中小企業でも活用が進む!エグゼクティブ・ハイキャリア人材の副業・兼業

パーソルキャリア株式会社

タレントシェアリング事業部 i-common統括部 地域活性支援室 専門家・副業人材担当 部長
鈴木健一(すずき・けんいち)

2008年、株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社。東日本大震災復興支援業務などに従事した後、パーソルテンプスタッフ株式会社に出向。2020 年にパーソルキャリアに帰任し、i-common 地域活性支援室部長に着任。現在、タレントシェアリング事業部 i-common統括部でRegional Solution部の ゼネラルマネジャーおよび Loino事業責任者を務める。

企業と働き手のニーズが合致し、副業・兼業市場は伸び盛り
コンサルティングに加え、伴走型支援でゴールを目指す
【事例紹介】5年はかかると想定した新製品開発を2年に短縮
副業・兼業人材に活躍いただくためのマッチングのポイントとは?
登録者の能力・貢献意欲の高さを実感する企業が続出

近年、グローバル化やDXへの対応、ベンチャーの起業、ビジネスモデルの刷新などのために、エグゼクティブ・ハイクラス人材の採用強化を図ろうとする企業が増えています。しかし、この採用難の中、自社が求める人材を正社員として採用するのは容易ではありません。

一方、働き手側では、コロナ禍の影響もあって副業・兼業で自身のスキルや知見を活かしたい人が増えており、実際、副業人材を採用した中小企業は急増しているとも言われます。そして、企業・働き手双方のニーズに応えて登場した副業・兼業マッチングサービスが今、大きな注目を浴びているのです。

こうした状況下、パーソルキャリア株式会社にて副業・兼業マッチングサービス事業を推進する鈴木建一氏に、副業・兼業市場の実情や具体的な人材活用の事例・ポイントなどについて伺いました。

企業と働き手のニーズが合致し、副業・兼業市場は伸び盛り

──副業・兼業人材を活用する企業が増えている背景には、何があるのでしょうか?

鈴木氏:多くの企業は今、コロナ禍で変化した状況に対応するために、DXを推進して生産性の向上に取り組んだり、新事業にも挑戦したり、さまざまな課題に対処しています。こうした複雑で多岐にわたる課題に対し、それぞれの専門スキルを持った人材を正社員として採用し、対応を図るというのでは限界もあります。

そのため、必要なスキルやノウハウを持った副業・兼業者を、期間を定めて採用・活用することで、課題を解決しようとする企業が増えているのではないかと考えます。特に、要員が限られている中小企業では、迅速なDX着手は難しく、その前段階の部分から副業・兼業者の力を借りて取り進めていくケースも見られます。

 

──働き手側の意識には、どのような変化が見られますか?

鈴木氏:終身雇用の崩壊が進む中、1社で働き遂げるというスタイルが見直され、転職だけでなく、いろいろな働き方を模索する動きが活発化しています。それに対し、大企業などでも人事制度を改めて、社員の副業を認めるようになってきました。さらに、リモートワークの普及により、通勤にかかっていた時間を有効活用できるようになったことや、地方企業の業務にも携われるようになったことで、副業を希望する人が一気に増加しています。

同時に、個人事業主としてフリーランスで働くというスタイルを選択する人も増えています。定年退職してもまだまだ働けるという人が、再就職ではなく個人事業主を選ぶケースもありますね。

──副業・兼業の市場は、今後も拡大していくのでしょうか?

鈴木氏:伸びしろは非常に大きいと思います。企業は複雑化・多様化する経営課題に対処し続けなければなりませんし、それに応える能力を持った副業・兼業希望者はどんどん増えています。しかし、日本では、まだ副業・兼業者を使ったことのない会社が圧倒的に多い状況。そこで、当社をはじめ、副業・兼業マッチングサービスを展開する会社が次々に登場しているのです。

一方、国でも地方創生への取り組みとして、関係人口の創出を推進していますし、取引面でフリーランスを保護するガイドラインの整備なども進みつつあります。副業・兼業市場を成熟させていこうという機運が高まっていますね。

コンサルティングに加え、伴走型支援でゴールを目指す

──企業が、外注やコンサルタントではなく、副業・兼業人材を採用するメリットはどこにありますか?

鈴木氏:企業が抱えている課題に対して、やるべきことが具体的に決まっていれば、その作業を丸ごと外注に任せることもできますが、どのようなアプローチで課題解決に取り組めばいいのかが見えていない場合、アドバイスや指導もしてくれる人材が必要になります。その点、コンサルティングファームは、課題の整理やフレームワークを使った戦略立案などが得意です。しかし、そのプランを実現するためには、実際に現場で伴走してマネジメントを行う人材が必要になってくるわけで、コンサルティングファームにそのような実務までを請け負ってもらうことが難しい場合も少なくありません。

実務を経験している副業・兼業者なら、プランを作るだけでなく、伴走しながらその現場に合わせたサポートもできます。自身の経験に基づいて、「こうすればうまくいく」「こういうやり方をすると失敗する」といった実践的なアドバイスをしてくれるのもメリットです。

──副業・兼業に関するサービスとしては、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。

 

鈴木氏:経営課題解決に取り組む企業向けに、事業会社やアカデミアで経験を積んだ上級役職者やテクノロジーに精通した専門家を、アドバイザーや監査役、取締役、経営顧問として提案するコンサルティングサービスがあります。当社の「i-common(アイコモン)」(※)であれば登録がある各分野の専門家の中から、お客さまの状況に合わせた最適な人材を選択し、アドバイスにとどまらない「実働型」の経営支援で、経営課題の解決までリードしています。

(※)2011年にスタートした企業へのプロ人材シェアサービス

また、コロナ禍でリモートワークが一気に進んだこともあり、経営課題を持つ地方企業と、課題解決案を持ち実行段階に伴走できる都市部の人材を、「副業」という形でマッチングする地方特化型の副業マッチングプラットフォームも増えてきています。「Loino(ロイノ)」(※)では、事業成長のために新たな取り組みを模索しながらも、ノウハウや人材が不足しているといった悩みを抱える地方の中小企業を中心にサービスを提供しています。

(※)2020年に立ち上げた地方特化型副業マッチングプラットフォームサービス

副業希望者は、プロフィール登録して企業からのオファーを検索し、面談で働き方や報酬を決定。基本的にはリモートワークでの業務となりますが、出張が可能な人は現場での支援も行っており、2020年のスタート以来、登録者は急増しています。

──具体的には、どのような形で企業支援を行うのですか?

鈴木氏:i-commonの場合、DXを推進して生産性を高めたい企業があれば、IT、システムに精通した専門家が支援します。その際、業務フローなどが整理されていない企業であれば、業務の見える化を行って問題点を抽出し、改善策を考え、それに合わせてシステム化を進めます。さらに、支援を行う専門家は実務経験者が中心のため、ベンダーの選定や交渉についてもサポートできます。

最近では、新規事業創出の支援に対するオファーも多くなっています。今まで手掛けたことのない領域で新規事業を立ち上げるのは、かなりハードルが高いので、経験が豊富な専門家が支援に入り、伴走しながらゴールを目指すのです。

──中小企業においては、どんなニーズがありますか?

鈴木氏:EC等を活用し、拡販を図りたいという案件が多いですね。最近は、ECサイトの導入自体は簡単にできるようになってきていますが、Webマーケティングや商品選定がうまくなければ拡販には結びつかないわけで、ECを始めてみたものの売上が伸びないという企業も少なくありません。そのような悩みに対し、実際に自社でWebマーケティングを手掛けている副業・兼業者がサポートを行います。まずは、その企業のブランディングやECサイトの見直しを図るとともに、SNSや紙媒体も含めたマーケティング戦略を考え、売上向上を実現していきます。

【事例紹介】5年はかかると想定した新製品開発を2年に短縮

──具体的な導入事例をいくつか紹介していただけますか?

鈴木氏:建設・保守を行う企業の新製品企画・開発をサポートした事例があります。同社は、従来の建設・保守業務だけでなく、メーカー的な機能も拡充して新製品を開発し、利益を上げていこうという構想をお持ちでした。しかし、製品開発の実績がなく、漠然とした製品イメージはあるものの、何から着手すべきか、イメージする機能を実際に付加できるかなど、製品化のためのノウハウが不足していました。企画・開発後、事業化していくまでのロードマップの描き方も不明点が多かったのです。

そこで、製品企画・開発に豊富な経験を持つ専門家が、ハンズオンで実務を支援することになったのです。当初、同社では開発に5年を要すると想定していましたが、専門家の支援によってプロジェクトをスムーズに進めることができ、開発期間を2年に短縮できました。

──大きな成果ですね。支援に入った方が、その手腕を十分に発揮されたということですね。

鈴木氏:この方は、メーカーで産業技術の研究開発に従事し、国内外で多数の特許取得実績があり、製品化のみならず、市場調査や事業企画にも精通している方でした。もう1例は、飲料の製造・卸売りを行う企業で、業務効率化のためにシステムを導入したものの、自社に適したものではなく、うまく使いこなせていないという課題を抱えていました。

そこで、開発エンジニア出身で業務改善の経験が豊富な専門家がシステムを見直し、業務の可視化から最適なITツールの診断・導入・運用までを実行支援。適切な在庫・受注管理により、効率的な業務体制を構築することができました。

副業・兼業人材に活躍いただくためのマッチングのポイントとは?

──時には、企業と副業・兼業者のマッチングがうまくいかないこともあるかと思いますが、どんなケースが考えられるでしょうか?

鈴木氏:採用時の条件設定の問題と、コミュニケーションの取り方の問題の2つがあると思います。条件設定の問題というのは、企業側が「この業務をこんなふうにやってほしい」と条件を細かく決め過ぎてしまうことで、それにぴったりマッチする人材がなかなか見つからなかったり、採用後にトラブルが起きたりするケースです。

あらかじめやるべきことやゴールが明確になっているのなら、外注を選択した方がいいかもしれません。しかし、副業・兼業者を活用するのであれば、依頼する業務を限定するのではなく、「この課題を解決したい」というように大まかな要望を出していただき、それに適した専門家と相談しながら、プロジェクトの進め方を協議し、実施していくのがベターだと思います。

──コミュニケーションの取り方についてはいかがでしょう?

 

鈴木氏:大企業で働いている人が、中小企業で副業・兼業する場合、ITリテラシーや業務フローなど、自社では常識だと思っていたことが通用しないというケースが多々あります。特に問題になるのがコミュニケーションで、報・連・相の方法などが大きく異なり、それが原因でトラブルになることも少なくありません。柔軟な姿勢でそれぞれの環境に適合したコミュニケーションの取り方をしないと、「この人はうちには合わないね」となってしまいます。

企業側にも相応の配慮が求められます。副業・兼業者は本業や他社での業務を持っていますので、突発的な依頼には対応できないこともあります。「毎週この時間に打ち合わせをする」「仕事の進捗は何曜日までに報告する」といった具合に、お互いに報・連・相の方法や頻度を擦り合わせておくことが大切です。

登録者の能力・貢献意欲の高さを実感する企業が続出

──副業・兼業者の採用を考えている企業の方々に、アドバイスをお願いします。

鈴木氏:副業・兼業者を受け入れる際に、顧問やアドバイザーという肩書にあまり注目せず、他の社員と同じ立ち位置で働いてもらっているケースの方が、圧倒的にいい成果が上がっているように見受けられます。プロジェクトメンバーの一員として扱われる方が、副業・兼業者も力を発揮しやすく、同じゴールを目指す仲間として、モチベーション高く働けるのではないでしょうか。

あまり短期間のプロジェクトだと、どうしても外注に近いような業務依頼になってしまいます。中長期的な経営課題の方が、副業・兼業者の活躍の場が広がり、大きな成果が得られるのではないかと考えます。

──マッチングサービスを利用されている企業、および副業・兼業者からはどんな声が聞かれますか?

鈴木氏:企業の方々は、正社員採用では集まらないようなハイクラス人材が候補者リストに並んでいるのを見て、まず驚かれますね。「選択肢が多過ぎて誰を選んだらいいのかわからない」というご相談もよく受けます。

一方、登録された方にその動機を聞くと、「自分の力をいろいろな現場で活用したい」「地方に貢献したい」という回答が上位を占め、「副収入を得たい」という回答を上回ることもあるぐらいです。多くの現場でキャリアを積みたいが、転職はハードルが高いと感じている人たちが、当社のサービスを利用してくれているのでしょう。

個人事業主にとっては収入も大事ですが、その方々も収入へのこだわりより、事業貢献意欲の方が強い。1度ご利用いただいた企業のリピート率が非常に高いのも、その表れだと思います。

 

取材後記

終身雇用モデルからの変革が進む中、企業は次々に直面する課題への対処を迫られ、そのための人材を求めています。一方、働き手は、柔軟な働き方や自己実現、社会貢献を求めています。企業と働く人双方に副業・兼業のニーズが高まっているようです。

企業サイドでは、副業・兼業者の受け入れ体制をどう整備するか模索している部分もありますが、この市場が成熟すれば、必要な場所で必要な人材が活躍できる社会環境が実現されるでしょう。日本全体の大きな変革につながる動きを感じました。

企画・編集/白水衛(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/森 英信(アンジー)、撮影/中澤真央