エグゼクティブ人材を迎え入れたタムラ製作所。その具体的な取り組みと秘訣とは?

株式会社タムラ製作所

人事総務本部 人事統括部 人事企画グループ マネージャー 浪川卓久(なみかわ・たかひさ)

プロフィール
株式会社タムラ製作所

人事総務本部 人事統括部 人事企画グループ 採用S リーダー 巻幡美穂(まきはた・みほ)

プロフィール
この記事の要点をクリップ! あなたがクリップした一覧
  • エグゼクティブ人材の採用は、カルチャーフィットが極めて重要
  • 組織を強くしていくには、社員が「働きやすさ」「やりがい」を感じる職場環境が必須
  • 自社の経営戦略や人材制度を丁寧に伝えながら、採用候補者のモチベーションを高める

東証プライム上場の電子部品メーカーである株式会社タムラ製作所(以下、タムラ製作所)は、2022年に長期ビジョン「2050ありたい姿」として、「世界のエレクトロニクス市場に高く評価される脱炭素社会実現のリーディングカンパニー」を制定しました。

国際情勢や気候変動問題などの影響を受け、グローバル市場における事業環境の変化は激しさを増しています。そこで、タムラ製作所はパーソルキャリアのエグゼクティブ専門人材サービス「パーソルキャリア エグゼクティブエージェント」などを活用し、不確実性の高い環境にも対応できる経験豊富で高度なスキルを有した管理職やスペシャリストを複数名採用し、激変する市場環境を切り開くキーパーソンとして登用しています。

待遇面のマッチングやカルチャーフィットなど、難しさの多いエグゼクティブ人材の採用を、タムラ製作所はどのように成功させたのでしょうか。中途採用を担当した人事総務本部 人事統括部 人事企画グループの浪川氏と巻幡氏に話を聞きました。

グローバル市場の開拓に向け、エグゼクティブ人材の獲得が急務に

——貴社の事業概要を教えてください。

巻幡氏:当社は1924年に創業し、2024年で創業100周年を迎える電子部品メーカーです。ラジオ事業を祖業に、戦前、戦後、高度経済成長、バブル期と、時代の流れに合わせて新たな技術と製品でお客さまや社会に貢献してきました。

現在の事業領域は主に3つです。再生可能エネルギー市場などにおいて用いられるトランスを始めとする、各種電子部品を提供する「電子部品事業」、電子化学材料・はんだ付け装置を提供する「電子化学実装事業」、テレビ局やラジオ局など放送局で用いられる放送用音声機器を提供する「情報機器事業」です。中でも、電子部品や電子化学材料の事業は売上の柱であり、世界的にサステナビリティへの注目が高まる中で売上の拡大を期待しています。

こうした中で、当社は2022年に長期ビジョン「2050ありたい姿」として、「世界のエレクトロニクス市場に高く評価される脱炭素社会実現のリーディングカンパニー」を制定しました。

 

——長期ビジョンの実現に向けて、キャリア採用の方針や方法に変化はありましたか。

 浪川氏:さまざまな部門でエグゼクティブ人材の採用を強化しています。昨今の変化の激しいグローバル市場を開拓するうえでは、不確実性の高い環境にも対応できる経験豊富な人材が必要です。

例えば、安全保障貿易管理部門(※国が武器や軍事転用可能な技術の輸出などを規制・管理する枠組み)が挙げられます。近年、国際情勢が複雑化する中で、安全保障貿易管理の重要性が高まりつつあります。当社でも取り組みは行っていたものの、従来は兼任の担当者が複数名いる程度であり、さらなる体制強化が必要でした。そこで、当社は2022年に安全保障貿易管理の専任部署を設置。同分野で豊富な経験を持つエグゼクティブ人材の獲得に取り組みました。

そのほか、欧米市場の開拓を担う人材の採用にも力を入れています。これまで、当社はグローバル市場の中でも中国やASEANを中心に事業を展開していました。しかし、今後、脱炭素分野に注力するうえでは、サステナビリティの需要が高い欧米市場は避けて通れません。そのため、欧米市場の開拓をリードできる、グローバル経験の豊富な方の採用も強化しています。

定年後も同待遇で勤務できる人事制度を整備

——エグゼクティブ人材の採用を強化するにあたって、どのような課題がありましたか。

 浪川氏:まずは母集団が非常に少ないことです。全転職希望者の中で管理職や部門長の経験がある層は限られます。さらに、その中で当社が取り扱っているアナログ回路、電流センサ、ダストコアなどのニッチな技術や製品に精通する人材はさらに一部です。採用候補者層は、必然的に類似企業・業種の人材や大手企業の同分野の事業部門で活躍していた人材に絞られます。

そして、2つ目の課題が待遇です。エグゼクティブ人材を採用するうえで、給与をはじめとした待遇面でのアピールが重要ですが、同業界で勤務経験のある人材が採用候補者層ということもあり、前職との違いやメリットを訴求するのに苦戦しているのが正直なところです。特に、大手企業に比べると、給与はどうしても後れを取ってしまいます。こうした条件の中で、いかに求める人物像にリーチし採用に至るかが、私たちのミッションです。

 

——そうした課題をどのように乗り越えたのでしょうか。

 巻幡氏:採用手法としては、エグゼクティブ人材専門のエージェントサービスを活用しました。少ない母集団の中で求める人物像にアプローチするには、やはり特定のセグメント向けの人材紹介サービスを活用するのが有効だと思います。

さらに、人材の募集にあたっては、募集部門の担当者や人材紹介サービスの担当者を交えてミーティングを実施しています。求める人物像をより明確にし、募集要件を精査・調整しています。人事部門だけで募集要件を設定すると、知らず知らずのうちに不要な条件を課してしまい、母集団をさらに狭めてしまうことがあります。そのため、各部門や人材紹介サービスを交えながら、募集の目的や求める人物像を擦り合わせ、適切な募集要件を設けるのが重要です。

募集要件を丁寧に設定すれば、活躍いただける人材を取りこぼしてしまう可能性も少なくなりますし、採用後のミスマッチを減らすこともできます。エグゼクティブ人材を獲得するうえでは必須の取り組みだと思います。

そのほか、待遇面については、当社の人事制度によるメリットを訴求しています。当社では、部門・部署のマネジメントを担当する「ライン管理監督職」と、専門業務に従事する「専任職・高度専門職」の2種類のキャリアコースがあります。そのうち、一定の役職についているものについては、定年前と同じ待遇で勤務することができます。

役職定年を迎え待遇が下がってしまった方や自分自身の専門性を活かしていきたいと考えるエグゼクティブ人材には魅力となるポイントです。面接時には、こうしたメリットを訴求するとともに、入社後の配置や求める役割についてもできる限り具体的に説明するように心掛け、入社後のイメージを描けるような面接を行っています。

当社の事業や任せられる業務内容に将来性を感じていただけるか、これまで培ってきた経験を活かして挑戦したいと思える環境だと感じていただけるか、この点がエグゼクティブ人材に興味を持っていただくうえでとても重要だと考えています。

3年間で約20名のエグゼクティブ人材を採用し、複数の部門長の招聘に成功

——エグゼクティブ人材の採用成功の事例をお聞かせください。

 浪川氏:2022年に安全保障貿易管理の部門長を採用しました。その方は、安全保障貿易管理の分野で長年活躍してきたエキスパートであり、その業界では知る人ぞ知る存在です。

入社動機としては「後進育成に携われる」という点が大きかったと聞いています。当社が安全保障貿易管理を強化する中で、新設部門の部門長として後進を育成できることに魅力を感じてくれたようです。現在、安全保障貿易管理の部門は15名ほど。今後も拡大を予定しており、若手人材の育成も進んでいます。やはり、エグゼクティブ人材を採用するうえでは「そのポジションで、これまでの経験をいかに活かせるか」も重要なポイントだと感じています。

また、2021年にはコーポレートガバナンス推進本部の部門長を採用しました。コーポレートガバナンス推進本部部門も安全保障貿易管理と同様、新設の部門です。2022年4月からの市場区分再編に伴い、東京証券取引所に上場する企業にはコーポレートガバナンスの見直しが求められました。こうした状況に対応するため専任部門を設置し、部門長を外部から招聘しています。

他にも、海外拠点の営業責任者(将来の拠点長候補)をはじめ、さまざまな部門・職種でエグゼクティブ人材を採用しました。3年間で約20名の管理職や部門長を採用しています。

老舗企業ながらも「開かれた社風」が採用成功の大きな要因

——エグゼクティブ人材の採用に成功した要因は何だったと思われますか。

 浪川氏:当社の社風も大きな要因だったと感じます。実は、当社は新卒入社とキャリア入社では、やや新卒入社が多いものの、ほぼ同じ割合です。100年近い歴史があるため、旧態依然とした印象を持たれがちなのですが、実際にはキャリア入社の社員も多く、新卒/中途の分け隔てがなくオープンな環境が保たれています。

エグゼクティブ人材の採用では、カルチャーフィットが極めて重要です。これまでの経験が豊富な分、些細な環境の違いが退職などのミスマッチにつながる恐れがあります。その意味では、外部の人材を受け入れやすい開かれた社風は、エグゼクティブ人材を採用するうえでの強みとも言えるかもしれません。

 

——最後にエグゼクティブ人材をはじめ、キャリア採用の展望をお聞かせください。

 巻幡氏:現在、人事部門では、多様な働き方やダイバーシティの推進、心理的安全性の確保など、各種施策を通じて、社員のエンゲージメント向上に力を注いでいます。激変する事業環境の中で、組織をより強くしていくためには、働きやすくやりがいを感じる職場環境が必要不可欠です。今後は、積極的な採用活動を推進するとともに、社員のエンゲージメント向上にも取り組み、人事の立場から事業拡大に貢献していきたいと考えています。

取材後記

キャリア採用の中でも、難易度が高いエグゼクティブ人材の採用。待遇やポジションなどの交渉が求められる場面も多く、なかなか取り組みが進まない企業も少なくないでしょう。そうした中で、タムラ製作所は自社の経営戦略や人材制度を丁寧に伝えながら、採用候補者のモチベーションを高め、採用に導く手法を確立していました。こうした手法は多くの企業にとって参考になるはずです。どのような場面であっても、採用活動の基本は「自社の魅力を見いだし、採用候補者に伝えること」。そう改めて気づかされる事例でした。

企画・編集/白水衛(d’s JOURNAL編集部)、南野義哉(プレスラボ)、取材・文/島袋龍太、撮影/齋藤大輔

【関連記事】
経営・人事がしなやかに連携する、コクヨの「エグゼクティブ人材招聘」ノウハウ

経営層・CxO・事業部長などのエグゼクティブ人材を登用・採用する際に大切にすべきこと

エグゼクティブ人材招聘の「要件定義」「母集団形成」はどう考えればよいのか?