世界中で活躍する富士フイルム製品のソフトウエア開発を担う技術者集団の悩み。フランス人人事課長を迎えた「心理的安全性」の高い組織とは

2022.03.30
富士フイルムソフトウエア株式会社

経営・管理本部長
北本 政嗣(きたもと・まさつぐ)

1989年、富士フイルムに入社。2020年、富士フイルムソフトウエアへ入社。現在は経営・管理本部長を務め、心理的安全性を重点課題に据える。

富士フイルムソフトウエア株式会社

人事グループ長
小野寺 健(おのでら・けん)

1991年、富士フイルムソフトウエア設立当時に中途入社。社長と数名のスタッフと共に、富士フイルムソフトウエアを立ち上げてきた。2018年、人事グループ長に就任。

富士フイルムソフトウエア株式会社

人事課長(採用・教育担当)
Looten David (ローテン・ダヴィッド)

フランス出身。20年前から日本とシンガポールでビジネスを展開。富士フイルムソフトウエアに派遣社員として参画後、海外人材の活用や人材強化・組織強化を期待され正社員として人事グループに入社。マネジメントの経験を活かしながら採用・教育を通じて心理的安全性向上に注力。

「開発力のその先へ」 働きがいある職場を目指す富士フイルムソフトウエア
心理的安全性の向上ために改善すべきは「上司からの支援」と「チームの協力体制」
内省的・精神的支援を促すために行われている施策とは
発言を躊躇しないチャレンジングな組織で「人にやさしいソフトウエア開発」を目指す

富士フイルムソフトウエアは、富士フイルムグループの事業横断的ソフトウエア開発会社だ。同グループが展開する各種事業において、ソフトウエアの開発や運用、ITインフラサービスを担っている。

多くの外国籍人材を抱える同社は、組織でのコミュニケーションの改善施策に取り組む。「相談できる」「挑戦できる」「発言できる」組織づくりと同時に、社員一人ひとりが成長するための「支援」を強化している。

今回は、職場における「心理的安全性(*1)」向上に注力する背景や、その取り組みについて、経営・管理本部長の北本氏、人事グループ長の小野寺氏、人事課長のローテン氏にお話を伺った。

一流の開発プロセスやマネジメント力を持つ組織にも意外な悩みがある――? 今回は洗練された開発組織ならではの悩みや改善の取り組みにスポットを当ててみよう。

(*1) 心理的安全性(psychological safety):反対意見を述べたり疑問を呈したりしても、否定・非難されることのない安全な組織であるという概念。メンバーやチームのパフォーマンス向上において重要な要素として注目されている。

「開発力のその先へ」 働きがいある職場を目指す富士フイルムソフトウエア

● 富士フイルムソフトウエア(FFS)における課題や、心理的安全性の向上に取り組まれたきっかけなどを聞かせください。

小野寺氏:ソフトウエア業界はどの企業も、「残業が多い」「人材不足」など、さまざまな課題を抱えています。また、開発では品質問題が発生すると、その対応に多くの工数を要し計画以上のコストが発生しますので、個々の開発でいかに品質をコントロールするかが重要な課題になります。

そうした中で、当社は失敗プロジェクト撲滅を図るために、全社をあげて「プロジェクトマネジメント力の強化」と「プロセスの改善」に取り組んできました。おかげで、プロセス改善では「CMMI(*2)レベル5」の認定を取得できましたし、現在は開発プロジェクトもほぼ失敗なく、計画通り遂行できる力をつけたと自負しています。

(*2) CMMI (Capability Maturity Model Integration):能力成熟度モデル統合

また、働き方改革の成果として、月平均で約34時間だった残業時間は、20時間を下回るまで改善しています。

ソフトウエア開発会社としてはしっかり力をつけ、働き方も改善できたと思っていますが、それでも毎年一定数の社員の離職がありました。離職率はそれほど高くはないものの、一緒にやってきた仲間が辞めることに対する残念な気持ちや問題意識はありました。

どうして離職が発生するのか――。その理由を探ってみますと、確かに素晴らしい製品を開発している自負は社員それぞれが持っているのですが、それを成り立たせている開発プロセスやプロジェクトマネジメントの在り方が、個人のアイデアや裁量の発揮を押さえてしまっているように感じました。

高いQCD(Quality、Cost、Delivery/品質、コスト、納期)を達成するために、プロセスやマネジメントは絶対に必要ですが、創造や自律を好む社員にとっては面白みややりがいを感じられなくなる。故に会社を去っていくのではないかと考えました。

そうした中で、当時の社長が「働き方改革」を一歩進め、「働きがい改革」に取り組もうと指示を出し、その一環でグーグル合同会社が取り組む「チームの生産性向上プロジェクト」などを学びました。このような経緯で、心理的安全性の向上に取り組み始めたということです。

ローテン氏:私は富士フイルムソフトウエアが日本で勤める初めての企業となったのですが、当時日本には「心理的安全性」という概念があまり浸透していないことに驚きました。上司や同僚との関係性が、これまで自分が経験してきたものと大きく異なり、大変なショックを受けたのです。

例えば、海外では職場においても、冗談を言い合ったり悩み相談をしたりというような、親密なコミュニケーションを大切にしています。私自身も、メンバーと食事に出かけたり、家族ぐるみの付き合いをしたりと、フレンドリーな雰囲気の中で仕事をしてきました。

海外とは全く違う状況について悩んでいたところに、追い打ちを掛けるように新型コロナウイルスの影響で海外人材の採用が中断。この時間を活用して、心理的安全性の向上に力を入れようと考えました。

心理的安全性の向上ために改善すべきは「上司からの支援」と「チームの協力体制」

● 「働きがい改革」に向けて心理的安全性に着手されたということですが、その理由や、改善が必要となったポイントについて聞かせください。

北本氏:心理的安全性はあくまでも土台。これが向上しても業績が倍になるわけではありませんし、辞める人がゼロになるわけでもありません。

しかし、クリエイティブな仕事をするためには、多様な意見を取り入れることは欠かせません。そのためにも、自分の意見や考えを自由に発言できる「心理的安全性」と、お互いの「リスペクト」が必要不可欠な要素だと捉えています。

ローテン氏:「リスペクト」というのは本当に重要な要素ですね。具体的に改善すべきポイントは2つあると考えます。

1つ目は、問題解決に対する上司からの「支援」です。以前、外国人のメンバーが問題を解決できずに一人で悩んだ結果、モチベーションが低下したということがありました。困ったときに躊躇せず、気軽に相談できてサポートが得られれば、仕事の質が上がることは明白です。

2つ目の改善ポイントは「協力」です。自分の役割・目標・課題をしっかり認識し、達成を目指して集中できているのは良いのですが、他のメンバーが困っていることに気づいたり、声を掛け合ったりするという協力体制も大切です。

お互いに助け合うことでストレスが軽減され、チーム全体のパフォーマンスが上がります。仲間の課題や問題にも積極的に関わっていける、家族のような関係性の組織を目指したいと考えています。

小野寺氏:今、ローテンさんがお話しした「支援」ですが、上司からの支援は「業務的支援」「内省的支援」「精神的支援」の3つに分類しています。

「業務的支援」とは、上司が部下に対する業務への取り組み方や、課題解決に対して良し悪しのジャッジをする・アドバイスをするなどの支援です。「内省的支援」とは、部下の成長を促すような問いを立て、考えさせ、自らが解決策や答えを導き出せるように、成長を促すこと。そして「精神的支援」とは、不安や悩みに対して精神的に支えることを意味します。

当社は「業務的支援」は強いものの、「内省的支援」「精神的支援」についてはまだまだ改善の余地があります。この2点について現在強化しているところです。

内省的・精神的支援を促すために行われている施策とは

● 内省的、精神的支援をどう促していくのか、どのような施策、環境づくりをされているのかを聞かせてください。

ローテン氏:社内を観察してみると、例えば上司と部下との会話ではこのようなやりとりをしています。

「今期の目標達成状況は?」
「次のステップに行くための施策は?」
「遅れている原因は?」――。

以上のような、進捗や出来栄えに関する業務中心の会話がどうしても多くなります。

しかし、メンバーが問題や悩みを相談しやすくするためには、「ハイ、元気?」「週末はどんなふうに過ごしたの?」といった、自然な会話が不可欠。家族と食事をしながら自分の気持ちを伝えるように、親密なコミュニケーションが職場でも重要なのです。

コミュニケーションを深めるために、上司とメンバーの「1on1ミーティング」も導入し始めています。しかし、その意図がわかっていないと単なる会議に終わってしまい、求める成果に結びつきません。ミーティング実施を促進するだけでなく、裏にある意図や目的について理解を求める努力も必要だと感じています。

「心理的安全性」について共通認識をもつことも、より良い効果を得る重要なポイントになるでしょう。

● 話しやすい雰囲気を作るには、上司の理解が必要ということですね。それ以外に上司と部下のより良い関係を作るために行っておられる施策があれば教えてください。

小野寺氏:内省的支援、精神的支援が実施されるためには、まずこれまでの業務支援中心の上司のマネジメントスタイルを変える必要があります。

そのための施策として2019年から「UFS(Upward Feedback Survey)」を実施しています。これは、部下が自分の上司のマネジメント行動についていくつかの観点で評価するものです。

評価された本人(上司)は、サーベイ結果を受け、自身のマネジメント行動について振り返り、その想いを部下にフィードバックしてもらうのですが、これを通して上司と部下の相互理解を深めて信頼関係を強化し、内省的、精神的支援が実現します。より協力的な組織に成長させたいというのが狙いです。

ローテン氏:そのほかにも、モチベーションを維持・向上させる言葉遣いや、コミュニケーションの取り方についてのワークショップなどもマネジャー向けに実施していきます。

● メンバーのモチベーションを保つためにどのようなコミュニケーションを大事にするべきだと思いますか?

小野寺氏:モチベーションを維持・向上するためには、成果だけでなく、プロセスの評価も大切です。上司はメンバーを日々観察し、たとえ目標が達成できなくても、取り組みへの評価やねぎらい、感謝や賞賛の言葉を伝えるようにしてほしいですね。

当社では評価をする際、「結果」と「プロセス」の二軸で見ています。プロセスに関しては「半期に1度」というタイミングだけで振り返り評価することは難しく、普段からメンバーの取り組み方に対し都度フィードバックしていくことが大事だと思います。

発言を躊躇しないチャレンジングな組織で「人にやさしいソフトウエア開発」を目指す

● ローテンさんは環境の違いにショックを受けたということでしたが、海外と日本のコミュニケーションの違いについてどう思われますか。

ローテン氏:海外の職場では、メンバーが上司に意見することはよくあることです。文化の違いもありますが、これらのコミュニケーションについては日本ではあまり見かけない光景ですね。

意見があっても言えないということは、外国人でも日本人でもストレスが溜まる要因です。外国人か日本人かに関わらず、普段から積極的に意見を言い合えるフランクなコミュニケーションを大切にしたいと思います。

小野寺氏:日本人は他人や周囲を気にして我慢してしまうことが多いので、自分の考えを大事にし、周囲に臆せず意見表明する海外のやり方を見習いたいと思います。和を重んじることも大切ですが、時には正直に自分の気持ちを話せるとよいですよね。そのためにも、まずは組織における心理的安全性の向上が大事です。

● 挑戦や発言を躊躇せずに行える環境において、どんな人材を求めていますか?

小野寺氏:当社は多くのITベンダーとは異なり、メーカーのソフトウエア開発機能会社で、製品の仕様決めから設計、実装と開発の上流から下流まで、全ての工程に関われることが魅力です。自らのアイデアが製品に反映されることもありますので、より良い製品、サービスの実現に拘りを持ち、積極的に人や仕事に関われる人が合っているでしょう。

富士フイルムの製品のソフトウエアを開発するということは、世界ナンバーワンの製品、オンリーワンの製品を作るということですから、我々はそのプライドや使命感を持ちながら、日々成長していける仲間でありたいです。

良いものを作るために、意見を戦わせながら切磋琢磨できるチームが理想。今はまだ基礎固めの段階で、これからまだまだ成長が必要と考え、さまざまな職種で積極的に採用も行っています。

● 心理的安全性という土台をつくった上で、今後目指していきたい組織とは?

北本氏:「新しい技術を取り入れてみたい」「考えているアイデアを試してみたい」などの挑戦を、今以上に躊躇せずできる組織にしたいと考えています。上層部が改善案を出すのではなく、みんなで一緒に考えて、答えを見出せるような関係を構築していきます。

「ソフトウエア」「デジタル」というと堅いイメージが強いと思いますが、当社では「人にやさしいソフトウエア開発」をテーマに掲げています。

人にやさしい技術を生み出すこと。この考えを共にできる人と良い組織を作り、意見を交わしながら切磋琢磨していきたいと考えています。

【取材後記】

富士フイルムソフトウエアは、国内屈指のソフトウエア開発会社としてさらなる組織の成長を目指し、社員がやりがいを感じられる環境構築に取り組んでいる。今組織の成長に必要不可欠である「心理的安全性」は、自然なコミュニケーションが基礎にあるという。
古くは封建社会、儒教的な文化などを背景に社会を歩んできた日本人にとってこれほど重視しなければならない概念もないのではないだろうか。コロナ禍によりリモートワークで物理的な距離がある中、業務以外の会話ができる仕組みづくりが、心理的安全性を確保する大きな一歩になるようだ。

取材・文/鈴政武尊、瀧澤明日香、編集/鈴政武尊・d’s journal編集部

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