個人の幸せを追求しながら会社は成立できる – ユニークな採用手法、その狙いとは

アソブロック株式会社

代表取締役社長 団 遊(だん・あそぶ)

2003年にアソブロックを設立。同社で団チームのリーダーを担当。モノやコトをつくるプロセスが、関係する人の「育ちの場」になると考え、「あらゆる人に成長の機会を提供すること」をモットーとしている。名前からもわかるように、人生を「アソブ」ために生まれた男。

成長の定義はQOLが上がること。新しい会社のあり方にチャレンジするアソブロック
ユニークな採用手法は、時に広報にもなりうる。「じゃんけん採用」「コンビ採用」を導入したワケ
極論、会社が潰れてもいい。社会的自立をすることがメンバーの幸せにつながる

メンバーの「成長」の定義とはー。会社によってさまざまですが、「ビジネススキルを上げてキャリアアップすること」だと考える人が多いのではないでしょうか。

そんな中、アソブロック株式会社は、メンバーの成長を「クオリティオブライフ(QOL)を上げること」と定義しています。そして、その定義のもと「メンバーがやりたい事業をやる」「兼業必須」など、新しい会社のスタイルを構築しているのです。

代表取締役である団 遊さんは「アソブロックの使命は、新しい会社のあり方を広めていくこと。そのために、リスクを背負う採用手法にトライした」と言います。同社のターニングポイントになった取り組みは、じゃんけんで3回勝ったら内定が決まる「じゃんけん採用」と、信頼するライバルと2人1組となって選考を受ける「コンビ採用」でした。

メンバーの幸福を追求する会社は、なぜユニークな採用手法を導入したのでしょうか?これらの取り組みのウラには、明確な“広報戦略”がありました。

成長の定義はQOLが上がること。新しい会社のあり方にチャレンジするアソブロック

企画と編集を軸にし、採用支援やマーケティング支援、幼稚園・保育園支援と、幅広い事業を展開していますよね。ホームページに「何をやっているかわからない会社」と書かれているのも拝見しました。…実際、アソブロックはどのような会社なのでしょうか?

成長の定義はQOLが上がること。新しい会社のあり方にチャレンジするアソブロック

団氏:展開している事業はバラバラですが、考え方は一貫していて、アソブロックを「人の成長支援プラットフォーム」だと位置付けています。

一般的に“メンバーの成長”といえば、ビジネススキルが上がり、年収が上がることですよね。しかし、弊社が定義する成長とは、仕事を含めた生活すべての幸福度を上げる…すなわち「クオリティオブライフ(QOL)」を向上させること。キャリアがアップしなくても、QOLが上がれば成長と言えるんです。

成長のためにQOLを向上させるには、どんな働きかけをしていますか?

団氏:人の成長において必要だと言われる、「熱狂、逆境、越境」という3つの“きょう”をクリアする環境を作っています。

まず、メンバーが熱狂するために、弊社では固定の事業を持っていません。メンバーが自発的にやりたいことに取り組んでいます。なぜなら、自分の夢と事業を重ねることで、自然と熱狂が生まれるから。それぞれが興味を持つビジネスを展開していくので、結果として弊社の事業は多岐にわたっているんです。

また、やりたいことを新規事業としてスタートさせることで、逆境も生まれます。「どうやって事業として成立させるか」とまっさらな状態から開拓していく。すでに敷かれたレールのうえを走るのではなく、自分で初めての経験を積みながらレールをつくるので、逆境の中に身を置くことになります。

越境はどのようにして体験できるのでしょうか?

団氏:越境の状態をつくるために、弊社では兼業を必須にしています。兼業することによって、アソブロックという組織以外でも学ぶ場所を持つことになるのです。

まとめると、熱狂と逆境を「自分がやりたい事業を新規でやる」ことで実現し、越境を「兼業をする」ことで実現していますね。

兼業が必須とは、珍しい文化ですね。ただ、自分の好きなことをやりながら兼業すると、フリーランス集団と変わらない気もしてしまいます。

団氏:確かに、みんなが好きなことをやっているので、よくフリーランス集団と同じだと思われます。フリーランス集団と違うのは、会社が給料や社会保障を保証しているから、安心安全が担保されていること。そして、安心安全が担保されているがゆえ、メンバー全員に、「組織を健全に運営するための責任」があることです。

私たちが考える責任とは、一人ひとりがリーダーとなり、自分ができる形で組織貢献をする「シェアード・リーダーシップ」を体現すること。明確な評価制度はありませんが、自分なりに考えてアクションすることが、組織の文化として根付いています。

フリーランス集団とは違い、会社という組織維持に貢献するメンバーが集まっている、と。

団氏:はい。つまり、アソブロックが目指しているのは、メンバー全員のQOLを向上させる共同体です。それを会社とういう枠組みの中で実現してみようと。みんなが好きなことをやっているからフリーランス集団に見えるけれど、会社として成立している。弱者切り捨ての世界でもない。こういった世の中の一般的な会社とは違う、新しい会社のあり方にチャレンジしています。

メンバー全員のQOLを向上させる共同体

団氏:会社は今年で18年目になりますが、これまで新しい会社のカタチを広めるべく奮闘してきました。設立して3、4年目の頃に「じゃんけん採用」「コンビ採用」といったユニークな採用手法を取り入れたんですよ。

ユニークな採用手法は、時に広報にもなりうる。「じゃんけん採用」「コンビ採用」を導入したワケ

「じゃんけん採用」「コンビ採用」、名前からしてキャッチーですね。どのような採用手法なのでしょうか?

団氏:コンビ採用は、2人1組で選考を受けてもらい、ペアで採用するというもの。成長するためにはライバルが必要だろうという考えから、自分が認めるライバルと一緒に応募してもらう意図で始めました。

面接を受けてくれたコンビの多くは「アソブロックに本当に興味があるAさんと、連れてこられたBさん」という構図だったのですが(笑)、1組にだけ内定を出しましたよ。当時、京都の大学に通っていた大学生で、学生ながら、自分たちで編集業を生業にしていました。「このまま編集業を続けたいけれど、社会人レベルの売り上げを上げていく方法がわからないから、アソブロックで勉強したい」と。

結局、そのコンビは弊社で丸2年働いて、今は「さりげなく」という出版社を立ち上げています。「やりたいことで生きていくのは不可能ではない」と身を以て体験し、本人たちのQOLも上がったと思うので、コンビ採用をしてよかったと思いますね。

「じゃんけん採用」はどのような手法なのでしょうか?

団氏:じゃんけん採用は、弊社側の先鋒・中堅・大将の3人に勝ったら、無条件に採用を決定するというもの。3年くらい続け、累計36名が受けにきてくれました。合格したのは、今もアソブロックで働く1名だけです。

募集ページには「履歴書・職務経歴書は不要。私服で来てください」と書いていたんですが、8割の方がスーツを来て書類を持ってくるんですよ。だから「履歴書と職務経歴書はけっこうです、しまってください」と言って(笑)。

そういう方って、じゃんけんに勝てないんですよ。なぜなら、「え?︎まさか本当にじゃんけんだけで決めるの⁉」とその場の空気に飲まれ、最初にグーを出しがちだから。弊社の先鋒はパーを出すように決めていたので、ほとんどの方が1回戦で敗退していきました。

焦った心理状態だと、グーを出す確率が高いんですね。でも、人柄を見ず、最初から母数を大幅に減らして大丈夫なのでしょうか?

団氏:じゃんけん採用を始めた背景としては、ユニークな発想を持ち、オリジナリティのある生き方をしている方と出会いたいと思っていました。なので、当時のメンバーと「スーツを着て、履歴書を持ってくる人はそもそもちょっと違うかな」と言っていたんですよ。

スーツを着て、履歴書を持ってくる人はそもそもちょっと違

じゃんけん採用は意外と、出会いたい人物像にマッチした採用手法だったと。ただ、じゃんけんは運である側面も捨てきれないので、自社と合わない人を採用するリスクも高そうです…。

団氏:弊社としてはかなりリスクがあったし、大きなチャレンジでした。

でも、会社を立ち上げて3、4年目だと、一般応募なんて来るはずがない。ましてや、発想が面白くて個性がある人なんて、とてもじゃないけど出会えない。そこで、ユニークな採用手法を取り入れることで道は拓けるのではないか、と思いました。

だって、採用において自社を知られないのは、会社として存在がないのと一緒ですからね。リスクを取らないと、得られるものもありません。

なるほど。採用は、自社の存在を知ってもらうことからスタートしますもんね。

団氏:あと、ユニークな採用手法を取り入れた理由が、もうひとつありました。アソブロックの「新しい会社のあり方」という挑戦を広く伝えるための手段になるんです。

私もメンバーも「世の中にはアソブロックという、好きを仕事にしても成り立つ会社がある」ことを知ってもらいたくて。さまざまなテレビや雑誌、Web記事で「じゃんけん採用」といった斬新な手法を取り上げてもらい、弊社を知ってもらうきっかけになりました。ユニークな採用手法は、広報戦略としてうってつけだったんです。

ありがたいことに、広告費をかけずに知名度を上げられて、今ではコンスタントに採用の応募が来るようになりました。最近では、海外のメディアからも「面白い会社だから紹介したい」と取材依頼がありましたよ。

もし今、ユニークな採用手法を取り入れたいと考える会社があったら、団さんはどんなアドバイスをしますか?

団氏:入社する人にとって「自社が本当にその人の幸せにつながるのか」の自信がなかったら、やめた方がいいと思います。だって、母数を稼ぐだけ稼いでも、不幸の量産になってしまうから。

自社が本当にその人の幸せにつながるのか

「人材が定着せず、労働力が集まらない」という理由からキャッチーな手法で惹きつけても、幸せだと感じられない会社なら、結局はまた退職してしまうでしょう。そうなると、人を集めるだけ集めて、すぐ去っていって、また集めて…と不幸の連鎖になってしまいます。HRにおけるユニークな採用手法は、人に興味を持ってもらうテクニックに過ぎません。

では、働く人の幸せに自信がない会社は、どうすればいいのでしょうか?

団氏:「自社は誇れる会社なのか」「自社に来た社員を幸せにできるのか」というテーマに経営者やマネジメント層がしっかりと向き合うべきです。そして、必要があれば根本的な部分から変えていく。その結果、「誇れる会社になったけれど、自社の魅力がうまく伝わっていない」ならば、ユニークな採用手法を導入するのはアリだと思います。

まずは、自社のあり方に胸を張れるか—。これを考えてみることが、本質的にユニークな採用手法を機能させるための第一歩なのではないでしょうか。

自社のあり方に胸を張れるか

極論、会社が潰れてもいい。社会的自立をすることがメンバーの幸せにつながる

リスクが大きいと思っていたユニークな採用手法ですが、団さんのお話を聞いて、メリットも大きいと思えました。

団氏:ありがとうございます。ただ、今まで散々「会社の新しいあり方を広めていきたい」と言いましたが、極論、もし来年会社が潰れても別に良いと思っているんです。

えっ、アソブロックの存在を知ってもらうためと、リスクを取ってチャレンジしてきたのに…?

団氏:アソブロックの真の目的は、関係する各人のQOLを向上させ、その結果「メンバーが社会的自立をする」こと。あくまでも「人の成長支援プラットフォーム」なので、メンバーがひとりでも生きていけるようになり、必要とされなくなったら、会社がなくなっても構いません。

人生100年時代と言われ、かつて日本の産業を引っ張ってきた大企業ですら潰れることもある世の中。ある日急に会社がなくなっても、メンバーが自分の力で組織依存をせずに生きていけることが一番大切なんです。

要するに、よく言われる「魚を与えるのではなく釣り方を教えよ」ということですね。さらにアソブロックでは、釣り方を教えるのではなく、魚が釣れなくても生きていける安心安全を担保し、その中で自力で釣れる力を身につけられる環境を整えようとしています。

確かに不安定な世の中で、一番メンバーのためになるのは、会社に依存せずに生きられる力かもしれませんね。

団氏:今のメンバーは、社会的に自立しているので、アソブロックがなくなっても困らない状態です。全員が大海原に放り投げられても、自力で泳げる力を持っています。それが、何より誇らしいです。

極論、会社が潰れてもいい。

なぜ、団さんは社会的自立を大切にされているのでしょうか?

団氏:実は、15年ほど前、アソブロックが潰れかけたことがありまして。その経験をきっかけに、社会的自立を意識するようになったのかもしれません。

最初は、上場を目標にして、いわゆる普通の編集プロダクションを経営していました。売上や利益を伸ばすべく、人数を増やしてとにかく手を動かしていたんです。しかし、僕の力不足もあり、いよいよ無理だという瞬間が訪れて。本当に心苦しかったのですが、何人かには会社を辞めてもらいました。

そこで、バリバリと進めていくスタイルはアソブロックに合っていないし、結局誰も幸せにできていない、不幸の量産であったことに気づいたんです。その時期は、深い谷でした。そこから、会社のあり方を考え、個人の幸せにフォーカスするようになりましたね。

だからこそ、先ほど「社員の幸せにつながると誇れる会社でないと、ユニークな採用手法はやらない方がいい」と言いました。そして、アソブロックのメンバーがこの先も幸せでいるためには、社会的自立が重要だと思っています。

過去、メンバーを不幸にしてしまったことが、今の幸せに重きを置いたスタイルにつながっているんですね。

団氏:そうなんです。アソブロックが続く限り「個人の幸せを重視しながら、会社として成立する組織」があることを伝えていくのが、私の使命だと思っています。

個人の幸せを重視しながら、会社として成立する組織

【取材後記】

「楽しそうだから」といった理由だけではない、明確な狙いがあった「じゃんけん採用」「コンビ採用」。アソブロックのスタイルの根本にあるのは、個人が幸せに生きられる組織づくりでした。

団さんの発言にもあったように、採用において自社を知られないのは、存在自体がないことと同一であるとも捉えられます。その点、ユニークな採用手法はリスクを伴いますが、効果的な広報戦略なのかもしれません。

(取材・文/柏木 まなみ、撮影/長野 竜成、編集/檜垣 優香(プレスラボ)・齋藤 裕美子)