EV化が加速する自動車業界。日産自動車が目指す2030年に向けた「人材採用と育成」とは

2022.04.07
日産自動車株式会社

人事本部 理事(VP)
小阪 享司(こさか・たかし)

1994年日産自動車株式会社入社。工場人事、人事企画、北米人事、アライアンスを含む部門人事など、戦略企画から労務⼈事管理まで⼈事全般をグローバル×リージョン軸で幅広く歴任。2020年人事本部副本部長を経て2022年同社人事本部理事(VP)に就任。

日産自動車における中長期的な人材採用・育成の展望や課題について
人材育成とスキルの見える化で会社のパフォーマンスを最大化する
採用における日産自動車独自の強みに迫る
日産自動車に求められる人材の資質とは

「共に切り拓く モビリティとその先へ」をスローガンとした長期ビジョン、「Nissan Ambition 2030」を発表した日産自動車株式会社。今後10年間でワクワクする電動車とイノベーションの提供、またグローバル事業の拡大を目指している。

同社はEV化が進む自動車業界で先進技術を加速させるため、2030年までに3,000人以上の従業員の採用を目指すという。大きく変化しつつある自動車業界において、人材採用や育成における中長期的な展望に注目した。
2030年を見据え、グローバルに通用する高度な専門性を持つ人材獲得への取り組みや、克服すべき課題などについて、人事本部 理事(VP)の小阪 享司氏にお話を伺った。

(聞き手:パーソルキャリア株式会社 プラス事業部 事業部長 藤田芳彦)

日産自動車における中長期的な人材採用・育成の展望や課題について

――2030年を見据えた中長期的な人材採用・育成の展望や、今取り組まれている施策などをお聞かせください。

小阪氏:2030年を見据え、人材採用においては2つのテーマがあると考えています。

1つ目は、世の中の期待やニーズに応えられる人材と出会うこと。

世間で取りざたされているEVや自動車事業のサービス化において、いかに商品やサービスの価値を高め、お客様に選んでいただけるようになるかということを考え、具現化できる人を求めています。

2つ目は、高度な専門性を備えた人材の確保です。

昨今、多くの日本企業がグローバル化を目指していることもあり、海外で通用するハイレベルな人材採用が難しくなっています。エンジニアリング以外でも、一般管理職やマーケティングアンドセールスといった領域における、市場価値の高い人材の獲得競争に勝つことは非常に重要です。

もちろん、世界に通用するレベルのスキルや専門性があれば国籍は問いません。実際に、当社のコントロール&ファイナンス(*)部門では、中国系アメリカ人の方やインドの方などがキーポストに就いており、世界に通用するレベルの人材が高いパフォーマンスを発揮しています。

(*)コントロール&ファイナンス:会社の運営を資金面から支え、持続可能な経営を行うためのサポートを担う部門
――キーポストに着任できる日本人リーダーを、社内で育成することもあるのでしょうか。

小阪氏:もちろんです。グローバル展開する上で、我々が日本企業であることを認知してもらう必要があります。自動車業界では「どこの国のメーカーなのか」という点が非常に重要で、キーポストに日本人がいることで、日産自動車が日本企業だと認知されることになるのです。

日本人ビジネスリーダーの育成を強化するために、若手社員を対象に「Global Challenge Program(GCP)」というプロジェクトにも取り組んでいます。厳選した社員を海外の事業所に長期出張させ、フロントラインの経験を積みながら、難易度の高い仕事にチャレンジするというものです。

――2030年に向け、来年からの採用活動はどのように進めていく予定でしょうか。

小阪氏:「Nissan Ambition 2030」でも発表しましたが、2030年までに先進技術領域で3,000人以上の従業員を採用する予定があります。新卒採用と中途採用。それぞれで年間の計画を立てて取り組んでいく計画です。直近数年間は採用スピードを落としていたのですが、来年度からは体制の補強を目的に、まずは中途採用を加速しなければならないと考えています。

――現在、採用における課題があればお聞かせください。

小阪氏:当社はグローバルな職場環境で、ダイバーシティも尊重されています。他社と比較しても外国人従業員が多く、多国籍な環境で働けることはポジティブに受け止められています。

一方で、モノづくりの現場では日本的な部分も多くあります。一つ一つの部品を組み立てる現場の仕事で重視されるのは、高いチームワークや最後まで確実にやり遂げる力です。

今後は、従来指摘されてきたグローバル vs 日本というような対立軸ではなく、日本においても個人の価値観を重要視する世の中に変わりつつある中、会社の方針と個人の価値観のバランスをどううまくとるべきか、その加減が難しくなってくると感じています。

人材育成とスキルの見える化で会社のパフォーマンスを最大化する

――「適所適材」や「リスキリング」については、どのようにお考えですか。

小阪氏:当社は職種別に採用しているため、本人の意図と会社の実態にギャップがなければ、業務上は適所適材になっているはずです。

また、別の業務に興味がある場合は、異動希望を出せる制度もあります。個人の意思や希望はなるべく汲みとり、異動希望を叶える方針ですので、現在の部署でしっかり成果を出せていれば、自分が思い描くキャリアを引き寄せることもできます。

一方で、希望を聞きすぎてしまうと組織として成り立たなくなってしまうので、度合いが難しいところです。

変化し続ける自動車業界において、必要な技術や知識を外部に求めることもありますが、社内での育成にも力を入れています。リスキリング、すなわちスキルの向上を図るためには、どこの部門で、どんなスキルが足りないのか。将来必要になる人材やスキルはどのようなものなのかを把握する必要があります。

本社にいると実態の把握が難しいので、人事部門と各部門がきちんと相談し、育成計画にリスキリングを織り込んでいくことが重要になります。そのため、従業員を管理する立場であるマネージャーがもつべき能力やケイパビリティを示し、サポートすることにも注力しています。

我々人事部門がすべきことは、グループ全体の人財を最適に配置・活用し、グループ全体のパフォーマンスを最大化すること。かつては部門や地域で人材育成をバラバラに行っていましたが、現在では人材をグローバルで管理するようになりました。

――人材開発を進める上で、タレントマネジメントやスキルアセスメントなどが重要になるということですね。では、スキルの可視化はどのように実施されているのでしょうか。

小阪氏:スキルの可視化については、「Workday(ワークデイ)」というクラウド型人事ソリューションシステムを導入し、各従業員の所属部門や業務内容、役割にタグを付けて管理。各領域のリソースや保有するスキルレベルなどをデータで確認できるような取り組みが進行中です。

しかし、3万人にも及ぶ社員のスキルを細かく管理することは、容易なことではありません。データを活用するためには、一貫してデータ収集を継続していく必要もあります。

「スキル管理」というとかっこよく聞こえますが、誰が、どうデータ管理を行うかをきちんと決め、責任をもって丁寧にやっていかなければなりません。

採用における日産自動車独自の強みに迫る

――人事や採用における他社との差別化についてどう捉えていますか。

小阪氏:他社と比較すると、事業規模が大きいことやダイバーシティな職場である点が、人によっては魅力を感じるポイントではないでしょうか。もちろん、「カー・オブ・ザ・イヤー」の受賞や、SUV「日産アリア/ARIYA」の高評価などの実績をはじめ、商品自体に魅力を感じて入社してくれる従業員がいることも事実です。

また、同じ枠組みの中に無理やり当てはめようとしない文化に魅力を感じてくれる人もいます。

「すべては一人ひとりの意欲から始まる」というコーポレートカルチャーがあるように、個々の価値観を尊重する点も差別化の一つと言えるでしょう。

――御社ではかなり前からダイバーシティに取り組まれていますね。

小阪氏:一言でダイバーシティといっても様々な側面がありますが、日本で今さかんに発信されている「ダイバーシティ」とは、男性か女性かということぐらいで、本来はもっと大きなテーマだと思います。また、「ダイバーシティに取り組んでいる」という、単なるアピールで終わってしまっているケースも散見されます。

当社ではトップの強力な発信のもと、ダイバーシティに力を入れてきましたので、非常にバラエティに富んだ人員構成になっていると自負しています。

ですから様々な価値観を持つ人がそれぞれのスキルと知識を生かすことで、お客様の多様なニーズにお応えしたいと努力しています。

日産自動車に求められる人材の資質とは

――今後自動車業界において、欠かせないスキルや求められる資質があればお聞かせください。

小阪氏:エンジニアリングの領域では、かつて多勢を占めていた機械工学系から、電気系やIT系にシフトしつつあります。当然、機械工学系の技術は今後も必要ですが、徐々に全体の割合が変わってきているということです。

資質の観点からお話しすると、より一層多様なバックグラウンドやバラエティに富んだ経験を持つ人材に目を向けて行きたいと考えています。

極端に言えば、英語力や専門性において当社の採用基準を下回っていても、これまでの経験から培ったタフさや、客観的な視点を持つ人材が必要だと思うのです。

当社の核は、「モノづくりメーカー」であるということ。事業が机上のみで展開されているのではなく、何万点という部品から自動車が成り立っていること、また1台の車が何万人もの人によって作られていることを理解できる人が求められると思います。

――現場を知らずに人事は務まらない、というわけですね。

小阪氏:時代は常に変化していて、人事のあり方についての議論も様々です。世間の流れに惑わされることなく、何をどうすべきかと冷静に見極める。本当に正しいことを、本社と現場がしっかりコミュニケーションをとりながら進めていくことが重要だと思います。

――ありがとうございました。

(聞き手:パーソルキャリア株式会社 プラス事業部 事業部長 藤田芳彦)

【取材後記】

常に挑戦する姿勢を崩さす、グローバル化やEV化など変わりつづける日産自動車。一方で、日本人ビジネスリーダーの育成に取り組み、世界に国産ブランドのさらなる認知拡大を目指している。「Nissan Ambition 2030」に向け、新たに大きな変革を迎えようとしている日産自動車の、これからの躍進に期待したい。

企画・編集/鈴政武尊・d’s JOURNAL編集部、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション

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