働き方改革は中途採用の応募者増に効果あり!困難を極めた店長候補4名の採用に成功するまで

株式会社ニイミ(麺屋しずる)

FC事業部<飲食事業部> 冨田 健嗣(とみた けんじ)

プロフィール

働き方改革により難易度が高い業界・職種の採用を成功させた事例

販売・サービス業界は長らく人手不足な状態が続いており、店長・副店長などの責任者クラスや将来の店長候補の募集などは採用難易度が高い傾向にあります。

一方で、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」、「働く方々のニーズの多様化」などの課題に対応するため、働く人の置かれた事情に応じた職場環境を整えていく働き方改革が中小企業・小規模事業者にも求められています。

そこで今回、働き方改革に積極的に取り組んだ結果、店長候補4名の採用に成功された株式会社ニイミの中途採用担当/ 冨田氏に取り組みの狙いや実際の効果について話をお伺いしました

事業成長に向けて、人材不足が最大の足かせに

冨田氏:当社の本社は愛知県蒲郡(がまごおり)市にあります。創業は1973年(昭和48年)8月、「あなたのまちの『遊』『食』カンパニー」を掲げ、地域に愛される存在として主力のアミューズメント事業(パチンコホール運営)に続く第二の柱として2012年から飲食事業を強化。2012年8月に1店舗目となる“麺屋しずる”蒲郡店をオープンし、現在は愛知県の東部にあたる三河エリアを中心に10店舗まで拡大しています。

”肉がジュージューと焼けて、肉汁がしたたり、うまみが出ている”を意味する[シズル(sizzle)]という英語を元に名付けられた“麺屋しずる”は、計算された麺のコシとガッツリくる食後の満足感が人気を博し、立ち上げ当初から売上は好調に推移。すぐに2店舗、3店舗とお店が増えていきました。

このままいけば、さらに店舗を増やしていけると考えていたのですが、売上も利益も順調に上がっているにもかかわらず、少しずつ退職するメンバーが出てくるようになっていきました。一気に人が辞めるという事態にはならないものの、さらに店舗を増やしたいと思っても、任せられる人材が育っていない。また、人材の獲得競争が年々厳しくなっており、採用ができないどころか求人広告を出しても応募がゼロということも少なくありませんでした。

人が育ち、定着するための本気の働き方改革

実際に退職していく社員に理由を聞いてみると、そのほとんどが働く環境によるものでした。現場にいると、「ちょっと手伝ってほしい」という業務が少なからずあります。一緒に働く仲間が困っているならと残業をするわけなのですが、月単位でみると残業が20時間以上、ひどい場合には残業が30~40時間となる事態が発生していたのです。

立ち上げ期ということもあり、現場の判断で柔軟に対応できるよう裁量を委ねていたのですが、そのことが社員に負担を強いてしまっていました。良かれと思って納得して行った1日30分~1時間の残業が、月末に30~40時間だったとわかり、やらされ感のあるストレスに変わってしまっていたのです。この状態が慢性化し、現状への不満や将来への不安が大きくなっていました。

労働環境を変えなければ事業拡大どころか存続すらままならない。この危機感から経営上層部が本気で働き方改革を推進するようになり、それまで現場任せにしていた社員の労務管理を本部の責任で実施する体制に切り替えました。

管理を強化することで現場からの反発があることも予想されましたし、新たな退職者が出てしまうリスクもありましたが、長く安心して働ける環境がなければ、人材の定着も事業の成長も達成することはできないという覚悟で徹底した管理を行いました。

具体的には何がどのように変わったのでしょうか?

まず1日単位で業務スケジュールをしっかり立てるようになりました。出勤する時間の中でいつ何をやるのか。言われてみれば当然のことなのですが、サービス業はお客さまありきのところがあり、特に飲食業ではその日によって来店される人数も変わるため、状況に合わせて対応することが前提となっていたところがあります。

本部主導で1日単位の労務管理をすることで、超過した労働時間をどの日の出勤時間で調整するのかを明確にし、月単位で働く時間にムリやムダが発生しないようにしました月に1度開催される店長会議では社員の労働時間が最重要事項として議題に上がり、守られていない場合はその原因・要因を明らかにし、具体的な改善策が実行されています

その結果、月の平均残業時間がわずか2時間となり、計画的に休みが取れるようにシフトを工夫することで「月9日休み」「7連休取得」など、働く環境が数字でわかるほど大きく改善されていきました。

その他にどのような取り組みやルールづくりをしたのでしょうか?

セントラルキッチンを強化することで現場のオペレーションをできる限りシンプルなものに変えていきました。ラーメン店というと秘伝のレシピや職人技というイメージがあるかもしれませんが、極端なことを言えば、誰がやっても同じ品質のものをスピーディーに提供できるようにしようとしています。

 

額に汗を流して仕事をするのではなく、余裕を持ってお客さまの接客ができるお店にしたかったため、整理・整頓を徹底して見直し、ラーメンの丼や皿、調味料を置く位置などにもこだわり、スタッフが動きやすい動線を確保するなど、お店づくりを再設計しました。また、当たり前のことなのですが、「休日に業務を依頼しない」「休んでいる人に電話しない」「休日は電話に出なくてよい」などのルールも明確にしました

数年前までは残業が慢性化していた職場でしたが、今では自信をもって「長く安心して働ける環境ですよ!」と応募いただいた方に話をすることができます。

採用ターゲットを見直し、事業・仕事の魅力をアピール

事業の立ち上げ期はどのような募集のかけ方をしていたのですか?

立ち上げ期の当社は、現場を一緒に盛り上げてくれる人材を採用ターゲットにしていました。飲食業界を中心に、販売やサービス業などで接客を経験してきた人材です。求人広告を出稿する際にも飲食業界出身者が多く登録している媒体を中心に募集をかけていました。

事業に積極的に投資していることや、店舗拡大に伴って責任ある立場に昇進・昇格できること、昇進・昇格のスピードが早いことなどを魅力として伝えていましたが、給与や処遇面を改善しても応募の数も採用後の定着率も変わりませんでした

働き方改革が進んだ今、採用ターゲットや魅力の伝え方はどう変わりましたか?

人との関わりを大事にしたい方・接客の仕事に興味がある方といった点を大切にしつつ、飲食業界や販売サービス業以外の経験をしている「異業界・異職種の人材」に積極的にアプローチするようにしました中途で入社する方には、これまで違う業界や仕事で培った経験を活かして、私たちの会社に新しい風を持ち込んでほしいという期待もありました

そこで、「店長からのキャリアUP」や「本部スタッフとして幅広い業務に挑戦できる」など、将来的にいろんなことにチャレンジできる点をアピールしています。具体的には、本部スタッフとして店舗の統括・営業管理、商品開発、スタッフ教育など、幅広い活躍の場があること、飲食店以外の新規事業立案にも挑戦できることなどを伝えています。

また、転職希望者に直接アプローチできるスカウトメールやダイレクト・ソーシングサービスも求人広告と併せて活用するようになりました。

 

実際に募集の反響はいかがですか?

狙っていた通り、以前に比べて異業界や異職種の人材からの応募が増えました。実際に、個人事業主として働いていた美容師の方や、銀行員として法人を対象とする仕事をしていた方など、異業界・異職種の人材が入社してくれています。

また、愛知県以外の遠方の方から応募をいただくこともあります。ご結婚を機に愛知県にU・Iターンを考えている方からも問い合わせがあり、オンラインで面接を行い入社に至りました。この2年の間に求人広告やスカウトメールなどで4名の採用が決定しています

登録者情報を直接確認してメッセージを送ることができるダイレクト・ソーシングでは、どのような内容をアピールすれば返信の可能性が高まるのかがわかってきますし、面接でお会いしたい方だけにアプローチしているため、返信をいただければスムーズに選考を進めることができるなど、効率も高まってきています。

業界や職種、希望勤務地や希望年収、その他の条件を組み合わせてアプローチすることで、どのように応募数が変化するのかもわかってきます。もちろん思うように応募が来ないこともありますが、採用成功に向けたノウハウを蓄積できるようになってきましたね。

働き方改革が、働く人材の多様性を生み出す

働き方改革の結果、他にも何か良いことはありましたか?

働き方改革を進めた結果、異業界・異職種の人材とともに、長く安定して働きたいという方からの応募が増えました。給与や処遇を上げることが第一ではなく、残業が少ない環境でプライベートを大切に自分らしく働いていきたいという方々です。

以前であれば、残業をしたくないという方はなかなか受け入れることができませんでした。しかし現在は、店長を目指すのではなく現場で好きな接客を長く続けたいという方も貴重な戦力として受け入れ、活躍していただけるようになりました。

また、本部スタッフとして力を発揮したいという方からの応募もあり、入社後の現場の研修期間を短めにして得意分野で力を発揮していただいている方もいます。店舗数をさらに増やしていくタイミングのため、専門性を持つ異業界出身者を採用できるようになったことは本当に喜ばしいことです。

男性も女性も無理なく活躍できるブランドへ

今の時代、入社をする前に職場を知ろうと思えばいくらでも知ることができます。サービス業の仕事であれば、サービスを受ける立場で実際に店舗を見たり、体験したりすることができます。

残業をすることが当たり前だったころは、青白い顔をして仕事をしていた社員も多かったかもしれません。当時、その社員の姿を目にした方は、まず間違いなく応募してくれなかったと思います。

しかし最近は、店舗の接客や社員の様子を見て応募してくださる方もいらっしゃいます。また、女性の店長やリーダーが増えてきており、中には全員女性スタッフの店舗もあります。

仕事なので手を抜くことは良くないですが、どうすれば楽になるのかを考えることはむしろ重要です。頑張ることが目的になったり、美徳になったりしてしまっては元も子もありません。体力勝負ではなく、誰もが働きやすい職場にしていきたいです。働くスタッフの雰囲気を見て、ここなら楽しく働けそうだと思っていただけるようなブランドになっていきたいですね。

 

【取材後記】

事業立ち上げの時から現場で働いていた冨田様ご自身も本部から労働時間を管理されるようになった当初は何とも言えない“窮屈さ”を感じていらっしゃったそうです。実際に「現場は現場で大変なのに」と少なからず不満を抱えていた時期もあったとか。

しかし、残業が目に見えて少なくなり、現場のオペレーションがシンプルで誰にとってもわかりやすい仕組みになってからは採用もしやすくなり、パートやアルバイトも集まりやすくなったそうです。そして今では、「社員が笑顔で余裕を持って接客ができているか」という点を、働き方改革がうまくいっているかの大事なバロメーターにしているとのことです。

企画・取材・編集/d’s JOURNAL編集部 白水 衛

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