には毎回社長の井上が登壇し、正社員・契約社員・派遣社員…雇用形態を問わず、ともに働く「同志」としてお迎えしています。

また入社された方には、所属部門の上司以外に、職種は同じだけど部門は違う上位職の人をメンターとしてつなぐ「START」という制度があります。職種については理解がありつつ、部門が異なるので気軽に相談しやすい、という関係ですね。ほかの部門の人と交流することは、ビジョンの浸透にもつながります。

「START」という制度

ビジョンを定め、すべてにおいて一貫した姿勢で取り組んでいく

御社のように、組織全体のビジョン・カルチャーの理解を深めようとする際、人事部門にはどんなことが求められると思いますか?

羽田氏:大切なのは、ビジョン・カルチャーに関して一貫性のある会社であることです。そのためには、まず一つ目にビジョン・カルチャーを定め、そして二つ目にビジョン・カルチャーと一貫性のある経営をする、そして最後にビジョン・カルチャーに合った人を採用することです。人事の立場でしたら、採用や入社後のサポートに注力することになるでしょう。

すなわち、ビジョン・カルチャーを確認・浸透させるべくアンケートをとるなどのフィードバックがなされる施策を行う、ビジョン・カルチャーにフィットした人を昇進させていく仕組みをつくるなどです。ビジョン・カルチャーのもと、自分が何をできるかを考え、足元の仕事をしっかり実行していく社員を採用して育成する…それらを総合したものが、会社の一貫性をつくっていきます。

弊社の採用広報についても、出稿メディアの選択基準や、開催するイベントの内容、SNSでの発信まで、すべて一貫した姿勢で取り組んでいます。私たちは革進する人を求めているので、そういった人たちが集まるメディアやエージェントなど、価値観が合うところを選んで発信しています。

今日のお話も非常に一貫性のあるものでした。革進的な志向を持ったメンバーたちと共に、今後はどのような挑戦をしていきますか? 

羽田氏:私たちは「世界最高のチーム」を目指しています。会社として、『世界中のあらゆる「LIFE」を、安心と喜びで「FULL」にしたい。』と考えており、世界中の人が、豊かだとか、便利だとかいうことを感じられるように事業を広げていきたいのです。そのために、現在のメンバーは非常に優秀でレベルが高いですが、より一層プロのチームとして磨きをかけていく必要があります。

そして、2025年までにグループ100社、100カ国での事業展開という目標を掲げています。このチャレンジに加わってくれる人を集めることも、目下の経営課題。エンジニア、マーケター、セールスなど職種を問わず、「事業を創っていく」という気概のある人をもっともっと集めなければなりません。

ビジョンを定め、すべてにおいて一貫した姿勢で取り組んでいく

【取材後記】

ガイドラインなど人事制度を改定する際には、十分な数の有志社員が自然と集まってくるとのこと。そんなLIFULLの文化は、他の企業も見習いたいところではないでしょうか。こうした組織となるまで理念やビジョンを全社に浸透していくには、想像を超えたご苦労があったと思います。しかしながら、羽田氏の「ビジョン・カルチャーに関して一貫性のある会社であること」という説明は非常にシンプルで、加えて明るい語り口によって、すんなりと理解することができました。

視座を高く置き、相手にわかりやすく伝えて、しっかりフォローしていくことが、人材育成や組織づくりにおいて大切であると認識させられました。

(取材・文/森 英信、撮影/黒羽 政士、編集/檜垣 優香(プレスラボ)、担当/齋藤 裕美子)