2期連続で過去最高利益を更新したNECが、「キャリア採用」を3年で6倍超に増やした理由。22年度の戦略とは――

日本電気株式会社(NEC)

Head of Talent Acquisition
山岸真弓(やまぎし・まゆみ)

2019年にNECへキャリア入社。20代半ばで人事を軸に自身のキャリアを形づくっていく決意をして以来、外資系企業で組織開発やタレントアクイジションなどに従事。2015年にはシンガポールに赴任し、APACのHR担当としてシンガポール、香港、上海、ソウル、シカゴの人事業務すべてを担当

NECがキャリア採用を積極的に行い始めた理由
キャリア採用入社者の充実で社内の雰囲気がまたたく間に変化していった
軌道にのったキャリア採用、今後の課題は?
NECの雇用・報酬・人材配置について
生き生きと働ける職場づくりが企業成長を促進する

2期連続で過去最高の最終利益を更新している大手IT 企業の日本電気株式会社(NEC、港区・執行役員社長 兼 CEO 森田 隆之)は、現在、変革の最中にある。

価値提供型ビジネスモデルへの転換に挑む同社は、「パーパス(Purpose)経営(*1)」を具現化すべく、社内カルチャー変革にむけた取り組みを行っている。2018年からは採用領域でも大きな変化が起こっており、「新卒採用一辺倒」ともいえる方針を見直し、キャリア採用を積極的に進めているのだ。

今回は、人材組織開発部で採用をリードする山岸真弓氏に、NECの採用現場の変化、そして22年度の展望と戦略について話を伺った。

(聞き手:パーソルキャリア株式会社 執行役員 大浦征也)

(*1)パーパス経営:自社の理念や存在意義を明確にもち、どう社会や世界に貢献できるかを重視した経営のこと(参照記事:パーパス(purpose)とは?注目される理由や「パーパス経営」「パーパスドリブン」などの関連用語をわかりやすく解説

NECがキャリア採用を積極的に行い始めた理由

――転職市場では数年前から「NECがキャリア採用を始めた!」と話題になっています。近年の状況について教えてください。

山岸真弓氏(以下、山岸氏):NECはこれまで新卒重視の採用を行っており、キャリア採用をほとんど行ってきませんでした。

NECには約2万人の社員がいますが、2017年のキャリア採用の人数は50人程度。18年は100人未満でした。2018年に「カルチャー変革本部」が設立され、多様性の観点の一つとしてキャリア採用を活性化させようという方針が打ちだされて以降、キャリア採用者の数は順調に増えています。2019年度は270人、2020年度は380人、今年度は現時点(取材時2022年2月)で600人を超えています。

かくいう私自身もNECにはキャリア採用入社です。前職は外資系企業で組織開発・人事業務を担い、2019年5月にNECに入社しました。

――経営におけるキャリア採用の位置付けを教えてください。

山岸氏:NECの事業戦略は3つの柱があります。

「日本を含むグローバルでの事業フォーカス」、「国内IT事業のトランスフォーメーション」、「次の柱となる成長事業の創造」です。

これらの事業戦略の実現加速化に向けて、即戦力としてのキャリア採用人材に大いに期待しています。特にキャリア採用で入社された方に期待したいのは、これらの事業戦略に対してコミットしていけるマインドセット、そして改革を一緒に促してくれるようなスキルセットです。こうした方々と一緒に働いていきたいと考えています。

――人材組織開発部としてキャリア採用を拡大するにあたり、苦労した点はありましたか?

山岸氏:最初に苦労したのが、NEC社内に「キャリア採用」という概念がほとんど浸透していなかった点です。

私が入社した2019年当時には、中途入社の社員向けのオンボーディング(新たな社員の受け入れのプログラム)が用意されておらず、「新たにオンボーディングの仕組みを作らねば」と感じたほどでした。

これまでの採用チームはキャリア採用の経験が不足していたので、私も含めた外からのメンバーと、NEC内部の知識を融合。キャリア採用の業務自体を一から立ち上げてきました。

おかげさまで、今はありとあらゆる業態、業種の経験者を採用することができています。

――キャリア採用が一般的ではなかったNECの文化や常識を変えるために実行されたことはありますか。

山岸氏:最初に行ったのが、現場の皆さんの現状と理想を洗い出し、ギャップを分析することでした。そのために「人材は必要なのに、なぜキャリア採用に抵抗感があるのか」という質問を、半年ほどかけて色々な部署の人に聞いて回りました。

これまでのNECでは、「人材は新卒で入社するもの」という考え方が普通で、経験ある、優秀な人材を獲得しにいく、という概念がありませんでした。しかし、座って待っていても、優秀な中途入社者が集まるわけがありません。

私はこれまで外資系企業における勤務経験しかなく、NECが初めて携わった日本企業。当初はカルチャーギャップに苦労しましたが、「人材組織開発部にとって社内の人たちはお客様」というスタンスを重視して、現場、キャリア採用者、採用チームの三者が満足できる関係を大切にしてきました。


キャリア採用入社者の充実で社内の雰囲気がまたたく間に変化していった

――社内の雰囲気はどのように変化していったのでしょうか。

山岸氏:ひとつの部門にキャリア採用者が入社して2~3カ月ほど経つと、「隣の部門が採用チームとうまく連携して、良い人が採用できている」と、他の部門が注目している様子が見えてくるんですね。

「じゃあ、うちの部門も」という感じで、どんどん現場と採用チームの良い関係が広がっていき、2年という、比較的短い期間でキャリア採用の位置づけが確立されていきました。結果が出るのが早いのは、キャリア採用業務ならではだと思います。

今年(2022年)の1月には、2022年度からの新しい執行役員体制が発表されました。NECにとって、創立122年目にして女性が2名同時に役員となるのは初めてのことであり、そのうちの1人は、2020年に中途で入社した社員なのです。

会社として「ダイバーシティ & インクルージョン(*2)」に真剣に取り組んでいくという、気概のようなものが感じられます。

(*2)ダイバーシティ & インクルージョン/diversity &inclusion:多様なバックグラウンドを持つ人を登用・受容し、一体となって価値を創造・提供していくこと(関連記事:デル・テクノロジーズが構想する日本らしさを活かしたdiversity&inclusion

軌道にのったキャリア採用、今後の課題は?

――現状では、どのようなルートで採用が行われていますか?

山岸氏:2021年度には、直接採用の基盤となる採用サイトをリニューアルし強化しています。社員の知人を候補者として紹介してもらう「リファラルプログラム」の導入や、スカウト媒体を利用した「ダイレクトソーシング」の専門チームを立ち上げ、600人中約160人を直接採用することが出来ました。そのほかは転職エージェント経由の採用です。

「今までキャリア採用をしていなかったNECが、キャリア採用で人材を採用しはじめた」と、転職市場でトピックとなったのも追い風となりました。

――キャリア採用の拡大に際し、心掛けたことはありますか?

山岸氏:1つ心がけたのは、転職エージェントとの関係性です。私たちはエージェントを選ぶ立場ではありますが、我々も選ばれる立場であり、パートナーである。そういうことを念頭において活動するよう、社内の採用トレーニングでも現場の社員に啓発をしています。

――現時点で、山岸さんが感じている課題はありますか?

山岸氏:課題を含む改善できる事は常に山積み。22年度からは「キャリア採用の創業期」から、次のフェーズに入る段階だと思います。

プラットフォームのベースは固まってきましたので、適正なシステムを入れて、分析しながら進めていく必要があります。同時に、中途入社の社員にどう活躍してもらうかという点も、より強化していくべきポイントです。

採用の難度が上がる中で「タレントプール(優秀な人材を確保し、留めること)」をどう管理するのか、というのも課題ですね。

また一方で、キャンディデイト エクスペリエンス/Candidate Experience(採用プロセスにおける候補者体験)の積み上げも、基本を固めて今後ナレッジとして向上できる余地も十分にあると思います。


NECの雇用・報酬・人材配置について

――日本では「ジョブ型雇用」というワードが注目されています。NECではジョブ型雇用についてどのようなスタンスをお持ちでしょうか。

山岸氏:「ジョブ型」という言葉は、日本の企業でいろんな使われ方、解釈のされ方をしている言葉だと感じます。キャリア採用は求人票ベースなので、既にジョブ型で採用しているケースもあるでしょう。ただ中には「ジョブ」の内容がぼやけている求人も見受けられます。

ジョブ型雇用を「仕事に人を合わせていくシステム」と定義するなら、NECはジョブ型の導入を模索している状況と言えます。当社は「HR方針」において、「多様な挑戦機会」「限りない成長機会」「フェアな評価」「ベストを尽くせる環境」を掲げており、これらの指針に則して、ジョブ型に移行していきたいと考えています。

いずれにしても、今後の若い世代は「自分はこの仕事につきたい」と、意思をもって就職をする人が増えていくでしょう。会社都合で人材を動かすというよりは、自分でキャリアの軸を決めて、その中でキャリアを積んでいくというスタイルが主流になっていくのではないでしょうか。

――人材配置についてカルチャーの変化はありましたか?

山岸氏:NECは会社主導のジョブローテーションによって、ジェネラリスト的に活躍している人が多い風土がありましたが、近年は社内公募制が活性化し、主体的な異動例も増えてきました。

そうした取り組みのベースは「適時・適所・適材」です。そのとき必要な場所に、適した人材を置く、という考え方です。

社内公募の登録者数が増え、募集すると手が挙がってくるようになりました。自らのキャリアを自発的に作るという、スタートラインに立ったような感じです。社内を活性化させる意味でも、この制度がよい刺激になっているようです。

――報酬体系についてはいかがでしょうか。

山岸氏:ニッチなスキルを持った人材については、採用が難しい領域もあります。ビジネスのニーズに合わせて必要な人材を獲得していくためには、求められるスキルによって報酬のスキームが変わるというような、柔軟な報酬制度が望ましいでしょう。

これまで通りの、「みんな一律」という仕組みでは難しいタイミングに差し掛かっています。


生き生きと働ける職場づくりが企業成長を促進する

――ここ2~3年で大きく変化しているNECですが、長い歴史の中で大切にしたい「NECらしさ」とはどのような点だと思いますか?

山岸氏:「安全・安心・公平・効率」を提供価値として掲げている点は、揺るぎないNECらしさ。また、「パーパス」「バリュー」といったものに人が集まってくる点は、NECの強みだと考えています。

――外資系企業での経験豊かな山岸さんがNECで発見した「日本らしさ」というのはどんなところにありましたか?

山岸氏:グローバルを真似するだけではなく、グローバルのいいところを取り入れて工夫していくということが、日本らしさなのではないかと感じます。

――最後に、山岸さんがNECで目指すところをお聞かせください。

山岸氏:この2~3年で社内の雰囲気が明るくなったという声を聞くことがあります。

カジュアルな服装になり、それに伴いコミュニケーションが少しカジュアルになり、オフィスもロケーションフリーになって……と、要因は様々でしょう。

私個人としては、社員に「働くことを楽しんでもらう」ことを目標としています。働くことは、人生における重要なポイントの1つ。働かないと報酬も得られないし、報酬がないと暮らすことができないという義務的な側面がありながらも、働くことを楽しんで欲しいと思っています。

仕事が楽しくなればビジネスに良い影響がもたらされ、キャリアを積んで報酬も上がっていくという、そんな好循環が生まれるのが理想的ですね。

――ありがとうございました。

(聞き手:パーソルキャリア株式会社 執行役員 大浦征也)

【取材後記】

NECの人材開発の現場では、中途入社の社員が過去に培った経験と、既存の社員が受け継いできた「NECらしさ」の融合によって、新たな価値観が生み出されている。今回お話をうかがった山岸氏はその関係性を、料理とワインが互いの風味を高め合う「マリアージュ」に例える。
採用システムの変化によって社内の雰囲気や社員の士気は着実に変わっているという。積極的な「変革」を目指すNECの取り組みに要注目だ。

企画・編集/鈴政武尊・d’s JOURNAL編集部、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション

【2022年以降の人事戦略に取り組む有力企業特集】
【ソフトバンク】「女性活躍推進」「アンコンシャスバイアス」で変わり始めた社内
【日産自動車】EV化が加速する自動車業界。2030年に向けた「人材採用と育成」とは

【関連記事】
富士フイルムソフトウエアが目指す「心理的安全性」の高い組織とは
「寝ながら獣医師」が体現したはたらき方と障がい者雇用の在り方
アンコンシャスバイアスとは?職場での具体例とともにわかりやすく解説

【関連資料】
イラスト豊富でわかりやすい アンコンシャスバイアス研修資料
「選ばれる企業」になるためにESGの視点を学ぶ
採用のプロの処方箋!採用課題別にお悩み解消